※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

261 / 324
今回、軍略が中心ですけどあのキャラのこの世界での過去の一部が明かされます。


260 安堵と不安の混濁が戦への備え●

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 中華中央部 韓国南部 南原平原 荒巌山○

 

「お客サーン、これ海驢(アシカ)の干し肝で食べるととっても元気になるヨー」

「ねー兵隊さーん♪ その顔からしてまだ下の刀は使ってないでしょー♪ 死んじゃう前にここが坊やのままで逝ったら親御さんも浮かばれないよー♪」

 

 白漂から洛亜完に西域由来の花が送られて数時間後、夕刻になった秦側陣地の後背地には秦人*1中心の行商が多く来ており、秦兵や韓兵を相手に商売をしていた。

 

「…北涼安定化の進展と大運河開通で、秦における盛んになった南北の交通の影響がここまで来てるなー」

「その分に間者を取り締まる役人や戸籍調査に加えて今回の兵站支援までしまいになった文官は阿鼻叫喚らしいけどな…あー、このティピオカみたいに美味しいものが前線でもたくさん食べられるようになったのが最高ー♪」

 

 その中に白漂や何やら黒真珠状の固形物が多く入った何かの飲料を飲み歩きしているゆるんだ顔の羌瘣の姿があった。

 

「…ですが、よろしいのですか? こっちで重用されて広めている最中の例の作物の一種を韓(向こう)への贈り物に使うなど…?」

「その件についてはまだ真価を明かしていない贈り物の花ということにしてるよ。それと咸陽に出した手紙に許可を求める内容を含ませている」

「白漂様ー、今宵の夕食の前菜をお持ちしましたー」

 

 そこで白漂に彼の親衛隊竜騎の一員が地下道で見た芋類を油揚げしたチップ類を持ってきた。

 

「あ、どれどれ―もぐもぐ…ごく…あーほんのりした甘味が―――」

「あ! 馬鹿止せ鍛天! その木薯の芋は確か何処から紛れ込んだのかわからんまだ毒抜きが終わってないのだぞ!」

「―――あ…え? あぅ……?」

 

 だが、白漂がそれを受け取って食して吞み込んだ直後、別の竜騎隊員から注意が出るが、それを耳にして戸惑う白漂は少し眩暈を起こして立ち眩みを起こした。

 

「…朝に起きてから空気が薄く粉塵が多い地下道での作業による疲労が残る身だったのが大きいですね。毒抜きが完全に終わっていない毒が薄目な品種のキャ…木薯を口にしたのは最後のダメ出しによる一時的な気絶です。長くても一晩寝かせればいつもの調子に戻りますよ」

「あーはい、その場にいたので概ねわかります」

 

 数分後、自身のゲルの寝台で静かな寝息を立てて寝ている白漂に対してナイチンゲールが出した診断結果に、姫昭たちは微妙な苦笑を浮かべ合っていた。

 

 

 

 

 

 ○昭王××年(紀元前2××年) 中華中央部 韓国南部 南原平原 荒巌山○

 

「…嘗ては中原の中でも土色の黄金の地と呼ばれた南原もここまでなるとは…人の力とは良くも悪くも大きくなり続けていますねぇ…」

 

 そこは、白漂達が布陣したころとは別の、かつての肥沃な地の名残が所々に見える南原の一角で、そこにはまだ将軍となる前だが有望な若手の将校として名を上げ始めていた若い王騎の姿があった。

 

「達観ぶった口調で客観的意見を言うことで自分達が荒らした当事者としての罪悪感を薄れさせて次の戦に備えようという抜け目ない戦略ですか?」

「ちょっとぉ!?」

 

 そんな王騎にとぼけた口調で皮肉をもらしているのは、まだ若いことを考えても青年くらいにしては天然気味な幼さを感じさせる風貌をした騰だが、彼の身は何故か背後にいる捕虜になって悲鳴を上げている韓兵達と共にお縄に掛けられた状態にあった。

 

「コココココ、とてもただの捕虜に出せる雰囲気や口調ではありませんねぇ。故に討ち取らずに生け捕りにして正解そうでした」

「?」

「意外と、この出会いが後々この地を大きく左右するものになるかもしれませんよぉ」

 

 そこで視線の高さの違いはあるが、二人の視線が真正面から交わって何故か互いへの興味が強まりだしたところで、夕日が強く差し込んできて視界を染めてきた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年) 中華中央部 韓国南部 南原平原 南奉城○

 

「…ちょっとー、懐かしそうな顔で思い出に入り浸るのは後にしてもらえませんかー?」

「コココ、若い方はせっかちで行けませんねぇ」

「いや、今のは普通にこのガキが正しいだろうが」

 

 時は現在に戻り、夕日に照らされている南奉城に設けられた韓秦連合軍の本陣にて、本日の正午にこの地へ着いた騰は一晩寝て回復して待っていた白漂に突っ込まれて録嗚未に睨まれていた。

 

「…初めまして騰殿に白漂殿、韓軍総大将の洛亜完というものだ」

「韓側第二将博王谷である」

 

 数分後、会議室に入ると少し先に入った韓側の両将が礼儀良く迎えてくれた。

 

(…あの二人が、韓の三大将軍の一位と二位か。あの六将王騎将軍と共に長く戦ってきた騰や、うちの漂と対峙してて気後れしてなくて虚勢もねぇ…非常にやるなこの二人は…)

(それと、その副官も中々に異様且つ大きな存在感を…)

「うわ! 何だこの二人は!? 気持ち悪い!」

「おい! どちらも向こうの副官だぞ!」

 

 その二人に信と蒙恬が畏敬を抱いていると、洛亜完の副官でクラゲのような奇矯な兜(?)を被って顔を隠している巨漢ヨコヨコと、それとは対照的に身は小さいがどくろのような仮面を付けて身を魔術師のような恰好で固めてわずかに見える素肌は異様に黒い博王谷副官の厄禅が入室し、録嗚未がしかめっ面を浮かべて隆国に叱られた。

 

「…それでは事前の書簡でのやり取りに応じ、主将はこの韓側の洛亜完が務めさせてもらい、騰将軍は臨時ながらその副将として今回の戦いの右翼にあたる荒巌山を担当してもらうということでよろしいかな?」

「ああ? 何をぬかすんだてめえ―――」

「いや、秦(こっち)が今回は十万で韓(向こう)が十七万でかつ戦場が韓だと向こうに指揮権握ってもらった方が良いよ」

「そうですよ。少しは相手に遠慮した考えも持ちなさい」

「―――えってうぐ…」

 

 軍議の主導権を韓側が握る形に録嗚未が眉間の皺を増やすが、秦側の両将に叱られて口籠らされる。

 そして、秦韓四大将軍を中心に軍議は深まっていく。

 

「…この南原から韓の王都圏を向かう道は三つ、最大のものは今の我らがいるここ南奉城が塞ぐ北道で、次のものはこの戦いでこちらの右翼に位置して貴殿側に担当してもらう荒巌山の南側を通る西道、最後で最も通りづらい道は博王谷が担当する左翼の要でこの地で最も堅固な南原城で守られている遠回りの東道である」

「…ということは、今回の戦いも記録にあるこの地での数々の防衛戦と同じく、どれか一つの攻略のために残りへ向けられた横腹を残りが突くのが基本と…」

「ああ、それを基本としていたことから今(・)は(・)そ(・)ち(・)ら(・)に(・)い(・)る(・)騰がこちらにいた頃より、貴殿の祖父も属していた六将も含めて抜かれたことはまだ一度もない」

「…それでしたら却って一から十まで指揮権を重ねるのはよろしくないかもしれませんね。ある程度は自由な裁量がよろしいか…」

「ああ、その通りだ。この場合はお互いの注意事項を事前に知り合うようにした方が良いな」

「ああ、それでしたらこの地の地下を何本も通る地下道について、注意したいことがありましてー…」

 

 こうして、軍議は所々で深まったりはしつつも表向きは順調に進んでいく。

 

「…七国で知恵者の比率が最も高いというのは虚言ではありませんでしたね。すんなりとこちらも自由裁量権を得られました。その分、体よくあちこちへ後押しされそうですがー…」

「ココココ、これも若い内に経験した方が良いことです」

 

 数十分後、本日の軍議を終えた白漂と騰は自軍の陣地への帰り道に雑談交じりで付いていた。

 

「…で、大丈夫ですか今回決まった戦略で?」

「大丈夫ですかとは?」

「今回は防衛戦の利を生かして守りやすい要所は全てこちらが抑えたことで、それらを重点的に守ることで楚軍の注力を前面に集め、その脇腹を機動力で今回最も高いだろう僕らが突き続けて攪乱して向こうの兵力と集中力を分散させ、その隙から突破力が高い部隊が楚将の首を上げる。そうなると今回の秦軍(こっち)の主攻はその場の目利きが経験から高いそちらがなりますよね」

「ほほう、あなたの心配とは…我々があなた達の作るその隙へすかさず駆けつけられる速さを持っているかですか?」

「はい、遠慮なく言えばそうです」

 

 但し、その雑談も今回の軍略関係が自然と多くなり、そうなると両者の間は齢の差関係なく怜悧で張り詰めた空気が流れる。

 

「ああ? テメェガキのくせして俺たちの力に不安があるってか―――」

「ココココ、録嗚未、今は真面目な話をしているのだから茶化すのは良しなさい」

「―――あってぅぉお?」

 

 途中で横槍は入るがそこは騰が物まねをしつつも雰囲気は真面目なプレッシャーにして押し黙らせる。

 

「白漂さん、私にとってはあなた達のその速さは貴重ですがそれは絶対ではありません」

「む?」

「ですが、絶対などこの世にはまだない今でも強く言えることは二つります」

 

 今度は騰の方から不安とも聞き取れそうな言葉を吐き始めるが、聞いているものは怪訝さと同時にむしろ認められた感じに近い安堵が生じ始める。

 

「我が亡き殿、王騎との出会いはお前を確かに成長させ、その広げた道を強きものにした」

「「「「「……………」」」」」

「そして、その道に入る前から私は強い」

「「「「「…!!!!」」」」」

「この二つは確かだ」

「「「「「……………」」」」」

 

 その言葉が紡がれている間、秦兵達はその場に足が止まって静かに聞き入らされた。

 

「騰様ー、昨日に届いた木薯の粉でティピオカという新しい料理を作りましたー。堅陽から届いた甘蔗と合わせて美味しく出来ましたよー」

「ココココ、何はともあれ今もこうしてあなたが切り開いてつなげてくれた恩恵の分以上は働きますのでご安心ください」

「…あ、はい、どうもー融通しますのでよろしくお願いしまーす」

「「「「「…………」」」」」

 

 但し、その最後の締めは横槍もあったとはいえ、両将によってかなり緩い感じに構成され、周囲は何度目になるかわからない微妙な沈黙に陥った。

 

 

 

 

 

 ○中華西部 秦国中北部 朔方郡 朔方城○

 

「…おい! そっちの品は南の戦地に回す分だー!」

「兵器類はまだ文官の許可が下りてないぞー!」

 

 白漂と騰の雑談から数時間後、南原とは正反対の北にある朔方城は夕方になっても違う意味で賑やかさを増していた。

 秦韓楚三国で始まった、本年度で最後に起きた大戦の影響は北の大地にも及んでおり、秦北部最大都市であるそこも活気に満ちていた。

 

「…まだこの前の残党狩りも続いているのに、港側だけでなく城内全体の騒ぎが増してますね」

「南の方で運河っつー馬鹿でかい水路が開かれてから、わざわざこっちの品まで買い付けに来るお客さんが官民問わず増え続けていますから…」

 

 その様子は朔方城内城の高楼で、魏亶を中心に机仕事主体で働いている居城待機組が時折眺めていた。

 

「…今年に咸陽反乱から何かごり押し交じりであちこちに作付けされてる新しい作物で、早く収穫できるのもバンバン南に送られてるし…」

「あー、それで今朝にはなんか城主様から鳩で生の木薯を多めに大至急で送ってほしいって手紙が来ましたよねー。美味しいけど毒抜きの手間がかかるあれをそのままで送ってくれって今度は何を考えているんでしょう?」

「まあ、その辺はまたあの方の悪知…もとい深い策があるとでも思っていきましょ…あ、何か今度は船が運ばれてますねー」

 

 彼女達が視線を向けているその先には、陸路にも関わらずここから遠い東北の満州で広く使われている、ヴァイキング船に似た満州船が縄で括り付けられて大勢に運ばれている姿があった。

 

「あれだけ長い優雅な船を人力で運ぶなんて…頑丈で軽いとは良いわねー」

「大運河で黄河と長江が繋がってから、船で行ける範囲が広がって船やそれで運ぶ品の需要が増えてるからねー。今度はこっちの近くで北の黒竜江と黄河を繋げる工事も始まってるって話だしー」

「あれは今回の戦で水運が増えたのを聞きつけてその商売に加わろうって腹だろ」

「へー、それならもっと儲けが増えそー…ん?」

 

 それに居城待機組は景気が良さそうな顔を浮かべ合っていたが、その視線の先にあるものが混じると空気にそれまでとは異なるものが混ざり始める。

 運ばれていく船やその労働者に混じる形で、何やら用心棒とかに守られている感じの麗しい風貌をした旅装の女性が結構な数でいたのだ。

 

「…ねえ、あの子達…あの進んでいる先…」

「…私達と同じく、こ(・)の(・)子(・)達(・)がお目当てよね…」

「知ってる顔が多いし一緒にもう仕事も何度かしてる子が多いけど、初めて見る顔の子も…」

「楚軍侵攻の報せが入った時にさっそく似た子が港にいたし…」

「新規の族が仕事に乗って上手く送り込んで物理込みで繋ぎ持とうとしてるわね…」

 

 その美女達に女の勘も動かされてジト目に切り替わった居城待機組の女性達の腹は、程度の差はあるが今は南の地で戦っている愛しい男の種で生じた膨らみがあった。

 

 

 

 

 

 ○中華中央部 韓国南部 南原平原 某地下空間○

 

「…うぐ…今さっき…感じ取れても避けることも防ぐことも出来ない氷の刃を押し付けられたような…例の感覚がまた来てー…」

 

 白漂の閨に所属する中で妊娠したため朔方城に待機していた女性達がジト目を浮かべた頃、その視線が向けられている方角にあるその地の地下の一角で、彼女達の旦那である白漂本人が胃の痛そうな顔を浮かべていた。

 

「…白漂様ー、もう今日はお休みになった方が良いのではー? 珍しく一日中の多くを机仕事含めた事務系を費やされている日が連日続いていますけどー…失礼ながらよからぬ予感がするというかー…」

「…いや、よからぬ予感がするじゃなくて実際にそうなる気配が強いんだ」

「今回の楚軍を実質率いるあの女はそこまで…?」

「…それとだけど…韓側には例の南側の半ば放置されているため池の件は…?」

「…それがー、今回の彼我の高低差の関係から悪用されることはないとのことでー…」

「…………だといいけど…」

 

 但し、それとは別に白漂本人の表情自体が連日の疲労を抜きにしても芳しいものとは言えなかった。

 

「…ご報告です。南へ偵察に出していた部隊からの報告ですが、今朝の時点で楚軍はもうー…」

「…じゃあ、悪いけどここの作業用人員を増やす必要がある。今の人員の倍にして昼夜三交代で進めよう。最低でも楚の連中が到着する二日前に終わらせた方が良い」

「は、はは!」

 

 その白漂本人の静かだが深刻な憂慮を宿した声音で、普段なら突っ込みや皮肉も交えさせる側近達の言葉は幾度もわたる死線を共にした信頼からくる素直さを優先させた。

*1:
ただし多くは北涼系や西涼系など新参者




次回、決戦前の様子を今回書きだせなかった大人向けシーンを交えて書く予定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。