※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回、原作と違ってこちらの著雍編では起きなかったあの胸糞状態に繋がりかねなかったあのバッドイベントが起きてしまいます。


271 繰り返される地と水の盤面崩し●

 ○秦始皇9年(紀元前238年)南原防衛戦十二日目夕刻 中華中央部 韓国南部 南原平原○

 

「「「「「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

 再び南原平原に中心を移した韓の命運を左右する決戦において、その場は三軍の熱気と士気が血飛沫と怒号に比例して撒きあがる修羅の場となっていた。

 

「行けぇぇ! 何としても紅剡の首を獲れぇ!!」

「させるかアアアアアア!!」

 

 此度の楚軍の総指揮とその目的である韓征服の大本である紅剡を討ち取れるかどうかという佳境に入っていたためだ。

 その楚軍本陣には三軍が四方八方から群がり、血肉の混沌とした竜巻が生じているような状況にあった。

 

「よし! 抜けたぞぉ!」

「このままあの背を槍で穿ちぬけぇ…!?」

 

 今も秦兵や韓兵の何名かが楚兵との乱戦の場を切り抜けて無防備に見える赤いマントごと屠ろうとするも、その得物は彼らの胴ごと両断されて宙を舞った。

 

「…せっかちな連中だ。こっちも久々に身が戦場でも絶好調なのだからもう少しこっちも楽しませろ!!」

「「「「「!!!!!?????」」」」」

 

 紅剡がその背中側に両手を回して長刀を左右の手で持ちまわすような動きで剣を振るい、敵兵だった赤い噴水の中で酷薄だが艶のある色気を添えた微笑みを浮かべ、周囲に敵味方問わずゾクッと畏怖と羨望を抱かせた。

 

「総大将の身で乱戦の中からまだ脱出しとらんだと!? 紅剡! 身の調子が良いからって血の気を増やしすぎだ―――!!」

「邪魔はさせん!!」

 

 その光景に少し離れた前線の一角で旋棍を振るっていた周泰はそれに顔を少し強張らせるが、そこへ自身に劣らぬ重さと膂力を込めた大矛が迫る。

 

「―――あってちぃ!!」

 

 クラゲのような奇妙な兜(?)が目立つ巨漢で韓軍随一の剛将ヨコヨコの一撃を得物で受け止め、その骨も軋み合う膂力の衝突に主君から意識を逸らさざるを得なくなってしまう。

 

「おらぁ! さっさと毒でやられた連中を押しのけて紅剡の首を獲りに行くぞぉ!」

「させるかぁ! 秦の山猿と韓の青瓢箪の寄せ集めを返り討ちにしろぉ!」

 

 その間も不利な状況が続いていた中で一筋だが大きく見えた勝機に駆け出した連合軍と、それに矜持を傷つけられつつも逆境への反骨を奮い立たせた楚軍の間の死闘は過熱しながら続いていた。

 

「退けぇ! 邪魔だぞ無駄飯食い共ぉ!」

「ぶげぇ!?」

「や、やめろぉ! こっちは足が立た…!?」

「知るかボケェ!」

「趙の連中は踏みつぶしてでも行けぇ!」

「た、助け…!?」

「お前らの巻き添えで立てなくなった味方の救助もあるんだから知るか!!」

 

 そうなれば李牧の拙速の巻き添えでキャッサバ毒ガスを受けた楚側、特に趙系亡命部隊はその両軍の衝突の巻き添えを受けて、敵だけでなく味方からも跳ね飛ばされたり踏みつけられたり、けれども両者にはほぼ無視されるというかなり悲惨な状況に陥っていた。

 

「…ど、どっちも我らをないがしろにしおってぇ!」

「先ほどの攻撃は何なんだ!? 奴らが黒羊毒をこの戦場に持ち込んでいないのはわかっていたのに!? 新しいのを手に入れたのに気づけなかったのか間者連中は―――!?」

 

 その中で踏まれた跡が色々な意味で目立つ袁環が文句を言っていたその時、彼の頬の真横を槍のように巨大な矢が豪速で過ぎ去り、その衝撃波で彼の片耳は切り裂かれて切り傷は骨まで浅くも達し、さらに眼前でキャッサバ毒ガスによって苦悶している味方を胴から粉々にしてそのまま飛んで行った。

 

「―――あ、あの矢は…まさか!?」

 

 袁環がそれに憎悪とそれ以上の恐怖に基づく既視感で歪んだ顔で矢が飛んできた方角を見やると、自分の主君で緘口令が敷かれている数少ない敗戦をさせてきた存在がいた。

 

「…あの感じのヒビ、まだ遠いし規模も浅いな…もっとでかいのを浮かばせて…ちゃぶ台返しをしないと…このままだと押し切られて潰される…」

 

 その大矢を撃ちはなった張本人たる康熙の姿に目が行く余り、彼女が討ち放った大矢の着弾点にも、それで生じて今も少しずつ広がっていき、勢いのある噴水が徐々に増えていっているのにも袁環達は気づけなかった。

 

「「「「「うわああああああああああ!!!!」」」」」

 

 一方、戦場の激闘は楚軍本陣において最も苛烈化を進んでいた。

 

「く! 戻ってきた味方も増えていますが…それ以上にこの地へ到着してくる楚軍の方が多い!」

「しかもこいつらは数と力だけではない! 大中小問わず兵の練度と隊の連携も上手い!」

 

 だが、苦しい声は連合運側の方より多くなってきており、連合側主将の一人である騰の傍にもそれは色濃くなってきていた。

 

(…楚の現(・)東(・)部(・)…江東はその経緯から楚の中央に対して反骨芯が強く…長らく土着の勢力と風習が色濃く残って楚の王都も深い干渉が出来ずにいたというのが通説であった…。それをこの一個の大軍として一代で変えるなど…あの若さでここまでするのも含めてやはりあの娘は只ものでは…。そしてこれほどの将が何故この戦になるまで秦(こちら)には及ばなかったのか…!?)

「ガアアアアああぁアアアァアアアアアァ!!」

「!!」

 

 それらの反応を如実に感じ取っている騰の視線の先には、不死身と呼ばれる部下の干央と韓側総大将洛亜完が矛を一人に向けて超高速且つ巧みに振るい続けている姿があった。

 

「ははは! ここまで楽しいのは久しいぞ貴様ら!!」

 

 その凶刃の二重奏を、軽く汗は描いているが深刻さは無くてむしろ生き生きとした様子で、紅剡は大太刀だが刀身は細い長刀でさばき続けていた。

 

「…な、何者なのだ本当にあの女は!?」

「洛亜完と重傷とは言え干央様を同時に相手取って今だ怪我一つしていないなど…!?」

 

 それに周囲で楚兵と乱戦している連合軍の兵士達も震撼しているが、とうとう干央が紅剡の背中めがけて矛を突き出したところで彼女にその刀の鎺で防がれ、逆にその長躯からくるリーチの長い蹴りでその傷だらけの鎧を蹴り砕かれてさらに骨肉が潰れてヒビが走る音まで奏でながら、とうとう馬上から蹴り飛ばされてしまう。

 

「…ゴフゥ!」

「さ、さすがにもう無理だ!」

「干央様を即座に後ろに送れ!」

「ここまでとは…っ!!」

 

 周囲の秦兵がそれに動揺して意識を取られたその一瞬で生まれたわずかな隙で、紅剡は次に長刀を洛亜完向けて振り下ろし、さすがに一刀両断こそ防がれたものの矛を大きくへし曲げて刃は彼の喉元に食い込み始めてしまう。

 

「…少しヒヤッとさせられたが…終わりだな…!?」

 

 それに楚兵達はほくそ笑むが、その一人を康熙の矢は穿ちぬいてそのままの勢いで紅剡目掛けて飛びかかった。

 

「…っ!!」

 

 紅剡は即座に反応して刀で逸らすが、やはりその砲弾のような衝撃を完全にいなすことは出来ず、彼女は馬ごと大きくよろけ、軌道を逸らされた大矢も地面を深々とえぐって土煙を上げた。

 

「…この矢は…康熙か! 敵とはいえ久々にここまで近くに来るとは…引き抜けるか…!?」

 

 それに猛獣の警戒心と好意が強く出た笑みを紅剡が浮かべた直後、彼女の背後に着弾した大矢より地面が割れて水が大量かつ勢いよく噴き出る音が響いてきた。

 

「…こいつは!?」

「あれは…!?」

 

 紅剡と洛亜完が同時にその音源へ振り向くと、そこには盛大且つ大きな噴水とその根元から急速に広がっていく亀裂の姿があった。

 

「…康熙! 全く…こんな状況とはいえ…ここで盛大にちゃぶ台返しを通りこして叩き割るつもりか!!」

 

 それはこの戦場に集う主将らの中では一番遠く似た白漂にも見えたが、その表情を大きく引き攣らせた。

 

「…あ、あのー…あの突然の噴水…何かー…将軍がとんでもない策を味方にも秘密で進めて露になった時みたいな嫌な予感が―――!?」

「予感じゃなくて実際にそうなる! 直ちに全軍に城へ総退却の合図を鳴らせ!!」

「―――あってぇええ!?」

「音術隊すぐに動けぇ!!」

 

 周囲の白漂兵はそれもあって慣れたいつもの嫌な予感を覚えたが、主のその割で切羽詰まった感じを隠せない指示で即座に動揺した顔ながらも体自体は慣れた動きを見せた。

 

「…ち、仕方ない…仕切り直しに入れられたか…金柑!!」

「だからこっちでは剥げていませんってば!! みなさーーん!! 直ちに高所の丹盤方面へ退却ー…!?」

 

 そして、同時に紅剡も苦虫を噛まされた表情でその水色のショートヘアーをした部下に文句を吐かせつつも指示を出した直後、彼女達の周囲に次々と先ほどと同じような間欠泉のような勢いのある噴水とひび割れが生じていって、それらは周囲に広がっていって繋がり、しまいには各所で地面が崩壊や陥没を起していく。

 

「…うわぁアアア!?」

「な、何だぁああ!?」

「っ!? これは…地盤崩壊か!?」

 

 その急速かつ広範囲に広がっていく崩壊現象に周囲のほとんどが恐慌を見せる中、数少ないその理由を見抜いた一人である洛亜完がハッとした。

 ここ南原の地は、白漂達が再利用していた廃坑などからもわかるように鉱脈が尽きたと見なされて討ち捨てられた坑道が地面の下を広範囲かつ深く走っており、さらにその中の多くは掘り当てられて出てきた水流が流れている状態である。

 さらに、そこへ白漂達が戦場での切り札にすべくキャッサバ毒ガスを仕込むため坑道を無理に広げたり、その上で何十万という大軍同士でぶつかり合ったりして生じた振動でかなり不安定な状態に追い詰められていたのだ。

 そこを見抜いた康熙は、このまま行くと訪れる楚軍に戦力差で押し切られて押しつぶされる結末を回避すべく、その視力と頭脳で見抜いたこの地のエンドポイントをその強弓で起動させてこの状況を引き起こしたのである。

 

「うわぁ!? な、何だぁ!?」

「慌てるのは後だ網郭! 荒くはあるがどうやらこの崩壊は我々がすぐに動けば多くは間に合って逃げられる程度の余地は計算して残されている! 今は少しでも次戦を叩ける戦力を城へ逃がすぞ! 楚ももうこれから来る大崩壊を見抜いて逃げ出している!!」

「は、ははぁ!!」

「さっさと動けのろま共! 溺死や生き埋めが嫌ならなァ!!」

「は、はいいぃいい!!」

 

 それらを脳の高速回転で把握した洛亜安と紅剡は即座に指示を出し、その動きは両軍へ波及して大軍は連動していって高所へ猛スピードで退き始めていく。

 

「…向こうはさっそく退いてくれたぞ! 僕らも即座に動く…!?」

 

 だが、楚軍本陣から少し離れた乱戦場で退却を取り仕切っていた白漂達の所で、彼らの踏んでいた地面ごと吹き飛ばす間欠泉が生じてしまった。

 

「…アアアア!?」

「いけない!!」

 

 直感と感覚の鋭さで白漂はその足元からの水の豪槍の直撃を間一髪で避けるが、その余波でも十分にその身は空高く上がる激流に飲み込まれてしまい、そのスローモーションのようにゆったりと薄れゆく視界の中で、今(・)の(・)自(・)分(・)に(・)な(・)る(・)前(・)か(・)ら(・)の(・)戦(・)友(・)に腕を掴まれる感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年)南原防衛戦十二日目夜 中華中央部 韓国中央部 王都新鄭○

 

「…そういうわけで! 環西道より撤退した我らが連合軍ですが南原の地で再戦するも被害がさらに拡大しようとしたところでこちらでも突然の水害で戦は中断して今は籠城の態勢に入ったとのことでしてー…!!」

 

 南原での戦いが思わぬ終わりをまた迎えようとしてから数時間後、その戦いの戦況は最大の当事国の都にも詳細に届けられている途中にあった。

 

「被害がさらに拡大とは元からの被害もどれほどだ!?」

「これ以上戦えるのか!?」

「ま、まだ敵味方共に残存兵力を調査中でー…」

「そんな悠長なことを言ってる場合かァ!?」

「これはもう兵を新鄭まで退かせるべき段階ではないか!?」

「東部と南部は相当楚軍に侵攻されてそこからの増援は期待できんのだぞ!」

「西部はもう限界まで兵を引きぬいて北部は魏軍が不審な動きを強めているから動かせん!」

「ま、待ってください! 兵をここまで退かせたらそれこそ楚軍までここにー…!?」

 

 だが、情報が多く集まるたびに韓側首脳の多くは程度の差はあれ動揺を隠せなくなっており、口論こそしているが内では気付き始めていく。

 

『この戦い、続ければ押し切られて全てを失う』

 

 その一念が彼らの心中で徐々にその大きさと重さを増しつつあった。

 

 

 

 

 

 ○中華中央部 韓国南部 南原平原 南奏城○

 

「…白漂将軍が戻られたぞー!」

「周囲の警戒を怠るなー!」

 

 韓の中枢で不安と動揺が大きくなっていた頃、連合軍の最前線では主将の中で最前線に残り殿を続けていた白漂がやっと戻ってきた。

 昼間においても自分が殿を務めて楚軍を大きく罠にはめたことで、今度も出ればまた何かあると敵が警戒して手を出せなくなるという計算があったためだ。

 事実、楚軍の後続が地盤大崩壊の後にまた到着しても、白漂の姿に警戒して楚軍は攻勢をかけず、連合軍の生き残りの多くは城へ避難できた。

 

「白漂将軍! 援軍の身で二度も殿を引き受けてかたじけな―――!」

「お礼は後からいくらでもいできる。今は第三戦の準備…いや、もう第三戦が始まっているから。執務室に入るから里甲以外はこっちが許した文官や財界要人以外は今夜以降こっちが解禁するまで入れるな」

「―――あってぅおおおおお!?」

 

 そうして遅れて城内へ退いてきた白漂だが、感謝してくる味方を無下に押しのけるとそのまま文官を中心としたメンバーと共に書斎へ引きこもった。

 

「…まだあんなにも思考を高速で回しながらカリカリしてる白漂は珍しいな…」

「羌瘣殿は自分が救助してくると言いましたがー…」

「この状況で捕虜一人救出のために戦力をさらに削る真似は出来ないと殿に叱られて止められましたが…」

「…代わりに、筆(・)と(・)舌(・)先(・)と(・)銭(・)で(・)取(・)り(・)返(・)す(・)と言っていましたが…」

「…何か、黒羊や龍城の時を思い出すと…そういった時のあの人…戦場で対峙した時のあの人にはない…“不気味な恐ろしさ”が強く感じるでござるが…」

「…本人曰く、彼(・)女(・)を(・)捕(・)ら(・)え(・)た(・)のは…楚軍…特に江東軍の方に…前から私的なつながりがあった故にそれが不幸中の幸いだとおっしゃられていましたが…」

 

 その普段の怒っている時の感情をあらわにしている時とは違う、感情を全くと言っていいほど感じ取れない冷徹が人の形を成したような主の今の姿に、秦兵達は不気味な圧迫感を感じ取らされていた。

 

 

 

 

 

 ○中華中央部 韓国南部 南原平原 楚軍本陣 捕虜収容区画○

 

「…空気が重く痛い…」

「…ま、まさかこ(・)の(・)人(・)とこんな形でまた会うことになるとは…」

 

 そこは楚軍が捕らえた敵兵を収容する区画の中でも、とりわけ重要な人物を拘束しているその区域の楚兵というより江東兵達は複雑なプレッシャーに苛まれつつ、その一人だけ檻に収容されて他の捕虜達から隔離されているその人物を見張っていた。

 

「…おい、あいつがあの満州の女首領で間違いないか?」

「ああ、あの雁門の戦いの前で…山火事に見せて我らの仲間を何万と殺したあの…」

「今度はあの白凶に股を開いてこっちまで脅かしに来たか…だが捕まるとは間抜けが…!」

 

 一方、捕虜収容区画の影より怨嗟や憎悪に蔑みに満ちた視線がその檻の中の人物に向けられていた。

 

「とほほ、いやーまさか当世になって虜囚を初めて経験するとはねー」

 

 そうした複雑な注目の視線を集める檻の中で、微妙な苦笑いを浮かべつつ頬をポリポリと掻いている康熙の姿があった。

 今の彼女は、あの自分が連合軍側敗戦を強制的に阻止するために意図して起こした地盤大崩壊と水害の最中、白漂を上手く逃がしたが代償として少数の部下もろとも敵中に孤立してしまい、苦肉の策として近くにいた趙人亡命部隊を突破してまだ安全性が高いと見做した楚の江東軍に投降した後であった。




今現在の秦韓連合軍と楚軍の戦争ですけど、今回みたいな大規模な開戦は今の章では今回で最後の予定です。
次回より、別な意味での戦争が本格化します。
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