※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回、北の地でも新たな動きが露わになってそれが各方面へ波紋を広げていきます。
それらに尺が取られて大人向けシーンは今回も無いです。


242 水流が繋げていく動揺●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 秦国北部*1突蕨郡 銅蕨県○

 

 リーライナが夜伽のお預けを受けてから十数日後、彼女も含めた白漂一行は色々な同行者も連れて彼女の地元に近づきつつあった。

 

「…合従軍終了直後に恭順を申し込まれて行った時に比べて賑やかになったなー」

「ふ、体裁はどうあれ娘の旦那が来ると聞けば見栄でも張りたくなるのが嫁実家の性分ってものだ。だが実態は立場上侍女の実家の方への今後の仕事のための挨拶回りだがな」

「あー介億殿、うちの人にも一(・)応(・)は体面というのがあるんだからそういう言い方は勘弁してください」

「いやさ紅華、一(・)応(・)って君が一番酷い言い方をしてるんだけどー…あ、もう見えてきた」

 

 一行の間はいつも通り白漂軍名物であるトップへの遠慮ないディスリ混じりジョークが飛び交っていたが、そうこうしている間に目的地の銅蕨城が見えてきた。

 

「ほほう、中々粋な歓迎を見せてくれるではないか」

 

 そして、たどり着いた外壁の城門の望楼には、この地への攻撃や潜入に破壊工作を目論むも失敗した、敵兵や間者の首を模した銅像が説明文付きの晒し首のような状態で飾られていた。

 

「ああ、お久しぶりです朔方侯、介億殿」

 

 門の前にはこの地の民族の首長で県丞*2である、リーライナの祖父が待っていた。

 

「ごきげんようヴェルゲ殿、大事がなさそうで何よりだ。それでは今のあの施設の様子を見に行きたい」

「もう準備は済ませております。さぁどうぞ…」

 

 そして、銅蕨県丞ヴェルゲの案内で白漂達はこの地で一番重要で、秦国においても重要なある施設へ案内される。

 

「…よーし! 冷えたから鋳型を剥がせー!」

「端に余計なのが付いているものは二番目工房に運べ―!」

 

 その施設は密度の濃い熱気と金属が焼かれて溶ける臭い、それらを扱う人々に満ちていた。

 

「うわ、すげえ熱気!」

「そりゃそうだろ、僕らも使うこ(・)れ(・)も扱ってるんだから」

 

 それに暑そうな顔を見せる信に対し、関係者故に何度も行き来していることからなれている表情で白漂は指でピンとあるものを上へ弾き上げた。

 その白漂が見せたものは、この秦の標準貨幣である“半両銭”であった。

 白漂達が訪れたこの施設は、大きな銅山がある銅蕨の地理を生かした、秦国造幣局の支部の一つであった。

 秦では白漂の入れ知恵で十進法を基本とした交換しやすい金銀による計数貨幣が大きく流通し始めて、国内外における経済的影響力を増している状態だが、それでも人口の大半を占める庶民の経済活動を支えるのは銅貨であり、故にその原資が採れる銅山は極めて重要である。

 

「…前よりもさらに品質が安定化して高いな。鋳型も鋼鉄製のものに変わってるし…」

「ええ、白漂様や江殊幡様の色々な技術支援で向上なさってますから…特に鋳型の方は江殊幡様の担当で製鉄技術が進んでいる重慶の協力もあってすごく進んでいまして…」

「…うげ、あの薄金髪が…む」

 

 その通貨の意味と価値の向上や関係者の名に白漂は複雑な表情を浮かべるが、そこで訛りからして秦国内のものではない商人の姿も多数発見する。

 

「今は秦のあちこちもだが、ここも増えているな外人の姿が譜孝」

「そうよー藍蘭姉さん、今じゃー秦の銭は品質良し、数も多く流れ続けるで外国や中華の外でも使われていますもの。商売自体は犯罪が露見しない限りは何処でも許されるのが合法である以上はそれを扱っている場所は間者じゃなくても行って稼ぎに加わりたくなるのが普通ってもんでしょ。管理している側は大変だけどねー」

 

 それは秦の景気の良さの一端であると言えるが、その表裏にまつわる仕事を多くさばいている面子は肩をぽきぽきと鳴らしていた。

 

「…この手当はしっかり貰わんとなー…」

「ええー、そうですわねー…もう今の内から子供のお見合いを求めてくる方も増えてますからー。子供は大いに越したことはないしー、何より子供自体…特に女の子は可愛いしー♪」

「!?」

 

 それで藍蘭と譜孝が楽しそうにぼやいた言葉に、白漂は娘を持つ父親なら普通持つ危機感を大いに搔き立てられた。

 

「ふふふ、漂よそなたと彼女達の娘とあらばさぞや器量良き美女になるだろう。こちらと息子共との見合いの日…楽しみにしているぞ」

「!!??」

 

 そして、軍師学校時代の師の待ち遠しそうなその言葉に、内部で何かがピシッと静かにだが大きくヒビを浮かばせた。

 

「…あ! そういえばさーあの取り締まって斬首にした敵を模した頭部のみ銅像だけどー…洒落ているけどなんだか多くない? なんかさー近くにそういったのを多く出せる敵の拠点があるんじゃない? この地の重要性を考えるとあまりほうっておくわけにはいかないというかー…それに今は内政期間と言ってもあまり小規模な戦ばかりしているといざ大戦ってときに慣れてないから対応が素早くできなくなる新兵同然ばかりになるしー…」

 

 故に、白漂は個人的に必死な話題逸らしという面があったが、いつもの洞察力と解析力で僅かな物品から広範囲かつ深く今現在のこの地の危うさを感じ取る。

 

「…ふ! さすが我が君が江殊幡と共に見出した若き傑物! この地への視察に隠された真の目的を見抜くとは…故に! 既にそなたへの新たな任務は既に咸陽から戴いてある!」

「…え!?」

 

 故に、それは白漂にとってまた新たな藪蛇を介億から引き出すこととなってしまった。

 

 

 

 

 

 〇秦国中北部 朔方郡 朔方城 大広場〇

 

「…む、何か今日はやけに多いなー…」

「あ、咸陽からの高官もおられるぞー…」

「他にも古参や新入り問わず、ここ北が中心だが他所からのも含めて財界の有力者も多いしー…」

 

 銅蕨での藪蛇から十数日後、秦の中北部・北部の中心地となっている朔方城の一角にて大きな舞台が用意され、その前にこの地の有力者たちが集まっていた。

 

「各々静まれー! 朔方侯の御登壇であーる!!」

「「「「「!!!!!!」」」」」

 

 そして、その号令で大広間に集う人々のざわめきは数秒で止まり、代わりに人々は意識を壇上へ姿を現した白漂達に集中させる。

 

「…各々方、今日も国を富ませ支えるための営みの間であるにもかかわらず、今日はよくぞわざわざここまで来てくれてありがとう」

「「「「「………………」」」」」

「知っての通り、嘗てこの地も含めて秦の北部…否、中華の北部は長きに渡る無知と誤解に奸智、それが齎す流血で騒乱が絶え間ない状態だった。それが今や言葉、習俗、人種を越えて生を営み合う豊穣の地となっているのはここに集う人々も含めた北に住まう全ての人々の尽力と協力の賜物なのは明白。たとえ史に一人一人の名が記されることはなくても、この地の豊穣はいかなる出来の悪い歴史家でも隠すことも否定することも出来ない百年にわたる証となる」

 

 そして、白漂が語りかける広場の隅まで響き渡る声量と人々の日常会話とさして変わらない言葉遣い、内容は深くとも聞き取りやすいそれは人々の心に深く染み渡っていく。

 

「…ならば、それを五百年、千年にわたる証にもできることは可能なはずだ」

「…え? どういう意味だ?」

「あ、なんかでかくて細かく書かれた地図が出てきたぞ!」

 

 故に、白漂の口から出た言葉の続きと彼の背後の壁へ垂れ幕状に大きく広げられた地図は、人々の戸惑いと興味を強めさせる。

 

「…勤勉且つ聡明で耳の速い秦国民なら知っての通り、ここから南にある南部で黄河と長江を結ぶ繋恵渠が開通し、今まで遠さゆえに分けられていた河北*3と江南*4が真の意味で結びつけられ、僕たち秦に住まう全ての人間に新たな力強さと富を広げていっている…」

「…え? 何であの話をここでするんだ…?」

「こ、この流れ…まさかあの噂は…!?」

 

 そして、その戸惑いは強まっていくが一部の聡く鋭い人間から更なる興味とそれに引きずられた高揚も引き出していく。

 

「…これまでは一部の人間で勝手に南蛮などと呼ばれていたかの地でも出来るなら、この北の大地でも出来るはずだ…」

 

 それらの空気を感じ取りながら、白漂は地図に近づくとある一点をバンっと広場中に響く音を出すまでに叩いて大きく息を吸い、次に大きく吐きだした。

 

「故に!! 我が大秦国はここ広大なる北の地を貫き繋げる新たな大血脈となる!! 黄河と黒竜江を繋げる第二の大運河建設の開始をここに宣言する!!」

「「「「「!!!!!!!!?????」」」」」

 

 白漂がその地図の一点である荒間を強調しながら、大広場中のみならず城内中に響き渡るまでの声量と気勢で言い放ったその宣言は、城内に集う群衆を過去最大の高揚へ打ち上げた。

 そして、広場に集う群衆に混じる間者達によって、この秦の新たな大国家事業は瞬く間に各国へ震撼と共に伝えられた。

 

 

 

 

 

 〇中華中央部 韓国 王都新鄭〇

 

 秦による北部大運河事業開始の公式発表は、その同盟国であるこの国へも即座に届けられ、翌日にて早くも朝廷は臨時閣僚会議を開いていた。

 

「ええい! 業腹だが秦の隆盛に食いついて増えていた流民や失業者も上手く消化できた所でこんなのをぶち上げるとは!」

「だが、どういうつもりだ? 今まで農業用水路と称して今まで隠そうとしていたのをここで大きく曝け出すとは…?」

 

 経済政策と情報活動で七雄最弱ながら生き残ってきた韓の中枢は、その事業の成功した場合の危険性とそれゆえの今回の発表に多くは動揺と困惑を示していたが、一部は冷静にその先を見通して動き出した。

 

「…動きからしてもう他国も真の目的に気付き始めたかそう遠くない内に気付くから、下手に隠して少しずつしか進められん状況よりも、公表して一気且つ大規模に進められる状況にし、それに釣られて出てきた連中も完成後の大攻勢の前のついでに掃除できるだけ掃除するつもりだろう」

「!?」

「冬史将軍!」

 

 その一人が進み出て口を開くと、続々と先を読める者達は閣議の主導的地位を先取りしていく。

 

「その通りだ。その江南と繋がったこの中華をさらに北狄まで水運で繋げるという秦の大事業は、経済だ(・)け(・)を見れば中原中央に位置するのを生かした商工業で生きる我が国にとって大いなる益だ」

「おお! 張宰相!」

「ですが、その恩恵を最も受ける秦のさらなる軍拡を思えば、いかに今は同盟国とはいえ我が国を含めた各国にとって喜んでばかりはおられません」

「…うぐ、“韓三将星”筆頭…洛亜完将軍…」

 

 彼らの言動は場を目まぐるしく一喜一憂させていき、故に会議の主導権はより彼らへ集まっていった。

 

「ですが、問題なのはそれに最も脅威を感じるはずゆえに妨害する上で最も重要な位置にあるかの国が、かの三大天不在状況で王も国外と自分の死後の事には全く興味を抱いていないということです。東隣りの燕国は距離があって且つ太子を人質として送ることが決まって秦との同盟最強化が進んでいます」

「うぐ…ヨコヨコ殿…」

「で、では魏や楚と組んで我々が阻止に…」

「無茶を言うな。什虎という要地の譲渡込みで同盟を結んだ後の身でそれを表立ってしたらこちらが先に攻撃される口実を作る。何より、先の什虎戦で魏楚いずれとも関係を当面はこちらからでは回復出来ぬまで冷え込んでいるからな」

「だ、だったら張宰相! どうすれば―…」

 

 そして、主導権が偏るにつれて芳しくない状況も明らかにされていき、それに対する反発も出たところで、これまで口を閉ざしていた人物が動き出す。

 

「…うむ、我らは我らのやり方でその事業に加わって利益を得つつ秦(・)の(・)足(・)枷(・)へなるように誘導するほかあるまい…」

「「「「「????」」」」」

「…? 足枷に…?」

「左様です寧公主、皮肉ですが我が韓の国民性が生かされますな」

 

 その現韓王安の難しそうな顔を添えた言葉に、実の娘である韓寧を含めた周囲の大半は困惑するが、張氏を含め一部からは得体の知れない空気が流れだした。

 

 

 

 

 

 ○趙国北部 宜安○

 

 韓の朝廷で不穏な動きが出始めてから数日後、秦が始めた北部大運河事業公表は、その矢面に最も立たされている趙北部を浮足立たせ、その現在の中心である宜安は大きく荒れていた。

 

「おのれぇ秦め! 節操なし共を大勢集めて調子に乗りよってぇ!」

「李牧様達が戻れん内に差を更に広げるつもりだぞ!」

「匈奴共も続々と秦に恭順していっておるし…」

「それなのに今の王は中央軍を動かさんとの一点張りだ!」

「郭開が邯鄲に戻れなくても今は王の御機嫌取りばかりする江姫の一族が幅を利かせておるし…!」

 

 だが、怒りや危機感は強まっていてもそれを行動に載せるための力が色々な意味で足りないことも知っていることが焦りを強めさせてもいた。

 

「だったら我々だけでもその運河計画を阻止せねば!」

「ああ、今の王もこちらだけで動くなら構わんとくらいは言っているし…」

「馬鹿を言うな! 李牧様がいない以上は纏めきれる将がいないぞ!」

「それに太行山脈方面を攻略し終えつつある王翦軍はどうする!? 白漂に傾注すれば奴が我らの脇を狙ってくるぞ!」

「さらに、国境近くの元は北狄起源の城邑も不穏な動きを見せるところが増えつつあるし…」

「だったらどうしろとー…!?」

 

 取りまとめ役やその補佐役がいない会議は怒気と焦りを強めるだけで、生産性のかけらもなかった。

 その様子を別の望楼より墨字意匠の者達は各々の表情で盗み見ていた。

 

「…連中、はっきり言ってもう終わりが見え始めましたな。あれでは完(・)が戻ってもさして変わりそうにないかと…」

「いや、あ奴も最近はなんだか調子が色々とおかしくなっているとのことだ」

「ああ、とっくの昔に死んだ初(・)め(・)て(・)の(・)女(・)の忘れ形見が見つかったかもしれんという話かー…」

 

 そのものたちの一人が本をパラパラと開いて人相書きの章を眺めるが、その一枚に載っているある女性に周囲も視線を向け始める。

 

「ああ、例の娘か…」

「趙…とくに北部は隠しているが李牧を大敗させたこともあるという…」

「秦への手土産に極北の地だが海岸地帯を持ってきて高く自分達を売り込んだという女だな…」

 

 その墨字意匠の者達が見やる人相書きの章の今現在開かれているページには、康熙の人相と大まかな経歴が記されていた。

 

「…まあ、その辺の話はこれからより詳しく調べていくとして、いつも通り連中にも色々吹き込んでいくことにしよう」

「ああ、お互い韓に籍を置いている同胞、韓待機組と秦向け出稼ぎ組のどちらからも色々面白い話を聞けたからなー。まあ、向こうがわざと流しているものもあるが…」

 

 そして、まだ別のページには、距離的にこの時代の技術レベルではまだ届かないはずの、数日前に韓の朝廷で話されていたものも含めた情報が何故か記されていた。

*1:
秦の北の国境が伸びて更にその東の(現実の中国東北部がこの世界では島嶼化しているのもあるが)海岸部まで伸びたのでこの表記に変更

*2:
秦漢時代における郡県制で県の方の責任者である県令の補佐役

*3:
黄河の北側という意味

*4:
長江の南側という意味




次回、今回にて公表された北での大運河工事の各方面への及ぼしていく影響の続きや、それに伴って最近にて強く取り上げられているあの新キャラとの距離が一気に縮まっていく場面が出る予定です。
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