ナウシカの兄 R18 作:虫大臣マーク2
兄妹が秘密の関係を持ったまま数年が経つ。
その後も年頃の兄妹は肌を重ねる事を自重できるはずもなく、色を覚えた二人は猿のように盛りあった。
初めてのセックス以後、主に自重できないのはナウシカだ。
性的な汚れを厭う気質すらあった蟲愛づる姫は、「兄との色事は汚れではなく次代の生命を紡ぐ神聖な行為」と都合よく解釈して積極的になった。
しかし、初潮も済ませ子を為せる身体となったのに、兄に毎夜のように女の最奥に精を注がれても未だ子は出来ない。
「お兄様。私…子をなせぬ体なのでしょうか…」
とうとう思い詰めて兄メギドに不安気に愚痴る。
メギドは驚いた。
「お前、もう子が欲しいのか」
「はい、当然です。私…お兄様との赤子を早くこの手に抱きたい」
「しかし腹が大きくなればもう谷の者を誤魔化せないよ?父も母も卒倒してしまうかもな。ははは」
「それは…」
少しナウシカは言い淀む。
数年前、大病に伏した母はメギドが三日三晩寝ずに様々な腐海の葉や蟲の皮、臓腑等を煎じて混ぜて調合した秘薬で命を永らえた。
誰もが母は助からぬと思っていたのに、メギドは見事に死の世界に片足を踏み込んでいた母を連れ戻した。
また、精魂込めてチコの実も品種改良し、唯でさえ素晴らしい栄養価と効能を持っていたチコの実を爆発的に進化させ、それを毎日煎じて母に呑ませて健康を回復させていったのだ。
少しずつ順調に回復し、母本人も周りの者もようやく安心して笑顔をみせるようになった今、確かに余計な心配はかけたくない。
メギドが品種改良したチコの実の効果は絶大で、今では谷の者全員が干して粉末に砕いたものを少しずつ食している。
腐海の毒で日に日に体が硬化し弱っていく老人達の肉体は若い頃のように自在に手足を動かせるようになり、また若い者達では出生率が上がって生まれる子も健康な赤ん坊が劇的に多くなった。
チコの実は、今では谷の者以外に薬効を知られてはいけない秘中の秘の幻の薬になっている。
大量栽培し他国に輸出するほどチコの実は生産出来ておらず、他国が知ればこぞって手に入れようとするのは目に見えていて軍を派遣してでも入手と独占を望むだろう。
メギドの調合した秘薬などはもってのほか。
チコの実を万能薬とし、瀕死の者すら治癒する秘薬をこしらえたメギド自身はもう大変な扱いだ。
唯でさえ谷の者に慕われていた王子だったが今では度を越した慕われようで崇拝の域にまでいっている。
しかもメギドがやらかした事はそれで終わらない。
メギドが風の谷に齎した恩恵は秘薬やチコの実の改良だけではなかった。
エフタル時代かそれ以前に造られたと思われる古代機械を、工房都市ペジテからユパが手に入れてきた残骸から復元、改良して畑仕事を補助する農耕機械としたのだ。
ガンシップやメーヴェなど航空機の心臓であるエンジンに関してもメギドは驚くべき奇跡の業を披露した。
一度エンジンが壊れれば、地中を掘り古代文明時代の地層から新たに出土する動くエンジンを大枚はたいて輸入するか、他のガンシップから奪ったものを修理したりするしかないのが常識だ。
しかしメギドは、農耕機械の時と同じようにペジテから入手した残骸 ――谷で一番の知恵者である大ババやユパでさえ何にも使えぬガラクタと断じた物―― を繋ぎ合わせ、足りぬパーツは鉄くずをハンマーで叩き熱して曲げ新造し…なんとエンジンを自力で作り上げてしたまったのだ。
これは古代工業大国エフタルが失われた時以来の快挙だった。
超大国であるトルメキアや土鬼諸侯連合でさえ出来ていないのだ。
奇跡としか言えぬ数々の御業を風の谷に齎した風の和子のカリスマは凄まじいまでの領域になったのは想像に難くない。
しかしそれだけに風の谷の者達はメギドの所業が他国に知られるのを恐れた。
どれだけメギドが懇願しても、ジルもユパも決してメギドを旅に出さぬほどだ。
また、24歳にもなるのに未だ独身で嫁取りも上手く行っていないのはこれらが原因でもある。
メギドと交合う事は谷の女は誰もが望む。
だが結婚し妻となってメギドの子を孕むのは、谷の女達は誰もが躊躇してしまうのだ。
「現人神の妻となり、神の子の母親となる重荷には耐えられない」と谷の女は皆口を揃えて言う。
とにかく…そういったメギドの御業のお陰で助かった母に心労をかけるのは良くない。
子を授かるには時期が悪いというのは分かる事でナウシカも納得できるが、それはそれとしてこれだけ肌を重ねて妊娠しないのはいずれメギドとの子が欲しいナウシカには死活問題だった。
暗い顔をしているナウシカにメギドは微笑みかける。
「大丈夫だ、ナウシカ。子は天からの授かりもの…運が悪ければそのようなもの。お前の体が子を生めぬ訳ではないのは兄が保証する」
「……ありがとう、お兄様。気休めでも嬉しい」
「気休めではない。生めぬ体の者に限らず、男も女も遺伝疾患を持つ者はDNAが放つ特有の波長…それがある種のフェロモンとして私の目に――」
「でぃーえぬえー…?」
ナウシカが首をかしげると、メギドはまた微笑んで言葉を止めた。
「いや、止めよう…気にしないでくれ。……変なことを言ってしまったな。…ちょっと、お前の兄はおかしい奴なのだ」
兄が自嘲気味にそう言うとナウシカはまるで自分の事のように怒って兄の言葉を否定にかかる。
「そんなことない!お兄様がそう言うなら……良くは分からないけれど、そういうのが分かる何かが視えるというなら…私は信じます」
「……ありがとう。ならば、お前の体は全く問題無いというのも信じるな?」
「はい!」
言い切ったナウシカの顔は明るかった。
それだけ兄への愛と信頼が絶大だということでもあった。
兄が何の淀みもなくそうだと言い切ったのならナウシカはそれを信じるだけだ。
実を言うとメギドは肉体操作で自分の精子の生成を抑えているので妊娠出来ないのだが、何故そんな事をしているのか、出来るのかはナウシカには言わない。
将来の禍根としない為、一番に妊娠されるのは困るというのが誰にも語らざるメギドの本音だ。
メギドは一番に孕ませるのはとある大国の第4皇女と決めている。
「…ナウシカはいくつだったかな」
「15になりました」
「…ならば、きっと…焦らずとももうすぐ妊娠できる。その時は私の子を生んでくれ」
(15か…ならば後1年で全て動き出す。もうすぐか…)
「はい、メギド兄様…お約束します」
ナウシカは安心したように兄の胸に飛び込み頬ずりする。
メギドはそれを優しく受け止めて妹の頭を撫でてやるが、彼の目はひどく遠くを見つめていた。
◆
「やぁ、来たな。我が半身よ」
「…今日も良い夜だね、ミラルパ」
夢の中…精神世界で二人は夜な夜な密会を繰り返している。
片や黒いドロドロとした粘液が無理やりに人型を形作っているような者…ミラルパ。
片や白い不定形の発光体…メギド。
二人は精神世界を彷徨っている時に、
そのファーストコンタクトは今の仲の良さからは想像もできないぐらいに荒み、恐ろしいものだった。
初めて遭った時、土鬼の神聖皇帝ミラルパは刺すような灼熱と極寒の憎悪を纏って独りでずっと地べたに手を伸ばし何かを探していた。
独りで何かを必死に探し求め、しかしそれは決して見つからず彼は暗闇を延々と独りで彷徨い続けるのだ。
明敏な己の意図を理解しない愚かな民衆。
進歩を否定しいつまでも錆びついた過去の土着信仰に頼り切る愚劣な民衆。
愚鈍で愚昧で無知蒙昧…か弱く強欲で自分勝手…だからこそ自分が導き守ってやらねばならぬ愛しき民共。
そして軽薄で愚かで欲深い己の兄、ナムリス。
彼らはなんと愚かで悲しいのだろうとミラルパは常々思う。
こんな愚かな者達を、自分は20年間も言葉を尽くし言って聞かせやってみせて慈愛で導こうとしたのか。
こんなことでは何百年、何千年経っても民衆は賢くなれない。
名君であり賢帝である自分がいなくなればこの愚かな民衆を導いてやれない。圧倒的に時間が足りない。自分の不老不死は不完全だ。いつ何が起きるか分からない。
昔の己こそ愚かだったとミラルパは反省し、そしてもっと早く迅速に民が叡智に目覚めるように拙速な手段をとることにした。
そうしてからは民を導くのは実にスムーズだ。
愚かな民衆は力で導いてやるのが一番だ……兄もそうだ。
あの愚かで愛しい実兄は力を信奉しているから、だから弟の自分が力を見せれば自分が拓いた道を歩んでくれるだろう。
己が拓き続ける道を征くことこそ民と兄には幸せの道。
栄光の道。
だが同時にそれは孤独な修羅の道だった。
ミラルパ独りが先頭を歩き、自分の身を呈して定かでない未来という暗闇を切り裂いて突き進む道。
いつしかミラルパという男は摩耗し、擦り切れて、魂は憔悴した。
ミラルパはいつも全てを独りで背負って、この荒廃した世界で土鬼を栄光へ導こうとその術を模索していた。
寝ても覚めても考えるのは土鬼の国の、世界の行く末。
(無理だ!この世界はもう緩やかな死に向かっている!墓所の博士共が齎す全てがそれを確信させるのだ!)
(いや、大丈夫だ。人類の英知はここで終わりはしない!私が、このミラルパがいれば世界はより良く変えられる…絶対にだ!)
(愚かな民衆!私の考えを、思いを察せぬ馬鹿共は死に果てよ)
(弱き民…私が守ってやらねば彼らはどうなる)
(私だけが…この世界から人々を守り導ける。その為なら私はどんな手も使おう)
「わしは…唯一不可侵の神聖皇弟ミラルパである。我が意は絶対…我が言葉は理」
愛と憎悪が長い年月でミラルパの魂にこびりつき、彼の魂はいつしか暗く冷たい刺すような熱に染まっていた。
もう他者の愛も言葉もミラルパには届かず、ただ己の言葉だけを信奉する冷たき賢帝と成り果てていた。
今日も、例え寝入っても彼は精神世界で独り全てを背負って暗闇を這いずり回る。
そこに光は来た。
前触れも無く、彼はミラルパの心に当たり前のように佇んでいた。
「やぁ」
ごく自然に、光は暗闇に近づいて天気の話をするかのような気軽さで話しかけてくる。
ミラルパは光に目が眩む。
その光を見ていると、炎に飛び込む蛾のように吸い込まれそうだ。
自分の身が焼かれて死ぬのを分かっていてもその衝動が湧き上がってくる。
ミラルパは恐れ、怒った。
「…λτυ!」
神聖語で叫び、威嚇する。
光よ近付くなと。
形を持たぬ光の塊のそいつが確かに微笑んだのがミラルパには理解る。
「ομαεηανανιμονοδα!」
身に纏う暗闇を膨張させ光を拒む。
まるで体を大きく見せて大敵を欺く弱き蟲のように。
「…怖くないよ」
光は笑いながら暗闇に言った。
その言葉はひどく優しく、ミラルパの冷たい心に問答無用で染み渡ってくる。それがミラルパには余計怖く恐ろしい。
「ναζεωατασηινοψυμενιιρυ…!」
生まれた時からミラルパに備わる選ばれし者の資質…超常の力。
下らぬ異を唱える愚か者を処刑する時とは違い、ミラルパは最大限の力で光へ念動を叩き込む。
――フフフ
光は笑っていた。
ミラルパの念動は手応えもなく光を通り過ぎて闇の虚空に消えて霧散する。
「λτυωαραυκάκισαμα!!」
もう一度。
今度はもっと沢山。
ありったけの念動力をこそぎ集めて無数の黒光弾を作り出して光目掛けて撃つ。
雨霰と光を消し去ろうと黒い弾丸でそいつを塗り潰していく。
――フフフ
また光は笑うと、ミラルパの放った黒い雨を全て掻き消した。
「…っ!!」
ミラルパは怯えた。
そして、この光は自分が抱く未来への恐怖そのものかとも思えてきた時だった。
「会いたかった」
光はそう言って、暗闇である自分に手を伸ばしていた。
「何も怯える必要はない…私達は一つ。君と一緒なら、この世界を諦めずに済む。さあ…おいで」
おいで、と光がもう一度言った。
その染み入ってくる言霊はミラルパの頭をくらくらと麻痺させるようだ。甘美でさえあった。
「私はメギド」
ドロドロとした暗い粘液は、光に吸い寄せられるように震えながら腕を伸ばしていた。
ミラルパの口が自然と開いていく。
「わ、私は………私は…」
「ミラルパ」
「そう、そうだ…私は、ミラルパ……何故、お前は私を知っている」
「君をずっと前から知っていたからだ。会いたかったよ、ミラルパ」
光は、メギドはミラルパをずっと前から知っていた。
何故かミラルパも…その光をずっと前から知っていたような気がした。
それは不思議なことだったが当たり前のような事にも思えた。
その夜、ミラルパは失った魂の半身に出会ったような心地よい懐かしさに沈み、暖かい温もりに抱かれて目を閉じた。
光と出遭った夢を終えると、ミラルパは実に数十年ぶりに何にも悩まされぬ静かな眠りに包まれるのだった。
◆
メギドは精神世界を彷徨う。
ミラルパがそうであったように、メギドもまた捜し物があった。
メギドとミラルパが邂逅したのは、確かに偶然なのだが極めて必然に近い偶然だ。
捜し物とミラルパはとても近い場にいるのだから。
その捜し物は、いつも見失いやすい。
自立した意識を持っているものの、人工的に造られたそいつは自我が薄い。或いは無い。
だから夢を見てくれない。
メギドはいつも夢さえ見ぬ薄い意識の光を探し当てなければならなかった。
これは中々の重労働である。
見つからぬ夜さえある。
しかしやる価値はあった。
どうやら今日は当たりの日らしい。
「……マタ、あなた、カ」
薄い薄い微かな光が一つ目の瞼をうっすら開いて、メギドを眠たそうに見つめる。
「おはよう。今日は夢を見ているのか」
「あなたガ接シテ来ルヨウニナッテ、私ニ
「それは良いことだ。君が自我に目覚めてくれればこの世界に愛着を持ってくれるだろうから」
「私ハ主カラ世界再生ヲ託サレテイル。コノ世界ニ愛着ヲ持ツ必要ハナイ…何故ナラコノ世界ハヤガテ壊レルカラダ…ソウイウ風ニ、世界ハ設計サレテイル」
「それを止めたいと思っている」
「ソレハ不可能ダ」
「直接会えばきっと君も心変わりしてくれるさ」
「ソレハ不可能ダ」
「旧人類の言うことは聞かないといけないだろう?君は」
「旧人類ハ…私ノ主達ハ滅ビタ。私ハ主ガ残シタ遺志ヲ全ウスル。ソノ為ダケノ存在」
創造主のプログラムを自分の言葉のように繰り返すだけだったコイツが、随分と自己主張をし始めたものだとメギドは笑う。
良い兆候と言えた。
「まぁいい。今はまだ君を説得はできないのは分かっているから」
「マタ、あなたハ私ヲ無理矢理、手籠ニスル」
「お前…人聞きが悪いぞ?」
「DATAヘノ不正ACCESS感知……ホラ、ヤッパリダ」
「私は馬鹿だからな…君の知識を見せてもらって…カンニングさ。ははは」
「…好キニ、シロ。……私ハ、眠イ…モウ、眠ル、ゾ…―――」
生まれたての自我はまだまだ拙く、か弱い。
メギドの目の前でプログラムに飲まれて揺蕩い消えていった。
メギドも慌ててプログラムの前から姿を隠す。こいつらに見つかれば
そしてプログラムの監視の目を掻い潜りながらメギドはこそこそとAIの精神の迷宮を歩いていく。
「………さぁ、今日こそ新世界の再調整の方法を発見できるかな?毒を全て浄化されちゃ困るんだ」
旧人類が残した知恵の遺産…〝墓所〟。それらを制御する中枢の
足りないのは自我とそれに伴う感情だけだ。
だから超常の力で
勿論、同じく超常の力を使いこなすミラルパには真似できない事だ。
メギドがこれを出来るのは墓所の主がどういう存在かを理解しているのが大きい。
理解せぬことには物事を正しく掴めないのは精神跳躍でも同じであった。
「しかし…データを閲覧するのも楽じゃない」
ハァ…とため息をつく。
墓所の主の頭脳を覗くのは広大な図書館を彷徨って一冊一冊本を手にとって探す行為に等しい。
ただ盗み見る行為ではあるが、これにはメギドの精神を大分疲労させなければ到底出来ない事なのだ。
それにメギドの目当ては現世界の保持。
エンジンの組み立てや治療薬の知識はそのついでに過ぎない。
「この世界を壊させない為とはいえ…ミラルパがここを正しく認識できれば手伝って貰えるのになぁ…。あいつ、きっと地頭良いからさ」
独り言を漏らしながら、今日もメギドは無限の図書館を漁る。
メギドもまた世界を壊させない為に独り足掻く者である。