人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
二時間ある昼休みは、後二十分ほど残っていた。やたらと長い昼休みは、「男女の交遊のための時間」として設定されているそうだ。
不純だろうが清純だろうが、男子が極端に少ないがゆえの超少子化社会にあっては「異性交遊」が盛んに奨励されている。なんだったら、教室でHを始めてもいいのだ。いや、まあ、かなり恥ずかしいが。
子作りが全てに優先される世界。しかし、その行為は極めてリスキーだ。自然、男にとって『本物の女』を探すことが、至上課題となっている。
※ ※
この学校は1学年が6クラスに分けられている。1クラスには女30人ほどに対し男は1人いるかいないか。だから、俺の周りにももっと女の子が集まってきても良さそうに思うのだが、なぜだろう、入学以来、俺が教室にいても女の子たちは遠巻きに見ながらひそひそ話をするだけだった。
『女ってそういうものなのよ』
サアヤはそう言っていたが、俺にはとんと意味が分からない。まあ、女の方からがつがつ行けば、サアヤが言ったように『こいつQじゃないのか』と避けられるのだから、それはそうかもしれない。
それに、異性交遊はクラス内での限定というわけではない。人気の格差は当然にある。俺はどうも「人気のある」方では無いようだ。
イケメンねぇ……
この学校のすべての男子にとって、同学年はおろか、上級生の男子も、そして今後入ってくるであろう下級生の男子も、卒業までは『ライバル』でしかない。
男の価値は、『パートナー』の質と量で決まる。『いいパートナー』を得るには、顔以外にも、学業なり体育や美術なり、はたまた部活なり……それらの成績が重要だ。
「俺には関係ないか」
そう独り言ちながら、また天井を見上げた。
「何が『関係ない』のかな?」
俺の視界に、突然現れた女の顔。
「うわあっ」
驚いた拍子に椅子がひっくり返りそうになるのを、派手なアクションでこらえる。
「だ、誰だよっ! って、三年生?」
見たことのない二人組の女性が立っていた。制服の学年章は三本線……俺の二つ上の上級生だ。
「な、何か用ですか?」
五学年で千人ほどいる全校生徒の中で、男子は三十人もいない。だから上級生の女子が下級生の男子に会いに来るのは決して珍しいことではないのだが、俺に限って言えば、入学して以来、学年問わず他のクラスの女子が自分に会いに教室まで来たのは、これが初めてだった。
「おもしろい新入生がいるようなので、顔を拝見しに来たのだよ」
そう言ったのは、学校支給の正装用制服をぴしっと着こなした、ショートボブの女性だった。栗色の前髪が左目を隠してはいるが、切れ長の鋭い右目が射抜くように俺を見つめている。長身でスレンダーな体と制服とが相まって、下半身のスカートをズボンに履き替えれば、男装の麗人にしか見えない。
「それ、隣のクラスの
天河は一年生にしてもうすでに、二人のパートナーをゲットしている噂の天才。『神童』などと言われている。
俺は目の前の女性にその名を告げた。
「いや、君だよ」
男女ともにパートナー探しが重要な目的であるこの学校では、生徒のあらゆる成績情報がすべて開示されている。調べようと思えばすぐにできるわけで、『すごい新入生』についてはいろいろ噂が流れてるのが普通だ。噂には、尾ひれ背びれに、胸びれまでくっつくのがよくあることなのだが。
しかし、俺の成績はそんなものではない。目立たないように、平凡に、したはずなのだが……
「俺が、ですか? 何かの間違いでしょう。成績見ました?」
「ああ、それはもちろん見たよ。天河くんの成績はたしかにすごいね。三年生の間でも『神童現る』とのうわさで持ち切りだよ。でもね」
一学期の成績は全ての科目で学年トップ。いや、体育だけは女子を加えても下の方だったか。でも、彼のどこか儚げな印象と相まって、それも彼を引き立てる要素にしかなっていない。かたや俺と言えば、赤点を取らずに、かつ平凡に。全部の科目が平均前後。
「それじゃ、ないんだ……君、部活動、してないよね?」
男装の麗人風の上級生は、俺の目を覗き込むように、そう囁いた。俺は表情を変えずにその視線を受け止めることに集中する。
部活動も「男を上げる」要素の一つだ。普通、一学期の間に自分の得意分野の部活に入っているのが普通で……しかし俺はどの部活にも入っていない。
「ええ、まあ」
と今度は、長い髪を明らかに赤く染めた風の髪をしたもう一人の女性が口を開いた。
「なあ、ソフィーア。こいつ、どこにでもいそうな普通の男にしか見えないけど」
その女性は、ソフィーアと呼ばれた女性とは違い、普段着用として支給されている白いセーラー服を着ている。着ていたのだが……チェック柄のスカートの裾が極限まで短くたくし上げられている一方、シャツの裾は引き裂かれたようにぼろぼろになっていた。やたらと大きな胸が、今にもセーラーシャツのボタンを引きちぎろうとしている。
竹刀を持ったら一昔前の巨乳ヤンキーだな……
そんな感想を抱いた俺の向かいの机に、その女性は平然とした様子で腰かけた。
「ヤヨイ。本人の前で率直な感想を言うのは、もう少し慎んだ方がいいと思うのだが」
ソフィーアがその女性をそう諭すのを聞いて、思わず苦笑する。
「いいですよ。本当のことですから。俺なんかより、天河や
「ああ? 随分、いい子ぶったやつだな」
俺の返事にヤヨイと呼ばれた女性は少し顔をしかめて、ソフィーアより大きくぱっちりとした目で俺を睨んだが、その表情がすぐに何かをたくらんだようなものに変わった。
「なあ、お前」
「はい、何ですか?」
「女の子のアソコ、見たことあるか?」
突然のヤヨイの言葉。目が点になる。
「は?」
「ふふふ」
にやにやと俺を見ながら、ヤヨイが足を少し動かした。
「ちょっ」
ミニスカでそれは……
しかし気にする様子もなく、ヤヨイはさらに右足をあげて、俺の前で脚を組んでみせた。
俺の視線は否応なくその隙間からのぞくスカートの奥に注がれてしまったのだが……その中の物を見て、ぎょっとした。
Tフロントのショーツが、これでもかというくらいに割れ目に食い込んでいる。ムダ毛の一切は無い。無いのだが……食い込むTフロントの紐の横から、黒く大きな小陰唇がまるでリボンのように左右に開いていた。
いや、その……具が、はみ出してるんですけど……
余りのパンチ力に、動きが固まってしまう。ヤヨイはそんな俺の反応を見て、ケラケラと笑い出した。
「どうだい、女の子の『アソコ』は?」
「えーっと、その、なんというか」
「想像以上にグロいだろ。幻滅したか?」
もはや別の生き物のようなそれは、見る者によってはそう感じるかもしれない。余りに大きくはみ出た、そして醜くく今にも蠢き出しそうなヤヨイの小陰唇に、しかし俺は息を飲んで見とれながら、ヤヨイに聞こえるようにつぶやいた。
「いや、あの、かなり、エロいです」
そして、ヤヨイの顔を見上げる。
気が付けば、教室には誰もいなくなっていた。それが上級生二人の闖入によるものなのか、それとも別の要因があるのか。
「……は?」
レントの言葉に驚いたのはヤヨイの方だった。ヤヨイの期待した答えとは違っていたらしい。
「お、おまえっ、これ見ての感想がそれか?」
ヤヨイはもっとよく見えるようにと更に股を広げ、俺の顔へと自らの股間を突き出した。その拍子に、ヤヨイが起こした微かな風が顔に触れる。『女性』の匂いを感じ、俺は自分のモノが大きくなっていくのを感じた。
「ええ、とても。エロいというか、そうですね、美しい?」
再びヤヨイのスカートの中をじっくりと見つめる。と、急にヤヨイが勢いよく足を閉じた。
「み、見るんじゃねえよ!」
「いや、見せてきたのは先輩でしょう」
「なんだと、こら」
まったくもって理不尽だ。そう思った俺の胸倉を、ヤヨイが荒々しくつかむ。しかし、その顔は不思議なくらいに赤くなっていた。
「ヤヨイ……みっともないぞ。彼をいじめるのはそれくらいにしてあげたまえ」
ずっと黙って二人を見ていたソフィーアが、とうとう見かねて声を掛ける。
その時、教室の入り口から俺の名を呼ぶ大きな声が聞こえた。
「レント!」
サアヤだった。少し心配そうな顔をしてこちらへと向かってくる。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか、先輩」
そして俺をつかんでいたヤヨイに対し、怒った顔で抗議をはじめた。
「ああ、いや、すまない。彼に挨拶をしに来ただけなんだ。ちょっとヤヨイが興奮してしまってね。すまなかった」
ソフィーアがサアヤに向けて、穏やかな微笑みを向ける。しかしヤヨイは乱暴に俺を離すと、ふてくされたようにプイと横を向いてしまった。
「ああ、サアヤ、どうした?」
何事もなかったようにサアヤに尋ねる。
「どうしたもこうしたも、次、体育でしょ。もうそろそろ移動の時間よ」
「あ、ああ、そっか。先輩、俺、行きますね」
「私たちも行くとしよう。失礼したね、深山レント君」
「はい。ヤヨイ先輩も」
俺はヤヨイにそう声を掛けたのだが、ヤヨイはこちらに顔を向けようともせず、とっとと教室を出て行ってしまう。
「やれやれ、すまないね。許してやってくれ」
ソフィーアは少し肩をすくめると、ヤヨイの後を追いかけ教室を出ていった。