※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回は前回の渕さんの活躍の続きから入ります。
それと、今回も残念ながら成人向けSSの醍醐味はまた薄いです。


044 思わぬ遭遇の連鎖●

 ○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦二日目朝 趙国西部 黒羊 秦軍(白漂軍)右軍前衛○

 

「!!」

 

 黒羊右側河川地帯主戦場の下流側の端に、夜通しで迂回してきた渕達によって筏が繋がれて浮き橋が掛けられた。

 その上を猛進する信隊一角の先陣を切るのは、渕と同じく信隊副長の一人である玲花。

 その長く美しい両脚は水草の上を跳ねるカエルのように不安定な水面上の筏を駆け抜けていく。

 

「よ、よし! 玲花殿が来たぞぉ!」

「こ、これで決まったば!?」

 

 それに筏から趙側の川辺に移っていた渕隊も喜ぶが、そこで趙の盾兵に体当たりされて多くがよろけてしまう。

 

「お、おい! こいつらふらふらだぞ!」

「もっと大勢で当たれぇ! そうすればまた川に叩き落として筏も壊せるぞ!」

 

 そのことで趙側は渕達が筏を担いでの強行軍で深く疲労していることに気付き、上流から多くの兵が集まってきた。

 だが、それに渕は疲労でよろけている自隊の者達の先頭に立って鼓舞するように槍を構える。

 

「皆! 立ち上がって踏みとどまるだけでいい! それこそが今の我らが成すべき仕事だ!」

「そうそう! 渕さんそのまま立ち止まって腕を頭の上で貸して!」

「っ! 玲花殿ぉ!!」

 

 その渕の真後ろまで駆け抜けた玲花は、彼が自身の呼びかけに応じて突き上げた両の拳まで飛び乗り、そのままそこを起点に趙側の盾兵の真上に跳んだ。

 

「は……!?」

 

 その軽やかな跳躍に戸惑った趙盾部隊の指揮官は、勢いを乗せた玲花のブーツより展開したコマの軸足を思わせるジャマダハル型剣に鼻っ先から穿たれる形で絶命し、そのまま玲花は彼をクッション代わりに趙盾兵らの真っただ中に降り立った。

 

「な、て、敵しゅ―――!?」

「っ!!!!」

「―――うぶげぇ!?」

 

 それに真っ先に声を張り上げようとした至近の趙兵であるが、玲花がその足の剣をコマの軸のようにして身を華麗に且つ苛烈に回転させ、その勢いを乗せた四肢のカラクリ籠手より生やした刀剣で彼を始めに周囲の趙兵を細切れにし始めた。

 そのままの勢いで、玲花は四肢の一本を軸足代わりに次々と変えながら残りの四肢を舞踏の如く高速回転させつつ猛進しだし、対岸にいた趙兵を悉く肉片へと変えていく。

 

「ぎゃあああ!?」

「お、俺の手がぁ!」

「あ、足を引っかけて倒せばぁばばば!?」

 

 その血飛沫の旋風に周囲の趙兵の布陣は瞬く間に崩されだしていき、そこを玲花に遅れて浮き橋を渡ってきた彼女の部下達が乱入していく。

 

「馬、馬呈様ぁ! 下流の方からもう完全に秦軍に上陸されましたぁ! このままだとこちらまで挟撃されますぅ!!」

「何だとぉ!? 劉冬がいねえからってこんな早々と…ぅぐう!?」

 

 それを部下の報告で知って驚く馬呈であるが、その隙に信の矛が彼の左太ももを深く切り裂いてしまう。

 

「馬呈様! もうこれ以上は戦線が持ちません! それにその傷ではもう踏ん張りが利けませんから戦闘も続けられません! 退きましょう!」

「ええい! くそがぁ!!」

 

 血が迸る左太ももの痛みに口元をゆがめながらも、馬呈は馬の踵を変えて森の奥へ退きだした。

 

「ああ!? 逃がす訳ねえだろ―――」

「ちょい待ってー。渕さんたちの疲労が深いままだしまだ追撃に移れるだけの兵は渡り切れてないし、今回は追える敵だけの追い打ちに止めて味方の川越えを優先しましょう」

「―――おおぉ…!? ち…!!」

 

 それを先ほどまで徒歩で矛を振るって相手していた信がすかさず追おうとするも、下流より薄くなった敵陣を突破して駆けつけた玲花に止められた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦二日目正午 趙国西部 黒羊 中央丘秦側○

 

 信達の活躍で秦右軍も大きく戦局を有利に進めさせだして数時間後、秦趙両軍が今回の合戦で最重要地と位置付ける中央丘でも激戦が繰り広げられていた。

 

「ふん!!」

「せいや!!」

 

 中央丘の左側では五千人隊を率いて伍鬼とその副長にして妻でもある鼎寧が各々の得物を振るい、遮る敵を軽々と両断もしくは粉砕して押し込もうとしていた。

 

「田有は騎馬五百を率いて姉さんが広げた穴の右側から丘頂上に近い敵弓兵隊をすりつぶして。竜川はうちの人に突破されつつもどうにか逸らした敵を掃討することを第一にしつつ他にはー…」

 

 そうして生じた綻びを理査は有効活用してくるので趙側の被害が大きくなっているが、それでも丘の占拠度においては対峙している趙軍は中間線を維持していた。

 

「ええい! 怯むな者共ぉ! 蛮族上がりの山猿と野犬共を返り討ちにしてやれぇ!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオ!!」」」」」

 

 同僚である岳嬰を討たれつつも奮起し直している、慶舎副官の片割れ金毛の指揮で損害を出されつつもどうにか中間線を維持していたのだ。

 一方、秦から見て中央丘の右半円は大きく戦況が傾こうとしていた。

 

「「「「「うわああああああああああ!!」」」」」

 

 中央丘右半円側は秦中央軍が優位に推し進めつつあり、そこの指揮を執っている者も秦での有望な若手であった。

 

「今度は各録の隊をあの左から二番目の段差に突入させて。そうすれば中央から左右の趙軍にうまく嫌がらせしてる郭巨丙の隊が横腹を突くから」

「うおおお! 了解しやしたぜ羌瘣隊長!!」

 

 右半円側の秦軍の指揮官をしているのは羌瘣であった。

 凛々しくも凄烈な剣技を前線で振るいながら指揮を執る彼女の姿は否応無しに味方の士気を高めさせる。

 

「隊長! 右の樹海から報告が…!」

「川越えに成功して押し込んでいるから合わせて押し出せって?」

「!? な、何でそれを知って!?」

「樹海の木々の揺れ方を見ればわかるだろ。まーいい、泰と約を後ろから引っ張ってきて」

「お、おお!!」

 

 但し、本人はその事には自覚は乏しく、迫りくる敵を斬り飛ばしながら戦況を正確に先読みして指示を的確に出し、更に味方の高揚を上げていった。

 

「…く、な、何という連中だ! 土地勘は本来こちらにあるのに…まるで地元のようにここの地形を逆用して…我々とは似ても似つかぬ戦法でこちらの手を初動寸前で悉く食いつぶしてくる…!!」

 

 それとは逆に羌瘣五千人隊と対峙している趙国紀彗軍の将軍の一人海剛は険しい表情を浮かべていた。

 

「だ、駄目です! これ以上は最低防衛線まで直に食い破られます! 至急に他から援軍を…!!」

「た、戯けたことを言うな! 二日目早々に紀彗様にそのような負担を掛けるなど―――!?」

 

 味方の余裕のない要請を海剛が却下しようとしたその時、彼らの背後からキレがある銅鑼の音が盛大に鳴り響いた。

 

「っ!? あれは…!!」

 

 その銅鑼の音にただならぬ気配を感じた羌瘣がそれを響かせてきた趙側の背後の崖上を見やると、そこには精強な威厳を醸し出す馬上の武将が衛兵を引き連れた姿で現れていた。

 

「「「「「…き、紀彗様ぁあああああああああああ!!」」」」」

「っ! あれが…離眼の城主…!」

 

 そして、その姿を見た趙兵の多くから苦境を感じさせぬ歓声が立ち上り、それから上がった名に羌瘣は聞き覚えがあった。

 

「泰と約は改めて中間に留めろ。それと守備陣形で中間まで遅延後退で移る」

「なっ!?」

「風向きが変わるぞ」

「は、はは!!」

 

 そのまま羌瘣の指示変更に兵達は戸惑いつつも素早く従い、守りを固めながら後ろ足で退き始めていく。

 

「出ていけぇ侵略者ぁ!!」

「黒羊からたたき出してくれるわぁ!!」

 

 そこを趙兵はすかさず追い打ちを仕掛け、秦側の前衛たちはそこまで出血はひどくはないものの戸惑わされる。

 

「な、何だぁ!?」

「こ、こいつら急に!」

 

 その勢いに秦側の前衛の兵で少なくない数が蹈鞴を踏まされ始め、羌瘣の見立てよりも早く押し込まれそうになりだす。

 

「た、隊長! これはちょっとまずいぞ!!」

「慌てるな。あの目立ちたがりの楕円馬鹿がこの状況を見逃すものか…お、来たぞ」

 

 それに慌てだす側近の言葉を羌瘣が窘めた直後、趙側の左手に見える崖上の茂みが大きく揺れた。

 

「ひゃっほーーーーーーーー! 俺がいないと駄目な感じじゃん羌瘣いいぃーーーー!!」

「「「「「ウオオオオオオオ!!」」」」」

「「「「「ぐああああああああ!?」」」」」

 

 その茂みより郭巨丙が現れ、歓声を上げながら崖を整然と駆け下りてそのままの勢いで趙紀彗軍の横腹を奇襲しだしたのだ。

 更に、郭巨丙が降り立った箇所は両側を岩場が挟んで通り道が細い窪地になっている囲地となっており、彼はそこを占拠して間を通っていた趙軍の横腹を削り出した。

 

「おお、相変わらず癪な態度だがいい動きするぜ“怪童”!!」

「ぐふふふふ、このままここの流れを再び俺様の力で秦側に持っていき…そいでうまそうな臭いに釣られてきた慶舎の首を…!?」

 

 裾側の岩場の高台に馬で飛び乗った郭巨丙はニヤリと笑みを浮かべるが、そこで彼は自身が来た道より新たな敵の気配を感じとった。

 

「「「「「ウオオオオオオオオオ!!」」」」」

「ぐあぁ!?」

「は、背後から!?」

 

 郭巨丙隊と同様に紀彗達が断崖を駆け下りて、急斜面側の岩場に布陣していた郭巨丙隊の左陣を背後から急襲してきたのだ。

 

「はぁ!? 石の都にあの斜面を下りきれる奴がいたのか!?」

「慌てんじゃねー! こっちに出来る奴がいれば向こうにも程度の差だけでいるのが当たり前だバーロー! あの先頭切ってるキザ親父が例の城主だな!!」

 

 そのままの勢いで崖側の岩場から部下達を蹴落とした紀彗目掛けて、郭巨丙は柄同士が丈夫なワイヤー状の縄で繋がれた双剣を構えて馬を走らせた。

 

「その首貰いいいぃぃ!」

 

 そして、近づいた所で縄から回して流星錘の要領で左側の剣を斜め上より投げつけた。

 

「そんな奇ばかりの技は通じん…!?」

 

 それを紀彗は矛を勢い良く振るって弾き飛ばすも、その刃が斜め上に振りぬいた所を狙って郭巨丙はその反対側の斜め下側より右側の剣を勢いよく振り向ける。

 

「貰った―――」

「っ!!」

「―――あってなあああにいいぃぃぃぃ!!?」

 

 だが、郭巨丙が浮かべた必殺の笑みは、その根拠である剣が身を斜めに大きく瞬時に逸らした紀彗の頬を軽く裂いたことに留めたことで驚愕に変わってしまう。

 

「郭巨丙! 陣が乱れていた紀彗本軍ももう戻るでおじゃる! 今日はここで退くでおじゃる!!」

「ちぃ! 野郎共ぉ退くぞーーーー!!」

 

 そこで崖側の岩場の秦軍を指揮していた郭巨丙副官である天然パーマのモヒカン風ヘアーの男が駆け寄り、彼らは羌瘣隊と連携しながら中央丘の右半円の中間線まで瞬く間に退いていった。

 それから夕暮れとなって互いに自然と矛を下げ合うようになった頃には、中央丘の占拠面積比率においては両軍共に五分五分であるものの、中央丘の両側に位置する樹海の戦場は白漂軍が大きく押し出してきており、全体としては秦軍有利のままで二日目も終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 ○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦二日目夜 趙国西部 黒羊 秦軍(白漂軍)左軍後方某所○

 

 戦場とは死人や負傷者が出る故に、否が応にも衛生に気を払わねばいけない場所である。

 その中で、負傷者の治療にも重宝されていてこの時代の中華でも重宝されていたある場所がここ黒羊で秦軍によって発見された。

 

「ほえ~~~~~…まさかこんな樹海でも“浴池”に浸かれるなんて~~~」

 

 河了貂が湯気を立たせながら身を付けているその場所の浴池とは、現代で言う天然温泉であった。

 無論、そこは各隊から女性間の小話ネットワークを通じて集まった白漂軍所属女性衆で肌色の海が出来上がっていた。

 女性が男性とはけた違いに美容とそれに効能のある事物に目敏いのは戦場でも同様のようである。

 

「見つけたのがペンテシレイアの所らしいからな。その点は感謝だ…む? 何か暗くよどんだ殺気を感じるが…!?」

「…………」

 

 同じく湯に浸かっているバトゥが場にそぐわぬ殺気を感じて火照った身を抱きしめるが、その背後の岩陰には同じく入浴中ながら胸元まで布で隠して虚ろな双眸を浮かべている羌瘣の姿があった。

 

「………………それにして、経緯を調べても納得が行かないわね離眼の話…」

 

 但し、大半が気の抜けた表情になる中で少数はこの場でも仕事に付随する思考を走らせている者もおり、右軍から激務の疲れを癒すためにも来た叙瑛もいた。

 

「…ん? どういう意味なの?」

「自国の領主同士で何年も武力衝突を繰り返していたなんて…閉鎖的な王宮での上層部の権力争いでもないのに。今どきの秦ではせいぜい以前の流民流入地帯の無国籍地帯での内ゲバが精々でしょ。幾ら僻地で趙が秦ほど中枢の統制力が強くないからって正式な領主同士で内戦というのは…」

 

 叙瑛は嬴政即位翌年に起きた成蟜による謀反は情報統制の影響で知らない故に、奇妙そうな表情でその考察を口にする。

 

「…あーーーー、言われれば…」

 

 その事を承知した上で叙瑛の言葉に河了貂は共感を示した。

 実際、秦に比べて中原と呼ばれる中華中央部の国々は王権というのは実は強くなかった。

 秦は地理的な位置から中原からは西戎呼ばわりされることもあるが、始まりは時の中華の覇権国たる周が首都を鎬京から洛邑に東遷する際に、功を上げた当時の当主が周王に正式な諸侯に任ぜられたのが始まりであり、それなりに歴史ある国である。

 その後は蛮地であるが故に大きな敵対勢力もなかった周辺を併呑して領域を広げて城邑も一から国が育てていった例が多く、更に異民族起源からか新しい文物の吸収にも抵抗が少なかったおかげで、改革も推し進められて今の大国としての地位を築けたのである。

 それに対し、この時代では俗に中原と呼称される魏趙韓三ヵ国は成立以前より発展していた黄河中流域の大国晋を家臣が簒奪し、その旧領を分割して成立した新興国だ。

 だが、文化的にも産業的にも充実していた中原を抑えていた三者は早期から国として軌道に乗ることは出来たが、逆を言えば秦燕楚といった広大な後方を抱える辺境国と違って国内は開発の余地に乏しく、故に国を広めるにはほぼ戦争しかないという弱みを抱えてしまっていた。

 更に、元からある程度育っていた城邑の連合体として成立したために、そうした各地域の有力者は後援者でもあるので影響力が強く、下剋上の際に彼らの助力を得ていた三国の王らは彼らにも相当配慮せねばいけないため中央集権という意味では秦に比べて権力が弱かった。

 そうした事情を考えても過去の離眼での悲劇を始めとして同地域一帯の趙国内での不遇さは可笑しいと叙瑛は言いたいのである。

 

「…何年も自国の領主の数万規模での武力衝突を只の地方での内部抗争としか見ていなかったなんて…それに周辺の城邑を能動的に先制攻撃し続けていたっていう暗何の方は当時ほぼお咎めなしだったなんて…。それに…それなりの規模を持つ西貴軍も離眼に比べて主将らの情報がほとんど分かっていないというのも気になるわ…」

「北だったらそんな馬鹿な上なんか見切りつけて他所に早々流れてるよな。秦の方は王様は器量があって相国も目利きあるけど互いに権力争いしてるらしいからある意味ではもっと性質悪いけど」

「おい、カンナあんまそう言うことは口には…?」

 

 そこで整った面貌をしているが断髪した不規則的な青いショートシャギーで煙管を吹かし、長躯を持つ女将校の一人カンナが会話に加わるが、河了貂がそれを咎めようとしたところで木工品が岩肌に落ちる甲高い音が邪魔するように響く。

 

「……ん? 誰………!?」

 

 話を遮られる形になった河了貂が気を取られてその音がした方向を見やるが、途端に彼女は言葉が止まってしまう。

 

「…あ、申し訳ありません。慣れない道具ですから…」

 

 そこには艶がある黒の長髪を腰まで伸ばし、深い琥珀色の瞳を携える切れ長の双眸で凛とした美貌を形作る、美人に対し目が慣れている河了貂の息も飲ませる美女がいた。




この時間軸では信達の成長が原作より早いので、その分の割りを食わされる形となってる紀彗軍の皆さん。
次回は、その紀彗軍のある方の久々の登場に絡めて、今回の章のあるオリキャラの身の上話に入る予定です。
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