そのお姉さんとかに尺が大幅に取られたので、大人向け要素は少なめです。
○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国北部 中都市果豊近辺 某開拓地○
「どうだー!? そっちも上手くはめ込んだかー!?」
「ああ、上手く行ったー!」
「じゃー離れてー! 水を注いで木材を膨らますからー!」
白漂軍竜騎所属将校であるナクタが、その社会的信頼と地位を失いかねない夜が明けた次の日の正午、砂漠に面したその地に引かれている水路の先を閉じている大岩に、年長でも十代半ばが占めている若い少年少女たちが何やら鉄の鑿で穴をあけて乾燥した木材を一直線上に打ち込んでいき、それが終わると水瓶からその木材に水を注いでいっていた。
「……こ、今度もいけるか…!?」
それから数十分間、少年達が息を飲みながら待っていると、巨大な大岩の表面に撃ち込まれていた木材に沿うようにして、徐々にひび割れが生じていき、やがてバカンと重くも小さくない音を奏でて大岩は割れた。
「「「「「こ、今度もやったぞーーーーー!!」」」」」
それを目の当たりにした少年達の歓声が木霊し、彼らは人目を気にせずに身を抱き合い、中には涙を流すものもいた。
彼らが切り開いた大岩が閉ざしていた水路の両側には、その手によって砂漠から生まれ変わった青々としている畑が広がっていた。
「…西に出向いている皆に頼んで、色々向こうで栽培されている植物の種や苗は送ってもらうように言ってるけど…まさか歴史よりも大幅に早くこれらが伝わってくるなんてな…。おかげで砂ばかりが広いここでも皆を十分食わせる穀類は取れるようになったし…」
その様子を岩陰より盗み見ている白漂の指先には、彼の前々世における定説よりも千年以上早く伝わって、そちら側と同じく“
白漂が岩陰より盗み見ている農道で、屯田(白漂が創始した泥竜の孤児による扶助組織を秦政府が引き継いで行政制度化したもの)の一環で、この地に移住して先ほど大岩を切り開いた少年少女達が腰を下して食事を始めていた。
「…初めの頃は砂しかなかった土地に連れられて、当面の面倒見るから作物が育つ土地にするようにって言われた時は騙されたと思ったけど…」
「南から来た“農家(職業としての意味ではなく、この時代では諸子百家としての分類での名称)”のおっさんの言うとおりに、最初に糞やら使えない材木を一定の間隔ごとに置いて、それにボロ布を被せて、少しずつ引いた水路からくべた水を少しずつかけてったら、まず最初にシロアリが巣を作り出して…それから数年くらいで硬い地面をかみ砕いて土を変えていってその上を覆う砂しかなかったこのだだっ広い土地がーもうこんな広くて豊かな畑に出来たもんなー」
「これ全部俺らのものになったらいいのになー」
「道具や収穫上げられるまでの面倒見てもらってた身だから、取れた収穫の6割を貰えるだけでも十分いいだろ。それだって当面収めて行けばいずれは全部貰えるし…特に川と高さに差がある水路まで水を引くのに使用してるあのグルグルしてたり竜みたいなカラクリなんかここ来たばっかの俺達じゃ絶対に作れないし…」
少年少女達が腰かけている農道は水路と自然河川の間に位置していたが、自然河川側にある水流の急な高低差を利用した大型水車が備わっていて、他にもそれを動力としたアルキメディアン・スクリュー式や白漂の前々世では後代中華で開発したとされる竜骨車で、高い位置にある水路へ水を送り続けていた。
(…あー、あの時期にもああいうのがあればなぁ―――)
「あーら、何をそんなに黄昏てるんです将軍?」
「―――ぁ…」
そうした今の屯田で助かった孤児らと、自身の幼少期を重ねて落差の大きさで複雑な表情を天に向けていると、その視界を遮るように大きくも柔らかい二つの肉の塊が白い布越しながら彼の顔に伸し掛かってきた。
「…ジョゼか…」
白漂が頬に薄っすらと朱色を浮かべつつもその肉の塊を退けてジト目を浮かべると、そこには黒いノースリーブTシャツの上にこの時代では一部にしかない砂漠用迷彩柄のジャケットとロングボトムで固め、この時代の女性にしては高い背丈も美点に変える女性らしい凹凸さと兵士としての筋骨が両立した肢体に、ゲルマン系の血筋が強く出たウェーブがかった金髪を肩に掛からない程度に切って伸ばした後ろ髪はロングテールに纏め、深い青紫色の瞳を中心で陽気ながら芯の強さを感じさせる美貌の女性がいた。
「イエス、私…参上♪」
その返事に混じるこの時代にまだないはずの単語が示す通り、彼女ジョゼは本名をジョセット・ダンベルクールと言い、白漂とは別の時間軸の歴史を前世と持つ白人系美女で軍人をしていたらしく、白漂や信とは泥竜初期時代からの顔馴染みであり、現在は竜騎所属の小隊長の一人に名を連ねている身である。
「…君がここに来た理由ってあそこの子供だな」
「そうそう、何人かは北で面倒を見てた子がいますから―――」
「あ、そう言えば最近の名を上げてる将軍とその武功で有名なのって聞いてるかー」
「―――あ…」
そのジョゼが白漂に伸し掛かって悪戯好きな猫みたいな表情でにじり寄ると、二人が隠れている岩陰より見下ろせる位置で食事を楽しんでいる少年少女達が自分達に大なり小なり関係してくる話を口にした。
「やっぱさー北じゃー白漂様が一番だよなー」
「そうだよなー、素性が分かる前に孤児の身から北の将軍様にまでなったし…」
「その側近の人達も孤児仲間や貧農含めた庶民の出の人が多いし…」
「俺等みたいに親が戦で死んで真面に暮らせなくなったのにも食い扶持手に出来るように王様と一緒に計らってくれてるし…」
「む…お…おおおおぉ…!」
岩の向こうの農道より立ち上ってくる自身を称賛する声に、白漂は頬が緩んで胸が高鳴っていく。
「…でもさー、名を上げた武功の中にはそもそもそれを上げた戦の始まりが他所の女の人にちょっかい掛けたのが始まりだってのも結構あるらしいけど…」
「それでさー、囲ってる女の人って髪や目の色が生まれつき派手だったり、背が高い大女が多い変わり者って話もよく聞くしなー」
(ぐはぁ!?)
だが、続けて子供らの口から出たその否定できない悪評は、高まっていた分に大きく落とし込んできた。
「…まー、中には他所からの宣伝もあるしこの時代ではこれくらい両極端な評価は普通ですよーー…ってあ、今日はそういうのが効きすぎる日だったか…」
同じく聞いていたジョゼは頬をポリポリと掻く苦笑を浮かべながらも慰めようとするが、当の白漂本人はその頭に載せられている彼女自身の実り豊かで形良い胸の感触も感じられぬまでの思考停止となっていた。
○秦国北部 中都市果豊 某酒場○
「…とまあ―、そんな感じで子供達がさー自分達で小屋一軒くらいの大きさはある大岩を見事に割っちゃったのよー」
「あーそうですかー、大昔の御先祖様達がー遥かにしに暮らしてた頃にー“ファラオ”って王様たちのお墓を作るための技術が役立って幸いですよー」
白漂が子供達の談笑の内容で機能停止した日の夕方、その農村らのこの地での中心にある果豊のとある酒場でジョゼ含めた竜騎の非番の隊員達は夕食を食べていた。
「…おー、それでよー御大将はそれからどうしたんだよー?」
「あー、どうにか再起動して今では練兵に出てる最中みたい」
「おー、それじゃーこれ持ってけよ」
そこでジョゼは帰り際に同僚から酒瓶を手渡された。
「ん? これってー?」
「叙瑛とシャンディがここ辺りで増えている高粱で作った“白酒”っていう酒だよ。薫り高いからこれを御大将に渡したらどうだい? 試食を頼まれてんだけど俺達だけじゃわからなくてさー」
「あー、ありがとうねー」
そのままジョゼは同僚から受け取った酒瓶を手に酒場を後にした。
(…綺麗な夕日、前の世界の“BETA”に更地にされる前のフランスや…ユーラシアもこんな夕焼けに染まった綺麗な大地を見られたのかしら…)
数分後、目的地を目指す中で農道を歩いているジョゼは、ごくありふれたその光景に前世の経歴から、感慨深い表情を浮かべていた。
(…“バビロン災害”が起きた後の…あの広大な死の大地と言うべき“海が干上がった後の塩砂漠”と違って、ここの砂漠も目立ちづらいだけで命はあるのねー…!?)
その農道から見える砂漠にも小さな羽虫が飛んでいる姿にジョゼは、この世界での命の豊かさを深く覚えるが、それを遮るように彼女の脳裏に異形が襲い来る記憶が甦る。
「…う…ぷ……今日は…もう早く彼と一緒に酒を飲んで寝よっと…」
戦場でも滅多に見せない青ざめた表情へ切り替わったジョゼだが、無理に笑顔を作ると農道を早歩きしていった。
○秦国北部 中都市果豊近辺 白漂軍仮説練兵場兼野営地○
「……ッ!」
夕日も沈んで寝息と見張りの物音だけが静かに空気を震わせている野営地の一角にある沈殿池兼溜池の水面上で、白漂はいつ転覆しても可笑しくない一本の丸太に立ち、静かにだが音の方が微かで後に続く速度で十星戟を振るい、水面から飛び跳ねてきた小魚を傷の一つも付けずに、丸太に括り付けられて水面に半分浮かんでいる笊に打ち入れた。
『…ねえ、漂…ちょっと…昔みたいな感じで…酒に付き合ってくれてもいい…?』
『あ、ジョゼ…よっと』
そこへ沈殿池の縁で育った茂みを掻き分けて、鎧衣装の夕刻よりましだがそれでも相当に青ざめたままの表情のジョゼが現れ、その姿を見た白漂は瞬時に踏んでいた丸太を蹴り上げるとその勢いで丸太を脇に抱え、彼女の傍らの陸地に飛び移り、まだこの時代にはないはずの彼らが知る言語で言葉を交わし始めた。
『…また君の方での前の世界のことが強く思い浮かんだわけ?』
『あーうん、ちょっと酒が足りなかったかもしれないから…もうちょっとそれに付き合ってもいいかしら』
『別にいいよ。もう自由時間で非番だし』
それから二人は沈殿の一角に駆けられた桟橋に腰を下し、水面にて足を遊ばせながら白酒で晩酌を始めた。
『…本当に、よく聞くと色々な時間軸があるんだね…。まさか…SF小説みたいに宇宙人が攻めてきて…それで冗談抜きに人類が滅亡の縁に立たされてる世界なんて…』
『そう言う漂が前にいたっていう、ソ連辺りを支配する帝国を治めるヴァンパイアみたいな人間以外の種族や魔法が珍しくなくなった世界も相当変わり種だと思うけど…?』
そのまま少々の間は白酒で晩酌をする二人だが、その二人の鼓膜を聞き慣れているが前世の価値観が残るが故の違和感を伴って震わせてきた。
『…え、えーーっと漂…これって…』
『まー…こっちがあれこれ入れ知恵して他所よりかはマシになったけど…娯楽なんて近代以降に比べればめっちゃ少ないこの時代だからねぇ…』
「ハアハア…! 甜どうかな…!」
「アアァ…❣ 前より熱さが増して…んぁ❣」
白漂とジョゼが苦笑いを浮かべて声がした茂みに気配を消して侵入すると、そこにはこの近くの入植地の村に住んでいる少年少女の年長組(但し十代半ば)が、ナツメヤシの傍でよろしくやっていた。
紀元前では十代半ばでの結婚は珍しくないし、如何せん死亡率の高い時勢なので速めに子を作るのが求められるので二人には理解出来た。
「…こ、宏ちゃん…❣ 前より逞しくなって…❣」
「当たり前だろ…! 何時でも槍働きの招集が来て手柄を上げられるように畑仕事の合間も鍛えてんだ…!」
『……っ…』
だが、その若いカップル二人の猥談の内容を受けて、ジョゼの表情に嫌な意味で慣れた翳が垣間見えた。
(…私が前に生きた世界も最前線地帯ではあのくらいの齢でもう戦場に立たないといけない子は珍しくなかったらしいし、大災害の後の西海岸だって…雫くらいの齢の子は大勢いた…けれど、今こうしてそうした子達が産まれる手助けをしている様な側に回ると、そうしてるくせにヘビーな気持ちばかりが強くなってくるのね…。私達がこの時代の物や技で再現したものも直ぐに戦争をし易くなるように大勢が使い通しているのが筋道だし…。けれど…かといってこの前に喚いて邪魔しようとしたけど趙兵の襲撃にあった際に助けを求めてきて結局殺された前の世界の活動家みたいにそういう技術の発展とかを戦争に使われるからと阻害しようとしたら大幅に遅れて…、芋づる式に全てが遅れてしまう。その状態で…また前みたいに“BETA”みたいな常軌を逸した脅威がこの世界でも生じたら…!?)
その身で再び強まり出した悪寒とその原因である葛藤にジョゼが苛まれそうになった時、バシャリと誰かが泉へ勢いよく浸かる水音が横槍してきた。
『ごめーん、何か頭が色々とモヤモヤしてきたから…次の仕事に差し支え出て紅華に怒られないように泉で眠って頭の中をスッキリさせるからー、その間の警護とかよろしくねー…グウゥ…』
ジョゼが泉に戻ると、白漂が褌だけの姿で溜池の椰子の葉で影が出来た浅瀬に半身浴で浸かって眠り始めたのだ。
(…あーもう、大身になっても面倒くさくなると不貞寝しだすのは相変わらずなんだから…)
石板を用いた昇降用斜面に頭を出して胸と肘から下は水に浸けて早々に寝息を立てだした白漂に、ジョゼは呆れつつも放置はできないので直ぐに影を帯びた思考は脇に退けて傍により、彼の頭を自身の膝に乗せた。
(…服を着てると細身に見えるのに脱ぐと本当に凄い体…この身に…私達は幾度となく守られて…!?)
その自身の膝に重く圧し掛かる白漂の身に、ジョゼは前世から文明レベルによる違いはあるが戦場に立ち続けてきた身から鼓動の強まりを覚えるも、それは彼の雄としての象徴を隠す布に行きつくと雌としての情欲も加わってしまう。
(…いやー、響もさー背丈も顔も子供っぽいわりにあそこは結構立派だったけど…漂は背丈が高いからってここは色々とストロングすぎるって言うか…!?)
まだ血が集まってはいないが水面越し及び布越しでもその大槍を思わせる肉棒に、ジョゼはやや引き攣った笑みを浮かべつつも嗜虐心を刺激されたのか指先を水に潜らせて褌の隙間の侵入してそれを掴もうとするが、亀頭に触れた瞬間にガシッと男の手に掴み取られた。
『…ちょっと、警護は宜しくって言ったけどー、そこから先は前の世界ならセクハラになるから』
ジョゼが気付いた頃には、彼女の膝の上より白漂がジト目を向けている表情が豊満な胸の合間より見えてきていた。
『それにさー、その節操なしの息子に勘違いさせるような真似をすると-この時代では襲われても文句は言えないぞー』
この状況に託けて愚息は脳に制御を掛けられていないのをいいことにブルンと跳ね上がり、布を突き破らんばかりの勢いでビチャリと水音をたてて潜望鏡と化したので、白漂は敢えてそれも絡めて釘をさす様な言い方をした。
『……ッ…別に良いわよ。手に届くところでいつ壊れても可笑しくない恩人を放っておくくらいなら…一時の慰みで抱かれる方がまだマシだわ』
『………ッ…』
だが、当のジョゼから返されたのは躊躇いこそ残るものの、強い意思を宿してはいるがその根底に強い後悔と哀しみを宿した女の瞳だった。
『…今はしてないけど…時々…声こそほとんど出さないけど凄く魘されてる雰囲気を寝ている時に出してるわよ。何か…苦しすぎて声こそ出せないって感じで…』
次第にジョゼは姿勢を入れ替えて白漂の頭を膝枕から適当に落ち葉を敷いた石畳の上に降ろすと、彼の身の上に被さって寄り添うように顔を近づけてくる。
『一番傍にいる紅華さんとかも言ってるわよ。戦場に意識が本気で集中しだすと…慣れているというより…戦い方が思い出していっている様な…けれど、凄く酷い戦場にいた時みたいな眼差しをしてるって…!?』
だが、ジョゼが慈愛深さと毅然とした表情で鼻先を触れさせようとしたところ、その白漂本人に腰を掴まれて勢いよく抱きしめられ、まだ迷彩柄ボトムに包まれてはいるがその足の付け根に潜望鏡を押し付けられて表情にドギッとした羞恥と驚きの色を滲みださせてしまう。
『…色々と決めた台詞噛ましてるけどさぁ…前の世界はともかく、こっちの君ってまだ処女でしょ』
『…あ、何か一気に普段の凄く微妙っぽい感じに戻った…まーそうだけど』
そして、ジョゼの頭を自身の肩に預けさせてその耳元に囁きだした頃には、白漂は彼女に気の毒そうなものを見る微笑みを浮かべさせた。
『そんな身でそこまで大見え切ったからにはちゃんと腹を括るように』
『…ッ…あーはいはい、さっきの雰囲気は台無しだけど頑張りますわよー(…こんな時でも、女の子の顔を立ててくれるのね…)』
一見すると女の好意に白漂が再び調子に乗り出したように見えるが、お互いに相手が自身を深く気遣っているのが内心ではわかっていた。
前の世界でそこ諸とも凄惨な終わりを経験している身であるジョゼは、自身が誰かの手助けになっている認識できる状況にこそ安堵感を覚えるようになっており、白漂は彼女の好意に甘えるように見せてエレンが自分の身で目の雨の相手を癒せてると安堵感を抱かせることを決めたのだ。
『…でもさー、あんだけ出来た奥様達にしばかれ続けてるこの身に抱かれるとー、茂みの向こうでまだしてるあの子達にも刺激が強そうだからー…帰ってからね?』
『まーねー』
但し、この場では最低限の良識を二人は維持できていたので、速やかに身なりを整えて場を後にした。
「…………」
その後姿を、茂みの中でこの時代でもやや早く大人への階段を駆け上っていた開拓地の少年少女の二人とは別の、更に幼いが故に深く陰鬱とした憎悪を宿した両眼が強く異なる茂みから睨みつけていた。
何というか、今回出てきたお姉さんってあの第二次大戦末期の枢軸国も真っ青な塩砂漠世界でよく気丈に振る舞えていましたよね。あの世界を生き残った人たちはいろんな意味で凄すぎます…。