※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は、この時代における戦争の負の側面が出てきます(まあ、現代は報道の操作とかがあるので、さして変わらないでしょうけど…)。


224 連携の事前確認の定義は千差万別●

 〇秦始皇9年(紀元前238年) 什虎攻防戦八日目朝 楚国北西部 什虎地方 簡明原野〇

 

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」

「「「「「Oooooohhhhh!!」」」」」

 

 什虎の主力軍が秦側の挑発によって外へ引きずり出されて数時間後、両者の主力軍は城から離れた地にあるその原野で今回の戦で最大の野戦でぶつかり合っていた。

 

「…この規模とこの地形…、少なくとも秦は今日でこの戦を決めに来ているな」

 

 その野戦を魏から秘かに直々で偵察に来ていた同国第一将呉鳳明は、深い茂みに包まれた山の中腹より盗み見ていた。

 

「Kill them! 」

「Kill all the yellow monkeys!」

「ぐあぁ!?」

「くそぉ! やっぱデケェしつええ!」

「臭いもきついから近づきたくねえ!」

「…ううむ、やはり兵卒の個々の力では什虎側がまさっているようですなぁ…」

「それでいて什虎の猩族は主将と幹部の多くを失ったままだが、その事で纏められるものがいなくなって、通常なら主将戦死で起きる連鎖的崩壊は起こしづらい状況になっている…」

「単純な消耗戦になればまだどちらが勝つかは、この様子からしてまだわからぬやも…」

 

 そうして山林の中より盗み見ている魏側の将校達から見て、眼下の戦の戦況はまだどちらが勝つかはわからないように見えていた。

 

「いや、損害の程度がどのようになるかはまだわからんが、どの道あの城攻めも含めてこの戦での秦の勝利は変わるまい」

「呉鳳明様!?」

「たしかに個々の兵員の身体能力では猩族共の方が上だ。だが、秦側には…」

 

 呉鳳明が指さしたのは秦側の前衛からは一段離れた、中衛以降に展開している諸部隊。

 

「よし! 東の十六ノ番地に孥砲で毒煙弾を撃ち込め!」

「騰遠弓隊! 西の八番目の騎馬隊を射て潰せ!」

「その個々の力が行かされる近距離にこられる前に潰す兵器及びその運用の技と―――」

 

 それから呉鳳明が指さしたのは、猩軍とぶつかり合っている前衛で一際彼らに向けて大きく食い込む形で突出している三点。

 

「ぬうん!」

「ココココ!」

「シィ!」

「「「「「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa!?」」」」」

 

 その三点では、それぞれ大錘を厳めしい表情で振るって体格に勝るものも含めた猩兵を次々と粉砕していく蒙武、いつも通りファルファルと剣を草刈り機のように回転させて彼らを盾や鎧ごと細断していく騰、柄に括りつけられた縄を巧みに操って十星戟が手から離れて踊っているようにそれを振って盾や鎧に触れずに彼らの急所から高速かつ変則的でありながら正確に穿ちぬくか切り裂いて屠っていく白漂が、それぞれの軍の先頭で突き進む姿があった。

 

「「「行くぞ」」」

「うおおおおおおお! 蒙武様に続いて豚共を叩き潰せぇええ!!」

「騰様が切り開いたぞ! 我々がそれを更に押し広げるぞぉぉ!!」

「白漂様が久々に前線で本気を見せているぞ! 遅れたら恥ぞぉぉぉ!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」」」

「―――その差を埋めて余りを出す“士気”を引き出せる“個”の力がある!」

 

 呉鳳明が感心する様子で評したとおり、この場を担当する秦側の武に長けた猛将であるその三名に釣られて、秦側の士気と武力は向上して前衛における個々の戦闘でも徐々に差は縮まりつつあった。

 

「! 秦側からあの三点を中心に前衛が大きく動き出した!」

「三大将が先頭に立ってからだ!」

「何なのだあの勢いは!?」

「(著雍でやり合った白漂もだが騰もやはり厄介な男だな。どちらも軍師級以上の頭脳を持ちつつも軍力を牽引して向上させられる武力を持っている。残りの蒙武は武力一辺倒だが、もはやその武力自体が個体で戦局を変える次元にまで達している)あの三人とその軍の動きをよく見ておけ。殺り合う時が来たら何が何でも殺さねばならん連中だ」

「「「「「!!!!」」」」」

 

 その勢いに魏側は驚きと警戒を増していくが、彼らを注意しつつも呉鳳明はこの戦況の伯仲とした状況も見逃さない。

 

「Tear it apart from the side!」

「ああ! 白漂様の横腹を突こうとしているぞ!」

「蒙武様の脇を突こうとしている連中を返り討ちにしろぉ!」

 

 猩軍は秦側三将を真正面から撃破するのは困難とすぐに判断すると、それを交わして横から削り潰そうと始めたのだ。

 

「!? 少しずつですが秦側の勢いが再び落ち始めましたぞ!」

「ここの兵員の戦闘力の平均値では猩側が上だ。主将不在のままで始めているのもあって通常の敵将敗死による連鎖的崩壊も通じんだろう。こ(・)の(・)ま(・)ま(・)こ(・)の(・)場(・)だ(・)け(・)で(・)の(・)戦(・)い(・)では消耗戦にもつれ込んで秦側は勝っても相応の損害を出すぞ。さあ、どうする…!?」

 

 まだ状況が拮抗に近いことを見失っていない呉鳳明の視界で、此度の戦でも最も重要な地で異変が起きる。

 

「お、おい! 何か向こう側から大きな煙が上がってないか…!?」

「え…あれ…“什虎城”からだぞ!」

「Why!?」

 

 それは此度の戦で最重要拠点とされる什虎城からで、そこから立ち上っている巨大な黒煙は秦猩双方を大きく驚かせた。

 そして、この戦場全体に共通して広がったある疑念をあの男が見逃すはずもなかった。

 

「全軍に伝えろ! 分離した友軍が猩族主力に離れられた什虎城を落としたと!!」

「「「「「!!!!!????」」」」」

 

 この野戦場の秦側三将の中で最も敵軍に食い込み、両軍のほぼ中央に位置してた白漂がそこ全体を震わせる大きく鋭い声量で勝鬨を命じたのだ。

 

「! そうだ! あの煙の方角と大きさからして什虎城は落ちたぞぉ!」

「夜の内に分かれた桓騎軍や堅陽軍に韓軍がこの隙に攻め落としたんだぁ!」

「Ah, that's stupid!?」

「That's impossible!」

 

 すかさずこの場の秦軍全体が勝鬨と共に敵の敗走を促す言葉を叫び始め、猩軍側のまだ生きている指揮官は自軍の崩壊を防ぐべくそれを否定し始めるが、当然あの三人がそれを許すはずもなかった。

 

「全兵士に告げる! これより我らは敵の什虎軍残存部隊の掃討に移る故に討てるだけ討て!!」

「全員! まだ抗わんとするものは全て殺せぇええええ!!」

「この場から逃げだして視界から消えたものは無理して追わずともよい! 但し姿が見える敵はたとえ背を見せていても構わず討つべし!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」

 

 白漂、蒙武、騰の三名がそれぞれの性格が出た号令を発し、それを受けた秦兵達は勝ち戦の匂いを濃厚に感じて士気を爆発させて猩軍に全力で襲い掛かった。

 

「No more!」

「Run away!」

 

 ついに猩側の一部隊が簡明原野での戦いを逃げ出し、それに引きずられる形で各隊はばらばらに、けれども同じ煙を上げている什虎城の方向に向けて逃げ始めた。

 

「シャア! このまま追えるだけ追い討てぇ!」

「逃げている連中の背なら討ち放題だぞぉ!」

 

 そうなれば真正面からの戦いなら強力な体格に勝る猩兵達も、背中側という無防備な弱点を多く晒すことになり、秦兵達は遠慮も容赦もなくその的を狙い続ける。

 

「…雷土さぁん! お頭の言っていた通り猩の馬鹿共はこっちに向けて逃げだしてきてやすぜぇ!」

「もうその背から他の大将の軍がバンバン討ってきてます!」

「もう相当な数が麓の森の中に逃げ込んできてやすぅ!」

 

 そして、その光景を猩軍側が逃げてきている方角の山中より、桓騎軍に属する彼らがにやりとした表情で見下ろしていた。

 

「そうだなぁ…おい! もうそろそろ向こう他所の大将の連中が麓に近づくからよぉ! あいつらが巻き添えを食う森の中に入る前にぶっ放して火を付けろ!」

「…ち、はいよ」

 

 その中で指揮を執る桓騎軍の幹部の一人である雷土の命令を受け、その上の樹上より何処か釈然としない表情で炳蒐猘(ヘイ シュウセイ)は長銃を構えた。

 そして、その銃口より撃ち放たれた鉛玉は、敗走しだした猩軍の多くが逃げ込んだ麓の森の中にある大きな樽に大穴を開け、そこから樽は猛烈な業火を立ち昇らせ、そこから無数の蛇のように火は森の中を走り抜けて森銃を業火の中に包み込んだ。

 

「Aaaaaaaaahh!?」

「It's hot!!」

 

 当然、異変が起きた什虎城を戻るべく最短経路である森の中を走っていた猩軍はその炎の海の中に身を投じる形となり、各所から人が燃える悪臭や悲鳴が立ち上り始めた。

 

「ぬおおお!? な、何だぁ!?」

「か、火計か!?」

「き、聞いとらんぞ!」

 

 その大火は森に入る寸前まで猩軍を追っていた野戦場での秦側三軍も驚かせて困惑させていた。

 

「…っ!? この臭いは…たしか北涼で採れる燃える水…“石油”から精製した油の臭い!?」

「じゃ、じゃあうちの大将の仕業か!?」

「あ、いやーたしかこの前の夜で陣を一旦払った時に何故かごっそりほとんど盗み出されてたみたいな話だったけど…」

「「「「「…………え!?」」」」」

 

 敵の大半を包み込む大火で心当たりのある味方に秦側の視線はいくが、そこから出た困惑交じりのその答えに別の驚きを覚えた。

 

「ギャーハッハッハ! こいつで白豚から黒豚の丸焼きだぜ!」

「ジャンジャン燃えろ燃えろ!」

 

 一方、山の中腹よりその様子を見ていた桓騎軍の一部隊は大喜びしていたが、一人だけ機嫌の悪さを隠さないものがいた。

 

「馬鹿やってる暇があるならさっさとここからずらかってお頭に合流するぞ! 火は登るのが早いからな!」

「へ、へい!」

「わかったっすよ!」

 

 その当人である炳蒐猘の怒鳴り声に、多くのその場にいた桓騎兵は状況の危なさを思い出させられたのもあって即座に逃げ始めた。

 

「…あの晩から機嫌悪いっすねあのねーちゃん」

「まー、お頭の命令から今ここで一番油を持っているあの若旦那の所へそれ盗みに行ったら、もう丁寧に用意されていたあとで“ご自由に使っていいので勝ってください”なんて案内があったのを見たら釈然としねーのはわかる…」

「とりあえず考えててもますますモヤモヤしますからお頭の所へ早くいきません?」

「そーだなー、下手に考えるとややこしくなる気配濃厚だしな…」

 

 欲しいものは分捕ってくるのが誇りである賊出自の彼らに、その口にした油入手の経緯は気に喰わないものであるが、長ったらしいことを嫌う性分がこの場でも働いてさっと彼らはその場を後にした。

 

 

 

 

 

 〇楚国北西部 什虎地方 什虎城〇

 

「Eeeeek!?」

「Aaaah?!」

「Ugh, suppress it!」

「N-No! They've already invaded the inside!」

「Above all, there are just too many!」

 

 猩軍の主力の大半が森と共に燃えつつあった頃、その彼らが目指している什虎城は外も内も大混乱に陥っており、彼らの同胞や家族の悲鳴や怒号が立ち上っていた。

 

「うるせぇ! 今まで肌が白くないってだけで畜生みたいに扱いやがってぇ!」

「こいつはむち打ち千回で背が皮だけじゃなく肉まで無くなって背骨まで剥き出しになって死んだ兄貴の分だぁ!」

 

 城内は突如として大量に脱走してきた猩族の民に紛れる形で、同じく秦側に制圧されて連行されていたが同時に解放されて共に城内へ雪崩れ込んで、今までの恨みや憎しみをむき出しにして暴れる奴隷達の怒号と暴行が荒れ狂う、この時代での城塞戦ではつきものだが我が身には起きてほしくない日常的地獄に染まっていた。

 

「冬史様! 北側正門だけでなく東側正門も突破に成功した模様!」

「どうやら門を通行していた猩民共が財産を城内へ逃そうとしていた車がつっかえ棒となって門が上手く塞がらずに部隊が通り抜けられた模様です!」

「どうやら什虎の部隊は避難してきた猩民や奴隷共がどちらも泥まみれとなっていたので遠目では区別を付けられず城内へ引き込んだことで反乱分子がとうとう決起した模様です!」

「…そうか、では城内の要所制圧及び資料接収を優先しろ」

「は、城内で起きている紛争については…?」

「十何年も続いた理不尽な暴政の結果だ。下手に仲介へ出るとこちらも巻き添えを食う。但し、運良くこちらまで逃げてこれた分は保護していい」

「かしこまりました」

 

 その混乱に乗じて韓軍は陸上と水上から続々と城内へ侵入しており、冬史はその瞳に時おり嫌な意味で懐古の感情を思わせる色を浮かべていた。

 

「!!」

「Gyaaa?!」

 

 だが、城内の深い葦の中に身を潜めていた猩兵が襲い掛かってきて、それを一刀で胴から両断し切り捨てると、その色は消えて冷徹な瞳で什虎城を見つめ直す。

 

「…第二段階に移行するぞ」

「はっ!」

 

 その時に猩兵を切り捨てて什虎城を指し示した冬史の左腕は、白銀色に輝いていて血に濡れた長刀は腕の内部から伸び出ているような構造をしていた。

 

「…ああ、また子供が城壁の上から嬲り殺されてから落とされて…」

「あ、そう…じゃー…嚇面隊を東側内壁の二番口から攻め込ませて…」

 

 一方、堅陽軍も同程度に素早く侵攻を進めていたが、その指揮を執る柳宗は指示に的確さに相反して怠惰そのものという態度であった。

 

「…あの? いいんですか本当にこのままで…? あいつらは確かに…あ(・)の(・)時(・)の…?」

「じゃー青多くん、あの間に立って上手くどっちも宥められる手立てがあるのならどうぞ」

「…っ…それは…」

「保護を求めて逃げ込んでくるのがいたら好きに捕えて運んでいいけど」

「…っ…は、はい!」

 

 その態度は周囲にもわかっていたがあまり強く咎めることは出来ないという感じで、柳宗がメンタル的な意味での逃げ口を用意すると周囲はそれに食いついてその場を離れた。

 

「うっひょー、派手にやってるっすねお頭―」

「ギャハハ! 白豚が豚みてえに泣きわめいてやがる!」

 

 そして、その錠内の様子を猩民や奴隷達の什虎城内への避難の混乱に乗じて、敵には知られずに侵入を果たしていた桓騎達は嘲笑混じりに見下ろしていた。

 

「くくく、猩の連中がこの辺りにやたらめったらな採掘をしていたおかげで捕まえたその身内や奴隷共は無理させればそのほとんどは上手く隠せられたっすね。一部は雷土に預けて秦側に向けて連れて行ってるように見せれば、猩豚共は身内のほとんどが連れていかれると思って城をほぼ空にして追っていきやがった。こっちで大将とかその取り巻きをしていた連中はぶっ殺したから抑えられる連中もいねえし。そうして離れた隙に煤と泥だらけにして猩豚共の堅気と奴隷共を遠目じゃ区別付きづらくして城に向けて解き放ったら、あいつら大慌てで門を開けやがって締められなくなったところに韓の連中が合わせて攻めてくれたおかげでこっちも楽に侵入できた」

「お頭ー、さっき上がった狼煙からして雷土さん達も上手くいったみたいっすよー」

「よし、じゃーお前らはお宝とかの差し押さえと外への持ち出しを始めろ。俺は砂鬼らと共にちょっとここで一番間抜けな連中のところへ行く」

「は? 砂鬼一家とですか?」

「…笑えるあほ面はもっと笑えるようにしたくなるもんだろ?」

「…は、はい」

 

 その中で桓騎は周囲と同じように嘲笑を浮かべつつ、普段から帯びている翳がいつもと異なって妖艶な魅力が消えて純粋に闇を強めているような冷笑を浮かべ、側近達も滅多にそれは感じられない様子で少し腰が引けていた。

 そうして周囲の多くが少し自身から後ずさりしているのに構わず、桓騎の視線は城内ではなく城の外へ向けられていた。

 結局、猩族の根城となってから不落と恐れられてきた什虎城は、今日の正午にて秦韓連合軍によって陥落させられたことがこの地一帯に宣言されて広まった。




何かこの世界のお頭、什虎の地でも何かあったっぽいような描写がありましたね…。
次回は、什虎戦事態の戦後処理とそれに伴う秦韓側のやり取り、久々の大人向けシーンが中心になります。
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