それとヒロインの一人との技術交流が中心ですので、今回は大人向けシーンが無いです。
○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国北部 朔方郡近隣 始拓 開拓地 事件現場近郊農園○
「…何か見慣れない道具がまた増えてるなーおいー」
「あー、何か投石機や弩砲の他に…何か木棍の先端に縄が括り付けられたあれはどう使うんだろ?」
「何か投石用の石に混じって色々とよくわからねえ球体みたいな土器もたくさんあるし」
「また何かウチの大将達が色々考えだしたかなぁ」
色々とまずいネタが飛び出したりはしたが各部隊が集まり終えた後、他国からの秦国内侵入偵察部隊掃討の為に集まった各部隊(表向きは訓練)は各所への配置を済ませたが、その中で前線から戻って来たばかりの者達は新しい見慣れない道具が気に掛かっていた。
「ふふ、ふふふふ…実際にどう使うかはそれ含めて鍛えられた今期新兵達が扱う様子をご覧有れ。作戦が終わった後で皆さんにも指導がハハハ始まりますゆえ…!?」
「キャイイイイイン!?」
だが、オーモリが説明しようとしたところでその頭上を投槍が結構な速度で飛び越し、別の茂みに入って獣の悲鳴を上げさせた。
「? おい、誰だあそこへ勝手に槍を投げ込んだのは?」
「! す、すみません! あそこの味方がいないはずの茂みが妖しく揺れたのでつい反射で…」
「今の声からしてー…やっぱ野生の狼じゃな」
どうやら新兵の一人が投槍器(アトラトル)で槍を投げたらしく、茂みから取り出されたのは胴から槍をまともに受けて絶命した狼であった。
「何だよ、そんだけ投槍器付きで近くから投げたってのに貫通出来てねえじゃねえか」
「す、すみません勝手なことしてレキシントンさん…」
「何度も教えたってのに…普通に訓練したとおりにやりゃあ くらい飛ばせられんのによぉ」
呆れ顔のレキシントンが適当な方向へ投槍器で槍を投げ飛ばすが、それは轟音を添えて百メートル以上先の崖上へ豪速で飛び去った。
「皆が皆お前ほど飛ばせられるわけじゃないぞ。というか勝手に槍を使うな―――」
「…冴、冴侮綸殿ー!?」
「―――あ…え?」
それを目の当たりにして少々呆然とする周囲に対して羌瘣が見慣れた呆れ顔で窘めようとするが、それは崖上から響いてきた断末魔の悲鳴で遮られた。
「え…おい! 何かさっきレキシントンが槍投げした方角の崖上で何か武装した兵士が蠢いてるぞ!」
「たしかあそこに配置する隊は?」
「ありません!」
「よし、あそこにいる第五部隊と第八部隊に現場へ急行してあの集団の確認及び敵であった場合に必要な捕縛と討伐を指示。他の隊は訓練通りにあの周辺の逃げ道を塞げ」
「「「「「承知!!」」」」」
それを確認した白漂の的確な指示を受けて、白漂達は先ほどのギャグ漫画のような空気とは打って変わって、真面目な表情で即座に動き出した。
○数分前 秦国北部 朔方郡近隣 始拓 開拓地 某崖上○
「…そうか、他の皆は予定通りに配置に着いたか…」
白漂達が事件現場にて配置に着く数分前より、その身元を隠した謎の部隊は事件現場を見下ろせる崖上よりそれを盗み見ていたが、その彼らの中心にいるのは洋風の小汚い格好をした表情のうかがい知れない青年であった。
「はい、ですが…
「女子供が巻き込まれない戦なんて一度でもあるか?」
「で、ですがしかし…長平当時にはまだ秦にはいなかった者も多数いるようですが…?」
「生来だろうと他所からの移民だろうと秦人である以上は死んだ秦人だけが良い秦人だ。将来、身内を殺されたくないなら大人しく配置に付け」
その青年である冴侮綸の感情を全く感じさせない指示に、何名から躊躇いや反論を示すが静かな威圧に押されて黙り込んでしまう。
「…う、うーーむ…万極将軍亡きあとに長平の遺族や遺児を纏め上げる地位に着いたのが…あのような若人と知った時には心配だったが…」
「ですが実際、黒羊など秦各所での破壊工作の実績を見れば彼が一番適任ではあります」
「う、うーむ…さながら奇計にも富んだ万極将軍というべきか…」
「それも捕えた秦人を人質にしたり拷問にかけたりと、味方のこちらから見ても戦慄を禁じ得ない内容ばかりですが…」
「さすがは長平で子供の身で後方要員として参加するも、敗戦後に死体に紛れて隠れた目の前で捕虜になった父や兄弟を騙し討ちで射殺されて穴に埋められたとなると…ああなるものなのか…!?」
「!?」
だが、その威圧感に畏怖を覚えて渋々ながらも従った彼らの間を通り過ぎる形で何かが豪速で通り過ぎ、それは冴侮綸を驚かせるも悲鳴が上がる間もなく彼のフルフェイスメットを粉々に穿ち砕いて鮮血を迸らせた。
○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国北部 朔方郡近隣 始拓 開拓地 事件現場近郊農園○
「いたぞー! あそこだー!」
「武装からして盗賊ではないぞ! なるべく生け捕りにしろー!」
「やられそうになったら無理せずに殺せ! 話しさえできれば手足の何本かは潰しても構わん!」
時が数分経過して視点が秦側に戻ると、崖を取り囲む果樹園は秦兵側の大勢いる新兵部隊と教官達と一部の精兵達が取り囲み、その内部で精兵部隊が侵入してきていた偵察部隊を狩りだしていた。
「ええい! 何としても切り抜けろぉ! 向こうの方が秦のくそ共が少ないぞぉ!」
「迎え撃てぇ! 何としてもここから通すな―――!」
「逆! 第16大隊は一旦目前の敵を素通りさせろ! 止まった所を背から追い討て!」
「―――あってぇぇ!?」
だが、そうやって剣戟が交わろうとしたところで白漂は味方の各隊に奇妙な命令を下した。
「い、今だぁ!」
「秦兵は勝手に道を開けた所から抜け出ろぉ!」
「秦人め! この仮は後で必ず変えずべぇ!?」
それを見た敵偵察部隊は不審に思いつつも各所の空いた穴から抜け出ようとするが、その中で先頭を切っていた一人が樹上から落下した大石で頭蓋を粉砕されて絶命した。
「ぎゅあああ!?」
「あ、足がぁぁ!」
「腹がいてぇ!?」
それを皮切りに包囲網内側の各所で次々と矢が飛んだり、茂みに隠された杭に気付かず正面からぶち当たって腹部を穿ち抜いてしまったり、落とし穴にはまってしまったりと次々と侵入してきていた偵察兵の多くが陥っていく。
「…あーー、あそこら辺りは怪しいとは思ってたけど…やっぱり罠を仕掛けてたんだなー」
「しょ、将軍は何でわかるのです?」
「いや、普通の果樹林や茂みに比べれば盛り上がってたり、周囲と比べれば地面の色が新しかったりとか見ればわかるでしょ?」
「いや、こんな夜中の見通しが悪い状況でしかも初見の状況でそれやれるの異常ですよ」
「まーとりあえず鼠たちの勢いと逃げ足が大きくそがれたから、新兵達も実戦訓練という形で参加させて仕上げに掛かるよ」
「ハハ」
結局、そういう仕掛けなどには非常に鋭い白漂の前には、逆に仕掛けた敵側の方が掛かっていくという冗談ではない事態にしかならず、結局はこの晩のうちにこの地へ侵入してきていた敵偵察部隊の大半は討たれるか捕縛されたのであった。
○秦国北部 朔方郡近隣 始拓 拓景山城 大広間○
「…そういうわけであの晩で捕らえた敵偵察部隊はどうやら趙北部軍李牧派の将兵であるのが尋問で分かりました。どうやら連中を捕まえた地に仕掛けられた罠はこちらをおびき寄せて嵌めるために連中自身が仕掛けたようですが、どうやら秘匿を優先して未だ逃走中の趙軍偵察部隊指揮官とその一部の取り巻きだけで進めたようで、他は大半が知らなくて将軍が追い込みしている事にも気付かずに引っかかったという次第で…。作物泥棒についてはどうやらその逃亡中の指揮官がこちらをおびき寄せたりかく乱させたりするための一環で独断にてしていたようで…」
「そうか、じゃー今後も残りの追跡及び捕縛と追討と、捕虜の調査を続けて」
そうして侵入してきた敵国の侵入部隊を発見して交戦に入ってから数日後、作物泥棒とも関りがあると思わしきその偵察部隊の正体など今現在判明したことの報告を聞きつつ、白漂は信の居住地で事務処理を進めていた。
「それと今回の方を受けて趙北部の潜在的反李牧派から情報提供があります」
「どんなの?」
「どうやら李牧とは別系統ですがあの者とは横のつながりがある趙の別武将参加の隊が、今回の結果を受けて秘かにこちらへ向かいだしたようです。“司馬尚”と言う中規模領主傘下の部隊のようですが、これまた
「…そうかー、一応、紅武から索敵と捕縛にも通じている隊を○○くらい直ぐ派遣するように伝えて」
「は、直ぐに伝書鳩を出して伝えます」
白漂の周囲で文官と武官の何方も落ち着きつつも素早く動いていた。
(…今日も物々しい雰囲気が強いわね。このまま誰にも被害が出ずに終わってくれればいいのだけど…)
その事は今日の学校での仕事を終えて、この山城へ預けていた娘を引き取りに来ていた水谷にも感じ取れていた。
「お母さーん、おしごとおつかれー」
「あ、アーニャ、今日も良い子にしてたー?」
「うん、ステラさんが今日はべんきょうおしえてくれた―」
その水谷が引き攣れていたのはまだ5歳くらいと思わしい、この世界の純粋な血筋ではありえないピンク色の髪をした少女アーニャが現れた。
このアーニャこそが水谷と亡夫の間に生まれた娘で、水谷が仕事中には信達の白に預けている娘である。
「あ、そう言えば水谷さん、この近くの山に浴池(天然温泉)が見つかったんだって。次の練兵はその近くでするから、ちょっと机仕事要員で付いていって一緒に入らない?」
「あら、本当玲花さん。でもーアーニャがいるから…」
「じゃー私が口利きするから…」
「え、本当?」
「わーい、遠くにお出かけー」
ちなみに、このアーニャが後にある者達の運命を大きく変える切っ掛けになるなど、この時点ではまだ誰も知らなかった。
○秦国北部 対趙国境付近 某山林地帯○
「…全く、国境近くまで練兵名目で来させられただけでなく、こんな敵国の中に入らねばならんとは…、しかも来た理由が無理矢理我が主を中央に引っ張ろうとするも腹心の醜態で楚に逃げたあいつらを主とする北部の連中の身内が捕まったから、その救出兼大物見でここまで来る羽目になるとは…」
「上和龍様、そのような言い方は…」
「ふん、わざわざこんな敵地での愚痴なんぞ気にするまでの無能でもなかろう。最も合従軍の時から付きだした醜態の連続からして王騎や劇辛も評判倒れだったのではないか?」
「まーそうなのかどうかは実際に相まみえればわかりましょう。最も国境を越えてからここまで来ても気付いた連中がいない点からして、向こうも向こうでピンからキリまで色々いるようですが…」
「けれども何やら色々と奇抜な兵器が多いらしいから油断はするな」
アーニャが遠出できそうな雰囲気に沸き立っていた頃、趙との国境に近いその山林の奥深い地で、秦側の所属ではない鎧に身を包んだ一団がいて、その様子にはに敵地にいるものとは感じさせない砕けた空気があった。
「あー、仁お兄ちゃん! すっごいねこのお父さんの棚から見つけた筒みたいな道具! あんだけ遠くの人の表情まで見れちゃうよ!」
「あんま大きな声を出すな淡! 今度こそ狩りのついでに見つけたあの怪しい連中を見つけて報せた手柄で! この前の申し込んだらまだ若すぎるって理由で断られた軍への入隊を許可してもらうんだ!!」
ちなみにその様子を数キロ離れた別の山林より、まだ幼さが見える頭に羽飾りをした小さい童顔の兄と大柄な身で糸目をした弟の兄弟が望遠鏡で盗み見ている事に、一団で気付けた者はいなかった。
○秦国北部 朔方郡近隣 始拓 白漂軍野営地○
「…今日の油や燃料用酒類の調合結果は興味深いですね…」
ある兄弟が趙から侵入してきたらしいある一団を追い始めていた日の夜、始拓の地に敷かれた野営地にある技師系将校の為のゲルで、180センチ台の長躯も美点に変えるメリハリが効いていて且つスポーティーな引き締まりを持った肢体を持ち、黒髪を後頭部でお団子状に纏めつつもオレンジ色の長いモミアゲが特長的で、冷静さを感じさせる美貌をしたパクラが非戦闘時の日課である可燃物の調合や開発に勤しんでいた。
「…こちらが火を付けるのに時間はかかるけど、一度火が付けば長時間燃え続ける新型液体油で、こちらが主に照明で使う個体型油か…」
「ええ、そうです。どちらも貴方の発想が盛り込まれていますが…やはり面白いですね」
そのパクラによる新型可燃物の今宵の研究には白漂も加わっていた。
パクラは白漂軍主力の一つで粛尤が率いる第4軍(旧赤狼隊)で中核をなす堅充(秦国犬戎のこと)の出自で、彼の姪でもあるので可燃物には詳しく、所属する竜騎では戦闘員小隊長の他にも隊内での兵器含めた可燃物も担当していた。
彼女は白漂が将軍へ昇格した後で粛尤と
技術者としては竜騎所属の女将兵の中でも割と白漂と接触する機会も多く、白漂の前の世界の知識もある閃きは彼女にとっても有益な場合が多かった。
「…それでこちらの赤字で“危険”と書かれているものには何が入って…!?」
そうしたことでパクラ含めた堅充は居住地に原油が取れることもあって、様々な可燃物を開発できているのだが、その中の成果の一つが入ってるその特徴的な小瓶を白漂が取ろうとすると、パクラはハッとした表情でその手を掴んで止めさせた。
「いけません! それは以前にシャンディと共に燃焼性の高い酒類の研究をしていた時に生まれたものですが、極めて扱いが困難で危険な代物です!」
「…危険ってどれくらい…?」
その時のパクラの表情は冷静さを務めようとしつつも芯に深く抱いた恐れを隠し切れないというもので、白漂は前の生での記憶を良からぬ意味で刺激された。
パクラはその小瓶の中身を二つの小皿へ慎重な手つきで注ぎ、片方には圧熱筒(ファイヤーピストンもしくは圧気発火器のこと。空気を急激に圧縮すると高熱を発するのを利用した道具で、東南アジア先住民が考案したもの。前世の世界でのサバイバル研究で白漂が学んでいたものに含まれていて、子供時代の技術や手に出来る素材でも出来たので、泥竜では初期から量産されて今では秦中に広まっている。この世界での名称は泥竜メンバーが考えた)で火種を作って落とすと普通に火が付いた。
(…え、この感じ…良い意味と悪い意味のどっちでもすごい現象が起きる直前のあの感覚が…!?)
白漂の頬を細く小さくも一筋の汗が滑り流れたその時、パクラがもう片方の小皿を手に取って中身を零した。
「!?」
そうして零れ落ちた液体の一滴が床に落ちた瞬間、それは少量の質量からは想像できない強烈な閃光と衝撃波に爆音に変わり、白漂の両眼を見開かせた。
(…!? これは…今では咸陽で研究を極秘にだが大々的に進められている…”黒色火薬”と爆発は似ているけど…その規模は明らかに同質量のそれよりもずっと大きい! 前の前の世界の記憶で思い出せているものにはないけど…前の世界の斉陽で何度か出入りしたアルフレッド先生が何とか安全に扱えるようにしていたあの薬品と同じものだけど…何か引っかかる…!?)
「酒造りで使う糖の発酵液に、偶然で幾種類かの薬品が混ざった事で生まれた代物です。現在、“爆酒”と名付けて安全な管理法を研究している途中ですが…!?」
だが、白漂がその現象に記憶を深く刺激されて、その鼓膜をパクラの解説が深く震わせていたことで、二人の意識はその爆発の衝撃で不安定になって崩れ始めた大棚には触れる寸前まで気付けなかった。
「危ない!?」
「…あ!?」
白漂は気付けた瞬間にその爆酒が入った小瓶を外に向けて投げ飛ばしてゲル内での爆発を防ぐが、代わりに彼女の前で別の薬品や液体が満載した大棚が彼を押し倒した。
幸にも小瓶はゲルの窓よりすぐ下に広がる谷に吸われてそのそこで大きくも鈍い轟音を生じさせるにとどまったが、代わりに白漂は大棚に押し倒されたままピクリともしなくなった。
「将軍! 大丈夫です―――!」
「ぐ…むぅぅぅ…そ、それ以上は…肝硬変になるから…ぐううぅ…♪」
「―――う…か…?」
パクラがその恵まれた膂力で大棚を起こすが、当の白漂は瓶を口に突っ込まされた状態で酷く泥酔した状態にあった。
さっきの大棚の横倒れによる弾みで、その棚にあった酒瓶に入った酒類をラッパ飲みしてしまったらしい。
ちなみに、白漂がこの時に飲まされた種類はスピリタスレベルでアルコール度数の高いもので、酒類にもよるが酒に弱い白漂が瞬時に泥酔するのも無理からぬ話である。
「…と、とりあえず…寝所に運ぼうか―――」
「ぐぬうぅ…衝撃に弱くて爆ぜるならぁ…それに弱い液体じゃなくてぇぇ…日干し煉瓦みたいに固めればいいじゃな…いいぃぃ…♪」
「―――あ…寝言…?」
パクラは自身の不始末の責任も感じてか、白漂を肩から抱き起して彼を寝所に運び込もうとするも、その彼の口元から放たれる寝言の内容は、彼女の鼓膜には何故か重く感じられていた。
今回はNARUTO原作の方でチョイ役として出て、アニメの方で少し深掘りされていたパクラ(の同位体)が何やらすごそうな発見をしました。
次回は、今回出せなかった大人向け要素をこの子が出してくれる予定です。