※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回より、秦側は色々な意味で修羅場に入っていきます。
それらに尺が取られて今回も大人向けシーンはまだありません。


210 凶報も朗報も万人受けするとは限らない●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国中央部 王都咸陽 白一族宗家咸陽別館○

 

 それは、白漂が王宮に上がって(朝廷開催中なのもあるが)珍しく真面目な態度で嬴政に謁見して上奏してから数時間後のことであった。

 

「漂様ぁ…咸陽に到着してからずっと王宮に上がったままで、まだ家に帰られてませんねぇ」

「いや、まだ王宮に上がってまだ一日しか経ってないでしょ。何をそんな不安がってるの?」

「でもさあ、あの人のことだから王宮上がってるととんでもないことやらかしてそうな気がするし…」

「そもそも、珍しく王宮で言いたいことがあるからってのが、昨日に帰ってきた子づてにあの人がまだ帰れない理由って言ってたし…」

「…あー、もしかしてなんかやっちゃって連座でこっちまで罪に問われたりして…」

「その時は知り合いや親戚がいるまだ戸籍や地図に載ってないようなあたしらの村に逃げてあの人の血だけでも残してあげようか?」

「ちょっとあの人はどうするんですか?」

「まー助けられるなら助けるけど、王宮だから無理っぽいし、その時は族滅だけでもせめてならないようにしてあげた方がいいよねー…!?」

 

 白漂の閨に属する女性達は旦那の珍しい行動に、心配したり割と酷いことを言ったりしている中、何か大きな荷物がガシャンと地面に落とされる音が響いてきた。

 

「…え、この音って…!?」

 

 それに気づいた女性達が音源の方向を見やると、縄で束ねられた大量の槍を落として、膝と手を地面について口元を抑えているレキシントンの姿があった。

 

「…ぅーーーー…なんか…怠いー…それにー…吐き気もするしー…」

「…え!? あの頭の中まで筋肉で出来ていそうなレキシントンが体調不良!?」

「そういえばなんか最近はあまり良い知らせ聞かなくない!?」

「ちょくちょく小さめだけど蝗があちこちで出始めてるし!」

「もしかして天変地異の前触れ…!?」

「皆様ー! お館様が戻られましたー! 何やら重大な発表があるとかで集められる幹部級以上の方全員は館の大広間に集うようにとのことですー!!」

 

 その病とかに最も無縁そうなイメージがあるレキシントンの予想だにしない姿に、周囲の女性達は不吉な予感を覚えるが、そこでちょうど良くも悪くも白漂が帰ってきたという知らせが入ってきた。

 

「…え、あの人が…!?」

「レキシントンは扁鵲やナイチンゲールたちに任せて私達は大広間へ!!」

「急いで―!」

 

 主の帰還とその命令の内容に女性達を含めて屋敷にいる大勢が慌ただしく動き出した。

 

「…よーし、うちの軍の幹部及びに北での文官重要面子も揃ったか」

 

 数分後、自身の咸陽での屋敷における大広間の上座より、白漂はこの屋敷にいる側近達や職場が同じ文官達の姿を見渡して硬い表情を浮かべていた。

 

「…殿、重要な任務が下されたということですが…?」

「今現在の仕事に加えて他に何があると…?」

 

 久方ぶりに見るその主や上役の表情に、北部の面子は重い空気を感じて問いかけた。

 

「…結論から言うと、この国全体の戸籍を作ることになってうちは北部でその支援をしまいになった」

「「「「「………え????」」」」」」

「…あー、実は王宮の方でー…数刻前にー…」

 

 それに対し白漂は少しいつもの調子で要件を口にし、周りがそれに呆けて戸惑いだしたのを見ると詳しく説明し始めた。

 

 

 

 

 

 ○数時間前 秦国中央部 王都咸陽 王宮 本殿○

 

「戸籍づくりです」

「「「「「!!!!!!???????」」」」」

 

 時は遡り数時間前の王宮の本殿、そこで白漂が上奏した内容に王宮内は驚きと困惑に満たされた。

 

「…白漂、左丞相どういう意味だ?」

 

 嬴政が訳知り顔の昌文君も含めて問いかけると、事前に白漂と打ち合わせをしていた彼が重苦しい表情で口を開く。

 

「…気づいておらぬもの、気付いていて気づかぬふりをしていた者などの違いはありますが、実はこの秦国では…我々朝廷も含めて正確な総人口を把握しているものはおりません。各城邑から離れた村落、秦領として編入されたばかりでそのことも知らない先住民、各地から流入してきた流民による無国籍地帯など…国内の正確な総人口を把握できておりませぬ」

「それはこちらも知っている。近年は急な領土拡大が何度も起きているからな。その原因も目の前にいる」

(その仕事吹っ掛けてきてる立場でなに言ってんだ)

 

 その昌文君の説明の途中で嬴政は上奏してきた本人に何度がジト目を向けたり、その本人である白漂に内心で毒づかれたりは何度かあるが昌文君の説明は続く。

 

「今現在、この国が把握している人口は各地の領主からの報告書を基準に概算しておりますが、そうなると各領主の性格などで正確さに違いが出ております。ゆえにこれからはここ咸陽が統一された基準で、把握対象地と未開地どちらも正確に調査し、すべての男女人口、その年齢、そのうち徴兵可能な人数などを咸陽で把握出来るようにするのです!!」

「「「「「!!!!!?????」」」」」

 

 だが、その昌文君の踏み込んだ説明に本殿に集う文官達は先ほどの白漂の上奏の意味を把握し、同時にその困難さも瞬時に感じとって騒然としだした。

 

「と、殿! お待ちください! 今のこの国でそれをやれと!?」

「北は極寒の北涼から南は死の密林に西も草木一本生えない砂漠まで広がって東は海にまで達してしまっているこの国で!?」

「とんでもない重作業ですぞ!」

「そもそもそうした作業は我々文官の仕事のはず! それが何故朔方侯の口から出たのですか!?」

 

 騒然はとてつもない反発へと姿を変えていくが、その中で騒いでいない少数派の一人である嬴政が気づいたことを口にする。

 

「…二人とも…その戸籍調査の目的は…“格差是正”と“間諜対策”…その上に立脚した“軍強化”のためか?」

「「「「「!!!???」」」」」

 

 嬴政が口にしたその理由に周囲のほとんどが追い付けていない中、昌文君が説明を深めていく。

 

「…北部草原周りや西方砂漠地帯経由の貿易量の増加、技術革新とそれに伴う開拓拡大、それを生かした工業化の進展でこの秦国はかつてない好景気が続いています。ですが、それはここ咸陽における領域内把握の不十分さもあって全体に浸透しているとはいえず、その結果として流民を原因として負郭窮巷が大量に発生しているのです」

(邯鄲で極貧ボンビー生活を送っていたその身ならそれがどんだけきつい状況かわかるでしょ)

(一部わけわからん単語が混じっているような気がして何より内心でむかつく言い方でこっちの貧乏生活時代に触れているようなその顔は止めろ)

 

 その間も王と影武者の二人は目や表情のわずかな動きだけで突っ込み合ったりしているが、昌文君はそれには気づかずに説明を続ける。

 

「…その結果、負郭窮巷とその周辺地域では犯罪が増加して治安対策に大きく予算を割かれてしまい、またそれへの取り締まりで未把握の民は不満を生じらせて…国内外の反政府系組織と秘かに結託するという事態が起きています。最近に起こった靖涼の変などが拡大したのもそれが理由です。そこで、我々朝廷が財の余剰を用いて戸籍拡大化と正確化と並行してその恩恵を未把握の地へ及ぶようにし、諜報組織や反政府組織の取り締まり及びにそれらが新たに根付かない土台に作り替え、それらの地域からも輪番制で徴兵可能人数を増やすのです。無論、その負担は限界を越さないように輪番制として手当を厚くしつつ、拒否した場合の罰則の詳細化も…」

「「「「「………‥……」」」」」

 

 昌文君の理詰めが進んでいくと周囲は静かになっていくが、それでも感情や既得権益などにも関わってくるその方策の内容に、地方に土台を置く文官の何名かから渋るような反論が少しずつ上がり始める。

 

「…で、ですが城邑だけでなく僻地にまで及ぶような徴兵令を出すなど…」

「そ、そのような軍国主義的な政策は暴動を招きますぞ」

「ご失礼ながら大王様まで暴君という怨嗟をこうむります…」

「それでもいい」

「「「「「!!!!????」」」」」

 

 だが、その主張は彼らが最も懸念している戸籍調査実行後の非難や不満を最も集めるだろう嬴政本人のその言葉で止められた。

 

「…いかなる道を選ぶとしても、どの道この身は中華統一を目指す上で大小の恨みを集めることは避けられん。いや…今この一国で言語も環境も文化も異なる者達が大勢暮らすようになっている秦国内のその国民とその声を把握しきれなければ、六国のそれを受け止めるなど出来ん」

「「「「「………………」」」」」

 

 その言葉で文官達がひとまず静かになるのを見ると、嬴政はこの案の発起人を再び見やる。

 

「今一番の問題はそれが実行可能かどうかだ。それで今の朝廷でそれを遂行できる人間はいるのか?」

「いやー、残念ながら現役にいる方々にそれを取り仕切れる方はおりません」

「「「「「!!!!?????」」」」」

 

 だが、その嬴政の問いに白漂は大分普段の調子に近づいた様子であっさり否定し、周囲の文官達の何名かがズコっと倒れた。

 

「な、何をここまで来て言っているのですか朔方侯!?」

「そもそもその方策を言われたのはあなたですぞ!?」

「出来ないなら何故そのようなことを言われるのですか!?」

「…白漂、それは現役のものというだけの話で…そ(・)れ(・)以(・)外(・)ま(・)で(・)含(・)め(・)れ(・)ば(・)話(・)は(・)別(・)ということか?」

「「「「「!!!!?????」」」」」

 

 当然、文官達は白漂に対して避難轟々となるが嬴政が口にしたその問いで再び困惑で押し黙る。

 

「…ええ、現役以外にも目を向ければ話は変わってきます。特に…先の反乱騒ぎでお勤め先が違っていたせいで今は朝廷に上がれなくなって地面の下に籠られていますが、それ以前まではこの国の行政を大きく取り仕切っていたあの御仁が…」

「「「「「…!!!!????」」」」」

 

 それに対する白漂の言葉で、周囲はやがて二人が上げているその人物の正体に行きついて再び騒然とし始める。

 

「お、お待ちください! あの男の所業はあなたも知ってるでしょう朔方侯!」

「下手をすればこの国は先の内戦で分裂する状況だったのですぞ!」

「それは北の地の紛争で反乱に担ぎ上げられかけた貴方がこの中で一番知っているでしょう!!」

「あ奴も素直に従うかどうかまだわかりません!!」

 

 当然、非難が再び白漂に集まり始めるが昌文君がそれを遮る。

 

「その通りだ。だからまず儂があ(・)の(・)男(・)に会って話をつけに行く。この国が手にした“法家の怪物”に」

「「「「「っ……………………」」」」」

 

 昌文君が見せたその異論の余地を認めない古強者の眼光に、文官達は押し黙るほかその場ではなかった。

 

 

 

 

 

 ○現在 秦国中央部 王都咸陽 白一族宗家咸陽別館○

 

「…はあ、毎回に真面目な顔をするたびに面倒な仕事を持ってきますねぇ貴方は…」

「…やっぱり不満?」

 

 時は数時間後の現在に戻り、白漂が王宮の中で進んだその話を(機密上の観点でいくつか省いてはいるが)説明した後、大広間での集まりは仕方ないとしながらも不満全開な様子で解散となって、その帰り道で白漂は紅華の愚痴に延々と付き合わされていた。

 

「…そりゃまあねぇ、どんな生まれの子でも即座に得意不得意をすぐに見抜いて仕事をぶん投げまくってくる人が旦那だとねぇ…まあ、愚痴ってばかりいても仕方ないし…今はそれをやわらげさせるため…増えた仕事への英気を養うためにもささやかながら朗報を確かめに行きましょうか」

「え、朗報?」

「最初は体調不良と思ってうちの子の一人が倒れたんだけどー、それが違ってたようでー…まー詳しい話は本人たちに聞きましょう」

 

 その帰り道で白漂が紅華に連れていかれたのは医務室であったが、そこでは何やら色々咀嚼されている音が響いてきた。

 

「…え? この咀嚼音はあの子の…? けれどもこのかみ砕かれているものの音って…?」

「いやー、あれが来たら好みの味が変わるって言うけどよー。マジで変わるなんてなー」

「ちょ、ちょっと口から色々こぼれてますよ」

 

 白漂がその音の既視感と違和感を同時に覚えつつも扉を開くと、そこには生野菜や果物をそのままの形で大口を開いて次々と嚙み砕いて飲み込んでいる病衣のレキシントンと、同じ格好をしながらも彼女を窘めているミナイの姿があった。

 

「…え!? あの戦場ばっかに行って穀類や骨が付いたままの肉ばっか食ってるあの子が…医務室に!? なんかの病気!?」

 

 戦場で敵を屠るか腹をすかしてその辺の獣をとっ捕まえて食っている姿ばかり目立つ普段とは相反する今のレキシントンの姿に、白漂は戸惑った。

 

「そんな天災の予兆を感じたような顔をするな。病気でもないんでもないぞ」

「あ、扁鵲」

「二人ともお前との間での女としての最大の仕事が芽吹きだしただけだ」

「え? 女としての最大の仕事…!?」

 

 そこで現れたここ医務室の責任者の言葉に、白漂は初め戸惑うが直ぐにその理由を察して、レキシントンとミナイを見やるが彼女たちは恥ずかしそうに視線をそらし出した。

 

「…あー、いやー…そのなー…俺らも知ったのはついさっきだけどよー…」

「…自由都市(ユラス・アプラス)でのが当たったようで…三か月目…らしいです」

 

 だが、二人の指はそれぞれ自らの心なしか少し膨らんでいるように見える下腹部へ指さされており、その動作と彼女らの言動がそれの意味を如実に示していた。

 

「「「「「…ぇええええええええええええええええ!!!???」」」」」

「のわぁ!?」

 

 その直後、医務室の扉が外側から秘かに集まってきていた白漂の閨の女性達に驚きと共に押し倒され、白漂は扉を壊しての彼女たちの登場に驚いた。

 

「ミナイはまだわかるけどあのレキシントンが!?」

「こんな頭の中まで筋肉で出来ていそうな大女が!?」

「この馬鹿でも子を孕められる子宮があったんだ…」

「背と頭は関係ねえだろ!!」

 

 あまりに予想外の方向からの妊娠報告に女性達は当然の反応を示して、レキシントンは憤慨するが、白漂はその動きに構わずにミナイと彼女の下腹部に自身の耳を当てて感触を確かめに来た。

 

「…お、お、おーーー…これって確かにいるね。何度してもこの感覚は気持ちいいなぁ―――」

「!? や、やー柄にもないことすんじゃねーよ!!」

「―――あぶほぉ!?」

 

 先に子を身ごもった女性達のように白漂は我が子とそれを宿した女性の身を感じとりに来ていただけだが、それに過去かつてないレベルで羞恥心を刺激されたレキシントンは思わず平手打ちをして彼の身を大きく叩き飛ばした。

 だが、その勢いで白漂の手は室内も一角を遮り隠していたカーテンを勢いよく引き下ろした。

 

「キャア!?」

「わ!?」

 

 そうして引き下ろされたカーテンの向こう側には、白漂に救われた女性で構成された女傭兵団花禽や、自由都市攻略戦にて城内へ迷い込んだ時に彼をかくまってくれた彩兎館のバニーガール達が病衣の姿で集まっていた。

 

「…あ…ぐ…え? 何で君たちまでこんなところに…!?」

 

 レキシントンの張り手の痛みが少し引いたところで白漂は彼女たちの存在に気付くが、同時に彼女たちの格好とそれ越しに少し膨らんで見える下腹部に気付いて、表情が固まった。

 

「いやー♪ 昔から世話になってきた花禽の子たちだけでなく、迷い込んだ自由都市の中で匿ってくれていた夜蘭のお店の子たちにまでお礼として種を分けられるなんて…さすがは私たちの旦那様ですねー♪ それならー私達も分けてもらえる種はこれから来る重労働期間でも十分ありますね♪ 戦場や机仕事だけでなく戸籍増加の面でもあなたが貢献できますように私たちが全力でお支え致しますわ♪」

「……‥………」

 

 その固まった顔の付いた頭を、紅華が綺麗に微笑みつつもその手で荒々しく髪から掴んで引きあげた際にかけた言葉に、白漂は鬼女の姿を幻視して言葉の代わりに汗をだらだら流すほかなかった。

 

 

 

 

 

 ○秦国中央部 王都咸陽 某監獄 最深部○

 

 白漂一家で何度目かになる閨の修羅場が発生した日の夜、昌文君は咸陽のある地下牢を目指して地下道を一人で歩いていた。

 

「……っ…」

 

 やがて目的地に到達すると、そこの鉄格子の向こう側には大量の書類とそれに筆を走らせているある囚人の姿を目の当たりにする。

 

「…話には聞いていたが…、本当にここでも筆を走らせるのをやめてはいないのだな…」

「…昌文君か…」

「久しいな…李斯」

 

 こうして昌文君は、昨日に白漂と共に取り上げたその“法家の怪物”李斯と久方ぶりに言葉を交わし始めた。




主人公もそのほかの皆さんも、いろいろ巻いちゃった種が災いに育たないようにしっかり働かないといけませんよねぇ(ゲス顔)。
次回は、今回の最後に出てきたあの二人の地下牢での会話に移りますが、本作でのあの会談も変わったのでその影響は及びます。
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