※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回、あの三人の関係が大きく進みだしていきます。


239危急に後押しされる絆●

 〇秦始皇9年(紀元前238年) 秦国東北部沿岸地帯 沿海郡沿岸部 永明城〇

 

『おい! しっかりしろ!』

「な、何じゃあ!? 海ってこんなに荒れてるとここまで人が流れ着いてくるもんなのかぁ!?」

『いや! ここまで流れてくるのは普通じゃないぞ!』

『…た、助けて…』

 

 秦王嬴政が入城して夕日も沈みかけつつある頃の永明城は、昼間とは異なる喧噪に包まれていた。

 沖合に倭国のものと思わしい大型外洋船が沈みつつあり、そこから大勢の人々が海に投げ出されており、その救助活動に明け暮れていたためだ。

 

「…近いのもあるがデカく見えるな。あれが海に囲まれた国の船か…まだ中にどれくらいいるだろうな…」

「ああ、だけどあの傾き方は風でやられたのもあるけど…そのせいで船底に海底の岩でヒビを入れられたせいもあるだろうな」

 

 そうして混乱と喧噪に支配された港にて、冷静な声だが強い意志を宿した表情で嬴政と白漂が駆けつけてきた。

 

「こっちの護衛は最小限で良い! 今は秦兵も救援に当たれ!」

「ハ、ハハ!」

「港や浜辺に流れ着いている人数も多いけど、まだ船の中に大半がいる状況だな。おい! 僕らはあっちの船に乗り込んでこっちとの間に縄を何本も掛けて結ぶから全兵総動員であの船を沈む前に浜辺へ引き寄せろ!」

「ええ!? そんな無茶な…アアァ! もういつもの速さで行っちゃったよ!」

 

 嬴政は直ちに救助支持を出しつつもそれはまだ一応は常識の範囲内であったが、白漂は部下に対して無茶ぶりを命ずると自分も沖合と縄で結ばれた小舟を高速で漕ぎ出して海に乗り出すという無茶ぶりに身を投じた。

 

「あ、あんだけの大身で何と言う無茶をー!?」

「だが、あの荒波の中で普通に漕ぎ進んで…アア! もう大船に接舷して乗り込んだ!」

「…全く、ああいう人を逃げられない形で巻き込む馬鹿が一番迷惑だな。おい、我々もあの馬鹿及びあの船の助かる確率を一分*1でも増やしに行くぞ」

 

 それに周囲の白漂兵はいつも本気で動くときは止めに入る前に追い付けない速度に入っている主君の行動に、必死な表情だが慣れた動作でその支援に動き出したところで、江殊幡が自分の指揮下の遠距離兵器部隊を引き連れてやってきた。

 

「江殊幡様ー! 全投石機の設置と縄の装填が終わりましたー!」

「このままあの船目がけて発射しますかー!?」

「落ち着け、早ければ良いというのは無暗に早めればいいという意味じゃない。まだ波が甲板まで打ちつけられている今の状態ではー…」

 

 この暴風が吹きすさぶ中でもさすがの工作技量を見せる江殊幡兵だが、その彼らでも見えない荒波一面の中で時おり生じる小さな隙を江殊幡は見落とさなかった。

 

「…今だ! 全弾発射ぁ!!」

 

 そして、荒波の変化、大型船の揺れ、船の甲板で動く人々、実際の指示と発射されるまでの時間差にいたるまで計算に入れた上で、江殊幡は縄を発射させた。

 

「…大将ー! 縄は全て帆柱及び船の丈夫そうな場所に結び終えましたが如何せんまず数が船の大きさに比べて少ないですー!」

「このまま引っ張っても縄がちぎれたり結び目が壊れるだけか…あ! 避けつつもちゃんと掴め! 向こうから新手の縄が投げ込まれてくる!」

「うわぁ!」

 

 その動きを白漂は即座に感じとり、危なさと同時に好機も捉えて一つ残らず逃がさず、取り仕切っている周りと共に新たに投げ込まれてきた縄も船体ヘ結びつけていく。

 

『全部結べちまったなぁ…』

「いや、半分以上はあの大将が結んだぞ!」

「…こ、こんだけ揺れている中で全部結ぶとは…」

『そんな感心している場合じゃないだろ秦の人! ほら! 溺れ死にたくないなら縄を引っ張れ!!』

 

 そして、船から脱出できない人々と対岸にて救助に取り掛かっている人々は、言語の壁があるにも関わらず、両者の言葉を理解できる白漂を仲介及び纏め役へ自然と収めて互いの距離を縮め始めていく。

 

「まずい! 皆ー! 左から大波が来る! 甲板前左側に三十人くらいしがみ付いて均衡を保ってー! それで取り舵三十度-!!」

 

 そんな状況でも大波は邪魔するように船体へ打ちつけられるが、白漂に同行する形で小舟から大型船へ移った康熙が、今は負傷した操舵手の代わりに舵を取ってその細かくも大胆な舵取りや指示で、いつ転覆させられてもおかしくない大型船の命運を保たせていた。

 

「そーれ! 今だ引くぞー!!」

「「「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」」

『滑らないように気を付け乍ら引けー!!』

「「「「「おおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 その間に、船内でそのようにして一致されていく動きは感染したように対岸にも広まり、大型船はそのサイズからは想像できない早さで対岸との距離を縮めていく。

 

『ううう、痛いよぉ…』

『ほら、薄めの粥を用意したから安心して食べろ』

 

 そうした暴風の中での沈没間近の大型船とその乗員の救出作業に明け暮れていると一夜が過ぎ、翌朝となるとそれまでの嵐が嘘のように穏やかになった海に面した街には、無数の天幕が張られ、そこは大勢の救助された人々やその面倒を見る人々に埋め尽くされていた。

 

「…とりあえず、船にいた人間の八割以上は助かったか。まだ危ない線を彷徨っているのも大勢いるが…」

「いやぁ、あの状況にしてはむしろ…まあ、戦場でやる分に比べれば焼け石に水か…」

 

 その中で動きながら嬴政と白漂はやり遂げられた分と遂げられなかった失点を見つめていたが、その二人に地元の人間達は熱く重い眼差しを向けていた。

 

『…おい、あそこにいるの…今の秦の王様と…あのアシェリートの血を引いてるって言う』

『昨日のあの動き…来たばかりの土地で愚かな王が…いや! 普通でも出来るものじゃないぞ!』

『それにその腹心になっているというあの白漂もあの行動力に遂行力…只ものじゃあ…』

「…若さはぬぐえん。だが…それだけでは説明できん慈悲と行動力…それを押し通せるだけの遂行力はあるか…」

 

 その様子を望楼の影より斉王田建は深い眼差しで見つめており、田共召は期待を寄せながらも同時に一抹の拭えない不安も滲ませた表情を向ける。

 

「…そのお言葉、まだ見たりぬものがあると…!?」

 

 それが実際に問いとなって現れたその時、二人が見下ろしている救助現場にて明らかにおかしい人物が一人現れた。

 

「…はは…アハハハハ♪」

 

 その人物は普通に身なりが整えば、否、今の災害に出くわした直後の状態でも整った容姿なのが分かる女性だが、それを薄れさせるまでに不気味な要素を周囲に振りまいていた。

 

「…? おい姉ちゃんよ何をこんな所でふらふらして…!?」

『う!? くせぇ!?』

「あ、あれ…? 何か目がイって…?」

 

 それに周囲の人々は良くて不気味がって避けながら声をかけることしかできないが、ごく一部のそうではない人々に属するものの何名かはそうではなかった。

 

「…!? あの動きは…漂!」

「っ!」

「ぷっ!」

 

 その人物が自分の最も信を向け合う共に近づこうとした時、嬴政の警告を宿した声が発せられ、その友がハンドサインを背で隠すように示し、それに反応してか物陰より小さな影が小さな音を鳴らしながら噴出された。

 

「…あえ?」

 

 するとその女性は急に糸が切れた人形のようにパタリと倒れ、すかさず白い防護服に身を包んだ謎の集団が何やらマジックハンドのようなものを用いて、直接触れずに女性を人々から離していく。

 

「…やはり致死性の疫病か…」

 

 数分後、その女性が運び込まれた天幕にて、ガラス板の向こう側より同じ白い防護服に着替えた嬴政が険しい顔を浮かべていた。

 

「…死腐れ病の一種だねぇ。あのまま放っておいたら寄生虫をもっと撒かれててこの辺りは死体の山だよ。本院も脳みそほぼ全部全部含めて半分くらい死んでたし…ベッサ族を雇い込んで正解だったね~」

 

 その視線の先で壄瑮が女性の身体に切り込みを入れ、そこからピンセットのような道具を突っ込むとその中から固まっていないのにもう黒ずんだ血とそれにまみれた蛆のような寄生虫が大量に摘まみ取られた。

 そして、その行為に何の反応をしないことと、首筋に小さく刺さった毒針の存在が、女性の命がもう既に終わっていることを示している。

 

「…まあ、幾割かは研究用に採取して保管しておくとして速やかに死体は燃やした後で灰は洗剤で洗って遠い海上に流すしかないねぇ。接触した人間も一週間は消毒しながら隔離だよ」

「おい、俺は大丈夫だが俺よりも共にいる時間が長いそなた達から見てあいつは大丈夫か?」

「…本当に死にそうにしかならない時はちゃんと避けている動きは何度も見せているから心配ないよー…多分」

「おい、国王に部下」

 

 それからその死体から明らかになる事実から当然の対処策が打ち出されるが、それで生じた別の不安が自分へ向けられたことに影武者は顔をひきつらせた。

 

「…一人の助からぬ命への報われぬ慈悲を瞬時に悟り、それが周囲へ広がる闇となる前に自らの手を汚さずに誰にも知られずに終わらせ、その死も後世への糧としつつそれらで生じた後ろめたさも品がないのも含めた笑いで和らげ、そのやり取りでも差し支えなく意見を合わし合える友でもある臣下もいる…これであの者は必要な“非情さ”と“悪党さ”、そしてそれらへの致命的な躊躇いを防ぐ“漫才”の感性を持っておるのを見た。とりあえず懸念すべき点はまだ粗削りだが払しょくできたか…」

「…いやー、あのやり取り…そこまで深読みしなくてはいけない要素が本当にあったのかどうかが気になりますけがー…仮にそうだとしても今の父上の喋り方だと信憑性がー…」

 

 そのやり取りを斉王田建は重い表情ながら好意的に評価しているが、彼以上に秦王及びその影武者と親交が多い田共召は、父が東方弧状列島式亜(・)大(・)陸(・)のテンプレ泥棒みたいに髪だけを頭巾で隠していつも通り蛇の頭を唇から覗かせている姿なのもあってシュールさを覚えていた。

 

「ヒョッヒョッヒョ、本来ならここまで見送った時点でこの世から隠居するつもりじゃったが…まだまだ出来そうにないのう」

「え…蔡沢老師?」

「何じゃ? 秦に来た時はもう咸陽で顔を会わせた時でもう限界な様子じゃったがもうその気配は吹き飛んでそうじゃな」

「ヒョッヒョッヒョ、その時をこの地まで引き延ばすまでに色々効くという食材を医者の監修で食わせてもらいましたが…それが仕事をやり過ぎたようでここ最近は身に覚えていた冷たさと重さは船旅中に吹き飛びましたわ」

「え!? 何ですかその最近流行りの小説とかでしたらご都合主義だと非難が殺到しそうな展開!?」

「たわけ、普通は早死にするよりも長生きできる方が良いに決まっとろうが薄情馬鹿娘」

「……うぐ…」

 

 そうしたシュールさに蔡沢も加わってますます強まると、田共召はその真面目さから拒否感を覚えるが、父から出たまさかの正論に口籠る。

 

「そういうわけでとりあえず確認すべきものは確認した。いつまでも国を空けておくわけにはいかんからここまで来た以上は明日に到着すると連絡が来た斉の船に乗って帰るぞ。馬鹿娘、秦王に斉は当面貴国の軍事行動を黙認するとだけ伝えておけ。通商協定の方は他に文官共の方でやってくれていたからそれに隠す形でな」

「!? いやいや! 物語の原作の方で普通に良い終わり方だったのをいい考えだと思いついたと空想を捻じ込んで強引に引き延ばしたら収拾がつかなくなったのでさり気なくぶん投げて逃げようとしている素人作家みたいな感じでそんな大事な伝言を任されても―――!?」

 

 そのままの勢いで父から告げられた秦斉不可侵密約と帰国の宣言に、無茶ぶりを振られた娘は思わず突っ込みが復活するが、そこで久方ぶりに父から本気の重圧を感じた。

 

「共召、故に秦王がへし曲げられん様に支え手の一人にお前がなれ」

「―――お…え…!?」

「一統された中華で人が覚えるのが平和だけとは限らん。特に中華の外になるとな…その外の力であの男をへし折ろうとする分には斉に戻らねば防げぬものがある」

「……………」

「娘よ。お前は中華の内側のそれらの力にあの小僧がへし折られぬように支える一人になるがよい。なまじああして強すぎるものが一旦へし折られると立ち直った後が怖いぞ」

「……………」

 

 そう重くも優しい声音で語りかける父王の眼差しは、まるで今は見えないが確かに存在し対峙してきている脅威に対するもので東の海に向けられ、それを田共召は既に何を言っているのか答えに行きついている表情で同じく海上を不安げに見つめた。

 

 

 

 

 

 〇秦国北部 北涼地方 黒竜江 某水上〇

 

「…あー、海辺への滞在は短い日数だったが色々と濃かったー…」

「倭国から逃げて来たみたいな感じの大型船が流れてきたりー…」

「その救助に明け暮れていた最中に斉から大型船団が来て斉王の帰国出発をお見送りしないといけなくなったしー…」

 

 大型船が難破して大勢の難民が助けを求めて秦に流れ着き、斉王が娘に忠告してから記憶の途について数日後、帰り道に着いた秦王一行は黒竜江の水上を遡っている船団の一隻の甲板で大の字となっていた。

 船団の最上階甲板にてその大の字になっている面々は、秦王嬴政、同国大将軍白漂、同国唯一の港湾都市永明城の城主康熙の三人で、三人とも仕事の疲労でドッと身が崩れた中年オヤジオーラが全開である。

 

「…まあ、これでそれぞれの地元へ帰っても当分は家でも出張先でも机に張り付けられるばっかだがな…」

「おい、そんなこと言うなよ…」

「すみませーん。僕ー今後の地元と貴方がた中央のお偉いさん方の今後の付きあい云々の話し合いのために上京してる最中なんですがー、到着しても後回しになって待ちぼうけってのは無いですよねー?」

 

 そのオーラは三人の間で交わされる内容でますますどんよりとしていくが、その空気は意外な当人の意外な問いでしばし変わる。

 

「…じゃあ、今後のためにもいくつか聞くぞ。結論から確認する。お前たち…記憶にある限りだが…今(・)の(・)人(・)生(・)が(・)一(・)度(・)目(・)で(・)は(・)な(・)い(・)な?」

「……」

「…前やその前の生の世界での史書にあった観察眼はこの世界でも同じか…」

 

 嬴政の疲労が重くのしかかりつつも深く切り込んでくるその問いに、白漂はそれまでのグデーっとしたブラック企業サラリーマンの帰宅直後のような表情が消え去り、康熙は凪ぎに支配された湖面のように静かだが底を見せない瞳を浮かべた。

*1:
この場合は一パーセントくらいという意味




果たして、今回の最後で嬴政が言い放った問いの意味とはいったい!?(棒)
次回、今回は出せなかった大人向け要素が、あのMMD界隈でも人望を得た人気黒チャイナドレスお姉さん聖○(の同位体?)絡みで出てくる予定です。
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