※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回、原作には描写がなかったあの王様の意外な一面(という名の筆者の妄想)が中心になります。
それらに尺がとられて大人向けシーンは(普段の平均に比べて)薄目です。


255 酒が促す吐露

 ○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後21日目早朝 中華南部 楚国北部 王都郢(旧名寿春) 秦国用迎賓館 医療棟○

 

「…あれだけ搾り取られた後でも…朝にはしっかりと起きられて立ち上がれる我が身が怖い…」

「…いやぁ、あの子達が旦那の相手をあれだけ大勢でしている理由が分かったよ…。一人で相手していたら気が狂うか壊れちまいますよ…」

 

 楚の王宮で起きた火災とそれでの無茶な救助作業、それへの制裁(?)が行われた晩が明けた翌朝、白漂は少しフラフラとした足取りでの全裸で出て、それを心配そうに雨雀は着崩れた寝間着姿で付いてきた。

 

「…そういえば昨日は急すぎて且つ激しすぎて失念しちゃいましたけど…あの韓のお嬢さんは大丈夫ですかい? それにまだ側室の予定とはいっても自分よりも先にあたしみたいな女が自分よりも早く子を宿したなんて知ったらー…」

「あー、その辺なら大丈夫。韓人というだけあってあの子はもう僕の閨を知っているみたいだ。まあ、常識的な子だから他所の悪評も混じってるだろうとま(・)だ(・)話半分程度にしか信じてないようだけど…。それと昨日の救助作業を見た時に何故かぶっ倒れたって…」

「いやぁ…あたしは現場にいたわけじゃないですけど…聞いてる限り…そんな無茶すぎる助け方をしたら…ついてけない子が一人くらい出そうなー…それでも昨晩にあれだけ種蒔きされてて今日は大丈夫なんですか? 確かその王様に呼ばれるかもしれないんじゃー…」

「心配しなくてもいい。紅華達も一応はこっちの体力のあれとかは計算してくれてるよ。例えば―――」

「死ねぇ! 白漂ぉ…!?」

 

 そのままの状態で二人は縁側で会話するが、そんな時でも刺客は隙ありと見てその辺を歩いていた朝担当の使用人に変装していた状態から匕首を抜きだして襲い掛かってくる。

 

「―――あってこんなくらいは動ける分は残してくれてる」

「おぶぅ!?」

 

 それを白漂は振り向きもせずに紙一重の差で交わし、その勢いのまま足を引っかけて刺客の身の向きを変えさせ、その後頭部から中庭にある奇岩に勢いよくぶち当たらせて気絶させた。

 

「…これならあの子達が今も安眠しているのが納得だねぇ…」

「こっちも安眠出来てるよ。本当に起きるべき時にはあの子達が率先して守ってくれてるから」

「…んん❤️」

「すぅ…❤️」

 

 そうして泡を吹いて倒れた刺客などもう興味をなくした様子で、雨雀と白漂は昨晩の閨の場であった病室を肌色に染めている仲間達の静かな寝息を立てている姿に安心と信頼を向けていた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後21日目昼 中華南部 楚国北部 王都郢(旧名寿春) 王宮○

 

「…秦国白漂、ご拝謁に来ました」

「うむ、昨晩の火災での奮迅、大儀であった」

 

 早朝でのやり取りから数時間後、食事と再度の睡眠に風呂で昨晩のブラック労働(?)の疲れを表向きは吹き飛ばした白漂は、楚王にそのお礼で呼ばれて謁見の間に来ていた。

 

「…おい漂よ、事前に説明した通り本当に失礼なことはするでないぞ」

「…いや、それを言うなら秦楚の間のこれまでって失礼なんて言葉も足りないやり取りが多い気がー…懐王の話とかー…あ、また次の問いが来そうだ…」

 

 その白漂の付き添いには彼が問題行動を起こさないようにとの配慮で昌文君も同行していた。

 そんな実弟の小言を介さぬ様子で、楚王は白漂に興味を深めている表情を向けており、そのことは問いかけにも表れている。

 

「昨晩のあの火災、そなたらの尽力がなければ拡大して郢の被害が増していただろう。それを塞いだそなたの仁愛深き行動力と対応力、他に仇敵であっても救う度量…それを客人として受け入れた我ら楚人も誇らしい」

「そのようなたいそうなことではございません。それに、あの時は救助活動を最優先して対象の身元に気を払う余裕がなかっただけでございます…」

「そのような謙遜をせずともよい。故に聞こう…此度の褒美、そなたは何を望む?」

「「「「「…………………」」」」」

 

 故に、楚王のその問いに周囲は所属問わず意識を集中させていく。

 それに対し、白漂は一呼吸の間こそ起きつつも事前に決めていたように、一つの問いを淀みなく上奏する。

 

「…それでは大王様、近日にお暇が出来れば町へ飲みに出かけませんか?」

「「「「「…………????」」」」」

 

 その問い掛けの、意味こそ分かるがどうしてこの場でそれが出るのかという困惑で周囲は戸惑いで騒めきだした。

 

「…おい漂! この場で何を考えて何を口走ってお―――!?」

「貴様ぁ! 何のつもりだ!? まさか懐王の時と同じ企みをしておるのではあるまいなぁ!?」

「―――おぉぅ!?」

 

 数秒の沈黙を経てその発言に含まれる危険性に気付いた昌文君が場に関わらず声を荒げようとするも、そこで楚側の重臣の一人が怒声を上げ、それを契機に周囲の大半から白漂へ険しい視線の雨を注ぎ始める。

 下手をすれば白漂に賜死が下されかねない流れとなっている。

 それを遮ったのは意外過ぎる人物であった。

 

「春申君よ」

「はっ」

「たしか近日の内に余裕があったのは…今宵であったな」

「その通りですが…まさか…」

「「「「「…………え!?」」」」」

 

 楚側にとって前例付きで危険すぎるその問い掛けに前向きそうな楚王と、それに少し戸惑いの色を浮かべつつも反対してなさそうな感じな春申君の様子に、楚の廷臣達の多くがあんぐりとしだした。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後21日目夕刻 中華東部 斉国 王都臨淄 王宮○

 

 こ(・)の(・)時(・)の斉国は黄河の河口部が存在することからくる農地の豊かさ、それを更に推し進められる農具などの原料にもなる鉄を始めとした豊かな鉱物資源を生かした工業、国土の東側が大きく海に囲まれていることからくる海産物と中華外東側と中原を繋ぐ交易による富で、面積こそ中華では中堅程度だが大国並みの経済力を持つ“東方の盛国”として名高かった。

 

「ほほう、楚の都で白漂が火災より李牧を救ったか。秦趙どちらも大騒ぎとなっておろうな」

 

 その中心として大きく栄える大都市臨淄にふさわしい荘厳な王宮にて、斉王田建は楚に入り込んでいる自国の間者からの報告に面白そうに喉を鳴らしていた。

 

「…李牧を嫌う趙王らと今は地方を視察名目で左遷中の宰相郭開らはここぞとばかりに李牧に対する疑念を憚りなく噴出させているようで…」

「市井にも広がって趙北部を更に動揺させるのももうじきの話でしょうな」

 

 斉王と廷臣達も興味深そうに頬を緩ませており、そこにも人の死が太平の世と違って身近である戦国の死生観が現れている。利害が伴わなければ感情論として所詮、自分や身内に及ばなければ他人に何が起きようと他人事なのだ。

 故に、それが我が身となれば人々の反応は一変するものである。

 

「…う…ぐぅ!? む…胸が…!?」

「!? 大王様!?」

 

 その習いが今の自分達に起きようとしたその時、斉の中枢の空気は一変しだした。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年)秦国使節団到着後21日目夜 中華南部 楚国北部 王都郢(旧名寿春) 歓楽街○

 

「…あ、肯様ー、焼き鳥はあっちの塩焼きのがおすすめですよー」

「おおー、あんな店があったかー…っ…なんか地元の儂ではなく客人のお前さんがやけに詳しいのが微妙じゃのう…」

 

 斉国で史実には載っていない出来事で波乱が起きようとしてから数時間後、白漂と肯*1という偽名を用いて変装中の楚王は、ほとんどその辺にいる夜遊び中のおじと甥っ子という感じで郢の夜を出歩いていた。

 

「…あ、あ奴め今度はどういうつもりじゃ…?」

「大お…肯様にあのような顔をさせるとは…何だあの小僧は…?」

 

 当然、その周囲は市井のものに変装した秦楚両方の護衛が民間人に紛れる形で固めており、昌文君と春申君もその中で困惑と緊張を隠しきれない表情で混じっていた。

 

「…それでの~、本当にお前さんの普段住んでる秦から楚に帰る時はだね~…」

「あー、確かにあの国って旅人とかの扱いは他所に比べてお固すぎる感じがありますよねー」

「お、おい…あの御姿…本当に我らの王か…?」

 

 しまいには適当な居酒屋に入って愚痴を言い合う状態にまでなっており、普段の二人を知る周囲の関係者、特に楚側は我が目を疑っている表情になっている。

 

「失礼しまーす。鯖の倭酒煮込みの羹をお持ちしましたー」

「あ、お姉さんこっちでーす」

「「「「「……え??」」」」」

 

 そして、その場にいかにも居酒屋の娘という格好で紅剡が酒とその御摘みを持って現れたのも周囲のその困惑を加速させていく。

 

「…ちょ…何でうちの今の上司がこの場にあんな格好で出てるんだよ!?」

「おお俺に聞かれても知るか…もがぁ!?」

「おまえらはもう物陰に引っ込んでろ!」

 

 特に楚側の護衛として周囲に紛れている項翼と白麗は声を抑えきれず、周囲の同僚によって必死に抑え込まれる。

 

「…いやー、ここまで似合わない意味で目立つ居酒屋娘というのも珍しい」

「何だ漂? こういう時に女の顔を立てる言い分も言えないくせしてよくあれだけ出来た女たちのヒモをやれてるな」

「ちょっとぉ信長さ…じゃなくて紅剡さ…紅さん! 半(・)分(・)事(・)実(・)だからってそれは言っちゃだめですよぉ!」

 

 一方の白漂と紅剡は互いの正体なんぞ知ってる様子だが遠慮ないやり取りをし、周囲、特に店側の厨房で忙しく働いている水色の真面目そうな女性が悲鳴同然の声で注意をするが、動揺のあまりに失礼な内容が混じっていた。

 

「…いや…半分ヒモって言うかぁ…」

「もうほとんど家中では尻の下に代わる代わるで…」

「ここまで届いてたのかぁ…」

「え、ええーーーー?」

 

 だが、秦側の護衛の何割かは紅剡達の言い分に反発というよりかはむしろ消極的だが反発しづらいという感じの同調を見せ、それが楚側の戸惑いを引き付けてしまっていた。

 

「…本当に似合わんの馬鹿娘~、おい漂くん、いっそ秦から楚に移ってこの馬鹿娘の嫁の貰い手になってくれんかね? 君みたいに外ではできるけど内では世話を焼かせる男の嫁になったらこいつもその世話に追われて少しは外側は大人しくなるだろ~」

「ちょっと肯様~、僕だってもう秦に妻子が大勢いるんだから勘弁してくださいよー。というかそんな誘いに乗るような甲斐性無しだったらそんな誘い掛けたりしないでしょー」

「おい」

 

 そんな状況でも親子以上の年齢差を持つ男二人は、色々な意味で男勝りな女性一人を加えて酔いも話も深めていく。

 

「…でもなあ、本当に君は誰とでも打ち明けて遠慮なく言うべきことも言いたいように、聞きたいことも相手が話したいように聞けるのがうまいよねー」

「そういう肯様はー家の中でもずっと身内に気を使って却って身内にも気を使わせてお互い疲れてるって顔をいつも浮かべてますけどねー…」

「…っ!」

「「「「「!?」」」」」

 

 それに不穏な色を浮かばせたのは白漂の軽い口調で放たれた人間関係に触れるその言葉で、そこで初めて楚王は不機嫌そうな顔色を浮かべてガンっと勢いよく杯を振り下ろし、周囲の緊張を招く。

 

「…漂くん、君のその相手を細かく見る眼と見てほしいものを見抜く目は素晴らしい。だが、それも言う場と時を選ばないと相手もそれを改める機を見失わせるだけだよ…」

「……………」

 

 楚王の次の言葉は苛立ちつつも危ういものを見る眼差しを添えており、紅剡は皿を拭きながら静かに見守る。

 

「…おい、そこのお前!」

 

 それに茶々を入れたのは、中華北部の訛りが強い他の客であった。

 

「…お前、秦の白漂だろう!」

「…そうだとしたらどうするつもりだい?」

 

 その客達の明らかに自分の顔を知っているという表情に声音で感じとれる敵意に、白漂は上手く酒を避けていたのもあって目を細めて静かない威圧感を出すが、それで相手は少し怯えの色を見せつつもむしろ反発の色を強めてますます詰め寄ってくる。

 

「…どうするこうするもあるか! よく秦のくそが他所であんなに派手にふるまいおったな!」

「たまたま火事の現場で馬鹿みたいな行動で人気になったくらいでよくぬけぬけとここまで来たな!」

「おまえがどうしたところで長平を始めにお前の爺がしてきた罪は色褪せねえんだよ…!?」

 

 そうしてにじり寄ってきて胸倉を乱暴につかもうとした他の客の横暴を止めたのは、この国で最も大きな権力と威圧感を持つ男であった。

 

「おい若造共、儂の領内(シマ)で儂の客にどういう態度をとってるんじゃあ?」

「…ぅ…く、くそ…」

「ち、白けた…行こうぜ」

 

 その時の楚王の睨む顔と威圧感はもはや大都市の大きな黒幇(ヤクザ)の幇主(親分)そのもので、ほぼチンピラであった他の客の大きくない肝を委縮させて陳腐な捨て台詞をお代に添えさせるには十分すぎた。

 

「…あー、今ので他のお客さんまでビビって帰っちゃいましたねー」

「ま、店には悪いがこれならお互い却って言いたいことも言えるじゃろうな」

 

 それを見送って周囲には変装している護衛と店の者だけになると、再び白漂と楚王は打ち解けた雰囲気になる。

 

「…何というか、秦に置いてきた弟さんや息子さん…却ってうらやましそうな顔をしていますね…」

「…そう見えるか?」

 

 だが、それは楚王に安易には人に知られたくない内面へとより深く踏み込める契機にもなった。

 

「…漂よ、そう見えるあの二人と共に…否、それ以上の近くで見られるその秦の王から見えてくる“王”とはいかなるものか?」

 

 その王としての本音が深く出ている問いは、謙遜も虚飾も通じない重みがあった。

 

「…そうですね。これは…僕が北で玉座を拒否した理由とは相反するものですが…」

 

 楚王の問いで再び思い直した盟友の姿を通し、見えてくる王の姿を白漂は感じたままの言葉を繋いでゆく。

 

「…世界でもっとも“孤高”に見えて“孤高から縁遠い”存在です」

「…!?」

 

 それは楚王にとっての王という存在への認識を始め肯定するように見え、その直後に全否定するものだった。

*1:
金文という発掘された青銅器に刻まれた文章によれば、これが考烈王の本名らしい




次回、本当に久々の合戦パートへの予兆に入る予定です。
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