それと、この世界でですが白漂とある女性の(本人達はまだ気づいていませんが)驚くべき関係の一端も出てきます。
それとUA数7万件突破ありがとうございます。
感想や評価付けもよろしくお願いします。
○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国中央部 王都咸陽 後宮○
「ほら、いるものはこれで大丈夫か?」
咸陽の後宮にある倉庫の一つで、一人の宮女が高い棚へ余裕で手を伸ばして品物を下ろしていた。
「あ、ありがとうございます
その品物を受け取るまだ年少さが背丈にも表れていた宮女が笑顔で見上げている女性である娜佗は、この時代の女性の平均身長からすればまた高い背丈の女性であった。
白基調に薄く輝く金色の戦女神の刺繍が縫われた襦裙はその高い背丈の身を細く見せて露出が少ないが、女性らしい豊満さと運動をただ嗜んでいるだけではない引き締まったしなやかさを併せ持った肉体に、濃い茶髪に明瞭で意志の強い瞳が似合う毅然とした美貌を隠せていなかった。
彼女の名は娜佗と言い、この秦国後宮に仕える宮女の一人である。
「…さあ、この部屋は終わったし次は―ーー…あ、これは確か球泰の…」
後輩の面倒を見終えた娜佗は次の部屋に入るが、そこは球泰が普段使う部屋で両手式バーベル風の錘が目に入って彼女の興味を引いた。
「懐かしいなー、まだ前線の軍にいた頃を思いだ…!?」
娜佗もまたそれを軽く手に取るとスイングさせようとするも、そこで彼女の身は急な体温の上昇と下腹部より飢えに似た猛烈な違和感を帯びてしまう。
(…な、何だこれは!? た、確か厨房で妙な料理の味見を頼まれた時から妙に身が火照り始めたように感じるが…!?)
我が身に思うような力が入れられなくなり、しな垂れかかった鏡面に写る自身の顔が赤く染まって汗を滴らせ始めた様子に娜佗は戸惑うが、そこで誰かの足音が近づいてくるのを感じてしまう。
(ま、まずい…! 尿意までこみ上げてきて…! と、とても人には見せられないから逃げ…だ、駄目だ! 間に合わない……! 厠もこの距離だととても耐えられない…!)
猛烈な尿意と共に娜佗は羞恥の念も強く覚えるが、その時に球泰の部屋にあったあるものが目に留まってすぐさま行動を起こした。
「………ごくごくごく…ぷはーーー! 久々にいい汗をかいたー」
(ま、まずい…よりによって戻ってきたのが…)
数十秒後、この部屋の主である球泰が戻ってきて水を勢い良く飲み干す姿を、彼女の部屋にある箪笥の隙間から窮地に追い込まれた表情で見つめていた。
しまいには嬴政も入室してきて増々自分の前で人が長居し続けそうになっていく状況に、娜佗は増々表情を苦しくしていく。
だが、そこで彼女に尿意を忘れさせて戸惑う現象が起きる。
「…ん!? な、何…何だか急に…体が熱くなって…落ち着かなくなって…!?」
(…!? な、何だ…!? どうして急にここに血が猛烈に集まり出して…!?)
(…え、あ…あれ…私と同じ現象が…!?)
部屋の中で急に球泰が足の付け根に洪水の気配を覚えて羞恥でもだえ苦しむ表情になり、嬴政もまた己が男性器の急な膨張に顔を険しくして前のめりになって娜佗を困惑させた。
だが、その次に二人が選んだ行動で娜佗は更に羞恥の感情を強めてしまう。
(…え!? 二人とも…何だか身を寄せ合って…!? て、手が明らかに相手の股間辺りに…!? ま、まさかここで伽を始めるつもりか―――!?)
自身の前で始まる気配を濃厚に見せ始めた情事の光景に、娜佗は箪笥の隙間にしがみ付いて片手が自ずと自身の足の付け根へ伸ばされてしまうが、その時の彼女の大柄な身が前のめりで箪笥の前面に押し付けられていた事でギイっと音が鳴ってしまう。
「―――ぐは!?」
「―――あ…!?」
「はっ!!?」
その直後に箪笥はゆっくりとだが開かれ、中に隠れていた娜佗は引力に引かれて前のめりに突っ伏す形で、嬴政と球泰の前に姿を現して間が抜けた悲鳴を上げてしまう。
「…え、な、何で娜佗がこんな所に―――!?」
突然の乱入者の正体に球泰が戸惑いと羞恥の声を上げるも、そこで彼女の双眸に別の理由で剣呑とした色が浮かび上がる。
「! 上だ!!」
「―――いってしゃあ!!」
「!!」
同様の理由で気付いた嬴政がその方角を指さした直後、球泰は気勢を上げ乍ら、娜佗は無言で漬物石代わりにされていたバーベル型錘を掴み取って天井板目掛けて投げつけた。
「ぶごべぇ!!?」
そして、豪速も載せられた合計百キロを超すだろう二つの錘は容易く豪勢な天井板を粉砕し、その真裏に隠れていた男の骨肉を無慈悲に粉砕し、瓦礫とその者も添えて三人がいる床へ戻ってきた。
当然、その際の破壊と落下の騒音は後宮にいた他の面子を呼び寄せるには十分すぎた。
「何事ですか!?」
「! 女官長これは…っ!!?」
だが、真っ先に部屋の扉を開いて女官長が現れてすかさず娜佗が対応に当たったその直後、小さくも鋭く堰が斬られたような水飛沫の音が部屋の空気を震わせ始めた。
○秦国東部 対魏国境地帯 著雍 著雍大要塞○
「むむ?」
咸陽でまたまた珍事が発生しようとしていた頃、最前線の一角で鳴り響いているファルファルと言う奇妙な剣戟音の二重奏の合間で騰がポーカーフェイスのまま奇妙な間が抜けた声を上げた。
「? どうかしましたか騰将軍?」
それと同時に、彼と共に二重奏の奏者を務めていた甄遼頊の剣も止まって音曲は一時停止となる。
現在、二人は甄遼頊の休暇中の散策に目を付けた騰の気まぐれによる暇つぶしで、久方ぶりに二人で剣の手合わせをしている所であった。
「いや、何だか今さっき一瞬だが剣に咸陽で働いている姪の姿が見えましてねぇ。まーた幼少時に男しか居ない環境で育った性分と真面目過ぎる性格で愉快な事に巻き込まれてなければよいのですが…ココココ」
「……娜佗さんですか」
いつもと同じ顔ながら最後辺りに哀愁を滲ませた騰に合わせて、甄遼頊もまた懐かしさと悔やみが色濃く出た表情で西方を見やった。
○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国東北部 対趙国境付近 西録○
「…あ~~~~~! やっと今日一日分の机仕事が終わった~~~!」
咸陽でまた新たな出会いが生じ、それに勘などで著雍にて数名かが何かを感じ取りつつも剣を交えてから数日後、西録で連日残業をやっと終えたサラリーマン臭全開な白漂が肩を鳴らしながら執務室を出ようとしていた。
「…とりあえず一人で出歩くと怪しまれるから、何人か適当に誘って連れて行こうか―――」
「ご安心を。もう既に人員含めて用意は出来てます」
「―――あ、そうですか…」
それから生気が戻った眼差しの白漂は門を括るが、そこを待ち構えていた杏橋を始めとするスタンバイ済みの人員の姿を目にして乾いた笑みになる。
全員、顔を隠したり衣服の下に鎧や武装を隠したりしてはいるが基本平服に見える格好をしていた。
「そこまでわかりやすく落胆を見せないでください。視察の範囲内でなら自由行動は出来ますから」
「あ、はい…よろしくお願いします…」
そのままスゴスゴといじけた様子で外に向かって歩き始める白漂。
それに奥方達はヒソヒソ声を交わし始める。
「…やはり休暇はまだ早かったでしょうか?」
「私もそう思うけどあんま仕事ばっかだと本気で拗ねてマジ逃げして探すのも苦労するからここは適当に飴を与えましょう杏橋」
「それが懸命だねぇ紅華」
「大丈夫でしょうか王京さん?」
「まあ、大丈夫じゃないかしら庶徐…多分?」
その声には概ね不安が滲み出てはいたが、あくまで家庭の事情の範囲に留まるもので公人に及ぶものではなかった。
「…なーんかここ数日の間にまた知らない顔が増えてるような…」
「いやねえ、ある意味であなたが起こした先の不祥事で住民の半分以上が別の土地に連座で移されて、今は他の土地の秦人や流民に移民が流れ込んで来ているのだから当然でしょう」
十数分後、一行は再建途中である西録で最も人が集まっている市場に来ていた。
現在、秦は西域に北方など中華の外側からも多数の人種が盛んに出入りしているため、白漂達の顔などを隠す西域系の衣装も珍しくは無かったが、それでも中原を起源とする華夏族主体の元趙人には珍しがるものが多かった。
「うわ、また胡人が来やがってるよ」
「デカい女を引き連れて…秦の連中は趣味が悪いわね…」
「あれー、何だかあの人…ウチのお父さんを殺した今の将軍の人なんじゃー…」
「し! 馬鹿な事を言うんじゃありません!」
「で、でもよー何だか似すぎちゃないかー…?」
「馬鹿言うんじゃねえ、本物がこんな所をあんなボケた面に女ばっかのあれっぽっちの護衛だけで出歩くかよ…」
ちなみに、その様子を現在の西録行政府が置かれている内城の望楼より、姫昭の側近の一人で侍女長である参宜正と白漂軍軍師主席である河了貂が眺めていた。
「…あの方は…わかってやっているのでしょうか? それともあれは単に気質でしょうか?」
「…あーーー、心情の体積比で言えばー…9割くらいが面相臭がりで嫌なのからは逃げるって気質でああいう行動してるよ。まー―…残りの一割で理屈的な効果はわかってるけど…」
疑わしいものに対する眼差しの参宜正に対し、河了貂は口ではまともには言い辛いとういう具合の微妙そうな表情を浮かべていた。
「あ、あのーーー…それよりもよろしいのですかお二方? 幾ら平定されているとはいえ…謀反が起きたばかりの土地であんな少数しか護衛付けてない状態でブラブラと…?」
「あー大丈夫だから。普通の人はあんなところを一応大将軍みたいなお偉いさんがあんな軽装で歩いてるとは思わないし。なまじ目利きと腕のあるのは却って何か罠があると思って手を出すことは却ってないから。訳知り顔が見れば良くも悪くも警戒心が解れてきて…まーたとえ一定以上の水準を持つ奴が狙ってきたとしてもー…」
近くにいた衛兵の一人が不安げな様子で具申したりしたその時、白漂は売店の一つで売られていた鉄鞭を適当に振るように見せかけて、その後頭部目掛けて飛んできた“何か”を払い落とした。
「…あそこの望楼に隠れてる奴が飛び石に見せて毒を塗ったこれを撃ち込もうとしてきた。早く捕らえるように」
そして、先ほどまで抜けた表情で買い食いしていたのは嘘のように、氷の如く冷たい双眸を浮かべた白漂がその打ち落とした怪しい粉が付いている小石をハンカチ越しに手に取って小声でそう命じると、直後に人混みの中を幾つもの小さな影が風邪のように早く、然れども音らしい音をたてず群衆には気付かれないまま駆け抜けていった。
「…やるべき時は普段のと同一人物なのが信じられない位にやる男だから」
「…でしょうね…」
静かに茶を啜りながら信を置く眼差しを白漂に向ける河了貂に対し、参宜正の双眸には深い警戒心が再び戻っていた。
「…さーー、次はこれとこれを購入してねー。綴さんはこの分ねー」
「は、はい、どうも奥様…」
一方、今回も渦中にありながらも表向きは買い物をしていた白漂一行であるが、その中に護衛も兼ねて混じっている綴に紅華らは時折り訝しむ眼差しを彼女に向けていた。
(……何というか…やっぱり…子供の頃に何処かで見たような感じがするのよねー…)
そうこうしている内に、一行は私物用に買い込んだ品を一旦宿舎に降ろし直すと、今度は郊外にある開墾地へと出向いていた。
「…久しぶりー。景気はどうかな?」
「ああ、お久しぶりです旦那様」
やがて、一行はそうした新しい田園地帯でも物珍しい道具や作物が実ってる広い農園に行きつき、そこで農夫風に働く従者と親しい様子で言葉を交わし始める。
彼らは表向きこそ農民だが、裏で白漂が発案者となって出資者に加わっているここも含めた各地の官営実験農場で色々と試験をしている農家系列の学者であった。
「ここでの人の集まりはどうかな?」
「…そうですねー。農民は保守性が強いですから学びに来ようとしたり、種籾を買いに来ようと来る人間は表向きはそう多くありません。けれども実際には学びに来てる人数より広まってきてますねー旦那様の入れ知恵のおかげで」
農道にある適当な木製ベンチに腰掛ける白漂の目に映る農園の片隅には、彼の前世であろう現代で言う農村の無人販売所のような区画があり、そこは白漂の前世で言う規格外に僅かであっても含まれる作物とそれに混じって種籾が所有権放棄が明記にされている状態で毎日並べられていた。
「あのー、将軍…その―…この辺りに出ている盗人は取り締まられないんですかー?」
それが気に掛かったのか、農場勤めになって日が浅い若い学者の一人が苦言を呈してきた。
「普通の畑から盗んでいるものは労役刑を科しているじゃないか」
「で、ですからー殆どの盗人はあそこに捨てられた形が僅かでも悪いもの中心とはいえ、元々はウチの農園で取れたものを見張りがいない夜の間に盗んでいってまして……」
「そうか…じゃあ効果は出ているという事か…」
「は、はあ?」
「おい、旦那様も激務の合間の僅かな休息を楽しんでいるのだから無駄に邪魔をするな。その意味はお前さんの頭で考えなさい。まだ若いのだから。それと今は仕事が先だ」
結局、若い農学者は古参のそれに急かされる形で白漂から答えを聞き出すことは出来なかった。
(何というか…時代は違うしジャガイモみたいな新大陸産の作物はまだないけど…ルイ16世もこういう感じで役立つ作物を広めていったのかな…?)
そうした農学者と農園の様子に、白漂は前々世より憶えている歴史的な著名人の一人とそのある逸話を思い返す。
白漂の前々世で昔に当たる当時のドイツでは度重なる戦災で耕地が荒れ果てて飢える国民が続出していた。
そこで、当時のドイツ主要国の一つであるプロイセンの国王は軍隊を使ってまで国民にジャガイモの栽培を奨励して、栽培法や調理法の普及に尽力。
その結果、当時のドイツは食糧事情を大幅に改善させることに成功し、それをドイツから帰国してきた自国民の論文で知った隣国フランスの王は自国でも普及させて困窮している国民の救済を企てる。
フランス王はあえて国王所有農園にジャガイモを栽培させて昼間は厳重な見張りを付け、夜にはその見張りを取り除いて無防備にさせるという手法を実行。
それを見た当時のフランス国民は“あの派手嫌いな国王陛下が大事にしているものだからよほどのものに違いない”と判断し、見張りがいない夜中にて農園からジャガイモを盗んで栽培を始めた。
結果、フランス国民は食糧難をある程度改善させることに成功した(が、それでパワーを取り戻せたおかげで不満も露わに出来るようになったフランス国民の手で、王政が打倒されるという皮肉な結果に陥ったりはした)。
白漂が裏で手を回して行わせている試験農場のやり方はそれにならったもので、表立って勧められると新しいものへの不安から生じる農民の自然な保守性とこれまでのやり方にこだわるプライドによる抵抗感を見抜き、昼間に見張りを付けて監視させることで高価なものだと周囲に知らしめて、それでいて一部に所有権放棄品と明示したうえで集積させた状態で放置して夜には見張りを取り除いて持ち去りやすくすることで、元からの秦人農民はそこまで価値のあるものだからと認識してほしくなり、ならば誰も見ていない夜の内にもう持ち主がいないものの方を持ち去ろうという考えに至るだろうと見抜いての事であった。
少年時代に紫夏の付き添いで商人見習いとして中華中を見て回って、人間とは理屈や損得だけでなく感情や矜持も気にして動く生き物だと熟知している白漂だからこそ打った工夫である。
「…失礼しまーす。うちの水田で出来た鯉によるお茶漬けが出来ましたー」
「あ、どうもご苦労」
白漂が回想から現実に戻ったところで丁度よく、試験農場で雑草取りや害虫駆除も兼ねて水田で放し飼いにされて養殖にされている鯉を用いた食事が届けられてきた。
但し、こうした農法面での工夫は大半が白漂本人ではなく、彼と深く交流と商売を結んでいる南方のある女城主が大本である。
「…う、魚料理か…」
「あ、はい、魚料理が苦手と言う北の人用に同じく水田にて害虫駆除で放し飼いにしてる鴨やアヒルによる焼き鳥の丼ものもおもちしておりまーす」
「うーん、懐かしい匂いー…」
前世が(多分)大陸東側に位置する弧状列島の住民に含まれる白漂にとって、その運ばれてきた料理は懐かしいものであったが、紅華など北の民出身者は顔を顰めるものが少なくなかった。
時代や民族にもよるが、白漂前世のモンゴル一帯に住まう遊牧民では魚類は神聖視されて食することが禁じられていたためである。
一方で、食べる事とは別に見て楽しもうとする人間もいた。
「…あ、この鯉…何だろう…普通のとは違って色鮮やかな…」
護衛の一人である綴が年頃の娘特有の好奇心が強く出た眼差しで水面越しに見つけたそれは、野生の鯉の一種が突然変異を起こしたもので、白漂の前世で言う色鯉であった。
「あー、なつか…珍しいなー。他にもこういうのがいたら、一纏めに飼って増やせば金持ちへの観賞用に売れるか―――」
「のわぁぁああ!?」
「―――も…あ」
ただの偶然であろう色鯉との遭遇に懐かしさを覚えた白漂だが、その間近で初めて見るそれに幻想感すらも覚えて恐る恐るだが近づいて水面へ無意識に身を乗り出していた綴が田圃に落ちた。
「ゲホゲホゲホ…! ひ、酷い目に遭った……!」
幸いにも浅瀬である水田なので溺れずに済んだ綴であるが、代わりにその均整の良い肢体が濡れて肌に薄っすらと張り付いて半透明状になった衣服越しに晒され、非常に艶にある姿を晒して男の口元を緩ませて同性の羨望を集め始めた。
「う、うわーー―…綴さん…本当に綺麗な体ー…!?」
羨んでいる一人である庶徐が呆けた声を上げたその直後、水面より水飛沫を上げて現れた“何か”綴の衣服の隙間へ潜り込んだ。
「!? な、何だ今度は!? ぬめぬめした細長いものが服の下で肌に纏わりついて…アアアァ!?」
どうやら何匹か鰻が綴の衣服の下に潜り込んだらしく、初めて経験するその嫌悪感を覚えさせつつも何処か性感も刺激する独特の感触に、綴は悶え顔をして声にも艶が帯び始める。
「…う、うーーむ…これだから女子と言うのは…」
「ま、全くですなぁ。ですから女子を要人護衛に加えるのは良くないとあれほど…!?」
その痴態に周囲の護衛である男達はにやけた表情を浮かべつつもけしからんそうな意見を口にするが、そこで毒蛇に睨まれたような威圧感を覚えてしまう。
「…あーら、だったら早くこんな事態終わらせてあげるべきじゃないかしら?」
「「「「「は、はい………」」」」」
彼らが背後を恐る恐る振り返ると、生ごみを見下ろす眼差し付きの微笑みを浮かべた紅華の姿があった。
それから、男達が綴を陸に引き上げ、それから女性達が彼女の身に絡まっている鰻を取り除くべく手を伸ばしていく。
「な、何だこれ!? まだヌルヌルする!?」
「と、とりあえず落ち着いて綴さん! 暴れたらその分だけ鰻を抜くのが遅れちゃ…!?」
未だに鰻の感触に慣れず今にも泣きそうな顔で身を捩じる綴をどうにか王京が落ち着かせようとしていたその最中、綴の乱れた衣服より炎のように赤く輝く宝石を原料とした狼の頭部を思わせる小さなペンダントが零れ出た。
「…え、この形…確か嘗て単う―――」
「!!?」
それを一瞬見やった庶徐が微かにだが芳しくない様子で記憶を刺激されるも、それ以上詮索される前に綴は一瞬だが双眸を見開かせてペンダントを引っ手繰り戻して懐に隠した。
「…ん? 今さっきの…何か漂が家宝の短剣に括り付けてる亡くなった御袋さんが残した形見の品に似てたような…」
だが、他にも一瞬だがそのペンダントを見やって何処か懐かしさを思い出した男が一人いて、それは信であった。
今回、子供向け漫画みたいなネタで白漂の素性でまた新たな謎の一端が姿を覗かせてきました。
しかし、次回はその事は一旦置いておいて、白漂軍の日常の一つである実戦が描かれます。