○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦十五日目朝 趙国西部 黒羊 中央丘○
「………ば、馬鹿な……」
騒ぎを聞きつけて中央丘内部を移動してその現場にたどり着いた金毛が目にしたそれは、彼に自分自身の双眸を疑わせる光景だった。
「こんな……ことって………」
金毛とはやや離れた地点に立った姫昭もその光景に唖然としていた。
「い、急げぇ!」
「早く故郷に戻るのだぁ!」
「紀彗様達をお救いするぞぉ!」
「離、離眼のようなことをまた起こされてたまるかぁ!!」
白漂軍による情報攪乱攻撃によって、中央丘を守備していた離眼兵の大半が制止しようとした趙国中央兵を押しのけて大脱走を起こし、それに西貴兵も多くが釣られて中央丘を下りだしたのだ。
その数はもはや黒羊に集結した趙軍の残存兵力の過半数を占めていた。
「す、すげえ! 本当に趙の連中が丘を捨てていきやがった!」
「中央が面倒な砦化せずに手に入るぜぇ!」
「あいつらにはまだ手を出すな! 離眼や西貴の連中の大半が中央丘から十分に離れてから攻撃を開始する!」
それは大脱走を起こした趙兵らを素通りさせるため道を大きく開けつつも、包囲網を敷いていたままの秦軍も確認しており、将兵達は自軍側の計略が大当たりしたことに歓喜の声を上げ、これから来る大勝の気配を強く感じて震えが回っていく。
「く、くそぉ! 秦軍めまんまと嵌めおって!」
「連中が抜けた穴に配備を急げぇ! 砦はほぼ完成しておる!」
当然、中央系の趙兵達はもうそれ以外の味方を押しとどめることは不可能だと悟り、何とか完成直前の砦を利用して死守を目論む。
「…白漂将軍! 離眼及び西貴の軍勢の大半はほぼ統制が取れてない状態で丘を下り切って影響圏外まで退いていきました!」
「…そうか、それでは………!!」
数十分後、中央丘の趙兵の半分以上が消えた頃になると、熱気球は地上に引き下ろされて、白漂は地上に戻ると本軍へ移動し、中央丘を見上げられる位置へと馬上で上って手を掲げた。
「全軍! 総攻撃!!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」
そして、白漂が挙手を勢いよく振り下ろすと同時に発せられた号令に応じ、中央丘を取り囲んでいた秦軍が一斉に総攻撃を開始した。
「火は使うなよぉ! 代わりにこの何日の睨み合いの間に煮炊きとかで出来た灰を詰め込んで投石機で撃ち込めぇ!」
「弩砲は上あたりの指揮官に長矢を連続で撃ち込め! 連中の残りは少なくて防衛線は薄いから一カ所でもぶち抜けばそこから一気に切り崩せる!!」
「ぎゃああ!?」
「め、目がぁ!?」
瞬く間に飛び道具を用いて趙兵を殺傷していき、梯子など攻城兵器を用いて中央丘を攻め上がっていく秦軍。
母国防衛が掛かっている趙国中央軍は必死に防衛戦を繰り広げるが、如何せん西部兵達が抜けたことによる兵力差はいかんしがたく、短時間で何カ所も押し切られて防衛線が崩壊し始めた。
「き、金毛様ぁ! だ、駄目ですぅ! もうこのまま守り続けても押しつぶされるだけです! 数と力のどちらも差が開き過ぎましたぁ!!」
「く…お、おのれぇ…! 止むをえん! 残存している各隊を纏め直せ! 秦軍の厚みが薄いあそこより突破をぉ…!?」
金毛は苦渋の決断を下そうとするも、そこで彼の背後にある中央丘の上部より大きな破壊音と悲鳴が味方の死体と共に巻き上がった。
「…!? あ、あそこは…ま、まさか…!!?」
金毛が不安も滲ませた表情で背後を振り返ると、そこには慶舎がいる本陣とその地を荒らす赤狼隊の姿が見えた。
「あ! 信! あそこ…!?」
「!? チィ! 粛尤が良い所どりしやがった!!」
金毛よりやや下の所まで突き進んだ信達はその光景に歯噛みし、それを指さして報せたステラの両眼には血で濡れた大斧と包帯だらけで呻き声を上げている慶舎をそれぞれの手に持つ粛尤の姿が映っていた。
○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦十八日目朝 趙国西部 某街道○
「ハアハア! くそ! 大戦中にまさか暗何の連中に嵌められるとは…!」
「おい! 劉冬! あんま無理するとまた傷が開いちまうぞ!」
「馬呈! そんな悠長なことを言っている場合ではない!!」
黒羊の中央丘で開戦時誰も思ってもいなかった結末を迎えてから三日後、劉冬と馬呈は必死に馬を走らせており、その背後を黒羊より脱走していった離眼兵達が必死に追っていた。
二人は主君より遅れて暗何に連行されている最中に、黒羊から暗何唐家の陰謀を聞きつけて大脱走を起こした部下達によって救出され、黒羊防衛戦敗北に衝撃を受けつつも主君たる紀彗も救うべく必死に馬を走らせている最中だった。
「しょ、将軍! 紀彗様を乗せた馬車が見えました! この先の断崖の下の街道を進んでいる模様です!」
「よし! 急ぐぞ!」
先鋒から戻ってきた伝令の報告を受けて劉冬達は遂に主君の居場所を知り、更に馬脚を早めさせた。
「……よし! 追いついたぞ…!?」
そして、ほぼ先頭を切っている劉冬が崖の上まで進んで見たものは、崖下で止められた馬車とそれに対し明らかに殺気を込めた刀槍を向けた趙兵達の姿があった。
「…た、隊長! 本当にこんな所で処刑してよろしいので!?」
「構わん! どのみち離眼の領民を人質にして謀反を吐かせるつもりだったが連中が気付いて黒羊を離れてこちらに向かっているという報告だ! くそぉ! せめて最短の道が近ごろ起きているという橋の火災や山道崩落などで使えなくなってたりしなければ…ここで首だけでも持っていく―――」
「そうはさせるか貴様ぁ!!」
「―――うぎぃ!?」
そこでの隊長が戸惑う部下達を怒鳴りつけて陰謀の一端を口にしたその時、崖を勢いよく下ってきた劉冬がその口から斬り飛ばした。
「うわぁ!? 離、離眼兵だぁ!?」
「紀彗様をお救いしろぉぉぉぉ!」
「もう遠慮することはねぇ! やれテメエらぁああああ!!」
「「「「「ウワアアアアアァァアアアア!!」」」」」
言いがかりをつけられて嵌められ、更に敬愛する主君まで奪われる寸前であった離眼軍は数の差もあって趙国中央からの監査役部隊を瞬く間に殲滅した。
「……ハアハア! た、助かった…二人も無事だったか!!」
そして、牢屋型馬車より逃走されづらくするように食を制限されていたのか鎖につながれてやつれていた紀彗がどうにか離眼兵達によって救出された。
「城主も身に大事が無さそうで良かった!」
「だ、だがそうはゆっくりしてられそうにありませんぜ! 三日前にウチと西貴からデケぇ黒煙が吹き上がってて何やら異変が起きているようです!」
「……? いったいこの数日の間に何が起きた!?」
「じ、実は……!!」
それから追いついてきた離眼兵達によって紀彗が黒羊から引き剥がされてからの情勢が説明されるが、それは疲労していた彼に絶句させるには十分すぎた。
「…まさか、あの時に行方知らずとなっていた唐一族の残党が今の宰相と組んでこの大事な戦の間に復讐を謀ってくるとは……!!」
「はい、秦軍は何処からかそれを嗅ぎつけたようで…それを煽る形で我々がいない間に残されていた兵達を自ら黒羊より退くように追い込みました…!!」
「現在、西貴と離眼から黒煙が噴出してそれに不安が頂点に達した兵達に押されて向かっておりますが、まだ詳細な情報が入っておらず……」
あまりに予想外且つ余裕の悉くを奪われていった現状に、知らされた紀彗は視界が闇に包まれていく感覚に襲われ、報せた部下達も改めて自分達の未来に暗雲しか見えない状況に再び頭が項垂れた。
結局、詳細が伝わらない故郷の安否を確かめることを優先し、重い足を急がせるしかなかった。
○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦十八日目昼 趙国西部 黒羊 中央丘○
「……え、えーー―っと…もう一度ご説明してほしいのですが……?」
紀彗と馬呈及び劉冬達の再会から数時間後、咸陽から訪れてきた文官達が丘の一角にて目を丸くしていた。
「…いやですからねー、さっき説明したとおりにそっちが来る三日前に当の趙軍は身内の問題で内ゲバに走ってそのまま戦を捨てたのでー、ここ黒羊の戦の決着はついたというわけでして―…」
(((((…えええええぇぇえええぇええぇえええええええええええ!!?)))))
それを相手にしている郭備のやや言い辛そうにしている解説に、現実に脳がようやく追いついた文官達は内心で顎が外れそうな驚愕に陥ってしまった。
彼らの正体は咸陽にて戦局を注視している一人である李斯の命令を受けた呂不韋派所属の監査官達だった。
先の屯留での謀略失敗を重く見た李斯は、その張本人である白漂が今回の黒羊攻略戦十日目でした同地要所の中央丘撤退を口実に、趙軍との内通の疑いありとしてその捜査を名目に彼らを送り込んできたのである。
良くて内通の証拠を見つければそれを口実に嬴政派の有力武将である白漂を潰せれば良し、無くてもそれらしい疑いを見つけて撤退に追い込んで地位低下に繋げられればという算段であった。
だが、到着したその日にあろうことかその敵軍が内部分裂を起こして既に撤退済みという報せを受ければ、その目論見は実質破綻したと彼らに思わせるのも無理からぬ話であった。
「そ、それでは現在ここ黒羊はどうなっておるのです!?」
どうにか言葉を取り戻した文官達は一応表向きの用事を進めていく。
「あー中央丘要塞化でしたら要塞化工事は趙軍がほぼ終わらせてるんで、こっちは調査と軽い手直しくらいで今は趙側の外れの二丘の要塞化が主軸になってまして―…」
「郭備様ー、降伏した趙兵の整理が終わりましたー。書類の見通しと署名をお願いしたいのですがー」
「そ、そう言えば白漂将軍の方はいったい!?」
「あー白漂将軍でしたら樹海戦の方は一段落しましたけど、まだ黒羊戦自体は終わってないのでその仕上げに行くと樹海の外へ軍勢割いて…」
だが、それで現状を問い詰めても更に彼らの理解がすぐには追い付かない情報が出るばかりであった。
○秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦二十日目昼 趙国西部 離眼○
「き、紀彗様ぁ! 離眼城が見えてまいりましたぁ!」
「…! やっと着いたか…皆はどうなって…え…!?」
暗何へ続く連行から救出されて寝る間も惜しむ猛スピードで進み続けた離眼軍であったが、彼らの暗かった意識は故郷の姿が明白になるに連れて戸惑い混じりの喜びに変わっていく。
「き、紀彗様だぁ!」
「やっぱり無事だったんだぁ!」
「謀反を起こしてたなんて嘘ですよねぇ!?」
たどり着いた離眼は確かに戦災の名残はあるが軽微に見え、人々の表情には不安から解放された明るさが強く出ていた。
「お、おい、これは何が起きたのだ?」
故郷が思ったほど被害を受けていない状況に戸惑う帰還兵の言葉に応じるように、離眼に留まって統治代行を請け負っていた長老衆が進み出てきた。
「…そ、それが紀彗様、実は………」
長老衆がこうなるに至った過去の回想を帰還者たちの前で始める。
○五日前 秦始皇8年(紀元前239年) 黒羊争奪戦十五日目早朝 趙国西部 離眼○
「ふああああ、早朝の見張りはきついなぁぁ…」
「お父さーん、このお守りちゃんと出来てるー?」
その日は、暗何で唐一族残党による紀彗派謀殺の陰謀を離眼派兵士達が聞きつけ、秦国工作員らによる火災に乗じて黒羊に向けて出発した日の五日後でもあったが、前線から離れている離眼の人々は主君の勝利を信じてまた起床していつもの日常を送ろうとしていた。
「…ん? あれは…?」
「どうした?」
「何だか…暗何の方角から味方の軍が現れて近づいて来てるぞ…?」
「え?」
だが、その日常が再び大きく変る兆しは予想外の形でやってきた。
「聞けー! 我々は邯鄲より参った監査団の一隊であーる! 貴様らが真に趙国民であるならば速やかに門を開けーい!」
「お、王都の紋章!? わ、わかりましたー! 速やかにお開きしますのでお待ちください!!」
あろうことか嫌な記憶の一つを飾る邯鄲からの兵団が姿を再び姿を現し、それに離眼側は機嫌を損ねる真似はまずいと速やかに門を開けた。
「…遠路はるばるご苦労様です。それでは今回は如何なる御用で…のわぁ!!」
だが、留守役の代表達が城門を大きく開いて出迎えの礼をすると、監査役の兵団は武装を構えてまるで敵地に切り込むように荒々しく離眼城内に雪崩れ込んできた。
「な、何ですかこれは…ぐあああ!?」
「ちょ、長老が斬られたー!?」
「全員で中に突入せよ!」
「一人足りとて逃がすなぁ!」
「こ奴らからも謀反の罪を自白させるのだぁ!」
武装した監査役兵団は少数の戦力しか残っていない離眼城内に瞬く間に雪崩れ込み、非武装の民衆を次々と押し倒し、それを止めようとする少数の守備兵を切り捨てていって城内各所から悲鳴を上げさせ、急速に内部を制圧していく。
「…むむむ、白漂将軍が仰っていた通りに趙国現宰相派と暗何残党にそれらしい材料を握らせた途端にここでも動き出したでおじゃるなぁ…見てるでおじゃるかお主も?」
ちなみに、その離眼を近くから見下ろせる山の一角より、秦軍のある一団が望遠鏡などを用いて事細かに同地の混乱を監視していた。
「おーうばっちり見てるぜー。ぐふふふふ…俺にふさわしいシメの大舞台の一つが着々とその準備を進めてるのをな~~~~♪」
その一団を取りまとめているのは、卵を逆さまにしたような楕円形の胴体と体型がギャグ漫画みたいで、浮かべている笑みもその主人公のようなげすい笑みを浮かべている青年であった。
「…有力なものは全員ひっとらえたかぁ!?」
「はは! 長老衆と残っていた有力者共は全員集めおえました!」
数時間後、少数の戦力しか残っていなかった離眼は趙国監査役部隊に制圧され、主だった有力者は城内広場に縛られた状態で引きずり出され、その他の住民も中央の館に非武装のすし詰め状態で押し込められてしまっていた。
「な、何なのですか貴方達は!? いくら王都からの使者だからってこんな乱暴な…」
あまりに急且つあんまりな現状に離眼側は当然の声を上げるが、監査役達はそれを鼻で笑うと彼らを混乱に陥れる発言をかます。
「ふん、黙れい! 謀反人の郎党である貴様らに発言権など無いわ!」
「謀反人!? それはどういう事だ!?」
「五日前に貴様らの城主である紀彗が秦軍と内通している可能性が大なので我々の同僚が捕縛した! 奴の部下である貴様達もこれから調査を更に進めるために拘束したのだ!!」
「「「「「!!!??」」」」」
監査役達が言い放ったその宣告は離眼側の混乱を不安へ大きく叩き落とすには十分すぎた。
「そ、そんなの言いがかりです! 我々の城主様はそのような恥ずべき内通をされる方ではありませ…ぎゃあ!?」
何人かが反論しようとするもそれを監査役達は鞭を振るって悲鳴に変え、得意げに彼らに対し理由を突きつけ始める。
「黙れい! 内通しておらんならば有利に押していた秦軍がいちいち黒羊で最も重要な中央丘を明け渡したりするわけがないではないか! その前には高々千人将程度を帰しただけで秦側の捕虜になっていた自身の副将劉冬めの帰還まで成功させたのだぞ! 初めから紀彗は怪しまれないように戦いつつも中央丘要塞化代行とその後の明け渡しを口実に秦に寝返るつもりであったのよ!」
「な!?」
「更に奴を逮捕した次の日には離眼が黒羊樹海の集落を通じて秦軍と秘密交渉をしていた証拠も見つかった! それにも秦側が中央丘を明け渡してそれから離眼側が要塞化を終わらせた後で、秦軍が包囲網を解除した後で離眼側が降りて寝返って丘を明け渡すという計画まで載っていたのだ!」
「…そ、そんな馬鹿な!?」
「その件で紀彗に続いて奴の側近二名も捕縛した! さらなる取り調べは暗何で行うから時間は掛かるが何れ奴らが罪を認めるのも時間の問題だろう!!」
調子が高まり続ける監査役達の口上に混じるその地名から、離眼側の代表達がある事に気付く。
「待て貴様ら! 何処かで見たことがあるような顔だと思っていたが…暗何唐家の行方不明になっていた連中か!?」
だが、その事を指摘されても監査役達は動揺するどころか更に鼻息を荒くする。
「それがどうした! そもそも趙国王家より派遣されし我々が貴様ら晋の残党共を取り締まるのが自然の形だ! それを紀昌と紀彗めは生意気にも逆らい続けて西貴の連中はそれを支援してきおったのだ! 今回の一件で正当なる地位に戻して更に奴らを葬り去るのが当然の…!?」
そのまま調子に乗ったのか自分達の怨恨混じりの本音を口にしだす監査役達だが、そこで巨大な黒煙が彼らの宣告を邪魔するように割り込んできた。
「おい! もう戦闘は終わっているのにまだ消火は済んでおらんのか!?」
「そ、それがー離眼の連中は全員縛り終えてるので消火作業には我々だけで当たらねばならない状況でしてー。どうやらまだ消しきれていない分が城の近くの林に移ったらしく……!?」
それに気分を害された監査役部隊上役の怒鳴り声が飛び出し、その部下が答えようとした直後、黒煙を飛び越えるようにして飛んできた矢が彼の頭を射抜いて言葉を止めさせた。
「…は? な、何だ―――」
「突撃ぃ! あそこで偉そうな阿保面晒してる趙の中央軍だけをぶっ潰せーーーー!!」
「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」」」」」
「「「「「ウワアアアアアァァアアアアアア!!?」」」」」
「―――あぁーーーーー!?」
監査役部隊上役がそれに嫌な予感を感じたその時、黒煙と城壁の向こう側から此度の秦軍の一員として参戦しているはずの郭巨丙の怒声が飛び越えてきて、それに一種遅れて大勢の秦軍の掛け声と趙国中央軍の悲鳴が同時に飛び掛かってきた。
「な、何が起きたのだぁ!?」
「で、伝令ー! 先ほどから続いていた黒煙ですがどうやら城内だけでなく隣の山からの山火事も混じっていた模様! 更にそれに乗じていつの間にか近づいて来ていた秦軍がこの城に攻め込んでまいりましたー! あいつら既に開けたままの城門まで奪ってきて城内へもう突入してきていますーー!!」
「な、何ーーーー!?」
それに脳が追い付けていない監査役部隊上役に城外からの伝令が辿り着くも、その直後に騎兵の運用は天才的な郭巨丙達が城内広場の外れまで侵攻してきた。
「よっしゃあ! あそこにいる偉そうな馬鹿面が監査役の頭だなぁ!」
「離眼の者らは拘束から解放するに留めて手出し無用でおじゃる! 趙国中央軍を撃破し生き残りが離眼城を十分に離れたら我々も城外に退くでおじゃる! それで離眼側が再び城門を閉ざして守りを固めたら予定通りに我々も黒羊樹海の本軍目指して退却でおじゃる!!」
「「「「「アァーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」」」」」
そして、郭巨丙達の歓声と士気が離眼城内広場に鳴り響いた直後、趙国中央軍監査役部隊の断末魔の悲鳴が天へ向けて立ち上った。
生きて再会を果たせた離眼主従ですが…故郷がまだ原型をとどめていたことに安堵できそうになった所で…。
次回は、今回の結果を踏まえて離眼の人々が選ぶ行動と、同じく巻き込まれた西貴の方の急変が話の中心となる予定です。