それらに尺が取られて大人向けシーンは今回も無いです。
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○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国北部 朔方郡 朔方城近郊 農村部○
「………………」
今年に起きた大いなる二つの内戦で暗躍していた墨字意匠の者達の気配を白漂は感じ取って、虎の群れが去った後の村の現場で静かに佇んでいた。
「…お、おい…見ろ」
「間違いねえ…白漂だ…!」
村には騒ぎを聞きつけて集まってきた流民の類いの姿も見受けられるが、その中にはそれに扮した鋭い眼差しを向けている者達がいた。
「…虎の群れが出てきたのは驚いたが…場は良い具合に混乱してきている…」
「ああ、今はそんなに数を引き連れてきてはいない。これから予定通りに連れてきている傘下の目を分散してー…」
だが、その者達の目前で白漂は思わぬ行動に打って出る。
「…さてと、騒ぎが如何にか死者を出さずに終わったのならまだ会談の続きもあるし…耳に痛い事ばかり言う身内たちが来る前に途中で村と果樹園の様子でも見ながら帰ろうか…」
そう言い終えると白漂は愛馬を走らせ、護衛達が十分に追い付けていない状態で寄り道付きの帰途に就いた。
(((((……え??)))))
その発言を流民に紛れている彼らは聞こえてはいるが理解できず、白漂が単独で背を向けて馬を走らせている姿を見ても反応が遅れてしまっていた。
「…ふうう、ここ辺りにもナツメヤシ畑が普通になったなぁ。砂ばっかりだったここも今では秦の台所の一角に…」
数分後、白漂は村を囲む果樹園を見下ろせる帰り道を馬に走らせていたが、何を思い立ってか馬の鞍に括り付けていた弓矢を取ると、背後の崖の上の一角に矢を打ち込んだ。
すると、そこから発生したひび割れに生じて幾つもの小石が崖を転がり出し、それはやがてリレー方式で巨石にバトンタッチしていってサイズを増していって、後ろ道を囲う林へと降り注いだ。
「「「「「ギャアァアアアアァ!!??」」」」」
例の如く、そこに潜んでいたらしい刺客集団は落石をまともに受ける事となって瞬く間に圧死していった。
「お、おのれぇ! この雑胡めがぁ!!」
「怯むなぁ! まだ生き残っている数で囲めば潰せられ…!?」
それでも生き残った十名ほどが林から飛び出して白漂目掛けて襲い掛かるが、両者の間に馬を走らせて新たな乱入者が現れる。
「…全く、大将軍になっても軽はずみとしか見えない奇行が多いとも聞きましたが、これは確かに紅華様が談合の時によく溜息を吐いていた理由が分かりますね…」
その両者の間に割って入ったのは、両手にそれぞれシャムシール(ペルシアの僅かに刀身が曲がった片刃剣)に似た長剣がついて、握り手部分に月牙と呼ばれる三日月状の刃が付いた鈎を構えている捷璘であった。
「アア!? 邪魔をするな胡人のおんば!?」
それを見た刺客の生き残りの先頭は剣を振りかぶって殺そうとするも、振り下ろされる前に捷璘が突き出した拳とそれに付いた月刃で顔面から斬り潰された。
「…追って来るだけの技量はあるようだね。じゃー、後の取り調べもあるからなるべく殺さず潰すようにやるよ」
「後のことを考えているのか考えていないのか本当に分からない人ですね」
そうして、馬から降りて両手で双剣を構えた白漂と両手に双鈎を構えた捷璘は、静かだが戦意を宿した両眼を刺客達の生き残りに向けた。
「…あウウゥ…」
「…う、腕がアアァ…」
数分後、現場には四肢に動けなくなる重傷を負わされてイモムシのようにもぞもぞと地面を這う刺客達の生き残りの姿があった。
「…それでですねー、今回の件の言い訳も彼女と共に用意しているんでしょうねー?」
「…あーはい、勿論です…」
「………」
そして、刺客が隠れていた林の中で、静かな笑みを浮かべながらも背後に夜叉染みたオーラを幻視させる紅華と、その前で引き攣った笑みの白漂とそれをチラ見しつつも頬に細くだが冷や汗を掻いている捷璘が揃って正座している姿あった。
「…バラント達との会談の続きだけど、ちょっと予定を変えよう」
「ほう? そこで他の人も巻き込もうとするからには、良い方案があるのでしょうねぇ?」
「そうだねぇ、会談は再開するけど形式は変える。どういう感じかと言うと-…」
それから白漂が危険な少人数行動の言い訳も交えつつ、これからとる行動について説明を重ねていく。
「…ふう、皆ー、切りの良い所で切り上げて昼食にするぞー」
白漂達の話し合いから数十分後、先ほど虎が出た村とは別だが、同じように朔方城の近くにあるその村では野菜の収穫の最中にある村があった。
ユーラシア大陸東西それぞれの人種やその混血と思わしき村人を、白人系の大柄な中年男性がそれを取り仕切っていた。
「ケティルさーん、今月の村の寄り合いは何処でやるー?」
「そうだなー。また子供が増えた家庭もまた多くなったし、農閑期に用水路を伸ばしてその分の風車や水車も建てんといかんしなー」
村の長であろうその男の名はケティルと言ったが、彼は別の時間軸で同じ名を冠した男と容姿と雰囲気は似ているが、ある一点で異なっていた。
彼の鎌を振るう両腕は分厚くて長い手袋に隠されており、鎌を振るう時にそれが動いて見えるその隙間からは大きい古傷痕が複数垣間見えた。
「…親父ー、久々にあの人達が来たよ」
「オルマル、それは本当か?」
その息子で足踏式脱穀機(日本明治時代に発明されたのと酷似。杏橋が二度目の妊娠中に発明した)を、衣服の隙間に矢傷が目立ちながらも足で動かして脱穀作業をしていたオルマルが外来者の登場を伝える。
「どうも~お久しぶりです~♪ お名前をまだお憶えしていただきありがとうございます~」
「おおー、これはまたどうもどうもー、そちらこそこんな辺鄙な村までお越しくださりありがとうございますー」
数分後、ケティルは村の中心にある自宅の中庭で、行商タマキ(に変装した譜孝)と和やかな談笑をしていた。
「…譜孝さ…じゃなくてタマキさんってどこでも馴染みますね輝漂さん…」
「そうだね、戦が無くなってもあの子は普通にああしてきゃぴきゃぴと水を得た魚みたいに生きる姿が想像できるよ日光くん」
その周囲ではタマキ(譜孝)が連れている隊商(を装っている白漂兵の一団)が荷捌きをしており、その中には護衛(として雇われたという設定)を務める日光(と言う名で倭人系傭兵に男装している姫昭)と、同じく色目人の護衛輝漂(にいつも通り変装している白漂)の姿もあった。
「あら、でも戦場よりもこうした商いの方が有意義ではありませんか」
ちなみに、タマキ(譜孝)が連れている(という設定の)侍女の一人ジーク(に変装した)捷璘もまた荷捌きに穏やかな表情で加わっていた。
「…あーうん、うちの人もだけど譜孝さんもよくあ~して知らない人が多い所にも遠慮なく溶け込めるわねぇ…」
ちなみに、その様子は村を囲む林に隠れているジト目を浮かべた紅華達も見守っていた。
「…こちらはなるべく…特にあの者には気付かれないように見守るようにと言われてきたが…果たしてこれは会談と言えるのか…?」
ちなみに、その一団に訝しんでいるが関心も引き立てられているバラントの姿もあった。
「…それにしても今日は一段と荷物が多いですなあ。もしや今度は誰か大きな挙式でも上げられるんですかな?」
「おお! 良い質問ですね~♪ 今回はーうちらの領主さまとあの亡き
ちなみに、そのバラントが近くから秘かに見守っている中で、タマキ(譜孝)の会話は彼の身内である捷璘(ジークリンデ)にも飛んでいく。
「おお! それはおめでたい…私も昔は恥ずかしながら兵士をしていた時期もありましてな。あんま大したことのないまま隠居して今は畑仕事をしている身ですが…、その頃には亡きレベロント様とそのご子息、特に今でもご活躍中のバラント殿には世話になりましてなー…。お聞きしたいのですが―…そのバラント殿とー今回のご婚礼で表に出られた妹君の間柄はどのようなご様子で…?」
だが、ジーク(捷璘)に会話が触れるとケティルは朗らかな口調はそのままだが何処か影を帯びた憂いを微かに滲ませ始める。
「あー申し訳ございません。私ーあの方とは付き合い始めてまだそこまで日日が経っていませんので詳しい事はー…」
「…そうですか…不謹慎な話ですが国としての
そのケティルと少し離れた所で品の点検をしながらも意図的に視線をそらしているジーク(捷璘)を、輝漂(白漂)は何かを感じて視線を交互に送っていた。
「待て李牧! この白漂から逃げられないぞ!」
「うわー!」
「きゃー!」
そんな何処か影のある会話をする大人たちとそれを見守る周囲の鼓膜を、この時代では普通によくある有名な名将を真似た戦ごっこに興じる子供達の歓声が震わせてきた。
「あら、あなたはこういう田舎でも人気ですね」
(まーねー、実態はこんな田舎までは伝わんないし…。子供達の戦ごっこでやりたい役の筆頭は秦北部では貴方が筆頭だし…)
それをジーク(捷璘)は微笑ましそうに見ている一方で、旦那の色々微妙な面を知る紅華はそれに内心で突っ込みを入れるが、そんなこの時代ではよく見かける子供の遊びに思わぬ横やりが入る。
「おい! 何だよ昼間っから喧しい声を出しやがって!」
「胸糞わりぃ遊びをすんじゃねえ!」
「こんな田舎まで買い付けに来てやってんのに邪魔なんだよ!」
周囲でタマキ(譜孝)の隊商相手に買い物をしていた余所者達が、子供達にいちゃもんを付けて来たのだ。
「ん? アイツら…元から趙の訛り…それも元雁門組辺りのそれをしてたけど…」
「様子からして李牧派所縁の行商かそれに扮した間者か…!?」
それにタマキの隊商に変装している白漂軍所属の秦兵達が怪訝な表情を浮かべる。
「…訛りを隠そうって努力も感じられないわねー。金と時間を持て余したしたボンボンって所かしら…?」
「まーあんな連中でもここに姿を見せてる以上は一応他所から入ってきた客だろうし、下手にこっちから手を出すと面倒だ。今すぐにでも被害を出しそうだからそれからとっちめりゃいいだろ。つーか難しいなこの結び目を解くのよー…。チンピラどころじゃねー…」
ちなみに、その変装して作業中の秦兵には同じ状態のステラと信も混じっていた。
「…そう言えばさー、生き別れになった妹さんってどんな特徴あったの信君?」
「…そうだなぁ、まずはーーー…あ、確か瞳の色が赤色だったなー」
「へー、赤色の瞳ねー。まーこの辺ではいくらか珍しい程度になってるけど…!?」
同じくタマキ(譜孝)に雇われている身の一人に変装中の玲花が何となく信の行方不明の身内について何となく問うが、そこで村を囲む茂みの一角の二つの小さな赤い光を一瞬だが目にした。
玲花がそれに気を取られて視線が余所者達から離れた隙に、その余所者達が遂に彼女達に手出しできる口実になり得る行動を取り出した。
「…こんの、狄上がりのクソガキがぁ!」
「う、うわぁ!?」
余所者達が懐から短めだが剣を抜き出して刃を子供達に向けようとしたのだ。
「…あ、いけない。ちょっと私が抑えに行きま…!?」
それで玲花の意識が再び彼らへ向けられた次の瞬間、彼女達の脇を一つの影が小さな赤い線を残像で残しながら、多くに気付かれずに通り過ぎた。
「それとなー、右の手の甲に綺麗な正三角形状で三つの黒子が並んでたなー」
「ぶぼべぇ!?」
そんな中でも結び目解くのに必死な信は周囲の状況変化に気付けず、余所者の一人が拳で顔を叩き飛ばされて宙を舞ったのにも気づかなかった。
「…こんな小さな子達に大の大人が何をしているのですか!?」
その余所者を宙に舞わせた拳の持ち主は、数十分前に近くの別の村でアーニャを虎から救い出したツインテールの綺麗な少女だった。
ちなみにその瞳は赤く、更に余所者の一人を宙に舞わせたその右手の甲には三角形状で綺麗に並んだ三つの黒子がある。
「…何つ~かさー、この辺ってあの子や君たちみたいにさー…腕っぷしまであり過ぎる子って増えすぎじゃない…?」
「いや、そんな私に言われても…」
「…でも、実際に…あの子…薙鍛も本気出してる感じはまだ戦場でもないけど…今知ってる限りの彼女の最速に近い速さを…」
「…っ…ええ、そうですね…」
その様子をタマキ(譜孝)隊商の従業員である輝漂(白漂)と、雇われた護衛日光(姫昭)は微妙な内容も交えながら、基本は作業中を装いつつ秘かに冷徹な観察眼をその少女に向けていた。
「アア!? 何すんだこのくそあまぁ!」
「兄ちゃんの前歯が砕けちまったじゃねえか!」
地面に落ちて鼻血と泡を吹きながら間抜けな気絶の顔を晒している男の身内らしい他の余所者達も、懐から隠していた短剣を抜き出してその急に現れた美少女に襲い掛かり出した。
「…他にもよー左足の脛にさー、黒い蝶みたいな痣があってなー…」
「っ!」
「ぎゃあ!?」
「ぐげぇ!?」
信が乱闘に気付かずに思い出している間に、少女は左足のローキックで襲いかかろうとした余所者達の足を脛から鎌に駆られる草のように一蹴して蹴りおった。
「そ、そう…あははは…」
ちなみに、その時露わになった少女の左足の脛には、クロアゲハを思わせる形をした黒い痣があるのを玲花は確かに見て、微妙な苦笑いを浮かべる。
「…い、いでぇ…」
「う、腕がぁぁ…」
数十秒後には、四肢のいずれかがへし折れていて嗚咽や鼻血で地面を汚している余所者達と、その中で冷たい表情で佇んでいる乱入してきた少女の姿があった。
「…とりあえずどっちも取り調べようか」
「あ、はい…」
それを見終えた白漂は、乱闘が起きている間に隊商の変装から普段の仕事着に戻った兵士達に場の鎮静化を命じた。
「あーよろしいですかー。こっちで喧嘩が発生したと聞いたのですがー?」
「…あ! す、すみません! 何かこちらにいる子供たちとこちらの皆さんがもめて喧嘩しようとしていたので、止めに言ったら刃物まで出してきたので驚いて子供の頃に道場へ通って身に着けた武術の癖でつい…!」
異民族交流の交差点である秦北部で活動している白漂兵達はその場をテキパキと整理していき、その中で少女はハッと我に返った表情で説明しながらも連れていかれるのであった。
「……ハァァ、昼間の内にまさかうちの女中みたいに女子による暴力沙汰が起きるとは…ウチの外でも僕は平穏でずっといてくれる女性には恵まれないのか…?」
数時間後、野営地を張ったタマキ(譜孝)隊商の焚火の一つの前で、本日の作業を終えた輝漂(白漂)は馬乳酒を飲みながら愚痴っていた。
「貴方様の奥は元気が有り余っている女性ばかりなのは知っていましたが…そんなにひどいのですか…?」
その焚火を前にして隣にはジーク(捷璘)が色々と困惑と微妙さが入り混じった表情で座っている。
「酷いなんてもんじゃなくて閨房つーか女中は他所にはとても見せらんない状況だっつーの。女中面子とは違うけど友人の羌瘣はそこでしょっちゅう食い逃げや盗み食いをするし、それでナクタやらマルタに追われたりするけど僕はしょっちゅうその巻き添えで怪我するし、技術者系女子の間ではナミやシャンディ達なんか家の財政握ってる藍蘭や譜孝と口論なんてしょっちゅうだし、それが過熱化するといろんな意味で喧嘩するし、大人しい時でも拳闘や相撲で生傷作るのもしょっちゅうだし、酷い時はこっちまで巻き込んでくるし…」
「………………」
焚火の前で白漂は女性関係で心底疲れた様子で愚痴っているが、それを見ているジーク(捷璘)は表情に浮かべる困惑の色を強めつつも憂いや翳の色は全く見られない。
「この前は女中の財政派と技術派の手で、寝ている間に寝台に縛り付けられて、旦那からより多く種を搾り取った方の意見採用というみたいな感じで馬乗りされ続けて、次の日の鏡を見た時には枯れ木みたいな姿になっていて何日か病室通いになって…」
「………ぷ…」
「…え?」
しまいには白漂の話している途中で、ジーク(捷璘)はこらえきれないという様子で軽く噴き出した。
「…何というか、他所が見たら頭を捻るか羨ましがるだろう和気藹々としたオルド*1だな…あの人のは…」
ちなみにその様子を、周囲のゲルに隠れ潜んで盗み見ている一団がいたが、それに混じる薙鍛は心底羨ましいという表情でそれを見守っていた。
「他所やあなた達みたいに来たばかりの子から見れば羨ましいんだろうけど…あの人の口から周りに内情を言いふらされるこっちの身にもなってちょうだい…」
それとは対照的に、白漂の女中を名実ともに取り仕切っている紅華は顔を赤くして視線をそらしている。
「…紅華殿、彼と貴女は本当の意味で家臣と争ったことはないようだ…。軍議と内の両方で各々に応じた仕事を割り振って、一人一人がそれを第一とせねば組織も個人も成り立たぬ組織を作り上げて広げていく彼を絶対の頂点とし、家中では彼と貴女をゆるぎない主と見定めて、家臣と女中たちは各々の視線から全体にとって良い道と信じる意見を遠慮なく話して相争う事ができ、その上で各派閥に配慮した意見が通されて圧倒的多数派に利益が仕事の内容に応じて回される仕組みになっていると…」
「お褒めに預かり嬉しいですけどあの人はそこまで考えてなくて自然とそうなっているだけですから」
盗み見している一団にはバラントの姿もあり、彼は真面目な能面のまま瞳に羨望に近い色を浮かべているが、それが紅華には却って恥ずかしかった。
「意識しなくてもということは自然とそういうことができる器量を持っているということだ。だからこそ一人一人が彼から負かされた責務を自然と受け止めて本懐を果たしていく…それは史に置いて名を響かせた指導者たちが大小の程度はあれどもっていたものだ」
その紅華の身内感情からくる自虐に対しても、バラントの白漂に対する評価の右肩上がりは止まらない。
「…ですが、バラント様の妹君のジークリンデ様…誠実なのは確かですけど行動は慇懃無礼な色が目立ちますね。あの方への嫁入りに向かわされたのは…彼女のその気質と亡き彼女の御母君の一件からですか? 白漂様の器量なら彼女のあの気質も受け入れて貰えて安全だと見込まれてですか?」
だが、途中でシャンディが能面のまま彼らの過去に触れて問いを挟むと、バラントも表情こそ無表情のままだが声音に静かで且つ深い憤りの色を見せ始める。
「…公人としてあの愚妹の相手を選ばない癪な言い方の方が、調べて見た限りでの朔方侯及びその周囲の人間性には、阿る事しか出来ん他の女共よりかは気に入られやすいだろうと判断しただけだ…」
「……………」
そのバラントが見せた他人には解りづらい心情の変化を、幼少期に龍城へ人質に出された時期に知り合ってからの短くない付き合いである紅華達は感じ取っていた。
「(………本当に、人同士での争いが耐えず…かつ私が生きた前の時代よりも人の意識や価値観は殺伐としているのに…それを生かす大地は緑豊か…。BETAに更地へ変えられる前のユーラシアも…どちらのドイッチュラントも…こうだったのかしら…)輝漂(白漂)さん、少し村の周りを共に歩きながら夜風に当たって、その昔の苦い思い出で頭に浮かびだした靄を払いに行きませんか?」
「…? まーいーけど、それ位じゃー晴れ切らないとは思うけど…まーやらないよりかはマシそうだし…」
そうやって盗み見る側の方でメンタル面での接近の兆候が見られたところ、盗み見られている側でも変化は行動にも生じ、輝漂(白漂)とジーク(捷璘)は頬がいくらか緩んだ状態で夜の散歩へ出る事となった。
今回のヒロインも中々に逞しくて且つ図太い感じですね(笑)。
白漂本人にとっても危険が多いこの時代では頼り合える仲間になりそうです(危険じゃない所では安らぎをくれるかどうかは別問題(笑))。