人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
「やっぱりその人、Qじゃない?」
サアヤが心配そうに俺を覗き込む。昨日は結局その後シエルからも、そしてヤヨイからもメールは来なかった。個人的なものなだけにどうしようかと迷ったが、俺はサアヤにシエルとのメールについて話したのだ。
「んー、それにしては露骨すぎやしないか?」
「五年生でQなら、必死な人もいるかも」
「それじゃばればれじゃね? それに、最初に会った時は、どっちかっていうと、人としゃべるのが苦手っぽく見えたんだけど」
そうなる前のこと――ソフィーアとどんな話をしたかは、サアヤには言わなかった。とりあえずサアヤは、『何事も無かった』ことに安心しているようだ。
「人は見かけによらないから」
「それにしてもなぁ」
始業前、朝の廊下は生徒が慌ただしく歩き回っている。と、その中をゆっくりと歩く天河キユレの姿が見えた。俺とサアヤの姿を見て、涼しげに微笑む。
「やあ、レント君。瑞雲さんをパートナーにしたんだね」
そう声を掛けてきた。
「おかげさまでね」
「そっか。これで君も」
そこまで言ってキユレは、俺の耳に自分の顔を近づけた。周りにいた女子生徒のざわめきが聞こえる。
――隠れていられなくなったね。
ささやき、と形容することすら躊躇いそうなくらい小さな声で、キユレは俺に囁いた。
横目でキユレを見る。ふふっと軽く笑うと、キユレは俺から離れていった。
「ねえ見て、キユレ君とレント君のツーショット撮っちゃった!」
「なにこれ、接近しすぎぃ。私にも頂戴!」
「私も!」
女子たちがこの『ハプニング』についてキャッキャと騒いでいる。しかしそんなことよりも、キユレに『ばれていた』ことが面白くなかった。
一年の間は目立たないように。しかしサアヤをパートナーにしたことでその目論見は崩れてしまった。もう十分目立ってしまっている。それがキユレにそう仕向けられたような……いや、サアヤをパートナーにするのは元々決めていたことだし、それが単に早まっただけだ。
「レント、どうしたの?」
キユレの後姿を見ていた俺にサアヤが声を掛けた。
「ん? いや、何でもないよ。というか」
改めて周りを見回す。騒いでいた女の子たちが、慌てて『日常』へと戻っていった。
「キユレと俺のツーショットなんか撮って、面白いのか?」
サアヤにそう尋ねると、
「意外にね、レントも人気あるんだよ」
と返ってくる。
「俺が?」
「うん」
思わず聞き返した俺に、サアヤが一年の男子の評判を教えてくれた。一番人気はキユレだが、男らしさが好きな女子はタケゾウのほうがいいらしい。
「でも二人は敷居が高いでしょ? レントの平凡そうなところがいいんだって」
「なんだよ、それ。平凡そうなら、ソラタだってそうだろ」
「あいつは、感じ悪いから」
バッサリ切られたソラタが少し可哀想になった。
「おはよ、レントくん」
と、別の声に呼び止められる。見ると、六組の
「おお、おはよう、ケイマ」
ケイマは学科も運動もイマイチだが、音楽が得意な男子だった。
「とうとう瑞雲さんをパートナーにしたんですね。もっと早くにそうなると思ってたんですけど」
他の男子とつるみたくない俺と、引っ込み思案なケイマは、男子二人でペアを作る時に『余ったもの同士』として組むことが多かっただけに、男子の中では一番仲のいい間柄になっていた。
「まあ、色々な」
俺の曖昧な返事にケイマは「ははは」と笑ったが、その笑いが顔から消えた時、表情の中に「うらやましさ」が残っているように見えた。
「ケイマは、誰か仲良くなった女の子、いないのか?」
「僕? えーっと、いないですねぇ」
「まあ、まだ焦る時期じゃないけどな」
ケイマは音楽部に入っているので、周りに女の子がたくさんいそうではある。そう思ったのだが、当の本人は、
「あまり興味無いです」
と微笑むと、俺に手を振って、六組の教室へと入っていく。その言葉と、一瞬見せた『うらやましさ』が合っていないような気がして首をひねった。
「アタシも行くね」
しかし、サアヤがそう言って五組の教室へと向かったので、思考を中断し、俺も四組の教室へと入る。
雲雀シエルが万年筆を取りに来るかと思ったのだが、結局現れなかった。
※ ※
一学期ももう残り一週間。こうやって昼休みに席に座ってぼーっとするのもあとわずか……そんな感じで天井を眺めていると、俺の視界にソフィーアの顔が逆さまに現れた。栗毛色のショートボブが俺に向かって垂れている。
「あれ、先輩」
「やあ、レント」
「どうしたんですか? って、先輩、いつの間にか俺の名前呼び捨てになってますね」
「嫌、かな?」
そう言ってソフィーアが、俺の顔を覗き込む。
「いえいえ、光栄ですよ」
そう返事をし、身を起こそうとしたが、ソフィーアの顔が邪魔になっていた。
「先輩、それじゃ俺、動けません」
「なぜ?」
「先輩に当たっちゃいますよ」
「私は構わないよ。君が……」
ソフィーアが言い終わらないうちに、顔をソフィーアに近づけた。ソフィーアがそれに応じ……二人の唇が合わさる。ソフィーアとの初めてのキス。軽く口を開けると先にソフィーアの舌が俺の口の中へと侵入し、俺の舌に絡みついてくる。教室に残っていた女子の何人かが「わぁ……」と声を上げるのが聞こえた。
その時、
ガタンッ
何かが倒れる音が響き渡る。音のした方に目を向けると、ヤヨイが目を見開いて、俺とソフィーアを見ていた。
「ヤヨイさん」
ヤヨイは何かを言おうとして、しかしその言葉を飲みこむと、走って教室を出ていった。ソフィーアの方を見ると、彼女もヤヨイが消えた教室の扉を見つめている。
休み時間なら教室でHしても許されるようなこの学校で、キスくらいで驚く生徒はいない。しかし、ヤヨイの様子は少しおかしかった。
「先輩、ヤヨイさんは? 昨日メールしたんですが、返事をもらえなくて……俺、嫌われましたか」
「それも直接ヤヨイに聞くといい。たぶんヤヨイは、屋上に行ったんだと思う」
後を追えと言わんばかりに、ソフィーアはそう言ってほほ笑む。俺は「わかりました」と返事をして、屋上へと向かった。
※ ※
昨日二人がいた校舎の屋上へと行った。外に出ると、塔屋の壁にヤヨイが腕を組んでもたれている。
「何しに来た」
「ヤヨイさんに、聞きたいことがあって」
「あたいの相手をしてる暇なんかあったら、ソフィーアの相手をしてやりな」
「ヤヨイさんと、話がしたいんです。メール、返事くれませんでしたね」
ヤヨイは前を向いたまま、俺に視線を向けようとはしない。あまり手入れをしていない長い赤毛が風に揺れている。
「……何が聞きたいんだよ」
「ヤヨイさんが、Qを公言している理由です」
「なるほど。ソフィーアからはそれを聞き出したってわけか……で、あたいのIDをソフィーアから貰ったんだな」
「はい。教えてくれました」
そこでヤヨイは壁にもたれるのをやめた。組んだ腕をほどき、俺の方を見る。
「そんなもん聞いてどーすんだ?」
「どうするってわけじゃないです。単純に、知りたいと思うだけです」
「何で知りたいんだよ」
「ヤヨイさんを気に入ったからですよ」
笑ってそう返したが、俺を見るヤヨイの目が、敵意を含んだものに変わった。
「そんな調子でソフィーアを『落とし』たんだな」
「いや、『落とした』だなんて……」
「嘘つけ。ソフィーアが男に触れるなんざ、よっぽどだ。それにお前……Qに言い寄って、どうするつもりだよ」
「どうもしませんよ。それに、先にアプローチしてきたのは、先輩たちです」
そう反論する。ヤヨイの表情が、少しバツの悪そうなものに変わった。
「あたいたちが、お前に会いに行った理由は、ソフィーアから聞いたんだろ」
「ええ」
「それを知ってなお、か? Q相手に恋愛ごっこたぁ、いい度胸じゃねえか」
「ごっこじゃないです、ソフィーア先輩、かわいいです。好きになりました」
「ソフィーアが、かわいい?」
「ええ、ヤヨイさんもそう思いませんか?」
俺の言葉に、ヤヨイの目が険しくなり、俺を睨みつける。
「あいつはああ見えて、すごく繊細で傷つきやすい。な。なのに……攻撃的なんだよ」
「そう、ですね」
「ソフィーアを傷つけたら、あたいが許さない」
「もちろん、そんなことしません」
「なら、もう関わんな。こっちが先に近づいたのは、謝る。だからお前がソフィーアを傷つける前に、あたいたちの前から消えてくれ」
「嫌ですよ。もう、ソフィーア先輩を好きになってしまいました。それに、ヤヨイさんも」
「へぇっ?」
ヤヨイの目が点になる。
「だから、ヤヨイさんが好きです」
「お前、からかってんじゃねーぞ!」
「からかってません。ヤヨイさんも、とてもかわいいです」
俺の言葉に、ヤヨイの目つきがまた変わった。さっき以上の怒りの表情を見せる。いきなり俺に近づき、俺の胸ぐらをつかんだ。
「ふざけんな」
「ふざけてませんよ」
「Q相手に、好きになったとか、ふざけてる以外に何だってんだよ!」
「『Q相手』じゃないですよ。ヤヨイさんを好きになったんです」
そうヤヨイに訴えかける。と、ヤヨイが怒った表情のまま、顔を赤らめた。
「あ、あのな、レント。Qじゃ、パートナーになれねえだろ? 馬鹿も休み休み……」
「別に、パートナーだけが『関係』じゃないでしょう。ヤヨイさんも、俺のこと好きになってくれませんか?」
胸ぐらをつかんでいたヤヨイの手の力が緩まる。怒りの表情が無くなり、呆れたと言わんばかりのものに変わった。
「お……お前は、馬鹿じゃねえ。イカレてる」
「真剣ですよ」
ヤヨイから視線は外さない。しばらく見つめ合って、ふとヤヨイが笑った。
「わかった。そこまで言うなら……あたいを抱いてみろ」
「え?」
「あたいのマンコに、お前のチンポ、入れてみろよ。Qのマンコにな。その度胸があるなら、お前のこと、好きになってやんよ」
そう言うとヤヨイがセーラー服の前ボタンを外し始める。そして俺の前でセーラーを開いて見せた。