解術屋の斎藤じぐざぐの元に依頼の電話が。果たして今回はどんな呪いが待ち受けるのか。
"解術屋"斎藤じぐざぐが依頼の電話を受けたのは、例の如く花の水遣りの最中だった。
「今?お花にお水飲ませてあげるのに忙しいし、後にしてくれへん?ていうか、なんでいっつも俺がお花の世話して時に限って狙いすましたかのように電話してくんねん。双眼鏡かなんかで見張ってるんか?」
如雨露を傾け、花鉢をひとつひとつ覗き込む眼差しは優しげだが、その口調は苛立ちを隠そうともしない。説明しようとする声を遮って、じぐざぐは続けた。
「だいだいその連続婦女暴行事件って、確か最近犯人捕まったんちゃうかった?さすがに俺の範疇やないん違います?あとは検察と弁護士が頑張ればええやん」
電話の向こうの声の主も、感情を抑えるタイプではなかった。携帯を耳から離しても充分届く音量で怒鳴っている。
「いいか、最後までよく聞けよ。その事件は連続じゃない、不連続なんだよ。同時期に多発してるのに、犯人はそれぞれ別人だ」
じぐざぐの眉がわずかに上がる。
「そしてな、犯人の男はみんな判で押したようにこう言うらしい。『自分の体が自分でなくなったようだった。なんであんなことをしてしまったのかわからない』ってさ」
花鉢に埋め尽くされたウッドデッキにしゃがみこむと、じぐざぐは白い髪を片手で掻き乱して、小さくため息をついた。
「あれちゃう、判断能力ないふりして責任逃れしようとしてるんちゃう?そんな卑怯な人間のことなんて構ってられへんよ。自分のことは自分でやるべきやわ。ほな……」
「お前わかってるよな」
その声は畳みかけた。
「今回の件は呪いが関わっている可能性が高い。そして一番大切なのがまだ終わっていないということだ。じぐざぐ、お前のその能力で助けられるはずの人間を見殺しにしたらどうなるか……わかってるよな」
最後の一言は、まるで一文字ずつ傍点を打ったかのような発音で、それがじぐざぐの癇に触った。悪態をつこうとしたが既に通話は終わっており、携帯を放り投げようとしてどうにか思いとどまった彼は天を仰いだ。
「ああもうイライラするわ!」
ウッドデッキから部屋に戻ると、じぐざぐは一目で年代物とわかる薬箪笥の前でしばし黙考した。引き出しを開けて何種類かの種を取り出すと、花模様をあしらった真紅のツナギの胸ポケットやらペンポケットやらに大切そうに詰め込む。もう一度ウッドデッキに出た彼は、風の匂いを吸い込むように大きく深呼吸した。
「ほな行くで」
ポケットに手を当ててそうつぶやくと、じぐざぐはひょいと手摺りを乗り越えた。解術屋の出動である。