※この作品はR-18です。

天下の大将軍になる!! ~夜の睦言~   作:oosima

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今回、また別の春秋戦国時代漫画系のネタが出てきます。


087 謀は日常の片隅より見える時がある●

 ○秦始皇8年(紀元前239年) 秦国中央部 王都咸陽 後宮○

 

「…ふううぅ、これで皆さん体調は大丈夫ですね」

 

 黒羊で蒙恬が新たな出会いに巡り合えていた頃、秦国中枢にあるもう一つの戦場というべき後宮で医師による診断が終わろうとしていた。

 

「…ありがとう先生」

 

 寝台の一つに寝転んでいる扇琵は安堵とした表情で己が下腹部に手をやっていた。

 

「…いやー、本当にさーここの先生達に薬処方してもらって助かったわー。ついこの前どっかから忍び込んでた刺客ボコって捕らえたのは良いけどその流れでいかがわしい料理で悶々とした夜を過ごす羽目になったしー…」

「おい、その話はあまり人に言うな…」

 

 ちなみに、隣の寝台には風が回復した後に似た少し疲れつつもすっきりした表情の球泰と、それに微妙な顔を向けている娜佗の姿もあった。

 

「…な、なるほどねー…どうりであの晩の陛下…いつにも増して長くて激しくて変だと思ったけど…そういう事情が―――」

「あ、あの王様…! 一緒に悶々しだしたとはいえ自分の子を腹に宿した私に真昼間から手を付けようとしたくせに…! それが出来なくなったら私をほっといて他の子にぶつけるたぁ…ぶ、武術修練の時は覚悟しなさい……!!」

「―――あ…」

 

 その中で扇琵は愛欲の夜を過ごしたばかりの名残を頬に薄っすらと出していたが、それが隣で新たな王族を腹に宿した一人になっている球泰の米神に血管を浮きだたせて、周囲のほとんどには聞こえないが不敬罪全開な暴言を吐かせてしまうと白い顔になる。

 

「…お前、腹の子の将来も気に掛けろ…」

 

 それを間近にいた関係で聞き取れた少数派の一人である娜佗もまた血の気が退いた顔で引きつった笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 ○秦国東北部 黒羊 黒羊五丘樹海○

 

「……うーーー…うーー…まだ腰が今一つ…しっくり座って―――」

「………!」

「―――えって痛い!?」

 

 咸陽で女の戦い(?)が新たな局面に入ろうとしていたその時、白漂は腰を重そうに擦りつつ、時折羌瘣に結構きつい蹴りを入れられて馬上から転げ落ちそうになりながらも樹海要塞を目指しての道中にあった。

 数日前に、自身が設計の大半を手掛けた黒羊五丘樹海要塞が完成したので、その式典を中央等からの役人も交えて行うためである。

 

「ほら漂将軍、他にも将兵達が見ているのですからもっとしゃきっとしてください」

「だ、誰のせいでこんな今一つ身に力が入らん状態になってると―――」

「妻(・)の(・)務(・)め(・)に尽力したまでですが何か?」

「―――お…はい、その通りですはい…」

 

 ちなみに、白漂を真ん中として羌瘣の反対側には三千人将紅華もいて、白漂は完全に針が生えている筵の上に座している気分だった。ちなみに、三人の周囲はこうした光景を見慣れている竜騎で統一されており、主将の情けない姿はほとんどの将兵には知られずに済んでいた。

 彼らが夫婦漫才を時折挟みつつも進んでいると、先遣隊が立ち止まっていてそこで列が閊えて居るのが見えた。

 

「どうしたんだ?」

「も、申し訳ありません白漂将軍。どうやらまだ工事前の轍がこの先に有って馬車による荷駄隊が落ちて嵌ったらしく、起こすのに少々時間が掛かりそうです」

「あー、それかー…」

 

 前方で傾いて止まっている馬車隊とそれを引き上げようとしている隊員らの姿に白漂は納得した。

 この時代、陸路は馬や牛にひかせる車が主な運輸手段となっていて、戦車もまだ使われているので道路には轍が出来てそれがレール代わりに使われているのだが、各国共に敵国戦車隊の侵入を妨害するために車輪の幅は異なって作られており、故にそれで生じる轍(レール)もまた国ごとに異なっていた。

 

「ここはもう味方の領内だから敵襲はそこまで心配はいらない。起こすのに必要な人員は残して少し遠回りだが別ルートから行くぞ」

 

 白漂の指示に従って将兵達は戦車で詰まった前の道は避けて横道へと入っていく。

 

「……あ、この辺りは確か…黒羊戦で見つけた欲池があるところだな…?」

 

 そこで見た風景に羌瘣は懐かしさを覚えるが同時に異変に気付く。

 近場より戦場とは別の死臭らしきものを嗅ぎ取ったのだ。

 

「どうかしましたか?」

「…いや、何でもない」

 

 だが、千年以上も続く刺客一族の出自からそうした戦場以外の死臭も嗅いで育ってきた育ち故、さほど違和感を覚えなかった羌瘣は部下の声で我に返って先を急ぐことにした。

 

 

 

 

 

 ○秦国東北部 黒羊 黒羊五丘樹海要塞 中央丘本部要塞○

 

「…三番の兵糧隊が来ましたー」

「十八番の武具は右下丘小要塞の方に運べー」

 

 数十分後、白漂達が戻ってきた黒羊中央丘はその時も大量の人員と物資が行き来していた。

 周囲を囲む四つの小丘を含めれば総計五万近い人員が地下を中心に活動しているその要塞は、まさに古今東西の築城技術の総合作品というべき様相であった。

 

「…何度見ても地下にあるとは思えない大部屋が広々とした構造をしてるよねー。直筆による図面の一部を見た時は信じられなかったけどここまで実現するなんて…」

「まーな、とは言ってもこの数カ月でここまで形になったのは漂だけじゃなくあいつのおかげでもあるんだが…」

 

 その要塞の地下道の一本を蒙恬と羌瘣は適当に散策していた。

 

「あいつ?」

「色々と奇人変人が多いことで知られるのがうちの軍だがー…あ、あそこにそれに率いられている隊の一つが作業中だな」

 

 やがて二人は要塞地下内部の拡張情事中区画に行きつく。

 

「…最近は何処もそうなっていっているけど…白漂軍は特にこうした部分まで装備がいいねー」

 

 作業している大勢の人員の中で蒙恬が特に着目しているのがその道具類で、彼らが扱っている鶴嘴やスコップなどの類は白漂前世であろう現代とほぼ同じ鉄使用率があった。

 この時代の製鉄技術は本来なら後代に比べれば質量ともに未熟で、鍬やスコップなどは高級品でも直に土に触れる部分だけ金属製で残りは全て木製というのが主流であった。

 

「まあな、この前なんかここの連中奇襲かけてきた趙兵をつるはしや鍬で撃ち殺すくらいに腕っぷしも地味に強いぞ。特に今は姿を外してるがここの頭は素手で熊殺せるくらいに強いし―――?」

 

 羌瘣がいつも通りの真顔で説明していたその時、彼女の背後に広がる土壁が内部より崩れ、生じた罅より人間のヌッと突き出てきた。」

 

「ぬおおおおお!? な、何じゃああ!?」

「―――あ、来た」

 

 白漂前世のホラー映画にも出そうなシーンとの遭遇に胡漸が驚愕すると、土壁が大きく崩れて中から人間が姿を現したが、どうやら羌瘣には顔見知りの人物らしかった。

 

「…よし、繋がったか」

 

 土壁を崩して内部より現れたその男は巨躯だが猫背で顔は鼠を思わせる風貌をしており、何よりその太く強靭な手は直立した状態で踵を掻けるまでに長かった。

 

「あ、袁羽隊長久しぶりーっす」

「お前らの方はどうだ?」

「まー、必要な分は終わってるっすから残りは居住区画とかをぼちぼちっすねー」

 

 開いた穴よりぞろぞろと出てきたり、繋がった先の部屋より鉱夫達に取り囲まれたその袁羽という男は彼らの頭らしかった。

 

「え、何あの人たち…?」

「千人隊で名前は土竜。あの土竜みたいな男が隊長の袁羽。趣味は穴掘り、特技はその辺の虫も普通に食える」

「それ何か大事な情報とどうでもいい話が入れ替わっておりませんか?」

 

 蒙恬達などいないかのように作業を進める男達であったが、それに対する羌瘣の説明はズレたものをしていた。

 

「……はー、やっと落ち着ける部屋に来れたー。自分が手掛けた部屋に来れるのは我が家に戻れた感じがして良いなー…」

 

 一方、その頃の白漂は要塞内部で自分がある意味で最も趣味を強く出した自室でドッと椅子に座りこみ、帰宅したサラリーマンを思わせる息を吐いていた。

 白漂の部屋はその女房達のご機嫌取りのための場である寝所は大きく作られつつも、そこを含めて華美さは無いが色々と収納スペースが設けられたシステマチックなもので、書斎がスペースの大半を占めていた。

 

「…次の会議まで結構時間があるからどう時間を潰そうか…ん?」

 

 その本棚より一冊を手に取って読み進めつつも白漂は用意されている茶にも口を付けようとするが、唇が触れる直前で違和感を覚える。

 

「…この感じ…」

 

 細まっていく白漂の双眸が次に視線を移した先には伝声管があった。

 

 

 

 

 

 ○秦国東北部 黒羊 卓軒○

 

「…兵糧の品定めは五番に回せ!」

「藍蘭様! 頓安からの武器が届きました!」

 

 一方、黒羊地方の秦側に位置するその地方都市卓軒は、今では同地方への兵站の中継点として機能していた。

 

「…人がますます増えてきているな。趙側からの亡命者や政治難民も増えているというが…」

 

 その中で藍蘭は西域商人に扮して、同都市を行きかう人々を静かに観察していた。

 毐国騒動はまだ収まってはいないが、予定以上よりも大きく進んでいる趙国西部攻略の為に秦国は同方面にも大きく人員を回しており、それを商機として国内外から人々が集まり続けている。

 

「も~! 何時になったらここを通してくれんのさ!?」

「田舎臭い西国女だけで満足ってかい!?」

 

 当然、妓女も客を狙って大勢集まって来ているが様子が普段と比べて少々可笑しい。

 

「はいはい、ここは前線に近いから営妓で身元を調べて登録された子しかこれ以上は進めないわよ」

「その役所に行ってもう名も経歴も書いたのにかれこれ一月は経ってんだよ!」

「秦のお役所仕事は何処まで堅いんだい! 堅いのはナニだけで十分だよ!」

 

 その彼女達を守備兵が取り囲んでいて押しとどめており、叙瑛が説得して帰らせようとしているが妓女達は退く態度を見せない。

 

「…もう一週間前からこのやり取りは続いています隊長」

「だろうな、向こうも文字通り生活…即ち命が掛かってる…だが、あの娘たちは恰好や化粧こそは秦のそれを装っているが…」

「はい、訛りからして趙辺りから流れてきた身かと…」

 

 藍蘭達の懸念通り、こうした流民に紛れて間者が潜んでいるのは常なので迂闊には通せられないが、こうして何日も押し問答が続くと現場の者達もウンザリしてくる。

 

「仕方ない。私が言い包めて立ち退かせてくるか―――?」

 

 その騒ぎを眺めていた藍蘭は少々面相を感じつつも腰を上げるが、その直後に敵意こそないが魑魅魍魎を思わせる異物感を近くに覚えた。

 

「あら、お勇ましい御姉様。男でしたら一目惚れしてしまいそうですわ」

「―――あ…!? おぉ…これはまあ…」

 

 それで一瞬身動きを止めてしまう藍蘭の鼓膜を震わせたのは、ヴェールで頭を隠しているので顔を見せたのは一瞬だけだが、それでも女性で且つ出自柄から審美眼が肥えている藍蘭に息を飲ませる美女であった。

 

「…え、だ、誰だ…お主……!?」

 

 その美貌は藍蘭の兵も一目で魅了するが、一瞬しか彼に表情を見せなかった彼女は藍蘭に向き直って近寄り、彼らに我が目を疑わせる行動をとる。

 

「…はむ♡」

「…むぐ…!?」

 

 何と、その美女は藍蘭とお互いの唇を重ね合わせた。

 

 その光景は女性同士である事だけを除けば軽い接吻であったが、ひどく周囲には魅惑的に感じさせたが、藍蘭は唇とは別に自身の背に違和感を覚えた。

 

(…この背をなぞる指の動きは…だが、この意味はいった…!?)

 

 だが、藍蘭はその最中にひどく意識が混濁する感覚を覚えた。

 

「………え…!?」

「た、隊長!?」

 

 そして、周りの隊員達が続いて目にしたものは、藍蘭が小さく血を吐いて地に倒れる姿だった。




今回の話は短めになりましたが、色々とまたきな臭い話が出始めてきました。
次回にて、今回の最後辺りで非常事態が起きたあの子の運命は如何に…?
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