○秦始皇10年(紀元前237年) 元陽暦1年2月23日昼 中華西部 秦国南部 蜀南以南 桂林○
北の地で信達が恋バナ(?)で盛り上がりだした日の翌々日、彼らの会話にも触れられたその南方にて、別時間軸ではまだ生まれていないその植民都市は、同じ地に同じ地名で秦南部開拓最前線の中心として早く生まれて栄えていた。
「…お久しぶり、ここも情報が深まり広まるにつれて前よりも更に人が増えてきたな」
「はは、何処だろうと人間は欲を持つ生き物ということだな」
その拓東城に本日非番となったので休日を過ごしに来た王偉を、半分休日代わりに同都市警備へ回されていた関常が出迎えた。
別時間軸後代のこの地に設置された雲南と同じく秦の蜀南は鉱物資源が豊富なので、それを目当てにした流入が国の政策もあって増えていたのだ。
「ハーイ、退イテヨー」
「マガダからの使節団が来たぞー」
「道をあけろー」
「うわー、象があんなにもー」
「上は裸だけど身に付けてる飾り物とかすげーなー
「うわ、胡椒があんなにもたくさん!」」
そういうわけで秦人など中華中央の人種の他も多く、今もここから西へ遠く離れている古代インド圏から公的な使節団が道を進んできた。
「…マガダ、そんな遠くからも来たとはなぁ。蒙武将軍が激しく抵抗し続けていた道中の夜郎を降服させてからまだ一月も経っていないのに…」
「だが、こちらと向こう…バーラトという異文明の間が行き来しやすくなったのはいい。
物珍しさから道をあけつつも両側に大勢集まる見物客に混じる関常と王偉だが、そこで見物客の集まりに負けない歓声が近場から巻き起こった。
「…この歓声はー、
王偉はそれに親しそうな顔を浮かべると使節団向け見物客の中から抜け、通りから少し離れた町の外れにあるその大きく高い天幕に囲まれたそこへ向かった。
「…ああ! 不死身の俊足アキレウスよ! 何故あなたほどの勇者がアガメムノンのような下衆に付き従うのか!?」
天幕の内側には、交易路開通に伴って増えてきた西方異民族の豪商による演劇が開かれており、人種と内容からして後世で言う古代ギリシア演劇が今は演じられていた。
「ヘレネス人の演劇は神に至るまでドロドロした意味で人間臭いのが面白いな」
「関常殿、まだ警備の任務時間中では?」
「ははは、ここも警備対象の範囲内だー…って部隊の中央に立つ妙に華があって且つ動きにも現場慣れしている感が非常に強い役者…まさかー…!?」
その舞台の中心で仮面と一体のアッティカ式兜をかぶっているがそれから漏れている金髪がやけに明瞭で動きも優美且つ巧みな女戦士の役者に、関常が知り合いに向ける顔を浮かべたその時、観客席から仮面とフードで姿を隠した者達が何名も飛び出て剣を抜いてきた。
「うわ!? 何かの演出!?」
「いやあれ、真剣だから演者ではなくて多分ものほんの刺客…!?」
それに驚きつつも沸く観客の中にちゃっかり混じっていた関常の部下宮康は少しドキッとしたが、その目標であろう金髪の役者がさして驚いた素振りを見せずに舞台の一角を踏むと、がくんと下がって同時に床が何か所かパカンと大きく開いて落とし穴になった。
「しっ!」
「ぶげぇ!?」
「ごるば!?」
「ぐふぅ!?」
そして、金髪の役者は刺客達が向けてきた刃をあっさりと裁き、円舞を舞うように動かしたその四肢で彼らをゴミ箱へゴミを捨てるように落とし穴へ転ばせるか殴り飛ばし、結構な深さへ落ちた証のドンっとした音を奏でて全員を片付けた。
「おのれアガメムノン! 自らが設けた講和の場を自らの手で汚すその愚昧! いずれ貴様自身を必ず滅ぼすぞ!」
「…それではー前半も終わりましたのでー昼の休息に入りますー」
それで金髪の役者が敵役のそれをズバッと指さして糾弾すると、司会役がすかさず帳尻を合わせて演劇は一旦休止に入った。
「いやー、今日も楽しかったなー」
「…皆して演劇のまんまだと思ってますねこりゃー…」
「つーかあの髪にあの身のこなし…絶対
観客のほとんどは演劇のままでごまかされていることに気付かない様子の中、訳知り顔になっている玉鳳の面々は観客席の後ろより別の黄色い歓声が上がり始めたことに気付く。
「きゃー!」
「王賁様ー!」
「あ、若だ。今日は非番なのか」
「割と女子の人気もあるんだな」
「いや王偉殿よ当り前じゃ」
宮康が客席から出るとそこには珍しく私服姿の王賁が女子に囲まれている姿があり、いつの間にか同じ私服の番陽も混じっていた。
「有力な土豪の娘だけでなく、南部へ封じられた貴族の令嬢まで北で見知った顔が多いぞ」
「これさー絶対に若目当てで親にお願いして移ってきた娘いるでしょー…む?」
黄色い歓声を上げている女子達に既視感を覚える玉鳳面々だが、それとはどこか違う一人の目が大きくぱっちりとして明瞭さが目立つその美女は、他と比べて王賁との距離が狭く見えた。
「…ちょっとあんたさ何をそこまで寄っていたの!?」
「私達はもう一月分の賁様成分を補充していたのよ!?」
「はい?」
「はぁ!? 何よその馬鹿にした態度!?」
王賁がその場を去るとそのファンクラブは狐目になって美女を取り囲むが、美女は天然なのがわかる様子できょとんとするがそれが却って彼女達の神経を逆なでしてしまう。
「あ、ちょっとあれやばいかも」
「だがこっちは女子に不埒な真似は出来んぞー…あ」
それに残っていた玉鳳メンバーは危険を感じつつも迂闊に手出しできない状況になるが、そこで女子達の輪は大きく開かれた。
「はいはい、皆さん失礼しますよー」
「うわ! さっきの綺麗な役者さん!」
「凛々しい声! お顔を見せてー!」
舞台から馬を引いて現れた先程の役者に女子達は黄色い歓声を今度はそちらに向けて囲みつつ、その進行の邪魔にならないように距離を取るが、そうして美女に近づくと役者はようやく仮面と兜を取った。
「姉様、身重の身でここまで来られるのはお危ないですよ」
「大丈夫ですよ。本当に外で危ない所は夫と凛々しい妹のあなたがお守りしてくれるのでしょうポルクス」
仮面を取って容貌が露になったその役者ポルクスは、薄紫色の大きな瞳に輝くような金髪を左右斜め後ろの方でツインテールにした、西方の血筋を感じさせる凛々しい美少女であった。
「ええ!? お、女ぁ…!?」
「が、がっかり…え? 身重…?」
「し、姉妹って見た目が全然違うしー…」
色々と女子脳の妄想を掻き立てさせた存在の正体に女子達はがっかりしたが、そのポルクスの口から出たその単語に女子本能が嫌な意味で反応する。
「ええ、彩華です。この子ポルクスは義妹です」
「あ、ぎ、義妹か…それなら納得ー…じゃー、さっきの
とりあえず一つの疑問には納得される回答が出たが、女子の本能がもっと嫌に反応した方に触れると、王賁ファンクラブは非情且つ残酷な現実を突きつけられることになる。
「はい、王賁様は私の夫です。そしてこの子ポルクスは夫を同じくするので私の可愛い妹です」
「「「「「!!!!?????」」」」」
「…あ、壊れた…」
その悪気のない彩華の言葉は王賁ファンクラブの理性を一瞬で処刑し、空気を察した王偉が二人をその場から離れさせた後もしばらく肌色の彫像をその場に残し続けた。
○中華西部 秦国北部 涼湖郡 涼湖(テングリ湖)東岸部 某港町○
「…しかしまー、あの王賁が結婚とはねー…正室の子は初めて聞いた名だけどよー。二番目があのポルクスとはねー。いつも忙しく動く槍は上だけじゃなく下もってかー」
同じ頃、同期の朗報(?)を聞いた信は最初の驚きも落ち着いてニヤニヤと皮肉も言えるようになっていた。
「そうだねー。彩華の方は前から可愛くぱっちりして良い子だったけどさー。ポルクスって子も毛並みは違うけどすごく良い子だよー。彼女のヘレネス人が多い西のその地元には一回行ったけど、中華とは違ったけど引けを取らない異世界って感じー。白塗りの石造りの建物が並んでいてすごく品があるって感じでさー」
「でもさ蒙恬、あの山の女王様が良くあの嬢ちゃんを他所に寄こしたな。まだ齢は今でも15だけど初めて見たもっとガキの時は
「ああ、そうなんだけどなんか親御さんが話しを進めてそれぞれの実家とも話を付けた後で紹介したって」
「え? 親御さんって…まさかー…」
そして、蒙恬の話から信はある人物を思い出して、その人物がいる南側のある方角を見やった。
○中華西部 秦国東部 太行山脈西側 太原郡 太原○
「…こちら太原と敦煌までの街道を最短で繋げるこちらの近辺の越太橋が完成しました。他にも咸陽を経由せずに西方山界と繋ぐ蜀南経由の最短経路も整備が済んだ模様の報告書です」
「ご苦労」
その信に視線を向けられている方角の先にある、別時間軸の同時期には趙領であったその地を、別時間軸より早い黒羊攻略と李牧失脚に伴う趙側の混乱を生かして占領した王翦は部下からの報告を受けていた。
「これで楊端和ら山界との連携も大きく図れますね。もう一人の義娘もあるので…ですが意外でした。御曹司のご婚姻をあなたご自身が進めさせたというのは…」
「江殊幡、その話は貴様が深入りせずともよい話だ」
「触れるくらい構わないかと田里弥参謀」
「あの者が道を増やし広げる前の秦は、国の広さに反する富の低さから外部に出ざるを得ぬ故に自然と飢餓感から兵士が半ば自然に集まって出来る軍を基盤にした軍事国家。だが、今では技術の流入と開発により開発の可能性が大幅に増えて広がった資源地帯とそれを繋ぐ流通が要となる経済国家へと変わりつつある。こうなっては従来の飢餓感に押されてきた兵を集めるだけでは軍は劣化する。ならば経済力で国民の基礎自体を上げて機能的に平均的且つ高質な兵を動員できる体制に変えねばならぬ。その上で中央を探れる繋がりつつもその都合に左右されない流通網を抑えておく必要がある」
「そのために彩華の実家も操作することで彼女達及び御曹司と上手く利害が組み合う西方の有力な一族且つ気質も合う娘をその第二夫人にしたと?」
「江殊幡!」
「田里弥、その程度の空想を探れる余地まで手を伸ばそうとするのは労力を増やすだけだ。江殊幡、その余力の余り過ぎる脳髄を若さのままに回せる若い内にそれを自らの知で制する自制力も身に付けておけ」
王翦と部下達のやり取りは江殊幡が入る前のものとほぼ同じだが、原作時間軸を知るものから見れば何処か惚気を感じ取れた。
○秦始皇10年(紀元前237年) 元陽暦1年2月23日昼 中華西部 秦国北部 涼湖郡 涼湖(テングリ湖)中南部 北涼府○
「…やはり、東の方は満州なと沿海諸族や東涼も協力的だからこちらがこれ以上現場に出向く必要は無いか…」
「ええ、咸陽から戸籍調査のために来ていた文官達から見てもー…特に康熙殿は
「「キャッキャ♪」」
信にも触れられた同世代のライバルの恋バナ(?)に他も色々と触れていた頃、白漂は再び未開地へ遠征に出る前の準備や各方面の経過報告を、カジ・メイコが産んだ新たな息子
「それで康熙さんも予定通りに同じく向かえるようですね」
「…やはり、西か…」
「ええ、バラント様ら元右賢王派の方々がこちらの支援を受けつつも再編にも協力してくださってますが、如何せん靖涼の変で権威も何もかもがその頂点に一時とは言え立っていた人にぶち壊しにされましたから…外れ辺りの見えないところで色々なのが蠢動し始めているようですよ…」
「…カジ、わかっているからそのジト目止めて。それにあそこで台無しにしたから秦の友人や親しんでる先と潰し合いにはならずに済んだんだから」
「…まー、それはそうですからこっちもあまり強く言えないものだからこういう愚痴くらいしか言えないんですよ」
「だーからそのしてもらった苦労分以上のお得を出すべく西に向かうからさ。ここ北涼の新たな中心になる予定の北涼府の土地割はすんで涼湖一帯の不穏な勢力の掃討や恭順は終わって各将の再配置は済んで、築城や都市設計の計画はもう組んで残る組の皆でも続けられるようにしたし―、やっぱり今は楊端和とかも加わって中身が混沌とし始めている西涼だからー。早めに船の確認しておくかー…」
そうして、ここ涼湖に生まれた新都市の北涼府を構成する島の一つの港に向かおうとした白漂は掴まれて止められた。
「待ちなさい。韓救援の時のような大規模な大軍戦は何処も起こせる余裕がないのがわかっているからって、戦に出るのなら不幸な終わりに備えての準備はしなさい❤️ 特に強くなれないから後ろで支えながら寂しさに耐えるしかない子や、まだ自分の血を残せていない子達にね❤️ 今の内に誼を結んでおかないとけない家や一族もあるから❤️ 陵やこの子達の未来のためにもね❤️ 私達に回せる分も保てるように私達もお助けするから❤️」
「…あー、はい。もちろんです…。妻の聡明なれど苦渋の決断…夫として…無下には出来ません…」
自身の尻を割と痛みも覚える握力で掴んで目元が暗い複雑そうな笑みの紅華に、白漂は何度経験しても慣れることのない引きつった笑みを他所に向けた。
キャラクター設定80
カジ・メイコ
容貌/梶芽衣子(GANTZ:G)
年齢/18歳(秦始皇10年(紀元前237年) 元陽暦1年時点)
出身/別時間軸弧状列島某所
身長/180センチ
体重/70キロ
3サイズ/B96W60H95
得物/蛇矛
趣味/乗馬
竜騎の一隊員。
元々は容貌元ネタの同位体だが、原作と違ってもっと幼い頃で身内に強制性交されそうになったところで逃げ出し、何処かの森の中に逃げ込んで気付けば漂流して春秋戦国に流れ着いて泥竜に保護されて、白漂とか信達にあこがれて見よう見まねで鍛えて一隊員ながら竜騎までなった身。
元ネタと同じく仲間内の表向きはぶっきらぼうだが気遣いは出来て仲間意識はあり、また経験が浅い幼い内に理解者の多い泥竜に逃げられたので性経験はまだ薄くて嫌悪感はそこまで強くない。また、今回見せたように秘書系の仕事もできるくらいに外面を合わせられるくらいのコミュ力はある。
戦はこの時代の平均を超す長躯と、この時代故から幼少期から肉体を使ってきたことが多いから身についた女子離れした膂力で蛇矛を振るう。
次回、久しぶりに大人向けパートに落ち着いて入れます。