今回は白漂の活躍で生まれた秦国の変化の表裏に触れていく話の始まりです。
○秦始皇4年(紀元前243年) 秦国中央部 王都咸陽 趙国使節迎賓館○
「くそ! 白起の孫が開き直りおって!」
白漂が密かな期待の新人二名と共に妻に叱られている頃、趙国要人のために設けられた館の一室で同国の者達が声を荒げていた。
彼らの怒りの原因は昼間の秦趙同盟成立記念の宴席での白漂であった。
「このままでは済まさん! このまま我らから奪った北の地に帰る前に消してくれよう!」
「だ、だが李牧様も冷静に話を飲んだ以上はこれ以上はこちらの体面が悪くなるぞ!」
「別に我らが直に手を出すというわけではない! いいか、少し耳を貸せ……」
どうやら理屈よりも個々の感情を優先する輩がいるのは古今東西何処の国も同じのようである。
○秦始皇4年(紀元前243年) 秦国中央部 王都咸陽 歓楽街○
「…貴方、此処は何?」
「…いやねえ、僕に聞かれても……」
「貴方、何をそんなしどろもどろになってるのかしら?」
咸陽での館での酒宴より翌日、白漂は王都の民間人居住区でも富裕層が多く集まる区画に程近いある区域の高楼にいたが、傍らに瞳孔の光が薄れた微笑みの紅華に据わられていた。
「…何って咸陽にいる知人というか世話になった恩人に呼ばれて集合場所である此処に来ただけだけど?」
「来ただけってここは妓楼でしょうがぁ!!」
「ごふ!?」
冷や汗を一筋流しつつも此処に至るまでの説明をした白漂の鳩尾に紅華の剛拳が遠慮なく叩き込まれた。
現在、彼らはある人物に呼ばれて咸陽にある民妓ではもっとも各が高い妓楼を訪れていたのであった。
無論、彼らがいる高楼の下の庭には妓女達が各々の技芸で客を楽しませ、当然の事ながら所々より艶のある喘ぎ声が盛れ出てきたりしていた。
「おいおい、将軍まで出世したのに女房の扱いはまだ慣れて無いとは情けないねぇ」
「お…お…おおぉ…し、紫夏…」
そこで王宮女官の紫夏が悪戯っ気のある笑みで現れた。
「紫夏…それじゃあこの人が…」
「あーうん、まだ軍に入る前に僕が行商で中華のあちこちを回っていたときに雇ってくれてた女豪商だった人だよ。今は宮廷勤めになってる」
「此処は香泰が継いだその商会の系列の店の一つよ。ほら、あそこにも知ってる顔がいるよ」
そこで聞き覚えがある顔を紅華が上げると、紫夏は面白そうな顔で窓の下を指差す。
「あーん、お兄さんちょっと暇してないかしら?」
「その齢で千人将! すごいわね~」
高楼の下にある庭で今回の同盟宴席の警備で呼ばれていた若手将校らが非番で来店してきており、妓女達が集っていっている。
「え、え…え~~~~~…俺ね~此処にダチの用心棒で来てるだけなんだよな~。此処で君らの相手をしてる訳にはわけにはいかないっつーかさー…」
その若手将校の中に頬が緩みきって今にも妓女達に部屋へ連れ込まれそうになっている信の姿もあった。
「貂が見たら速攻で吹き矢をかましてくる光景ね―――」
「おい、今日こそ主人を出せや!」
「こんな所にでかでかと店を作りやがってよぉ!」
「―――え…?」
それに紅華が軽蔑を滲ませた顔で見下ろしてきたその時、妓楼の正門辺りから何やら荒々しい男衆の声が響いてきた。
「む? あの見るからにヤクザ全開な男達は―――」
「ああん!? こんな所で何やってんだテメエら!?」
「―――あ…まずいのがいた」
白漂が窓に身を乗り出してその荒くれ者達を視認したその時、今度は初見だとチンピラにしか見えない信が絡まれていた妓女を庇うようにして割り込んできた。
「まずい、ちょっと収めてくる」
「あ、漂!」
それに顔を少々引き攣らせた漂が高楼の吹き抜けを降り立った。
「俺達はよぉ前に逃げた奴隷が此処で働いてるって聞いたからそれを返せって言ってるだけだ!」
「ああ! そんなの役人の許可付き証文じゃなきゃ無効だろ! 何よりそんな馬鹿な金利がまかり通るか!」
どうやら人買いを生業とするヤクザらしかったが、信は言い方こそ乱暴だが割りと彼にしては筋が通った反論をする。
漂との出会いとその仲間達から別の時間軸の彼より早く文字を大幅に習えて、色々教わってきている分だけあって馬鹿は幾分か改善されていた。
「ああん!? テメエみてえなガキには用がねえんだ!」
だが、ヤクザの沸点は低かったらしく、自身より遥かに年下に見える信に言い負かされようとすると遂に手が振りかぶられた。
「おお! それで行くなら上等だて―――!?」
それを見た信もまた拳をより早く振りかぶってヤクザを殴り飛ばそうとしたその時、彼の拳は別の手によってあっさりいなされて別の方向に飛んだ。
「―――え、何だこ…!?」
「おい信! 受身を取れ!」
その違和感に信がヤクザから背後に意識が割かれたその時、場に駆けつけて割り込もうとした白漂が空中に投げ飛ばされた自分を受け止めるのを見た。
「のわ!?」
「がぶべ!?」
そのまま地面に勢いよく打ち据えられる衝撃に二人が飲まれた直後、途惑うヤクザが顔から別人の蹴りであっさり吹き飛ばされた。
「お客様、精気が有り余ってるのは喜ばしいことですがこれ以上此処で元気に振舞われるのは大人気ないと見られてもおかしくありませんのでお勧めしません」
「な!?」
「これは…」
地面に受身を取った信が見たその蹴りを打ち放った本人は予想外であった。
背こそ紅華に引けをとらない、女性にしてはこの時代では負い目になりがちな長躯だが、身の凹凸は着ている男物の武道家衣装の上からでも十分目立つほどに整っていて長く引き締まった四肢と合わさって健康的な美を醸し出しており、最後に中華系の紺色がかった美麗な黒髪を腰まで伸ばしつつも緑色の大きくも凛とした瞳で颯爽と言う言葉が似合う美女だった。
右腕には龍の意匠が施された腕輪が填められている。
「うげ、大女」
「ち、帰るぞ」
どうやら美女はヤクザたちにとって悪い意味で見知った顔らしく、捨て台詞を覇気ながらすごすごと帰っていく。
「お、王きょ…欧橋殿! 怪我はございませんか!」
遅れて妓楼の高楼より四十代後半と思わしき男が慌しく出てくるが、それに対し美女の欧橋はボトムに付いた埃を手で払うだけであった。
「大丈夫ですよ万督さん、怪我はありません。あーこちらの向こうに忘れられた人を外まで出しますね…」
「あ、いやーそちらの若人はこちらのお店のお客様で…」
「え、そうだったのですか…?」
「おうおう! こらぁテメエこの男を誰だと思ってやが…いでででで!?」
「あんたがこれ以上関わるとややこしくなるだけだから少し黙って」
それから反射で受身は取ったものの頭の打ち所が悪かったのか地面に横たわったままの白漂を庇うように出た信の腕が追いついてきた紅華に締め上げられる。
その様子を別の高楼よりじっと盗み見ている影がいた。
「白漂…こんな所にいたのか…ん? あの女が填めている腕輪は……!? くくく、そうかそうか…ならば…」
彼は白漂に対し並々ならぬ負の情念を抱いた眼差しを向けるが、その彼を申し訳なさげな表情で抱き上げた欧橋に気付くとそれを更に深めた。
○秦国中央部 王都咸陽 歓楽街 高級妓楼香斉○
「いやー、まさかこんな美人を三人も嫁に貰う将軍になるなんて漂も隅に置けないねー! あんたと肌を合わせたことのある身として嬉しいねー」
「だから誤解を招くような表現は止せよ紫夏…」
騒ぎが起きた昼間より日が大分沈んで夕暮れとなり、都の通りの大半が帰りの住民達で埋め尽くされつつも静寂に向かっていっている中で、一箇所だけ活気に溢れている歓楽街にて紫夏を中心に懇談会がその騒ぎが起きた香斉で開かれていた。
この店は紫夏の系列の店であったらしく、しかも漂が留守にしていた咸陽での彼の館より、独身の若手の隊員を大勢引き連れてやってきていた。
「あーん、お客さまーもっと李牧との戦でのご活躍を聞かせてください」
「無粋じゃありませんわ。寧ろ戦場で私達を守るために戦われている殿方の話は刺激的ですもの」
「あ、だ、駄目ですぅうぅ…❣」
その多くに香斉で勤めている妓女がくっついており、中には既に寝所を共にしている呻き声も時折り聞こえたりもした。
「あ、あのねぇ紫夏…幾ら久しぶりだからってこんな所で宴会をするなんて…」
「そんなに硬くなったら駄目だろ~、将軍のあんたがこういうのを避けてると部下も萎縮して避けて通わなくなっちゃうじゃないか~。何も真面目なだけじゃ~生活してけない子なんてこの時代には多くいるんだよ~。ほら~あの子達を見てみな~」
完全に酒が入っている赤ら顔で漂にしな垂れかかって絡んできている紫夏だが、その最中に高楼より見下ろす中庭で客引きをしている女性達を指差した時には目に軽く無い光が宿っていた。
「…この時代、皆が皆、殿方を癒したい一心だけで妓女になりに来てるわけじゃないの。孤児をやってたあんたなら知ってるでしょ?」
「…………」
「生きていけない、されどもあの世にはまだ逝けない子もいるの」
「あー、あの髪や瞳の色とかは…」
それに白漂は昔を思いだした表情で口が塞ぎ、代わりに信が中庭に見える妓女たちを見て懐かしさを覚えた。
彼女達の中には、彼らが北の地を平定して接触する機会が増えたコーカソイド系など中華とは異なる肌や瞳の色の人種の女性が多く見えていた。
彼女達を題材に白漂達の話は深まっていく。
「戦災未亡人や孤児か…」
「そう、女手だけじゃあまだ生きれないから此処で相手を探してるって子も大勢いるの。珍しい芸をもってる子も結構いるからここにそのままいついてる子もいるけどね」
「先の北の平定を切欠にここ秦国には中原などでは差別されやすい夷狄…秦では今はこの言い方はもう避けられていて色目人と呼ばれる人々が多く移り住むようになってます」
「燈騎、気になるんだがそうした人々は秦にいても窮屈とは思わないか? 確か先の上党併合の際も現地民は秦法を酷法と嫌って逃げ出したくらいだが…?」
「それもありますけど法の厳格さというよりもそれ以上に利権の問題なんです。中原は儒家の影響が強いので法律も緩くてその分解釈の幅が広く地方差が大きいんです。そのせいで交易者が多い色目人達は移動の度に税制の違いなどで儲けのほとんどが吸い上げられがちでした。それに対し秦は全国的に法治が一元化されていて治安もいいですから慣れればこちらの方が商売しやすいんですよ。今では咸陽の西で新設されている新区画には西方北方などからも新規込みで来た色目人達の交易の町が出来て、今では東方六国からも商人達が集まってきていますよ」
「(…政や僕らで北の平定や西方山界との交流が前世の史実より大幅に成された効果で、唐や元の時代の現象が先取りされたか…確かー前の世界の定説では秦は商人には厳しいとされていたけど古文書などの新発見や研究でそれも正確では無いとする新説も出てきていたし…)そうか、前から治水だけじゃなく貿易も進歩が進めば東方に比べて山がちで農業生産力は低い秦国の経済も良くなるな…む?」
白漂がその明るくなった内容に酒を進めようとしたその時、彼らがいる高楼の上層階より見下ろせる中心の吹き抜け式の一階の大広間から聞きなれない、けれども毅然として怜悧な音色が流れてきた。
「…これは…あの子は…」
白漂が手摺から身を乗り出して一階を見下ろすと、舞台に登った楽器を奏でる男女の中に昼間に出会った欧橋の姿があった。
昼間の男物の衣装とは違い、所々が透けて見えていて北の星座や竜を象った刺繍が縫われた着物を纏い、漂の前世の時代でいう琵琶に似た楽器を軽々と振りながら演奏する姿は、まるで戦場の武人に似た勇壮さを感じさせつつも妓楼らしい艶とも同居した曲とも重なり、長躯すらも艶美さに組み込んで客の男達の心を掴んでしまっていた。
「あーあの子はこのお店で売れてる子の一人の欧橋ね。詳しい事は大きくは言えないけど先の合従軍戦で没落した武家の名門の生まれなの。奏でてるのは最近に西域から入ってきた琵琶という楽器。昼間に出た万督はあの子が赤ん坊だった頃からの世話役でここでは新人の子達に読み書きを教えてる先生をしてるわ」
「なるほどなー、どうりで女にしちゃー腕っ節が強くて背もあると思ったし昼間に謝りに来られたときも堅い感じがしたけ…ん?」
その艶美さに鼻の下をやや伸ばしている男の一人に加わっていた信だが、彼女が填めている竜の意匠の腕輪に気付き懐かしさを覚える。
「信、如何した?」
「あ、いやー何か…あの姉ちゃんが填めてるあの腕輪…なーんかどっかで見たことのある気がしてよー…」
「腕輪…? どんなのだ…あ、言われてみれば確かに…?」
それを同じく気に掛けた白漂が紅華のジト目に気付かないまま身を更に乗り上げようとしたその時、彼の袖を紫夏が引っ張った。
「あーちょっとー他の人にはまだ言えない北の地での商売拡大で話があるからこの子ちょっと借りるわね」
「はい、どうぞ」
そのまま周囲の側近達に見逃される形で、白漂を他には人気の無い高楼の廊下まで引っ張っていく紫夏。
そこで彼女は酒気を感じさせない、穏やかな笑みなれど真剣な光を宿した瞳で白漂と対峙する。
「…実は…あの欧橋と言う子で話があるんだけど………」
「…! それは本当か…!?」
そこで耳元に囁かれた紫夏の話に白漂は目が大きく見開いた。
○秦国中央部 王都咸陽 歓楽街 高級妓楼香斉 上客用客室○
「…あ、ふ…あぁ…❣ こんな所でもここまで昂ぶるなんて…貴方ぁやっぱ…りぅ❣」
夕暮れも過ぎて夜に星が輝きだして多くの人が寝静まっている王都を見下ろせる高楼の一室のベランダで、紅華が肌着一枚を大きく乱して羞恥と快楽で倒れそうになりつつも手摺にしがみ付いてどうにか二の足を立たせていた。
「部屋の中での交わりで途中で動きを止めたら何でもするからっていったのは紅華だろ? 妻なら夫の要望には答えないとね…」
「だ、だからってぇこんないつ人に気付かれるか分からない場所で…うあぁ❣」
その紅華のスカートがたくし上げられて露になった丸尻を掴み、磯巾着で出来た蛇に締め付けられているようなクレバスに己が男根を差し込んで甘美な肉を味わっているのが白漂であった。
彼や他の側室達も交えた愛欲の日々で房事にも大幅に慣れたとはいえ、夜間とはいえ外でいつ人に見られるか定かで無い状況は、紅華に羞恥から来る緊張を課して膣圧に不規則的な緩急や凹凸を付けて却って互いの快楽を深めさせあっていた。
「あ、紅華よあそこにまだ灯りが付いてる家が」
「!!? ま、待ってぇ! 今ここで腰を動かされたら…っっっ~~~!!」
それを見越して膣内を更に柔らかくなるようにかき回してくる白漂に言葉責めまでされ、紅華は漏れそうな嬌声を必死に手摺に噛み付くことでどうにか防ごうとする。
一方で、草原育ちで中原の民よりも視力が高い遊牧民でも取り分け良い方の彼女の両眼は白漂が言っていた屋敷を発見させた。
中では薄明かりに照らされたカーテン越しに、明らかに男性に組み敷かれている女性が足を高く上げている影が見えており、中で何をしているかなど紅華達には一目瞭然であった。
「…程度の差で人の考えてる事は大差ないわね―――!?」
それに微妙な失望に似た安堵感を紅華が覚えた次の瞬間、彼女の降って広がっていた子宮口を熱い肉の穂先が穿って彼女は脳髄を貫かれたような極みに上げられた。
「―――えっうううあああああああぁ…❣❣」
それに一瞬の隙を突かれた紅華の手摺から離れていた口は甲高い嬌声を上げ、続けて雪崩れ込んできた白濁の子種汁に穿たれた穴から身を溶かされていく余韻に浸らされてズルズルと手摺を滑り落ちて、ペタンと尻を床に下ろした。
「(夜の方も体力と技を増させていってるこの子達に好きにされないためにも色々工夫を凝らさないとね…)…ん?」
自身の血肉を精に変えられて吸い出されるような極みの放出が弱まった男根をその煽りで紅華から引き抜き、一息ついた表情の白漂の勘に自分達とは別でそれに気付いていない人の気配が触れられた。
目を凝らせば妓楼を取り囲む外壁の影を怪しげな影が幾つもこそこそと蠢いていた。
「…ふうぅぅぅぅ…あ、まだこんなに無駄に付いて…はむ…❤️」
白漂がその不穏な気配に五感を凝らしている間、その事に気付いていない紅華はまだ朦朧とした瞳で半立ちしている濡れた男根を咥え、舐め取った子種をしばし味わった後に淫らな蜜を滴らせている己が女陰に指で擦りつけ続けた。
紫夏さんが関わると夜のあっちの話もチャラけた楽しい話になるから書きやすくていいです。
次回は咸陽で生まれている変化についてのお話です。