人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
― 7月15日水曜日 ―
翌朝、サアヤと学生食堂で朝食を取り、そのまま一緒に登校した。相変わらずサアヤは、人前で一緒に歩くのは恥ずかしいようだが、今日はこれまでとは周りの様子が違っているだけに、一層恥ずかしいようだ。
周りの、俺への視線……驚き、好奇、そして物欲しげな眼差し。やはり、Qを公言していたはずの、しかもヤンキー気取りのヤヨイをパートナーにしたのは、随分と話題になっているようだった。
「レントくん」
と、一式ケイマが声を掛けてきた。
「よお、ケイマ」
「もう二人もパートナーにしたのですね」
「ああ、たまたまだよ、たまたま」
そう答えた俺の目を、ケイマは覗くようなしぐさを見せた。その表情が、「うらやましさ」を表しているのかと思っていたが、どうもそうではなさそうだということに、気が付いた。
「どした?」
「い、いや、何でもないよ」
そういってごまかす。
なんだろう、どちらかというと、女子がするような「物欲しげな」表情に見えたのだが……
「大丈夫だって、心配しなくても、ほら、ケイマはかわいいから、女の子もすぐ寄ってくるって」
そう言って俺は、ケイマの肩を抱いた。近くにいた女子生徒がまた黄色い声を上げ写真を撮り始める。ケイマは体つきも華奢で、「女装コンテスト」があれば、キユレといい勝負をするだろう。
しかしケイマは、なぜか顔を背けてしまった。
「ぼ、僕……かわいい、ですか?」
「ああ、めっちゃかわいいぞ。サアヤよりずっと」
「どさくさ紛れに、なんでアタシと比べてるのよ!」
「サアヤの良さはそこじゃないからさ。サアヤだって、ケイマ、かわいいと思うだろ?」
「ま、まあ、そうだけど」
「な? そこを武器にすればだな」
パートナーなんかいっぱいできる……そう言おうと耳に口を近づけると、ケイマは慌てて俺を振り払った。驚いた表情で俺を見ているが、その顔は真っ赤になっている。
「ぼ、ぼ、僕は、そ、そういうの、いいですから」
「いいって、それが男子の務めだぞ?」
「きょ、教室いきます。またね、レントくん」
そう言うとケイマは、小走りで自分の教室へと入っていった。
「なんか、怒らせたかな」
思わずサアヤにきいてみる。
「怒ってる風には見えなかったけど……恥ずかしがってた感じ?」
どうみても、サアヤの方が不機嫌である。
「んー、分からん」
「そんなんで、『相手の気持ち』なんて分かるの?」
サアヤの突っ込みに、俺は苦笑いをするしかなかった。
※ ※
放課後。今日は二人の先輩と約束している。相変わらず心配そうにしていたサアヤだったが、特定の女子による「男子の占有」は禁止になっているだけに、サアヤはしぶしぶ、そして俺に釘を刺しまくった後、部活へ行ってしまった。
地学研究室に行こう、そう思って教室を出たところで、俺は強い力で、大きな胸に抱きしめられる。
「レント、どこ行くつもりだ?」
「地学研究室ですよ、ヤヨイさん」
「こっちから来てやったんだ、有難く思えよ」
「いつも昼に来てるでしょ」
「なま言ってんじゃねぇよぉ」
ヤヨイはご機嫌で、俺を大きな胸に押し付けていた。そのうち本当に圧死しそうだ。
ぷはっと、胸の谷間から顔を上げる。
「さて、レント。今日は我々に付き合ってもらうよ」
ヤヨイの隣にたソフィーアが、すまし顔で俺を見ていた。
「部室じゃないんですか?」
「せっかくだし、デートでもしないか」
「三人でですか?」
「ああ、そうだ。嫌、かな?」
「いえいえ、楽しそうです。でも、どこに?」
そう答えた俺の耳に、ヤヨイが唇を寄せる。
「レントがしたいって言うなら、ここでエッチしてもいいんだぜ」
「さ、さすがにここじゃ」
「なんだ、つまんねえなぁ」
ヤヨイは本当に不満そうにそうつぶやいた。
「あれ? ヤヨイさん、またスカートが短くなってますよ」
「お前が見たい時に、見せてやるためだよ。うれしいだろ?」
「じゃあ、今」
「はぁ? い、いま?」
「ええ」
「こ、ここで?」
「ええ。ヤヨイさん、見たい時に見せてやるって言ったばかりですよ」
「わ、わ、わかったよ」
そう言うとヤヨイは、顔を赤らめながらもスカートの裾を両手でつまみ、上へと上げた。
「こ、これでいいか」
Tフロントのショーツが割れ目へと食い込み、収まりきらない大きな花びらが、はみ出して見えている。
「ヤヨイさんのオマンコ、相変わらずエロいです。もうかなり濡れてますよ?」
「う、うるさい! わざわざ言わなくていいんだよ!」
そういってヤヨイはスカートを下ろしてしまったが、恥ずかしがったままのヤヨイは、かなり可愛い。多分「じゃあここでエッチしましょう」と言ってたとしても、同じ反応だっただろう。言葉は強気だが、実際はかなり恥ずかしがり屋なのだ。
「お熱いのは結構だが、そろそろ動くとしないか?」
俺とヤヨイのやり取りをにやにやしながら見ていたソフィーアの言葉を合図に、とりあえず俺たちは動くことにした。
※ ※
折角と言うことで、町に繰り出し、いくつかの買い物の後、夕食を食べることにした。ファミリーレストランで洋食を食べただけだったが、俺たちは意外に真面目な――Qについての話をした。
例えば、Qにはその自覚があるのか。実際、Qにしか分からないことであるのだが、ソフィーアは「ある、と言われているね」とだけ答えた。
そして、その人がQであることをどうすれば知ることができるか。
「正直なところ、その方法は分かっていない。いや、もしかしたら公表されていないだけかもしれないが」
「そんな方法があるなら、もうとっくに広まってるんじゃないですか? Qかどうかが分からないってことが、男子が女子とセックスする『妨害』になってるんですから」
「それなんだが、どうも……政府はわざとそういう状況を固定しているんじゃないかと思っているんだよ」
ソフィーアは、サラダだけを注文して食べていた。それで足りるのかと思ったりしたが、「私は朝だけしっかり食べる主義でね」という答えに、なるほど、ソフィーアの痩せた身体の理由を理解した。
ヤヨイはソフィーアを気にすることなく、定食を食べている。
「政府、ですか? 話が大きいですね」
「私の推測でしかないがね。いわゆる『自然淘汰』もしくは『適者生存』。競争に勝ち残った「男子」が子孫をたくさん残すように、かな」
「その為に、Qを『不明』のまま放置してるってことですか?」
「あくまで、私の推測だ」
「へえ……Qについて、色々考えているんですね」
「一応ね、伊達に『探Q部』は名乗っていないよ」
そう言うとソフィーアは、最後に残っていたトマトを口に入れた。
「じゃあ、元Qは、相手がQかどうか分かるっていう推測はどうでしょう」
俺はサアヤに言った仮説をソフィーアにもぶつけてみた。ソフィーアはしばらく口を動かし、トマトを咀嚼していたが、それをゆっくりと飲み込むと、口元に軽い笑みを浮かべた。
「実は私も、その可能性は考えている。しかし、確かめる術が無かったのでね」
「そりゃ、まあ」
そう相槌をした後、俺はソフィーアの顔を二度見する。
「『無かった』?」
「ああ、そうだ。でも、今は、あるよね」
そこで言葉が途切れる。テーブルには、一生懸命定食を食べ進めるヤヨイの食事の音だけがしていた。
ヤヨイがエビフライを口に入れ、そしてかじる。
「今日、ですか?」
「怖いかい?」
「やっぱりソフィーアは」
そう言いかけた俺の口を、ソフィーアが人差し指で押さえた。
「それは、君の部屋で、確かめてくれたまえ」
その人差し指を、ソフィーアは自分の唇に当てる。
「間接も、いいよね」
ふふっとわらったソフィーアの横で、定食を食べ終わったヤヨイが、ナイフとフォークを皿に置いた。
「さあ、行こうぜ。レントの部屋に、な」