※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回、原作で貴重な主人公のレスバ強い系シーンが、この世界での要素含めて中心になります。


277 人と人をつなぐ変わらないもの●

 ○秦始皇9年(紀元前238年)南原防衛戦二十七日目朝 中華中央部 韓国中央部 王都新鄭 王宮本殿○

 

「…人の…本質が…“火”!?」

 

 信が出した韓非の人の本質に対する問いの答えに、戸惑う周囲を代表するかのように韓寧が思わず立ち上がってそれを復唱した。

 一方、韓非は戸惑いつつも興味も強めた表情で問いを重ねる。

 

「ど、どういう意味だそそれは? 人のい命など…火のようにかか簡単に消えるようなものだといい言うのか?」

「あー、それもあるけどよー…それだけじゃねーな。まずーー…戦場に何度も出て感じてきたことから―…“火”のようだと思っただけだ」

「それはどういう意味じゃ―――!?」

「静かにしてろ!」

「―――あ…ろ、録嗚未将軍…」

 

 困惑が深まるにつれて反発も比例してそれが声に出たりもするが、感覚で邪魔すべきではないという面々がそれを抑え込む中、信と韓非の問答は続いていく。

 

「…昔、泥竜にいたむかつくけど頭の出来や物とかの見方はすげえ進んでる奴がいてな。そいつが火というのは只その場で燃えるものだけじゃなく、実際にはその熱が風を生んでそれがそれまた風を生み、水面も揺らして水の流れ云々も影響するって色々小難しい話をしてたことがあった。その話を戦場で思い出すことが何度かあって…それで人間とその関係って“火”みたいなもんだと思っただけだ」

「そ、それを詳しくはは話してくれ」

「昔に秦王(うちの王様)のある身内がふざけた理由で反乱を起こした。俺の身内や知り合いには出なかったが巻き込まれて死人も出て、世の中にはこんな好き勝手する悪人がいるのかって思って暴れてどうにか鎮めた。だが、そいつは数年経ったころには自分の嫁さんを救うために敵の懐へ行くまでなって、それで先の毐国反乱の時には身を張って反乱を鎮めるまでになって、もう最初の見た頃の悪人じゃなくなってた」

「…ふん…」

 

 その途中で成蟜は苦虫を噛んだ顔になるがそこには陰鬱な気は無かった。

 

「…そんで咸陽を未だに復興しきれてない戦災に叩き込んだ毐国反乱が終わった後で、その首謀者って奴が締めの一環で処刑されると聞いたもんだから、どんだけの悪党なのかってむかつきと興味でその処刑場にも行ってみた。だけどよー…そいつは傍から見てもどうやったってあんな大それた反乱を起こしたりも、差配できるような大物じゃなくて…良くてもその辺の役所にいそうな普通なおっさんにしか見えなくて…どう見てもあの反乱じゃーお飾りにしか思えなかった」

「「「「「…………」」」」」

「…だがなー、あいつにはそのことを知った上でも…周りに人生を無茶苦茶にされた女を愛し…それで救いたい、そのためなら自分が極悪人になることも、そのつけを背負おうって“覚悟”があった。やっちまったことは許されねえ大罪だが、その芯には確かな愛する者への“想い”と“覚悟”があった」

「「「「「…………」」」」」

「善悪なんてのは時や場所に人によって変わるし、その基準すらも今日明日で変わるこの世の中じゃーそれを固定させようってことが無茶だ。だったらそんなころころ変わるものより人なら皆が変(・)わ(・)ら(・)ず(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ものの方が重要だろ」

「ひ人には…善悪よりもも…普遍的なものがあると? た、立場や時に関わらず…な、なんだそれは?」

 

 周囲の注目がさらに集まっていく中、信はその問いへ淀みなくこう答える。

 

「“命”という“火”とそれから生まれる“思い”という“熱”、この二つだ」

「「「「「!!!!!!!!」」」」」

 

 その身近な言葉が何故かだが確かに今のこの場に集う者達の胸に深く染み込んだ。

 中には涙ぐむ者も出てしまう中、信はあるものを懐から取り出す。

 

「その証拠の一つがこれだ」

「金!?」

「金がその証拠だと?」

 

 信がそれで取り出した金銀銅三種それぞれ大きさと重さが違う半両銭に、周囲はまた困惑しながらもそれで新たな期待と関心を生じさせていく。

 

「…秦(うち)の今は取り調べ中で館に籠らされている相国はこいつを全ての基準とする世の中を築こうとして失敗した。そいつはいけすかねぇがそう言いだすこと自体は間違ってもいねえ。はっきり言って、こいつ自体は別に米みたいに食えるわけでもねえ、家みたいに雨風から守ってくれるわけでもねえ」

「「「「「…………」」」」」

「だけど実際に人間はこいつで食い物を買うし、家を建てるのに必要な建材を買う。その理由はこいつにそれらと交換できるって価値があるって皆が思(・)っ(・)て(・)る(・)からだ。そういう人が人を動かす思いがあるから、人間は皆が生に意味を見出して歯を食いしばってこんな馬鹿みたいなことばっか起きてる世の中でも生きていけんだろ」

「「「「「…………」」」」」

「そして戦場なら、人が持つ“命”の“火”は“思い”の“熱”を互いに高めて、敵味方問わず熱みたいに混ざり合って高みへ…より先へ上っていくんだ」

「? て、敵の思いまで」

「混ざり合って先に進むと…?」

「ああ、そうだ。火って奴が互いに混ざり合うことでより熱を大きくしてより高みまで達するように、人は思いを通じて繋がり合ってより先へ進んでいくんだ。だからこそ、戦場なんて糞みたいにひでぇ場所でも王騎将軍達はあんだけ輝いて見えたし、それが確かだと思える連中もいたから歴史書とかそういうので残されて紡がれていったんだろ」

「「「「「…………」」」」」

「今回の戦で秦(俺達)が散々に煮え湯を飲まされた紅剡も絶対同じだ。あいつをあそこまで引き上げた思いはきっとでけえ。あいつに勝つために俺は更に“思い”という“熱”もあいつと同じ以上に引き上げるために“命”の“火”を強め、あいつの“火”も混ぜて大きくなるし、逆になったとしてもあいつの“火”は俺のそれを飲み込んでより高みへ…より先へ進んでいく」

「「「「「……………」」」」」

 

 信のその言葉がいったん終わった頃には、周囲はシンと静かにだが重い共感の気に満たされていた。

 

「…て、敵味方…問わずに“思い”をを混ぜて一つ…束ねていく…う、美しい話だ…故に、し、失望した」

「「「「「!!!!!????」」」」」

 

 だが、その共感ゆえにか韓非は深い非難を滲ませた瞳を添えて沈黙を破った。

 

「な、何故!?」

「い、今の話は…あまりにも…人のぜ…“善性”を頼りとしすぎているる…き、君はやはり…“性善説”だ」

(…善悪説論争を離れた今でも…やはり先生は未だに“性善説”を嫌悪されてる…)

「かもなー」

「わ、笑い事ではない。はっきり言って…きき君らなら…今の状態でも…中華の統一は…かか可能だろう。だが、その先に待っているのは…君ががその言葉をつづけれる世界にはならない…」

「「「「「……………」」」」」

「い、戦が無くなっただけで…ひ、人は別の道で…その世界を…私欲くで…食いつぶすぞ。絶対にだ」

 

 その吃音混じりだがそれも気にならないまでに重みのある非難の意を宿した言葉に、周囲は先ほどとは真逆な意味での重い沈黙に再び入る。

 

「いや、だから人はほっときゃ馬鹿になるから法が必要なんだろ。だからあんたに来てくれないかって話をしたんだろ秦(こっち)は」

「!?」

「…その馬鹿さ加減で色々周囲をあれこれしてきた当人が言うと微妙さと説得力が同時に凄く感じる…」

「いや、お前がこの中で一番馬鹿だろ漂」

「うん、それは間違いない」

「紅華!?」

 

 だが、その沈黙は信にあっさりと妙な形で肯定されたことで再び破られる。

 

「そ、そうだ。人はおお愚か故に“法”で制御すする必要があるのだ」

「けれどよー“馬鹿”だからって“悪”とは限らないだろ」

「!?」

「人の本性が“悪”ってんならもう諦めに感じる。つーか本当に悪ならあんたみたいに賢い連中はそういうのは上手く隠して裏でろくでもない事ばっかしてそれで世の中は俺みたいな連中にはもっと酷いものになってるはずだ」

「…………」

「けれど現実のあんたは人間ってのはそのままにしとくとその馬鹿さであれこれろくでもないことして人に迷惑をかけるから、そうならないようにあれには注意してこれはこうしろって注意を色んな本として形に示してるんだろ。その結果として今じゃー法家の最上位になっちまった。口じゃ人の本質を“悪”と言いながら、その“悪”の思いのままにさせないために、人の悪くならない生き方を人生かけて考えてそれを文字に起こして…そんなの“善意を強く持った善人”じゃなきゃ出来ねえだろ」

「「「「「!!!??」」」」」

 

 そして、その信の逆説的な論法は韓人、特に韓非の眼を大きく見開かせた。

 

「か、韓非様が…?」

「性善説…?」

「ふ、ふざけるな! どうすれば今の話で先生と性善説を結びつけられる!?」

「韓のお姫様はあー言ってても、あんたの思いは確かにめっちゃ熱を帯びてその行き場を求めてるんだろ。そうじゃないなら俺達に興味を示さねえはずだ」

「…っ…ア…アハハハッハハア!! ま、まさか…この韓非を…性善説に持って行くとは…! こ、ここまで…苛立ち…ゆゆ愉快になった問答ははは初めてだ!!」

 

 何名かから反発の声が出る中、韓非は笑い声を上げながら背を向けた。

 

「…ら、乱暴だが…君の言い分にはは妙な説得力がある。き、君の言うところの“思い”が…私の熱も高めさせたんだろう…。も、もっと見たくなってきたので、旅支度しに屋敷へ戻るる…」

「…え!?」

「き、君と今そこで妙に澄んで強い眼差しを向ける…秦王と、それを生み出した…秦への興味がが…強まった。更なる問答と…肌でで感じてこの目でで確かめたくなるほどに。さ、先に失礼する!」

「うっしゃあ!!」

「な!? 先生ぃ!?」

 

 そして、韓側からは戸惑いと驚き、秦側からは歓喜と安堵で場は再び大きく騒めいた。

 

「…あ、言うまでもないと思うけど一応言わせてもらうけど、あの韓非って人は韓の情報部門の責任者の一人でもあるからその辺の注意はしといてね―――」

「!?」

「―――え? 何その初耳だなんて顔?」

「いや!? この流れとこの場でそんなことを言うの!?」

「…………」

 

 そのため、白漂が真顔でぼやいたその内容と、それに目がギョッとした李斯、王元姫の引きつった顔つきでの突っ込みに気付けた者は、今この場ではほ(・)と(・)ん(・)ど(・)見受けられなかった。

 

 

 

 

 

 ○中華西部 秦国東北部 太行山脈西側 環晩○

 

「…くしゅん…」

「え? どうしました?」

「…いや、この熱気球の試験中に…何故か信の顔を思い出して…なんだか、これ絡みで地味に無視できない飛躍やら問題が生じたようなー…」

 

 ちなみに同じ頃、韓から北に離れたその秦軍が設けている極秘の兵器実験場の一つで、江殊幡がくしゃみをして怪訝な顔を南に向けたりもした。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇9年(紀元前238年)南原防衛戦二十八日目朝 中華中央部 韓国中央部 王都新鄭○

 

「…そういうわけで、これが木薯の苗と取扱説明書なのでお大事に張宰相…」

「ありがたく受け入れよう朔方侯」

 

 三か国和平と韓非の秦移籍決定を受けての祝宴が開かれた日の翌日、秦側は早々に帰国するためもう新鄭城外に出て別れのあいさつなどの各種のやり取りをしていた。

 

「…ねえ、姫昭殿…これ…書いていることって本当ですか? あく抜きが必要な記述はありますけど…それ以外はあまりにも都合が良すぎるというか…?」

「王元姫さん、私も初めて見たり読んだりしたときは良くて話半分くらいだろうと思ってましたけど、ぶっちゃけ慣れてくればこんなの序の口だと思うようになりまー…?」

 

 その中で秦から韓に引き渡された品の一種であるその花に一部が疑わしそうな顔を向けたりしていたが、そこで馬蹄が慌ただしく鳴らされた。

 

「お待ちなさい!」

「あ、韓のたかびー女」

「たかびー言うな信、韓の公主だぞ」

「公主寧様お見送りありがとうございます。もう韓非様は馬車に乗られたのでお話ならここで私がお聞きしてお伝えしますが」

「先生と元姫とは昨晩にお話ししました。今回は秦国第二将騰殿と第三将白漂殿に話があってきました」

「はい、こちらに」

「どうか先生と元姫をよろしくお願いします。先生は御体が強い方ではないのでくれぐれも無理はさせないでください。元姫も戦場に出る身ですが慣れない北の地に住まうことになるので…もしもお二人に万が一のことが起きれば決して許しませんから」

 

 韓寧は秦側の武威の象徴二名をじろりと睨むが、遅れてその場に参入した白漂は彼女の周囲に違和感を覚える。

 

「いいえ、韓非様は秦において国賓として迎えられてその後指導役の一席に着かれます。王元姫殿も韓秦友好の重要な一員としてこちらに来ますから粗相など出来ようがありません。むしろ…その御二人のお見送りにしては韓側のは何か少ない気がするのですがー?」

「…無理もありません。韓は中華で最も儒家の影響力が強い国。その中で対極の法家に属する先生は王族と言えども腫物のように扱われ、女人の身で戦場にて功績を上げている元姫は疎まれています」

「それならばそのお二人に師事していたり友誼を結んでいた寧様はますます味方が少なくなって韓でのお立場は…?」

「あ、あなたに心配される筋合いはありません騰!」

「それでもう一つお聞きしますが、韓非様には法家や白漂が触れていたもの以外の顔はおありでしょうか?」

「…………」

「? それはどういう意味でー…!? な、何ですかその目は白漂!?」

 

 その問答の応酬で白漂は彫像のように感情を感じさせない、まるで映し込むものを全てのみ込み一部とする闇のような瞳になり、韓寧を強張らせた。

 

「白漂」

「…あ、失礼」

「おい、もういいだろう。行くぞ」

「失礼しました姫、どうかお忘れを」

 

 そこで騰に窘められて、録嗚未が貴国の催促をして白漂は陳謝して背を向けると、韓寧はほっとした顔で次に別人に向いた。

 

「信殿、人の本質は“火”でそれを繋げ合うのが“思い”という“熱”。あなたのこの声には胸を少なからず打たれました」

「む?」

「故にあなた達が憎らしい」

「?」

「あの熱き思いを持つものも含めていずれ私達を飲み込もうとしているなど…出来るならここであなたを討ちたい」

「やれるもんならやってみろよ」

「出来ないから言いに来てるんです!」

「ご安心を。我々が命に掛けて韓をお守りします」

 

 そこで洛亜完が割り込んできた。

 

「さぁ、安心して帰国されよ騰に白漂、援軍と講話の仲介の恩もあるゆえにまだ酒で礼はしたいが、そちらも早く帰らねば今回の件での揺れが更に大きくなろうし、この時代ならば王都はお互いあまり見られたくあるまい」

(ち、今回見たけどそれを生かすのは大分先になってまた変わりそうだがな)

「秦国使節団! 帰国に入るぞぉ!!」

 

 そのやり取りに録嗚未は内心で毒づくが、そこで秦側から新鄭出発の号令が発せられた。

 

「お二人とも!! 幸運をお祈りしています!!」

「…そちらもどうかご健闘を!」

「……………」

 

 韓寧の激励に王元姫は馬上から振り返って返し、韓非は馬車の中で静かにその言葉を聞いていた。

 この時点で、この二人がたどる数奇な運命を予想できているものなど誰もいなかった。

 

「…はー、やっとマジで取り返しのつかない事態に入る前に戦を打ち止めにして逃げきれたけど…帰ったら帰ったで大変だねこれー…」

 

 数分後、まだ戦後の混乱が抜けていない韓の領内を通っているため、影武者業務になって変装して王の御車に乗らされた白漂は愚痴っていた。

 

「お前がこうなるように誘導したんだろうが。俺と昌平君にのみ届くような手紙と書簡を何通と送って…だが、おかげでどうにかバラバラになりそうになる状態の寸前で踏み止まれた」

 

 王と影武者というほぼ双子な状態で二人きりになった両名は、上下とか役職とか関係ない感じの世界に入った。

 

「…こんな時でも朝日は昇ってくるし、綺麗な時は綺麗なんだよね…ん?」

 

 そこで嬴政が車窓を大きく開いて外の景色を大きく見せる。

 

「ああ、以前にお前が言った通り、日が沈んでもその次にまた昇るように…人の所業は必ず沈みも来るが浮き上がりも来る。だから…この次を浮き上がりにして失った分以上に巻き返すぞ皆で!!」

 

 そして、朝日に照らされながら立って拳を突き出してきた嬴政と白漂は向き合って立った。

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 白漂もまた拳を突き出して二人のそれが合わさったその時、太陽はそれと重なった瞬間に待っていたのかの如くひときわ強く輝いた。




次回、秦へ帰りながら今回の戦いにおいてまだ未回収の部分の消化が中心になります。
それらに絡めて大人向けシーンを出す予定でしたが、思った以上に消化の部分へパートが取られてしまい、またお先になってしまったので申し訳ありません。
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