ナウシカの兄 R18 作:虫大臣マーク2
1階大広間で、一応の歓待で食事も出されつつ、毒に警戒したりもしながら彼ら親衛隊は寝ずに一晩を過ごした。
今頃、上階で彼らの敬愛する美しき白き魔女は、今日会ったばかりの田舎王子に…トルメキア全男性が夢見た肌を晒している頃だろう。
悶々と、そわそわと、イライラと、落ち着かぬ長い夜。
少しぐらい上の様子を探りたいが、階段にも大広間に繋がる幾つかの廊下の陰にも、屈強な城オジ達がいる。遠巻きに親衛隊達を見守っていた。動けない。
クシャナの身を案じて、乱暴されていないかの確認という大義名分で耳を澄ませて、よしんば情事の声など聞こえないものかなァ…と思ったりもせず、純粋に忠義心と心配から聞き耳を立てたりしたが…シーンと静まり返って物音一つ聞こえない。
(いったい上はどうなっているんだ…)
(姫殿下は……、くぅ…しょ、処女までお使いになって…あの男を上手く籠絡できただろうか…う、うぅ…姫殿下)
親衛隊達にとっては、拷問のような長い夜。
時が淡々と流れていき…明け方が近くなった頃。今まで物音一つ聞こえなかった上階から突然、音が響いた。
「――っ!♡~~~~っ!わたしの――――だぁ!♡だから――――っっ!♡あ゛っ――――ああああ~~~~~~っっ!♡」
途切れ途切れに、ぶつ切りの声が微かに聞こえる。
女の声。
軍人たる彼らが、娼館でも聞いたことのないような、蕩けた淫卑な女の嬌声。
ガシャンッと親衛隊の一人が思わず腰を浮かせた。
そして恐る恐る、ゆっくりと座ったまま固まっていた同僚へバケツ頭を向けた。
「い、いまのは…ははっ……ひ、姫殿下に…に、似てた、か?」
「…」
「…」
6人の親衛隊達は皆固まっていた。
何とか、一人が震える声で返事をする。
「バカだな…今のは…きっと、この城で…誰かが逢引でも……しているんだ」
その言葉に勇気づけられ、また一人、また一人と硬直から立ち直って、震えた笑い声で会話が始まった。
「ははは。そうだとも。姫殿下が…あ、あんな…色っぽい声……………」
「…い、色っぽかったな」
「うむ」
「……姫殿下に、似ていた…な」
「……うむ」
「今頃…!あ、あの生意気な田舎者を!姫殿下は脚で踏んでペットのように躾けているだろうな!そういう御方だ!」
「ああ!そうとも!下賤な男など簡単にあしらってしまわれる方だ!ひょっとしたら…姫殿下の事だ。あのいけ好かん王子のモツでも踏みつけて、情けなく吐き出させているかもな!」
「あ、有り得るな!ははは、そうとも。姫殿下に踏まれたり、手でされたりで情けなく射精して、もしかしたら姫殿下の神聖な乙女の園に門前払い食らっているかもな!ハハハッ!」
そんなバカ話をして、無理にでも明るい雰囲気にしていったが、
「―――ぃぃぃいぃイィっ――――っ!♡あああ――――あ゛あ゛っ―――まえのっ♡ものだぁぁっ―――たし、はっ♡あっ、あっ♡メギドだけのぉ、ものっ―――」
またも、女の〝致しているさなかの声〟が飛び飛びに聞こえて来て、親衛隊達は動悸がおかしな事になってきた。
皆、耳を澄ませてしまう。
そうすると、ギシッギシッギシッギシッギシッと、静かながら激しいリズムの軋みが聞こえてくる。
「…っ!!」
「ぅぅっ!ひ、姫殿下ぁ…!」
バケツ頭の覗き穴から液体が溢れる者もいる。涙が溢れていた。
耳を塞ぎたくなるような、クシャナらしき面影がある淫らな喘ぎ声をついつい聞いてしまうのは、親衛隊である以前に彼らも健全な男だからか。悲しい男の性であった。
そんな声と軋みが漏れ聞こえる事、数十分後。
「…音が、止んだ…」
げっそりとした声で、親衛隊の一人が言った。
それから暫く…彼らは無言で、饗された朝飯をボソボソと口に運ぶ。
もう誰も雑談などしなかった。
また1時間程経ったろうか。
朝日が完全に登り、城の中は女達が忙しく動き回りだして、外からも高らかに響くトンカチの音や農耕機械の音…子供達が走り回る和やかな生活雑多音が耳に飛び込んできた。
(……………なんて、平和なんだ……)
王都トリスよりも、それらの音はどこか活気に満ちているように親衛隊には聞こえる。
そんな中…ガシャッガシャッガシャッと階段を降りる鎧の音が聞こえた。
親衛隊達はハッとなる。
「姫殿下の足音だ!」
「クシャナ様っ!」
「殿下っ!」
全員、背筋を伸ばして、いつものように不敵な笑みを浮かべている筈の敬愛する白き魔女を出迎える。
そう…不敵に、自信たっぷりに薄く笑っている白き魔女の顔が見れる…筈だ。
――ガシャッガシャッガシャッ…
セラミック装甲の軍靴の音高らかに、クシャナが親衛隊達の元に帰ってきた。
いつもの、重厚な鎧とマントに身を包んだクシャナが彼らの前にいた。
しかし…。
「姫…殿下…?」
「信じて送り出した姫殿下がっっっっ!」
「………」
翌朝、親衛隊達はこの世の終わりを見た。
クシャナの前だというのに、手にした剣も長銃も、思わず床に落として立ち尽くしてしまう程だ。
その場で崩れ、四つん這いになって魂が抜ける者もいた。
「お、遅くなって、スマヌ……皆も、……んっ、ぁ……お、おぃ…やめよ……へ、兵らに、気付かれる…っ♡」
ピッタリと、クシャナの横に密着して立つ男。
そしてクシャナの身を包むマントは、その下が盛り上がって何かが蠢いているようだった。
風の谷の王子の方へ顔だけを向け、紅潮した頬で、潤んだ瞳で、小声で彼に何かを言っている。その声色は、強く勇ましいいつもの声ではなく、甘えたような色香溢れるもの。
あんな顔も声も、どんな古参の親衛隊だろうが見たことが無かった。
昨日までのクシャナならば、絶対に、誰にも見せることは無かった顔。
「…姫殿下…姫殿下………姫殿下が………」
「信じて送り出した姫殿下が」
「………」
親衛隊達はガクガクと揺れながら何とか立ち上がると、力が抜けきってしまった手で何とか敬礼した。
クシャナが親衛隊に視線を戻し、何かに耐えるように薄く唇を噛みながら、赤い頬で口を開く。
「…んっ…ごほんっ……み、みなも…た、大義…で、あった……。その…っ、すまぬが、…っ…わ、わたしは……ん…私は、秘石奪取の任に……し、しっぱい……ひぅ…」
クシャナのマントの下が、ごそごそと蠢く。
マントの下で、胸のあたりだったり腰のあたりだったりが、もぞもぞ蠢く。
――くちゅ…
何やら水音が聞こえて気がした。
親衛隊達は血涙を溢れさせそうな勢いであった。
クシャナの、いつもならばとても力強い鋭い瞳が潤んでいる。
血涙を流しそうになりつつも、親衛隊達は股間にも血が集ってきてしまうのだ。
鎧の下で股間が痛いくらいに勃起していた。
「はっ……ん………任務に、失敗……し、て………して、は…いないのだ、が……っ…今後は、こ、この男を連れて……っ♡あっ♡……戦場に、戻って……もどってぇぇっ…♡」
荒い呼吸で声も艶かしく震えるクシャナが、何故か慌てて急に兜のフェイスガードを下ろし、
「っっ!♡~~~~~~っっっっ!!!!♡♡♡」
ぶるるっと痙攣し、その途端にクシャナが何かに躓くようによろけた。ただ立って親衛隊に話しかけているだけなのにだ。
ひどく近い距離で隣に立っていたメギドが、すかさずクシャナを支える。
メギドの指がぬらりと濡れて光を反射していたような気がしたのは、きっと親衛隊の気のせいだろう。
「大丈夫か、クシャナ?体調でも悪いのか」
メギドがクシャナの心配をするが、どこか白々しいものを感じる。
親衛隊達の股間はかつてない熱を湛え、股装甲を突き破りそうな勢いで勃起してしまう。触ってもいないのに滾りに滾って射精してしまっている者もいた。
しかし、敬愛する主君の手前、微動だにせず敬礼を崩さないのだ。
「っだ…だいじょうぶ、だ……はぁ、はっ、はっ、はぁ…♡……ん……メ、メギド…後で、お、覚えて、いろよ……っ♡」
ヨロリと立ったクシャナは、今度は比較的落ち着いて言葉を続けた。
もうマントの内には、奇妙に蠢く何かはいなさそうだ。
「ふぅ…ふぅ…ん……ごほんっ…とにかく、メギドを伴い私は予定通りペジテに帰る。秘石は…その…こやつに預けておく事にした。よいな!」
「「「ハッ」」」
「よし………ならば、とりあえずコルベットに戻りいつでも出られるようにしておけ。何かあったらまた呼ぶ。それまで船で待機せよ」
「…クシャナ殿下は?」
「私は……もう少し、メギドと今後について…打ち合わせを行う」
「…」
「……」
「………」
親衛隊達から妙な間が漂う。
「………分かったか!?」
短く「はっ!」と返事をし、クシャナの号令に合わせて彼らは駆け足で船に戻っていく。
親衛隊達の腰が妙に引けていたり、「アッ、鎧ノ隙間ニ…イテテテッ」と小さく言っていたのは気のせいだろう。
親衛隊を見送ったクシャナ。
ジロッとメギドを見る。
「怒った?」
「怒っている」
ひょい、と白き魔女のフェイスガードを勝手に上げて、中のご尊顔を拝む。
トルメキア第4皇女にこんな勝手な事をして、クシャナの怒りを買わずに済むのはメギドだけだろう。
美しい顔の頬はやや紅く、そして少し困ったような…それでいて潤んだ瞳でメギドを睨むのだ。
「…」
思わずメギドは、黙ったままクシャナの顔に見惚れる。
「…貴様、外には声も音も漏れないようにしていると言ったではないか!な、なのに…あ奴らの、あの反応…!き、きっと…聞かれていた!う、うぅ…こ、この私の…あ、あんな声を…!」
「……超常の力で防音はしたんだ。だけど…クシャナに夢中になり過ぎたのと、クシャナとやり過ぎて疲れたので、ちょっと弱くなったかもしれない。最後の方とか」
ごめん、頭を下げたメギドの頭を両手で持ち上げて、面を上げさせる。こうして面と面で向き合うと、少しだけメギドが高い。
クシャナの眉が険しく曲がった。
「結局、お前が猿のように私を求めるからではないか…?全く…。………お前以外に、私の……………その……気持ち良くなる時の、声とか顔を…晒したくないのだ」
クシャナの頬の赤みが強くなって、そして拗ねたようにそっぽを向いた。
「さっきフェイスガードを下げたのも?」
「………お前以外に見せる気はない」
メギドは平静を装いつつ、内心で、感動とも、萌え上がるポカポカとも言える沸き立つ感情に襲われている。
「可愛い…」
そしてつい言葉に漏れる。
「……………そ、そうか」
頬の赤みを更に強くしながら、今度は逆方向にまたそっぽを向くクシャナ。
ここに親衛隊が居なくて良かったと言える。
クシャナの恥じ的な意味でも、そして親衛隊達の精神衛生的な意味でも。
ごほんっ、と咳払いをし、クシャナがメギドに向き合う。
「それで…私に紹介したい者とは誰だ。余り時間はないのだ。手早く頼む」
「とりあえず…側室の紹介を…」
「貴様…婚儀を上げる前に、もう側室か」
ジト…と睨む彼女の視線がやや痛い。
付き合って下さい、と告白してOKを貰ったらすぐに浮気相手を紹介されたようなものだ。
もっとも、今の時代と、彼ら王家育ちの価値観を加味すると、そういった事も常識の範疇ではある。
だからすぐにクシャナも「わかった」と納得した。多少、つっけんどんではあったが。
――
―
そして、クシャナは今…つい十数分前まで、初めて出来た愛する異性と濃厚に愛し合っていた現場に戻っていた。
少々そわそわしているようだ。
(…さ、さっきまで…私は…ここで………メギドとあんな事を…!うぅ)
窓は開けられ換気しているし、メギド印の怪しげなアイテム『ふぁぶりーず』なる物も振りまいたが、まだ
そこに、
――コンコン
部屋の戸を叩く音。
メギドが入室を促すと、扉を開けて二人の女がそこに立っていた。
「…失礼します、お兄様」
「お邪魔致します…メギド様」
ナウシカとラステルであった。
ナウシカが素早く視線だけで部屋を確認し、そして鼻をスンッと鳴らす。
「…お兄様……その人と…?」
「……」
ラステルも俯き加減に頬を染めている。
ナウシカもラステルも、この濃厚な香りが情事の際の男と女の体液の匂いだと知っている。
メギド以外の男の液の匂いは知らぬし、知りたいとも思わないが、この匂いは精液の匂いに間違いない。
二人の美姫が散々嗅ぎ、掛けられ、胎内に注がれたものだ。
ナウシカも、ラステルのように頬を赤らめるが俯いたりなどしない。
兄を見、そして兄のベッドにゆるりと腰掛け、まるでこの部屋の主にように堂々と寛ぐ甲冑姿の美女の瞳を、キッと見た。
「トルメキアの、クシャナ…様」
クシャナは笑った。
「フッ…そのような目で見るな。まるでオモチャを取り上げられた童のようだ」
「お兄様はオモチャではないわ。私の…最愛の人です」
むぅ、とクシャナが唸る。そしてナウシカの目を黙って見返した。
その目は、兄妹故の家族愛というだけでは済まない熱を持っているように、クシャナには思える。
「……やれやれ、メギド。ナウシカのお前を見る目……一人の男を見る目だ。貴様…ラステルだけでなく、実妹にも既に手を出していたな?」
ははは、とメギドは乾いた笑いを浮かべた。
笑って誤魔化したな?とクシャナはそれをすぐに見破った。色に溺れていない時のクシャナはとても明敏なのだ。
鼻で笑いつつ、クシャナはナウシカを見据えて言う。
「まぁいいだろう。古今東西、王家の婚姻は退廃が付き物…母子、姉、妹…近親結婚など珍しくもない」
あっさりとお許しが出た。
メギドは、もう少し拗れると思っていたから、これには少し拍子抜けである。
鎧をガシャリと鳴らし、クシャナは脚を組み替えて少女二人を冷ややかに見つめる。
「改めて名乗っておく……私は、トルメキアの第4皇女、クシャナ。…そなたらの名を聞こう」
「風の谷のナウシカ」
「ペジテのラステル」
ナウシカの、クシャナを見る目も穏やかではない。
そしてラステルのそれはナウシカ以上だ。ヴ王の命によるものだとはいえ、故郷を滅ぼした実行犯であり、真犯人の実娘が目の前にいるのだから当然だろう。
しかしクシャナはさらりとその視線を流して、直属の部下に言うように…まるで命令を下すように二人に口を開く。
「さて…私達の生まれを鑑みても、私が正室という事で異論は無いと思うが……一応、お前達の意見も聞いておこう」
堂々とした態度であった。
生まれついての女王の貫禄とでいうものが、クシャナからは溢れていた。
しかし、ナウシカもまた生まれついての偉才を持った身。
メギドという兄がいなければ、それこそ聖女となって世界の全てを背負って走り回っていたであろう傑物だ。
堂々たる王女クシャナを、一波の波紋も無い波風立たぬ水面のように迎え撃つ。
「正室か側室かは役割の違い。異論はありません…あなたに
ピクッとクシャナの片瞼が動く。
「フフフ…愛か。確かに、な。……ならば、やはり私が正室で問題は無いという事だ」
今度はナウシカとラステルの眉が一瞬動く。
ラステルが無表情で言う。
「ナウシカさんの仰る通り…私も異論ありません。正室は政治的な向きも強く、奥の事も整えなくてはならない…クシャナ殿にぴったりかと存じます。お仕事で昼も忙しいでしょうし…夜の事は、
部屋の中の温度は数度下がったかもしれない。
「若い…?」
クシャナの呟きにナウシカとラステルは同時に頷いた。
「ええ、そうですね。私達の方が…
「クシャナ殿も、一人で毎夜の褥はお辛いでしょうから…
言われたクシャナの瞳は氷のようだ。
不敵な笑みも、いつもよりも酷薄なもののように見える。
「付いてきても構わぬが、軍に参じる以上、軍司令官たる我が命は絶対。女だろうと容赦せぬ。…死ぬぞ?貴公達…。それでも構わぬのか?」
「お兄様と離れる方が、死よりも辛い。行きます」
「私も…メギド様に抱かれたその時から、この命…メギド様と共にあります」
チッ、という舌打ちが聞こえた。
クシャナがあからさまに二人の少女へしたものだ。
〝抜け駆けはさせない〟
そういう強い意志が、三人の女の間でぶつかり火花が散っているのだ。
三人の女は、顔面の筋肉だけでニコリと笑顔を向けあった。