※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は、あの大作三国志漫画のパロディシーンが中心で、それに絡めて新しい女の子が出てきます。


119.1 技術発展と難題発見は不可分●

 ○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国北東部 突蕨(現モンゴル ハンボグド) 蕨城○

 

「おいー! そこの車のは南方のガラン族が買い取る分だー!」

「三番沈殿池の匂いがまだ消えてねーぞ! 汚れたまま流してゲロ水をテメエで飲む気かー!」

『さー五番工房まで引っ張れー!』

 

 白漂達が燕との国境付近でまだ帰順していない部族の一つの攻略を終えて数日後、その地は秦語と北の民の諸言語が大量に飛び交い、何棟も立ち並ぶ工房より伸びでた無数の煙突からは煙が耐えず噴き出て、金属が精錬される物音か絶えず鳴り響いていた。

 

「…ほう、良い音を奏でている…」

 

 その地に対燕方面前線から帰路途中の白漂軍が通りかかり、そこに郭備と共に混じる彼の正室で副将でもあり、生まれの理由から金細工作りが趣味で特技であるペンテシレイアが穏やかな笑みを浮かべている。

 

「おお、お久しぶりです朔方侯」

 

 彼らの先頭を進んでいる白漂がその地の中心都市である蕨城の外壁正門前に辿り着くと、城門が開いて小太りとしていて背は低いが実直で利発そうな雰囲気を纏う文官が出迎えた。

 

「こちらも久しぶり留福(りゅうふく)。何か変わった事は起きてないかな?」

「特に目立ったことは…この地の城主様が踊れられるのを見る事が出来なくなったくらいでしょうか…それでは我々も仕事がありますので、申し訳ありませんが…」

「結構、こちらもそちらの仕事中で通りかかった身だよ。報告を聞きながら城の中を見て回りたい」

「それではご厚意に甘えてこの辺りで失礼いたします。案内の方をお残ししますので…」

 

 留福は白漂と短い言葉のやり取りを済ませると、スタタッと部下達と共に仕事場へ戻っていく。

 

「じゃあ、ここから先は私がご案内させて頂きます」

 

 そして、衛兵達と共に残ったその案内人とは杏橋であった。

 

「なして君がここに?」

「妊娠中ですが身はまだそこまで大きくはありませんし、技術的に指導したり情報の共有化を進めなくてはいけない都市も増えたので、まだ動ける間は他の方々と同様に各所を回っています」

「じゃあ、身体がきつくなったら直ぐに言うこと。それまではー…案内よろしくねー。他の皆は宿泊の準備を済ませるように」

 

 その後、皆が城内の宿舎に入ったり、そこから炙れた者達が城内外に野営地の仮説に取り組みだした頃、白漂達は杏橋達に説明されながら蕨城城内を回り出した。

 

「…城内の中心部で高く見えるのは反射炉の煙突だけど…その端にて新たに見えた太さを増しているのは?」

「あれは革商殿が中心となって設計して試作となった新型炉です。以前に貴方との書簡のやり取りで“高炉”と名付けられましたが…」

(…! という事は…少なくともこの時間軸の中華では表向きで初の高炉という事か…)

 

 城内で最も大きな比率を占めている精錬所区画で、新たに発見した施設を見た白漂はその正体を知って、思い出すと同時に驚きが生じた。

 高炉は白漂の前世や前々世においても、工業の中心となる鉄を生み出す上で中心となっている製鉄炉で、この時代の中華ではまだない代物であった(白漂の前々世に置いては既に前五世紀ごろに古代中国で生まれたという説もあるが、この世界の中華では白漂の知る限りまだの代物であった)。

 

「これなら鋳鉄の大量化が出来る…だけど、必要な木材も大量に必要だろう。土壌の劣化や土砂崩れはどうしているんだ?」

「周囲の木材の伐採と並行し、竹や松を中心に植林も進めて定期的に木炭を供給できるようにする体制を整えていました」

「だけど、ここまで来る途中で見た山や森林の相当数が果樹林だった。今は変更があるという事だろう。その分はどうしているんだ…?」

 

 そこで白漂の重なる問いの中で、城内で舗装されて無数に伸びている轍を通る貨車の一つが彼の真横を通り過ぎたが、その荷の小さな一部がコロリと零れ落ちた。

 

「…これは…石炭だが…掘り出された後で加工されているな…」

「それは石炭を高温で蒸し焼きにしたものである"骸炭"です。革商殿はこれを効率よく大量に製造する方法を見出しました」

「!」

 

 その既視感を覚える荷の正体を杏橋に教えられて白漂は表情こそ静かだが大きな驚きを覚えた。

 白漂が聞いたその名称は、彼の生きた前々世や前世で工業の基盤を成している製鉄で欠かせない“コークス”の別称であった。

 

「これなら木材を無駄に消費せず、地から無数に湧き出るも製鉄に使えば脆い鉄ばかりが出来る石炭の欠点を無くせました」

「待ってくれ。石炭を高温で蒸せば確かにより高温を出せる物質になる事は一部の人間は知っていた。だが、これを燃やせば出る高熱の火に耐えきれる炉は今まで作り出せなかったがために結局は使われずじまいに済んでいたけど…それに排煙が」

「それを可能にしたのがここでの革商殿でした。骸炭の火に耐えきれる炉を構成できる煉瓦を、この地で取れる土や陶土の研究から初めて実用化にこぎつけさせました…。他にも排煙も回収して分別出来る煙突の改良まで…」

 

 重なる問いに杏橋は丁寧に答えながら、工房一帯を守る城壁の壁上へ白漂達を案内し、城内を一通り見落とせる位置で言葉を続ける。

 

「そうした技術を実用化させるまでの間も…貴方も創世と改良に加わっている従来のやり方で周辺の賊や流民に孤児を従わせて引き込み、砂金取りで当面の生活をしながら人手を増やし、屯田を敷きながらそれに用いる琉宗たちの農法にも工夫を凝らして収益を増やし、それを他の人々にも伝播できる制度を整えて、人目に見えぬ罪をも自然と摘まみ取られていく…それで人々は軽くない労役に身を投じながら絶えず努力と思索を重ね…その中で共に新たな物や知に技を練り出していく…」

 

 そう言葉を続けていく杏橋の瞳には、白漂と出会ったばかりには見えなかった技を冴えさせることへの人としての熱意の光が宿っていた。

 

「…そうして生まれた余剰を持って金属の精錬技術の向上に取り組んでいた最中、炉の事故に巻き込まれて重傷を負い、それで寝込まれて瞼を閉じられるまでの間も…その事故の防止策や、精錬で出る人体に害をなす煙や汚水の除去に対策、利用法についてまで実にきめ細かい仕事を続けられました…」

「「「「「………………」」」」」

「…僕がこの北の地へ送られたのは6年前、それで革商がこの…当時は戦火の名残を見せる焼け跡や骨片が見える平原とシダばかりの山林、命以外全てを無くした孤児ばかりの流民しかなかった突蕨の地に来て、そのまま彼が残してくれと言ってきて僕が受諾したのは…頭満と合従軍を破った2年前の年だった…」

 

 周囲がその説明に込められたこの都市と、これを成した人物それぞれの意味の大きさを静かに感じ入っていた時、白漂は城内を見下ろせる望楼のテラスに腰掛けて懐かしそうな表情で空を見上げていた。

 

「…それが今や、未完のままに…それゆえに人々が自然に積み重ねて前へ進んでより大きくなり、その波を周囲へ波及させていく起点の一つである…人口三万を数えるこの大国の重要都市となって目の前に広がっている」

「………ッ…」

 

 その白漂の背を見る杏橋は、口元に微かだが確かな笑みが浮かび、目尻から細くも涙が流れ落ちていた。

 

「…この乱世で多くを潰されていくのが定石であった人間の可能性が…ここではそれを跳ねのける流れとなったんだ…ご苦労、革商」

「「「「「!!!!」」」」」

 

 その名を口にした後に白漂は市内に向けて拱手し、他の付き添い達も深い身の震えを起こしながらしばし続いた。

 

「いや!? 何をそんな人が死んでる様に語るんすか!?」

 

 だが、それは彼らが上っている望楼のすぐ下の階より立ち上ったその憤慨の咆哮で遮られた。

 

「あ、生きてた」

「いや! あんたも生きてるのは知ってただろ!? つーかまたノリでやっただろ!?」

「…あーうん、それはまあ…」

「そこは嘘でもそんなことないって言えよ!!」

 

 白漂がテラスよりぶら下がって下の階に身を乗り出し、ムードをぶち壊しにしたその咆哮の主を見ると、そこには首も含めて全身が太くてボールのような巨体に、金色の辮髪を伸ばして口元に煙管を咥え、サングラス風の眼鏡をかけている全身包帯だらけなミイラに見える男の姿がいた。

 彼の名は革商。

 泥竜第一世代の一人で白漂とは同じ齢であり、ここ蕨城を中心に突蕨をここまで叩きあげた工人出身の文官である。

 

「本物の焼き豚になったと聞いたから人がせっかく弔いの宴に火祭りまでしたのに無駄銭使わせやがって…」

「嘘つけ! テメエが事故起きたのを聞いた時に一緒に焼け死ねばよかったのにって言いながら酒飲んでたって話は聞いてんだぞ!」

 

 覆面越しだがうっとおしさ全開な眼差しを向けている粛尤とは、顔を合わせている間は罵り声が耐えないなど仲は悪い。

 

「大変ですー! さっき第一露天掘り区画から連絡来たんだすけどー! 何かやたら大きい金鉱脈が見つかったって―――」

「そんなんどうでもいいわ!!」

「―――ぇええええエエエエ!?」

 

 別時間軸ではオトユルゴイと呼ばれることになるこの地で、そうした革商と粛尤の幾度目かの口喧嘩が始まった。

 

 

 

 

 

 ○秦国北東部 突蕨(現モンゴル ハンボグド) 蕨城(現オトユルゴイ) 官庁宿舎○

 

「…いやーねー、初めてここへ来た時に良いシダがたくさん生えてるって革商が言ってたから有望な鉱脈があるのはわかってたけど…まさか金が取れるとは思わなかった…」

「その後で私が追い出されたのは納得がいきませんが…」

 

 数時間後、夕焼けで空が赤くなりだした時間帯にて、白漂はこの地での滞在先である官庁宿舎の縁側で、少し眉を八の字にしていた杏橋と共に苺を口にしていた。

 

「仕方ないだろ。革商の(この時代では彼が)考え出した方法で、鉱石から取り出せる金銀の量は従来のそれに比べて跳ね上がったけど、その新しい方法というのが水銀を用いるというものなんだから…」

 

 白漂が口にしたその水銀を用いて鉱石から金銀を取り出す方法とは実際にある方法で、高度な技術や薬品が無い時代では灰吹法と共に金銀を効率よく抽出することが出来た。

 だが、環境に悪影響を与える水銀を用いるので、白漂の前世や前々世では大規模な施設を用意できない国か、もしくは安全性が軽んじられる地域にしか用いられない。

 ここ蕨城では、先祖代々山師をしてきた一族で詳しい革商が送風や回収方法に(白漂の入れ知恵もあって)工夫を凝らしているので、この時代に置いては大幅に水銀の害は除去されている方だが、それでも危険性はないとは言えないし、何より妊婦である杏橋はなるべく近くにいさせてはいけないのである。

 

「だからこの辺りの周辺の農村は、彼の一族秘伝であるそうした害に対処するための毒出しに効果がある作物が多く植えられているのですが」

「それでも絶対というのは無いんだよ杏橋(…だけど本当にそういうのはこの時代にしえては異常に山師としての知識や閃きが豊かだな革商って…本人はこの時代の純粋な人間だけど、先祖に僕みたいなのがいたのか…?)」

 

 白漂達がいる官庁宿舎から見下ろせる大地は、彼らが来てからはここ北の大地でも大きく広がった農園が広がっていたが、その中で相当な比率をゴボウや玉葱、最近では西方から送られてきた作物の一種であるブロッコリー等と言った体内の毒蚋除去に効能がある作物が占めていた。

 

「君ももうその身じゃ直に前線の足を引っ張る事しか出来ないから、もう今日中に朔方へ戻して机仕事に専念させるように城主権限で決めてるから」

「あら、相変わらず容赦の無い時は容赦の無い事で」

 

 そうした作物を用いた御摘みを口にしながら二人は会話を楽しもうとしていた所で、思わぬ奇襲(?)が現れた。

 

「…し、失礼しまーす。お茶と茶菓子の補充をお持ちしましたー」

「ああ、そこに置いててく…!?」

 

 白漂達がいる縁側に現れたその小間使いは、面貌は全面を熱いガラス張りにされた円筒形状の頭全体を覆うフルフェイスメットで覆われ、全身もゴムに似た外皮に覆われた全身防護服を思わせる密閉式の白き衣装に身を包んだ異様であった。

 

「…NASA?」

「何を言われているのですか?」

 

 明らかにこの時代らしからぬその恰好を見た白漂の無意識のボヤキと、それに対する杏橋の突っ込みが再び空気を震わせた。

 

「…まーわからなければそれでいいとして、杏橋この子の衣装って…?」

「はい、鉱毒及び排煙、更に汚水対策用の身体防護服“毒絶超防被甲君”です。革商氏が開発したあれで肺炎や鉱毒などによる人体被害は大幅に減りました。後頭部についている長い管で鉱毒に汚染されていない外部と空気のやり取りが出来るという優れもので、金属精錬の火花による視力低下もあの頭部前面を覆う硝子製防護面で守りながら作業を行えるという優れものでして…」

「安全性が高まるのは見ればわかるけど暑いのは?」

「この地では不足がちな水を外部から引くのに使用している水道橋からの落水のカラクリで動く“癒風冷君”を同じく革商氏が開発しまして、現在は高熱が発生する炉などの傍の休憩室に設置されていまして…」

 

 この時代では異様に見えるその小間使いが茶菓子と茶を並べる間も杏橋による説明が続くが、その間に竜騎所属のセレーナ達が現れた。

 

「将軍ー、一つお話ですー。会わせたい子が一人いまして―ーー…ってあ、いた」

「!? セ、セレーナしゃん!?」

 

 セレーナの登場に防護服で身を包んでいた小間使いは驚いたらしくどもったが、その声は白漂に聞き覚えのある声だった。

 

「ん? この声…確かシルヴィ…?」

 

 だが、白漂がその名を口にしようとしたところで、セレーナがその小間使いの防護服の頭部分をスポッと取り外した。

 

「はい、正解♪」

「…え…?」

 

 セレーナに防護服の頭部分を外されて明らかになったその小間使いは、十代のスラヴ系特有の白い素肌に包まれ、髪はクシャクシャになった紙の様なウェーブ状だがそのくすんだ銀色と合わさって儚げな美しさがあってポニーテールにしていて、幼さが幾つか残りつつも深い青色の瞳と合わさった面貌はオドオドとした感じが目立つ表情で男の庇護欲を掻き立てる美貌をしていた。

 

「…真正面から顔合わせるのは割と久しぶりですよね二人ともー♪ この子シルヴィアも可愛くなったけど下も結構凄くなってますよー♪」

「あ…あ…あ…ふああああああ!?」

 

 にやついた表情で顔見知りであるらしい二人の面合わせをしたセレーナだが、その小間使いの方であるシルヴィアは顔を真っ赤にするとそそっかしい様子で逃げ出した。

 

「あ、その服でそこから飛び降りようとしたらアブな―――」

「グエ!?」

「―――あ…」

 

 そのシルヴィアが逃げていく方向が官庁区と他の城内内部を遮る段差であるから、白漂は彼女の危ない様子もあって引き留めようとするも、それらの境目となっている生け垣を彼女が勢いよく軽快に飛び越えた所で、その勢いで巻き上がったロープ型空気管がシルヴィアの首に巻きついて木の枝に引っかかり、彼女は首を吊る形となった。

 

「え!? なんだ!? あそこに首を吊ってるのがいるぞ!?」

「この町で自殺者? 珍しいなー」

「いや! 珍しがらずに助けろよ!」

 

 結局、その場は少々の騒ぎとなったが、シルヴィアはすぐさま降ろされて助かった。




今回、最後に出てきていたあの子は、あの愛と勇気の御伽噺的な成人向けゲームの全年齢向け外伝の一つに出ていた、病み系女性(のIF)です。
ちなみに、今回出てきた革商と粛尤の外見及び性格と関係の元ネタは、あの有名海賊漫画に出てた疫○と火○の二人です。
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