それらに尺がとられて今回の大人向けシーンは非常に薄めで、そうすると切りが良さそうだったので話も普段と比べて短めに感じられるかもしれません。
○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後2日目夜 中華南部 楚国北部 王都郢(旧名寿春) 秦国用迎賓館○
王元姫が秦側迎賓館にそこの侍女に変装して贈り物や足を冷やせる水桶などアリバイも準備して、初めて白漂と間近で対面したその姿は、寝間着姿で十星戟を大きく振りかぶっているというものだった。
(…え!? 何故このような…!? あ…間に合わな―――!?)
「ぎゃああ!?」
「―――あ…え!?」
それに王元姫は困惑と驚きを浮かべつつ、戦場にも立つ経験と戦技からそれをあらがえない死と確信して身が固まった直後、そのすぐ背後から骨肉がひしゃげる音と鼓膜を引き裂きそうな悲鳴が鳴り響いた。
「ぎゃあああああああああ!?」
「…ふう、なんか怪しい気配がしたからすぐ飛び出したけど…大丈夫? 何か今さっき肩を叩き潰した方の怪しさ全開な侍女は君を狙っていたようだけど…?」
「……え? え? ええ?」
気づけば自身のすぐ背後に肩を酷く歪めてしまって血を流してのたうち回っている侍女とその手から離れたと思わしい短剣があり、その戦場でもそうそう見る気のしない感じをさせる光景をなしたらしい白漂の心配げな問いに、王元姫は死の気配から離れられた安堵もあって戸惑いばかりが生じる。
「…おい漂! 今晩さっそく刺客が出たと聞いたが大丈夫か…!?」
そこで昌文君がどたどたとその場に駆け付けるが、その現場を見た瞬間にその渋い顔は絶句を浮かべてしまう。
「あ、大丈夫。今さっき最後の一人を無力化したからー…っ?」
それに気づく前に白標はいつもと同じ態度で簡単に説明しようとするが、そこで突風が吹いて寝巻が大きく揺らめいてしまう。
「……え…え!?」
そうなれば寝巻の下も大きく揺らめき、ついさっきまでナクタと交わっていた名残で、淫液で濡れていてまだ十分に張っていた男根も露になり、間近でそれを偶々見せつけられてしまった王元姫は急速に顔を茹蛸みたいに赤くしてパタリと倒れた。
○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後3日目朝 中華南部 楚国北部 王都郢(旧名寿春) 秦国用迎賓館○
「…此度は本当に愚孫が助けられまして…」
「…いいえ、同盟国として当然のことをしたまでで…」
翌朝、韓側迎賓館より直々にお礼に来た張氏に秦側は正門前まで出向いて昌平君が直々に応対していた。
「…おい、本当にあの娘には
「だから出してないって! そもそも昨日に初めて会ったばかりだし! 刺客対処でそんな時間なかったし!」
それを迎賓館の上階よりカーテン越しに見守りつつ、昌文君と白標は揉めていた。
昨晩、王元姫の背後で重傷を負わされて生け捕りにされた侍女は、どうやら韓側の要人を狙って他勢力より送られてきた刺客であるらしかった。
秦側に見せて今回来楚している韓の要人を消して両国の同盟を破綻させる目的で、そこで王元姫が単独で動いているのを見て好機と思って暗殺しようとしたものの、その気配と殺気に気付いた白標によって生け捕りにされたのであった。
ちなみに、その後に白標の痴態を見たショックで気絶して昨晩秦側に保護された王元姫は、向こうへサプライズ的に贈り物をしに行ったところで保護されたという体裁に両国間で書き変えられた。
「…まあ、昨日の晩の騒ぎとかは置いといて…あの子がー…」
「はい、昨今の秦韓関係強化の方策として両国貴族間婚姻政策の一環として、楚王へのお見舞いが済んだ後は不幸にも貴方の第十一夫人として来秦する予定の王元姫殿です」
「…なんか旦那を他で酷使し続けて他に気が向けない間にその話を進めていた仲人兼正室とは思えない単語が混じってる気がするけど…何というか、思ったより普通な子だな…背丈は…」
カーテンの隙間より見える王元姫は西方白人系人種の美貌という特徴は見えるが、そうした人種的特徴は今の秦では珍しくなく、むしろ今の自分の閨の女性たちの平均身長に比べて常識的な160センチである彼女に白標は珍しいものを見る眼差しを向けた(ただし、この時代の男性の平均身長が160センチほどなのを考えれば、他の一般女性に比べれば高いことに変わりはない)。
「…まー背丈の方はホノカちゃんみたいに普通くらいの子が珍しいのが白家ですがその辺は今どうでもいいとして…まー、秦韓同盟の裏の立役者である以上は貴方も今回のはその責任を取るという形でもあるわけですがー…」
「本音は友好にかこつけて今の秦で一番の金蔵になっている北涼の利権に食い込み、利益を増やしながら容易に滅ぼされないように色々工作するための拠点をつくる一環なのだろうなぁ…君もよくそんな話を進められたね紅華」
「当分は韓を通る道を穏便に使いやすくした方が、頼りになりますが色々と費用が掛かる貴方とその軍を支えるのは有効ですので」
「…まあ、知っているところで急に断れる話でもないし、今の楚国滞在中の内からこっちが有利な関係になるように勧めておこうか。色々大変な行事や仕事が目白押しだけど…」
愛する妻の絶対決定権が行使されてほぼ確定した新たな嫁入りとその背景に、白標は表情を引きつらせていた。
○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後3日目昼 中華南部 楚国北部 王都郢(旧名寿春) 大通り○
「…それで次の予定はー…同じく来楚中の趙国のあの爺さんへの挨拶か…無事且つ普通に着けるといいけどなー…」
「おー、あれがあの白起の孫か…」
「あいつの一族のせいで父が…」
王元姫の嫁入りやその裏側のお話を聞いてから数時間後、白標一行は郢の大通りを進んで周囲の観衆より好奇や怨嗟など多くの視線を招いていたが、これから行く先にいる対面予定の人物の方が彼ら、どちらかというと白標の胃を痛めていた。
「…あれが、あの春申君の合従軍を撤退に追い込んだ最後の一突きをなしたという…」
「李か…失礼、環様、もう早くお帰りになりましょう。今回の各国からのお見舞い使節の大量訪問の件でこの都は異国人は多くなって珍しくなくなっていますから、それに乗じて不穏な輩が多数紛れ込んでいるようで…!?」
その彼らを見物している観衆の中に、フードで身を隠してはいるが美しいもののどこか儚げな感じのする妙齢の女性がお付きのものを伴った状態でいたが、まさにそのお付きが口にしている危惧がちょうど悪く現実のものになってしまう。
「秦の悪鬼め! 父ちゃんの仇だ!」
彼女らの隣より子供が投石器で小石程度の大きさだが怪しい煙を吹かせている何かを白標に向けて投げつけてきたのだ。
「む?」
速度や質量自体は大したことはないのを見抜く白標だが、その煙から危険さを感じて飛んできたそれを鞘で即座に宙へ打ち返したものの、それは群衆の頭上で爆発を起こした。
「うわあああああ!?」
「きゃあああああ!?」
「な、なんだぁ!?」
(あれは火薬式の!? 他に手に入れているものが…!?)
当然、爆発という事態など自然ではないのが大半を占める観衆たちは恐慌状態になり、白標もその現象でただならぬ背景を感じ取るが、事態はそこで終わろうとはしなかった。
「ちい! これだからガキは!」
「まあいい! 今のうちに白起の孫をやるぞ!」
「死ねぇ! 白凶ぅ!」
「什虎で死んだ父の仇ぃ!」
祖父で楚にも多大な敗戦を齎してきた白起への恨みも込め、白標に恨みを抱く者たちが潜んでいた群衆の中より飛び出てきて襲い掛かりだしたのだ。
「…はあ、楚はでかいわりに多民族過ぎ制度古すぎで統制が取れてないところが多いけど…まさか王のひざ元でここまでするとは…皆! 証言や裏取りも必要だから動けない程度の半殺しになるべく済ませるんだ!」
「おうよぉ!」
「了解」
「ぐべらぁ!?」
「ひでぶ!?」
だが、今回の来楚のために精鋭ばかり集めておいた白標一行相手にはあまりにも無謀過ぎ、次々と死なない程度で返り討ちにされていく。
「死ねぇ! 白起の孫ぉ―――!?」
最後の一人が何とか白標の真後ろに接近して斧をその後頭部へ振り下ろそうとしたものの、白標本人には見向きもされず、他所から飛んできた中華のものには見えない特徴も混じる長刀に両腕を貫かれてその慣性で適当な壁へ貼り付けにされてしまう。
「―――おぉぎゃああああああ!?」
「いっでえええ!?」
「おかあちゃあああああん!?」
「…まったく、久々に貴様らと顔を会わせられると聞いたから早船に乗ってきたが、相変わらず騒乱に事欠かん連中だな」
「「「「「!!!??」」」」」
刺客や復讐者が無力化されても血が流れているその場に、それを視認しつつも意に介さない様子で新たで且つ異質の大きな気配がその場に現れた。
「ぐ…ぎぃ!?」
「…久しぶりだね。僕もあの頃の僕には想像できないくらいに出世したつもりだけど…君もこの国でよくそこまで身を上げたものだね…」
白標が適当な刺客の頭を踏み台みたいに踏みつけて押さえつけながら対峙したその気配の持ち主は、漆黒基調の長躯に張り付くような鎧越しにわかる猛々しくも妖艶さも調和したような曲線美から女性なのはわかるが、この場に流れている血よりも濃くも鮮やかな赤色で流れるような長髪とそれと同色の鋭い瞳で怜悧な面貌を浮かべている女性であった。
「…とりあえずー、さっきので怪我人がこいつらだけじゃなく観衆の方にも、特に軽く見れない人もいるからこの場の収容を手伝ってくれない?」
その女性と距離を白標は詰めていってその名をついに口にする。
「楚の海上水軍総司令にして第四将、紅剡さん」
「「「「「!!!!????」」」」」
「…ふん」
「ぐえぇ!?」
そうして明らかになった女性の正体に周囲は所属問わず驚いて息を飲み、それで注がれる視線を羋紅剡は鼻で軽く笑いながら先ほど豪速で投げ飛ばした刀を刺客の腕より抜き取った。
「…しかし今の儂の屋敷に来るまでの短い間だけでそんな騒ぎを引き寄せるとは、平時でなくても儂を笑わせてくれるのう白標」
騒ぎより数分後、白標一行は本日の目的地に到着してそこを借り家としている廉頗一行の常人には威圧感そのものと言っていい存在感を隠さない歓迎を受けていた。
「…うわー、お久しぶりです廉頗将軍…相変わらずさっさと引退してほしいのにその気配が全然ねーって気が掻き立てられるご健在ぶりで…」
「ぬあっはっはっは! 儂を真正面にしてそんな嫌そう面倒くさそうな顔を臆さずに出すなど白起とは別に太い肝じゃ! さー楚でしか食えん馳走も用意しておるから今日中には帰らさんぞ!」
「それはありがたいですけど落ち着いて治療に移れる場所はありません? さっきの騒ぎで見物客の集団転倒に巻き込まれて今すぐに本格的な治療を始めないとまずそうな人がいるものでー。それでー亡命の後輩の方もその安全のためにも居る間はなるべく顔合わせしないようにしてくださるとー…」
出会いがしらから大笑いし続ける廉頗に対し、白標は普段の軽い口調のままだが瞳には怜悧且つ重い光を宿して、先ほどの刺客騒ぎに巻き込まれて軽くない怪我を負ったフードの美女とそのお付きを通した。
「…ほう、相変わらず男だけでなく女でも軽く見れん出会いに事欠かん男じゃのお。安心せい、北趙組の連中は今なら楚王の見舞いのために来ておる趙太子と共に楚の王宮へ移されておる」
「よし、了解が出たからさっそく入って手術だね。扁鵲、壄瑮、ナイチンゲール、すぐに始めて」
「外傷は少ないが内側で重くなっているからすぐに取り掛かるぞ」
「面倒だけど断ったらもっと面倒だからやるしかないねー」
「全力を尽くします!」
「…うう…環様ー! お気を確かに! 兄君や
それの背景にある軽くない事情及び、彼女たちの正体に心当たりがあるのか廉頗は即座に重い表情へ切り替えて即座に通し、白標一行の医療チームに付き添われて怪我をした美女とそのお付きは速やかに彼の屋敷へ入った。
果たして、今回登場した環という子は、何処の誰の妹なのでしょうか?
次回は、その子の治療の様子も一部交えつつ、主に廉頗一行と白標一行の交流の様子が中心になります。