人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
床一面に広がったおしっこをタオルで拭いている俺を、ソフィーアは顔を真っ赤にしながら見ていた。それも『プレイ』の内に入っているらしい。時折、そのタオルを匂う仕草をソフィーアに見せると、ソフィーアは顔を背けながらも、物欲しそうな目線を俺に向けるのだった。
と、そろそろ床を拭きおわるかというところで、地学研究室の扉がガラッと開く。入ってきたヤヨイが、呆気に取られた表情でしばらく俺とソフィーアを見ていたが、つかつかとソフィーアに近づき、彼女の肩に腕を置いた。
「結局、ソフィーアも『歓迎』したんじゃねえか」
「ま、まあ、そう言うことになるかな」
「あんだけ、言ってたのによぉ」
そう言うと、ヤヨイは後ろから俺を羽交い絞めにする。見る限り、ソフィーアとヤヨイのわだかまりは無くなったようだった。
「イテテ、お手柔らかにお願いしますよ」
「レントぉ、それにしてもお前、ほんと、物好きだな」
「そうですか? お二人とも、とても魅力的ですよ」
「へっ、生意気言ってんじゃねえよ」
そして大きな胸を俺に押し付けてくる。しかし、ヤヨイの方に顔を向けると、ヤヨイは顔を赤くして明後日の方向を向いた。
「ま、まあ、お前がして欲しいって言うなら、これからは、いっぱいかわいがってやってもいいぜ」
「かわいがるって……なんか怖いけど、はい、お願いします」
そう言って俺はにっこりと微笑んだ。
「やれやれ、ヤヨイも形無しだな」
「なんだよそれ」
ヤヨイがソフィーアを軽く睨みつけたが、ふと何かを思い出したように、目を見開いた。
「あ、そうだ。なあ、なあ、これ見たか?」
ヤヨイは端末を取り出し、自分の生徒情報を俺に見せた。ヤヨイの欄には早速「パートナー:深山レント」となっている。
「もう登録されたんですね……大騒ぎになりますかね」
「どうだろ。こいつに話題をかっさらわれそうだからな」
ヤヨイが次に見せたのは、一年生の男子の情報だった。
「若草ジュドー? ああ、あのジュディって人ですね。って、いきなり二人?」
タツヤの『男性』を奪った若草ジュディは、男名を「ジュドー」にしたようだが、それ以上に目を引いたのが、パートナー欄だった。
『森カノ』、そして『伊藤エミ』という二人の名前が書いてある。
「そのようだね」
「この二人、成績上位者です」
二人とも一年生だが、一学期の成績はかなりの上位にいた。特に、森は文型科目、伊藤は理系科目が得意だったはずだ。
「ふむ……」
そうつぶやきながら、ソフィーアが興味深そうに、二人の女性のデータを見ていた。
「『実利的』なパートナーだが、しかし……」
「随分と短期間に二人もパートナー登録したもんだ」
ヤヨイが感心した風にそうこぼす。
相手のことを深く知らずにHをすれば、「Qを引く」可能性が高くなる。随分と大胆なパートナー集めに見えた。
「見境なしの、怖いもの知らずだな。レントじゃあるまいし」
そう言ってヤヨイは意地悪そうに笑いながら俺を見た。
「いや、見境がないわけじゃ」
「ああ、こいつの方が考えてる、考えてる。レントの方が見境がねえや」
ヤヨイの言葉を聞いて、ソフィーアが肩をすくめた。
「まあ、もともと知り合いだった可能性はあるかな。ただね」
「ただ?」
「四年生と五年生のパートナー獲得状況を見ると、面白いことがあってね。パートナー獲得数が学年で一番多い男子は、どちらの学年も、元Qの人だ」
さっきまでソフィーアが見せていた「恥じらい」は、もうその表情から消えていた。今は、どこか名探偵めいた顔をしている。
「何か関係があるんですか?」
「さあ……それは分からないな。レント、知りたくはないかな?」
「ええ、それはもちろん。でも、どうやって?」
「それを調べるのも『探Q部』の活動かな」
そう言うとソフィーアは、薄い笑みを浮かべた。
「何たくらんでいるんですか」
「たくらむ、とは随分だね。そうだ、今日、君の部屋に我々を招待してくれないか?」
「我々って……お二人を、ですか?」
「ああ、そうだね」
「そりゃいいな」
ヤヨイが俺の耳に口を寄せてくる。
「レントが部屋に来て欲しいって言うなら、行ってやってもいいぜ?」
「なんかそれ、ツンデレじゃなくて、脅迫に聞こえます」
「脅迫してるんだから、そう聞こえるに決まってるだろ」
そう言うとヤヨイは、再び俺の首を腕で絞め始めた。
「ああ……でも、今日はサアヤと会う約束をしています。明日でもいいですか?」
「そういえば、そんなことを言っていたね。先約は優先したまえ。我々は、明日としようか」
「ふむ、仕方ねえな」
ヤヨイがようやく俺を『熱い抱擁』から解放する。サアヤと会うために地学研究室を出ることにした俺を、ヤヨイはにやにやしながら、ソフィーアは相変わらずの薄笑みで、見送っていた。