※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回より、この世界での黒羊戦では見せられなかったあのお頭のダーティーバトルが始まります。


221 急変の様相とは時と場所に人で変わるもの●

 〇秦始皇9年(紀元前238年) 什虎攻防戦五日目昼 楚国北西部 什虎地方 什虎城付近 騰軍担当戦域〇

 

「アンドリューが死んだぞぉ!!」

「什虎城主は桓騎軍が討ち取ったぁ!!」

「What!?」

 

 その報せは猛烈な勢いで戦場の各所へ広げられていっており、秦韓連合軍側は士気を更に高めさせていくのに対し、什虎を根城とする猩族側は目に見える形で動揺が広まっていっていた。

 

「You're kidding!」

「Don't be fooled! Get rid of those monkeys quickly...!?」

 

 当然、猩族側の指揮官はそれを押しとどめようとするが、そういう時にはダメ出しが来るのが通例である。

 

「出鱈目じゃねえ! こいつがその証拠だぁ!」

「そのクソ青い目ん玉をよく洗って見やがれ猩兵共に楚兵共ぉ!」

 

 適当な小山の上に、その穂先にアンドリューだった死体を首やら解体された四肢やらを衣装付きで突き刺した状態で、桓騎兵達が現れて喧伝しだしたのである。

 

「Wow, it's real...」

「Oh, no way...」

 

 凶報の証拠を見せつけられた猩兵達はますます士気が急降下していき、更にそこへ桓騎軍の追い打ちでその討たれた現場から逃げてきた生き証人の同胞達が加速していく。

 

「アァ!? 周囲の猩族共が逃げたりばらけたりしやがったぞ!」

「ちょ…これまずいぞ! もたもたしてたら俺達が敵中に取り残される!」

 

 その光景は援軍として来ていた楚軍側を焦らせ、前線で愛刀を振るっていた項翼は慌て始める。

 

「Calm down! The order of succession to command was decided for times like this!!」

「!?」

「Agares is in command here!」

「The Stuner squad should take the lead on the north side!」

「I got it!」

 

 だが、その猩軍の崩壊し始めていた動きは急に各所で緩み、しまいには猛烈な立て直しを始めた。

 

「…え?」

「な、何が起きているんだぁ?」

 

 その様子に、一応は友軍であるはずの楚軍も、共に交戦している相手である秦軍のどちらも戸惑いを覚えた。

 

 

 

 

 

 〇楚国北西部 什虎地方 什虎城付近 白漂・桓騎両軍中間域激戦区域〇

 

「…あ、あれ? 何か猩の奴ら…急に盛り返してないっすか?」

 

 その様子は、騰軍とは蒙武軍を挟んだ離れた陸橋間の浅瀬の湖沼地帯で交戦中の白漂軍や桓騎軍にも伝わり、再び勢いを増した什虎軍に桓騎軍幹部のリン玉は戸惑いを覚えた。

 

「妙だな。おい、連中のあそこにいる偉そうなあほ面を何名か捕まえてこい」

 

 それには桓騎も感じとっており、探るべく捕虜の捕獲を命じるがその直後に後方から早馬がやってきた。

 

「お頭ァ! この後ろにいる技術班の陣地を猩軍や楚軍の奇襲部隊が襲撃してきやしたぁ! 今は砂鬼一家含めて現地の一家が防戦してますけど如何せん前線組じゃねえんで苦戦してます!」

「ピク」

 

 その報せを受けて、この戦で初めて桓騎の表情から笑みが消えて口元が少しへの字に曲がった。

 

「チ、おい、すぐに後ろにいる馬鹿共を膾切りにするぞ―――」

「ぬおおおおおおお! 岩穿戦槍波ァァアアァァアアァ!!」

「「「「「ギャアァァアアアア!?」」」」」

「「「「「Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」」」」」

 

 桓騎がいつもと違ってばつの悪そうな表情になったその時、ここ最近聞いた声音だが色々面白かったので今回の戦限定で引き抜いたあの男の咆哮及びに楚兵や猩兵の悲鳴が割り込んできた。

 

「―――ぉ…?」

「な、何ですかあれ!?」

 

 それから桓騎達が見たものは予想の斜め上を行く光景だった。

 

「私こそは白漂軍でも唯一の無傷不敗の豪槍!! 誰にも私を傷つけられはせんはアアアァアアアアアアアアアアァアア!!」

「「「「「ギャアァァアアアア!?」」」」」

「「「「「Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!?」」」」」

 

 背後の茂みを切り開いて現れたのは、十文字槍を超高速で振り回して数十人もの敵兵を躯にしながら悲鳴と共に巻き上げさせていく、彼らの返り血で全身を赤く染め上げた杏譚の姿であった。

 

「あ、あいつあんなに強かったのか摩論!?」

「しょ、正直オギコみたいにお笑い要員かと思ってましたよリン玉さん…!?」

 

 その槍捌きに桓騎の側近達は目を剥くが、その彼らの頭上を豪速で石弾が飛んできた。

 

「誰にもこの私を戦場で倒すことはおろか傷一つ付けることもままならぬば!?」

 

 石弾は乱戦が繰り広げていた場所の真ん中にぽつんと立っていた大木の樹上にズドンと当たると、それを着弾箇所からへし折り、落ちた大木の上部分は兜越しながら杏譚の脳天に命中して彼に鼻血をふかせた。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 ドスっと折れた大木が地に落ちると、一応その場にいた敵兵は死ぬか戦闘不能になっていたのもあってか、場は気まずい沈黙に陥る。

 

「おい桓騎-、さっき敵の急襲に驚いた若いのが間違ってうちで試運転中の投石機を作動させてしまって石弾がそっちに飛んで行ったが大丈夫かー?」

 

 数秒後、頬と額に妙な●状の刺青を三つ彫った七三分けの男が空気を読まずに入ってきた。

 

「…あ、いやー氾膳さん、我々には被害が出ていないのですが…」

「これは味方の誤射で倒れ落ちてきた丸太による鼻血だから戦傷では断じてなーーーーーー…いぃ??」

 

 それに摩論が気まずそうな感じで口を開こうとするも、杏譚が鼻血を噴き上げつつ強引な反論で不敗無傷伝説を押し通すとするが、その咆哮の途中でやはりさっきの一撃が重すぎたか気絶して落馬してしまう。

 

「桓騎、こっちは隣りの白漂軍から来たくどい顔の小僧のおかげで軽い怪我人が何人か出ただけで済んだがそっちは大丈夫か?」

「あー砂鬼、こっちも大丈夫だからとりあえず地面でぶっ倒れてる楚兵や猩兵に何人か生き残りがいるからそいつら連れてって吐かせるだけ吐かせとけ。それと馬鹿はおもしれーけど借りは作られたくねーからさっさと治しとけ」

 

 その後も何人かちょくちょく来たりはしたものの、微妙な空気はしばし続くのであった。

 結局、この日の戦いはアンドリュー戦死もあって動揺した猩軍側が初め大きく押されはしたものの、通常よりも指揮系統を早く立て直した彼らは什虎城に近い城外最終防衛線まで退き、そこでの守戦に切り替えたので秦側も今日中はその前で押し留まることとなった。

 

 

 

 

 

 〇秦始皇9年(紀元前238年) 什虎攻防戦五日目夜 楚国北西部 什虎地方 什虎城付近 白漂軍野営地本陣 大将ゲル〇

 

(…何とか押し込めたがあの城の手前の防衛線で今日は止まったな。だが、城主戦死による混乱の歪をついてあの城を間近で見て回れたから急所は色々見つけられた…)

 

 激戦が各所で繰り広げられた昼が過ぎて夕刻も終わって夜に入り始めたばかりの時間帯にて、白漂は自身のゲルの窓より見える什虎城を怜悧な目で見据えており、肘を預けている卓上に広げられた地図には什虎城及び周辺の地形の詳細、各軍の配置を示す駒が配置され、その内の自軍の明日の予定での行動とそれを受けて動くだろう味方の行動の予測による変化を受けていた。

 

(…連中の指揮系統網の復活は予想よりも早かったが大将戦死及びその情報波及による混乱は数日で収まりきるものじゃない。そうなるとその死を間近で見せつけられたここの担当がその歪を広げ深めるうえで重要になる。問題は隣に展開するあの軍が合わせて動いてくれるかどうか…こっちにとって途中まではとびっきりキツイ展開にしそうだ…)

 

 その動きの予想を盤上及び敵地に重ねて思索を深めていこうとする白漂の脳裏に、ここ什虎の地で出会ったあの少年の姿が思い浮かぶ。

 

「…あのアンドリュー討ち死に直後の混乱に乗じてマタグとはぐれたりしなければなぁ…。あの城に付いて色々聞けただろうに」

「…いや、あんな敵の方にその身を投擲されるなんて真似されたら怒るか怖がるかその全部で逃げていくのが普通かと…」

 

 惜しそうにその名をぼやく白漂の背後には、その寝間着を崩して露わになった豊かな谷間にうちわで風を吹きかけつつ乾いた笑みを浮かべる姫昭の姿があった。

 

「何かあの勝利直後のどさくさに紛れて逃げようとしていた所を引き留めようとしたら猩族のものと思わしい言語でこちらに喚き散らしていましたが…」

「訳したらとんでもない内容になりそうだからあまり触れずにおこう。腹に何か一物ありそうな感じなのは見た時わかったけど、それと負けず劣らずに猩族に対し恨みが骨髄に達している表情だったからー、その点を上手く付けばー完全な味方に出来ると思ったのに…」

「白漂様は人の心や思惑を読むのは得意ですけどそれに答えるのが何か予想の斜め上を行きがちというか…」

「まあ、それはよく言われることだから今更気にしないけど…ところで君はどうして今夜はここにいるんだ…?」

「…いや、その…今回の戦で友軍となっているあの人たちですが…生まれ素性のことを考えても…、どうも苦手というか…もしもあの時…あなたと出会わなかったら…何か…彼らと…とんでもない関わり方をしてしまったような気がするというか…」

 

 その姫昭は不安を押し殺せないというような表情で、南方に位置する一応友軍には属しているその軍の野営地を時おり見ていた。

 

 

 

 

 

 〇楚国北西部 什虎地方 什虎城付近 桓騎軍野営地本陣 大将天幕〇

 

「…いよー、お前ら全員集まったか」

 

 その姫昭が恐れと警戒を浮かばせる視線を向けているその陣地の中心で、その主である桓騎が自軍の幹部達を大勢集めていた。

 

「「「「「……‥………」」」」」

 

 だが、いつも通り不敵な笑みを浮かべている桓騎に対し、集められた幹部達の奥は程度の差はあるがしかめっ面を浮かべていた。

 

「ん~? なんだぁ? そんな夕方で急に戦を止めて陣地に戻れって言ったのが気にくわなかったか?」

「…ええ、そりゃまあ、昼間に猩のデカブツ共が多少盛り返したのには驚きやしたが…それも同時に攻めりゃあ普通につぶせるって状況だってのに…」

「それを夕方で急に陣地まで引き返して今日の分の分捕ったもんまでおいてけなんてなったら皺の数が増えんだろ」

 

 小難しそうな顔で肘を机に付きながら煙管を吹かす雷土と、この場でも鉄砲の手入れをしている炳蒐猘(へいしゅうせい)が眉間に皺を寄せた顔でまず口を開いた。

 

「…ふ、やっぱこんだけいても俺に正面から文句ぶーすか言いやがれるのはお前ら二人くらいだな…」

「…で、今回のこの戦はこのバカでかい湖に浮かぶあの城が中心だと思ってたんすけど…何か方針でも変わったんすか?」

「何か別の目当てが見えてきたんなら教えてくんねーか?」

「ふ…お前らなんか武将くせ―ことを言いやがるな」

「あ…いやー俺ぁ別にそんなつもりじゃー…」

「それとも古巣で暮らしてた連中が久々に近くにいて懐かしくなったか?」

「…ッ…知らねえよ、もうあんな青くせぇ馬鹿共なんざ…」

 

 その二人に桓騎は値踏みするような目つきで近づくが、炳蒐猘はバツが悪そうな表情で視線を逸らした。

 

「狼狽えんじゃねえ馬鹿ども、どの道ここ什虎の勝利は青深湖の要石である什虎城を取ることには変わらねえ」

「ッ!? だったら城から離れた?」

「城を取るためだ」

「だからどうして…!?」

 

 それに構わず桓騎は言葉をつづけるが幹部達はそれが自分達をおちょくっているように聞こえ、不満と戸惑いを強めて椅子から立ち上がり始める。

 だが、桓騎はそれに動じずに彼らの間に入って半分からかうような口調で言葉を続けていく。

 

「お前らよお、ここ最近は考え方とかが軍に近すぎてねえか?」

「「「「「????」」」」」

「隣りに青くせぇ馬鹿さがまだ抜け切れてねえが色々面白い手を考える連中がいんだろ? あいつらが黒羊でやったのを俺(・)ら(・)の(・)や(・)り(・)方(・)でよりうまくここで使う」

「…黒羊…たしか隣りの白漂大将軍殿(・)が趙人達を大勢寝返らせたというあの…」

「おーそうよ摩論、夕方にあの白漂の不細工面な弟分のおかげで捕まえた猩兵共をボコボコにしたら面白い話を聞けた」

「それでどうすると?」

「ここ什虎には、俺らが来る前から猩のデカ豚さっさと死ねって連中が大勢いやがる」

「…! それってもしかして…!?」

「ああ、明日からさっそくそいつらの尻に火をつけて回って発破をかける。まずはー…」

 

 途中から幹部達の反応に驚きが混じるが、桓騎は不敵な笑みを崩さないまま言葉を続ける。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 数分後、幹部達は桓騎が姿を見せる前と同じ沈黙に陥っていたが、その表情からは不満の色は消えて高揚と期待の色が浮かんでいた。

 

「…ふ、そうだったな。あんたはいつも俺らじゃあ思いもよらねえ手でくそ共の鼻を明かしてくれてた…。それをやらせてくれるのが楽しいから俺達はここに集まってんだ…」

「たしかに…」

「ああ、そうだ。もうここからいつも通り四の五を言わずに俺と共に動け。そうすりゃー…い(・)つ(・)も(・)通(・)り(・)の(・)完(・)全(・)勝(・)利(・)を味わわせてやる」

「「!!」」

 

 そして、それを見計らって桓騎が言い放ったそのきめ台詞を受けて、顔が赤くなった黒桜と炳蒐猘の鼻からびゅっと少量の血が噴き出た。

 

 

 

 

 

 〇秦始皇9年(紀元前238年) 什虎攻防戦六日目早朝 楚国北西部 什虎地方 什虎城付近 白漂軍野営地本陣〇

 

「…ふアアアァ、あー昨日は本当に疲れたー。敵の大将が死んだからもう勝ちで終わって今日くらいには帰れるかなって思ったのによ~」

 

 桓騎軍でそのようなやり取りが行われた晩が明けて次の日の早朝、水場を挟んで隣りの白漂軍野営地で目を覚ました尾平は面倒くさそうな顔で目を覚ました。

 

「しかも夕方になって陣地に戻った後も城攻めの準備とかでまたえらく働かされるしよー。今日こそは終わって明後日には帰らせてほしいなー……あ…れ??」

 

 尾平は欠伸を掻きながら適当に野営地の高所を散策していたが、そこで一番高いところに上って周囲を見渡したところで、ある一点の機能にはない変化に気付いて眼が丸くなった。

 

「…あ、あれ? 桓騎軍は…何処に行ったんだ??」

 

 尾平が見やった水場を挟んだ向こう側の陸橋には、昨日までいたはずの桓騎軍の姿は野営地があったと思わしい僅かな痕跡を残して消えてしまっていたのだ。

 当然、この急変は即座に白漂軍、及びに他の友軍へ即座に伝わって連合軍側に困惑と驚愕が瞬く間に広がった。




次回、お頭達がお頭達らしい戦を本格的に始めますが、原作の黒羊よりかはマイルド(?)になっています(…多分)。
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