※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は、大王様と本作主人公の暗躍(?)が中心になります。
その中に、センゴク系ネタも混じっています。


233 壊れた友誼を直すのは常に難い●

 〇秦始皇9年(紀元前238年) 秦国北部 龍城(旧匈奴(ヒョンナ)首都) 秦国北部行政府〇

 

「…しっちゃかめっちゃかにした責任と色々と知りたいことがあるから引き受けたけど…やっぱり色々むずいんだよなぁ…」

 

 嬴政から彼の龍城滞在の間に、北涼安定化の目途を掴んで固めることを命じられ、自身の事情もあって引き受けた白漂だが、これまでの経緯や北の国民性などからしかめっ面になって望楼から龍城を眺めていた。

 

「…元から、元大英雄とはいっても脱走兵の息子で急に異国から来た身で、単于即位も燕国からの助力でなったところで、口八丁でその国をぶっ壊して単于を止めた身だもの…。まあ、そのおかげで私達は謀反人の一族として討伐軍を送られるなんて目には遭わずに済んだけれど、草原世界最大武威を担っていた人達からすればそれを満足に発揮できないまま、よくわからない馬の骨に口先でぶち壊しにされたんだから恨むなという方が無理よ。私の所にも恭順を示しつつも夜の酒でその事を愚痴る友人が大勢いるし…」

 

 その悩みは白漂の傍に今も最もいる紅華が共感していた。

 

「…ああ、だからここにいる間はダサい真似は下手に打てないし許せなくなる…特にー…ん?」

 

 そうして城内から感じとれる気配から今後どうやってここから安定統治の和を広げていくかで、悩んでいた白漂の眼差しにさっそくそのもめ事になりそうな種がさっそく現れた。

 

「あーん、お兄さーん♪」

「遠路はるばる来てて溜まってるんじゃないのー?」

「ん? 何だあの民妓*1達は?」

「陛下、多分あの人達はあの龍城争乱やその後の内戦で出た未亡人達ですよ。まずいわねぇ、今回は巡行だから悪目立ちにならないように営妓*2達は別の経路を進ませてるからまだ到着できてないし…、あのギュレングルフ達の襲撃以来ここに来るまでの間は毎回いいところで襲撃が入ってその分にほとんどが溜まりに溜まってる状態だからこっちが上手く間に入って…?」

 

 その色っぽいしぐさを白漂兵達にする女性達を訝しむ嬴政の問いに紅華が詳しく説明しながら懸念も示すと、そこで今回の安定化の鍵を任された男が動き出した。

 

「ちょって行ってくる。上手くすれば秦涼双方の民心が近づき合える切っ掛けの一つには出来るかも」

「「…え?」」

 

 そう言い残すと白漂は二人の返事も聞かずに、その民妓達がいる現場へ馬に乗って走らせた。

 

「お、おい、今日の夕方までに正式に契約してる営妓の移動妓楼が来るから止めとこうぜ」

「ベ、別にいいだろー。ここに来るまではいいところでいつも賊になった元匈奴の連中に邪魔されていたから一発くらい…」

「そーそー、南の男の逞しさでーこのさみしい北の女を慰めてよー…!?」

 

 数十秒後、現場の流れが艶っぽい方向へ傾きかけていたその時、白漂が早馬で現場へ駆けつけてきた。

 

「「「「「は、白漂将軍!?」」」」」

「ええ!? いきなりこんな大物がぁ!?」

「ど、どうする!?」

「あたし準備がまだ出来て…!?」

 

 その登場に秦兵達と妓女らの双方及び周囲のその他が驚くが、白漂は両者の間に割って入ると妓女達に向けて何と頭を下げだ。

 

「いやいや今の北の争乱を生んだ身の一人としてそのような苦界へ落ちた身には重き思いを禁じずにはいられない! 故に! こちらとしてもそちらが胸を張って生きられるための方策を進めている最中なので! そのような誘惑を我が将兵らにかけて邪魔立てするような真似はご容赦願いたい!!」

「「「「「!!!!?????」」」」」」

「今この北の大地にはこの豊かな地を貪ろうと他国の間者も女人含めて多く侵入している状態! その状況でもしも諸君らが我が軍の将兵と迂闊に交わりなどすれば! 女間者及びそれと密通したものとの疑いで処罰せねばいけなくなるかもしれんので!」

「「「「「!!!!?????」」」」」」

「だがしかし! 今この地に集っている秦兵も! この都に留まっておられる諸君らもこの北の地の争乱を憂いて残り手を取り合う機会を探し合われている同志なのはこちらも知っている! その同志を先ほど言ったような事態で命を絶つのはご勘弁したいところ! よってー…!!」

 

 そして、早口で立てるその内容と勢いよく頭を何度も下げる白漂の動作に、驚かされ続ける周囲だが、それを見て白漂は地面に両膝を付いてこう高らかに宣う。

 

「もしもそのような不祥事が起きれば! この我が得物の一つである棒を貸すので罪の重さだけ我が身に棒叩きの刑としてご勘弁願いたい!!」

「「「「「「!!!!!!!??????」」」」」

 

 そうして前代未聞の、一見すると恥も外見もないその宣言を前に、秦兵達と周囲の群衆達が驚愕と震撼のどん底に叩きつけられた。

 

「…恥も外聞もなさそうなやり方に見えて…えげつないな漂は…。ハッタリ一つでこの地の平和を望む民衆の心に大きく近づき、秦涼双方の和解を邪魔しようという連中には盛大に釘をさして見せた…」

「この流れの後で不祥事を起こしても実際に誠意を見せた大将軍に棒叩きなんて出来ませんから…、その人は安全を望む人たちに何やってんだと他所の間者として闇で袋叩きにされるのが目に見えますからね…」

 

 その様子を後から追ってきた嬴政と扇琵は、建物の影より引き攣った笑みで見守って却って畏怖を覚えていた。

 数分後、騒ぎを聞いて血相を変えた昌文君に白漂は怒られるが行政府に戻って嬴政との相談に戻った。

 

「…よし、これで両者の間を悪くするような不祥事が起きても他国の陰謀みたいな流れに持って行けた」

「陛下ー、将軍ー、後続の補給隊が到着しましたー」

「…とりあえず、今さっきみたいな類の不祥事の確率は大幅に減らせそうだ…」

 

 その中で嬴政と白漂は黒竜江に近い龍城王宮の望楼で、後続の船団が到着したことを見て一安心した。

 

「…ああ、お互い…あのギュレングルフらの奇襲から…毎晩にわたって良いところで邪魔されて愚息が溜まりに溜まってるからな…」

「前線で命を張る分に溜まりやすい若い兵達には死活問題だからな…“性”は…」

 

 後続の船団に混じる営妓の一団に安堵の顔を見せる嬴政と白漂は、他の人には背を向けているので見えないがボトムに大きなテントが出来てその先端からじわっとした小さくいも濃い染みが出来ていた。

 

「…性欲は睡眠欲や食(・)欲(・)と並ぶ人間の根源だ。だが、今の北はその食(・)を満足に満たせない人間が多い…」

「…ああ、その通りだね…ん? その三つを満たせない時が人間は最も罪を犯しやすい…ん? 食?」

 

 真顔でやりたい盛りの年代故の悩みから深刻な問題に繋がっていく二人だが、そこで混じるある単語に白漂はハッとした顔になる。

 

「嬴政、今回の船団には北涼経済再建のために現地の有力者との交渉のために、豪商や富豪と言った人員も来ているよね? その物資付きで」

「ああ…というかそういう物資の多くは財界の要人にもなってるお前の妻達のものが多く占めているが…何か妙案が?」

「ああ、そうだね。今では国内にあれこれ人の数や種類が増えた国内のことをあれこれ知らせながら纏め上げるために…咸陽を含めて人が行き来しやすい都市で開かれているあ(・)れ(・)をここでもやろうと思う」

 

 それから白漂の口から出てくるあの単語に、嬴政も城内の物陰で多く見られる職に困っているのがやせこけて肌色の悪い人々と重ねてあるものを思い出す。

 

「“物産展”か」

「その通り、それもここの人達をなるべく多く巻きこむ形の“食”で」

 

 二人は、北の民の理解と心を掴むため、まずはその”胃袋”から掴むことを決心した。

 

 

 

 

 

 〇秦国北部 龍城(旧匈奴(ヒョンナ)首都) 秦国北部行政府前広場〇

 

『何だ何だ?』

『何か広場の前に立札がたくさん立てられているぞー』

 

 嬴政と白漂のその話し合いから数十分後、龍城城内の人々は旧王宮前広場に多く集まっていた。

 

『龍城城内の諸くーん! これから近日の内に秦国食文化物産展を行うことになったー! 如何せん人員が足りないので準備するための労働者を募集する! 三食及び寝床付きで給料ももちろん出す! 寝床も用意してそこには警備も付けるぞー! 詳しい内容はー…!』

『『『『『!!!!????』』』』』

 

 看板の群れの前に集う人々を見渡し、秦国現北部行政府の役人が櫓に上ってそう宣言して、人々を騒めかせた。

 

『給料!? いったいどれくらいだ!?』

『あ、あっちの立て札にアラム人の言葉で書かれてる文によればー…!』

『ほ、本当かなぁ…?』

『馬鹿! 行って殺されねえ保証なんてねえぞ!』

『秦なんかの下で働けるか…』

『でもぉ…あの内戦から俺達はずっと職がぁ…』

 

 人々はその宣言に半信半疑で、現実への反発と妥協したい欲求の葛藤が立ち上ってき始める。

 

「…やはり、真正面から宣言しても躊躇いの方が強まるな…」

「よし、それではその背を押してあげよう。良(・)く(・)も(・)悪(・)く(・)も(・)…」

 

 それを後ろの行政府の窓より嬴政と白漂は見守っており、後者の事前の指示を受けて秦兵や既に恭順済みの部族の民が大勢で穀物などの食物が入った俵を、港から物産展開催予定地へ周囲に見えやすいように運び始めた。

 

「…北の民は鼻こそ利くけど貨幣経済は中華ほど浸透していない。それでいて、噂というのは体験した本人談形式で教えられるよりも…他人からの又聞きという方が信用しやすい…」

「…なるほど…確かに…」

 

 影武者と王がその俵に注目したように、北の民は自然と目敏くその広場に積まれていく俵に注視していく。

 

『…え? あの匂い…麦や高粱か…!?』

『給料はあれで支払うって書いてあったけど…?』

『…林胡に嫁いでいた娘の兄貴はその伝手で別の工事現場で働いたら貰えたらしい…』

『今は募集をこっち向けにしてるけど、あまり遅くなると他で埋まっちまって雇われることが無くなるかもー…』

『そ、それはー…』

「…事前にこっちへ恭順して長く経つ涼人を潜り込ませて、噂話という形でどんどん良い噂を流し込むと効果が良い。正面から説得するよりも身内の横やり話の方が信じやすい…」

「…あぁ、だが…こうなって上手く行きそうな流れになると…大抵それを邪魔しようとー…」

 

 広場に集う群衆へ広まっていく噂とそれへの好感情に白漂は予想通りという顔を浮かべるが、嬴政は群衆に混じる翳を帯びた視線を感じとっていた。

 

『…よーし、その“△三”印のは広場の右隅に置いておいてー!』

『赤い紐の樽には日持ちがしない食材が入ってるー! 数字が少ない順から働きに来た皆への巻かないとして使うからなー!』

 

 数分後、噂を信じた住民や流民をさっそく雇い、物産展への準備作業が始まった。

 

「…北の言葉がほとんどだから半分くらいしかわからないが、初手にしては悪くない滑り出しだな」

「まあ、何度もこういうのはやってるから」

「特にお前の嫁達は良く働いている。指揮とか慣れている動きだ」

「元は林胡時代の林涼の傍流とはいえ王族の血を引く紅華とか、匈奴(ヒョンナ)時代の匩涼人に知り合いや身内が多いし…」

「ああ、お前の嫁達の伝手には本当に助けられている。正直お前よりも力になっているんじゃないかというくらいでな」

「おい」

 

 その様子を秦から移住してきた役人やその家族に扮した格好で、主従漫才をしながら嬴政と白漂は盗み見ていた。

 

『…さー、まかないよー。今日は豚肉と馬鈴薯などで作った煮物よー』

 

 王とその影武者が見守っている中でしばらく時間が経過した後、作業もひと段落して飯時になり、マルタなどが作った料理を入れられた鍋がカンカンと景気よく鳴らされた。

 

「食事の味と毒見の方は?」

「大丈夫、河了貂とか料理が上手い面子を揃えて味は調えてある。それに毒とかも混ぜられないように、雇った涼人にも食わせることを前提にして話をして、毒見用の鯉とかオタマジャクシも持ち込んできて確かめてある。更に器も毒とかが混ざっていたら反応して異臭や色の変化が出るものを選んである。今(・)の(・)所(・)だと異常はない」

「…今(・)の(・)所(・)は…な…!?」

 

 その様子も白漂と嬴政は見守っていたが、後者は物産展準備のための取締役の一人についていた紅華の背に翳と殺気を瞳に宿した一人の少年に気付く。

 

『よし、五番の鍋は12番地の報に持って行ってねー…!?』

 

 そして、紅華がまた新たな指示を出してその背を大きく見せた瞬間に、少年が近くの包丁を手に取ってその背を襲おうとしたが、既に殺気で気付いていたらしい彼女に包丁ごと後ろ蹴りで蹴り飛ばされた。

 

『あ! ジュグベの奴!』

『止せこの馬鹿!』

『離せ! お兄の仇を…!』

 

 すぐに気づいた周りがその少年を暴れて抵抗しようとする身を取り押さえた。

 

「…やはり出たか…」

「ああ、事前に前から恭順して時が経っている林涼や他の遊牧民でこの地に親しんでいる者達を大勢紛れ込ませて見張りも怠らずしてあるよ。警備兵も殺傷力は低いが鉄棒を持たせてあるし…」

「…幸いなことは他国からの妨害は目立ったものはないということだな…」

「ああ、隣になった燕もこちらの北方拡大は内心では喜ばないにせよ同盟国だから表立っての邪魔は出来ない、斉は自国の王様がここにいるから論外、魏と韓は国が小さくて距離もあるから関与自体が困難、楚はあまりにも遠すぎて事情に詳しくないから…、問題で且つ不可解なのはー…」

「趙だな。本国は今の趙王の消極的姿勢からまだわかる。だが、それと対立していた李牧とその足元である趙北部軍の動きが余りにも少なくて且つ小さすぎる。楚に今はいる李牧も様子が可笑しいと―――」

『ちょっとそこの君ー、規定にない調味料をどうして加えようとしてるのかなー?』

 

 目前で出てすぐに取り押さえられた復讐者に絡めて広く国際情勢にも触れる二人だが、今この状況を一番妨害してくるはずのその人物の最近の動きに不可解さを覚えていた所で、先に恭順の意を示して大きな力を示している人物の声が割り込んできた。

 

「―――お…今の秦北部で最も安定している沿海郡を居住地とする満州族に現族長で満州侯になった康熙だな。頭も非常にキレるだけでなく武力と人望も常軌を逸しているのは道中でわかるがー…、だが何と言うかー…」

「政もそれ思う? 本人や生き残りの親族曰くー…外からの流れ者らしい正体不明な父親は生まれる前に謎の襲撃で死んでー、母親もその時の負傷が原因で彼女を生んだ直後に死んだらしいけどー…」

「良くない意味で…見覚えがある気がする…あの顔は…」

「へっくち…?」

 

 嬴政と康熙はその器量や人間性には既に深く信頼を抱いている表情を向けるが、敵意や悪意がないのもあってか、そういうのにも鋭い康熙はクシャミをして奇妙がるだけであった。

 

 

 

 

 

 〇中華南部 楚国 某港町〇

 

「…おい、本当にあの方はここにおられるのだろうな?」

「…ええ、ご心配なく。但しおられるという意味で…まだ使(・)え(・)る(・)かどうかは別問題ですが…」

 

 康熙がくしゃみをしていたその頃、反対の南に位置するその地を趙国から燕国経由で楚に密入国してきた、趙北部軍の将軍の一人袁夏が秘かに訪れていた。

 

「おい! そのような言い方は許せんぞ! まだ貴様があの方のあ(・)れ(・)だなどという証拠はまだないのだ!」

「ご安心ください。実際に顔を合わせればわかりますよ。不本意なことにこの“李汨”の身にはあの男の血が半分流れていますので」

「……づ…」

 

 その案内をしている若者である李汨の主に対する慇懃無礼とした態度に、袁夏は何度も憤りの色を見せるが、彼が身に纏う雰囲気とその風貌に追及できなくなってしまう。

 本来なら歓迎すべきその李汨の存在に、袁夏は祖国で行き詰っていた時期に彼と出会ってから覚えてきた不安を忘れることが出来ずにいた。

*1:
中国における民間の遊女のこと

*2:
中国における軍隊管轄の遊女のこと




次回、久々にヒロイン達が“夜のお勤め”にもようやく取り掛かれる予定です。
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