人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
夏01 夏の始まり
7月22日水曜日。
今日が一学期最終日。明日から夏休みに入るが、普通ならばそのまま部活動である。
「えっと、探Q部って、夏休みも活動するんですか?」
俺の目の前――というか、膝の上に座っているソフィーアに、そう尋ねた。
「もちろんだとも。毎日ではないがね」
栗色のショートボブの前髪からのぞく切れ長の目が、妖しく俺を見つめている。
「えっと、ヤヨイさんは?」
「ヤヨイは今日はバイトだ。私では不満だったかな」
「そんなことないですよ」
ヤヨイがいるときは遠慮しているようなのだが、ソフィーアは一人になると、誰が見ていようが関係なく俺にくっついてくるようになっていた。今も教室にはまだ数人の女子が残っているが、こちらをチラチラみている。
パートナーでもないのにこのくっつき度合い。もう随分、学校の噂になっている。しかしソフィーアは全く気にする様子がなかった。
「ふふふ……トイレにはいかないのかい?」
「まだ、ですね」
「それは残念」
「それよりも、なんですが」
「ん? どうかしたかい」
俺はずっと気になっていたこと――万年筆を返せないままでいた雲雀シエルのことを、ソフィーアに話した。ただし、シエルから送られてきた「オナニーメール」のことは黙っておいたのだが……
「何か知ってます?」
「ああ……」
ソフィーアはすぐに何かに思い当たったようだ。
「雲雀シエルなら、私やヤヨイとは別の意味で『有名人』だね」
「へえ、有名人なんですか。サアヤは知らなかったんですよ」
「そうなのか。彼女は、メールをくれた男子に自分の恥ずかしい写真を絨毯爆撃の様に送りつけたって伝説が残っているよ」
その言葉に、俺は思わず『ああ』というような表情を見せてしまった。
「……レント、もしかして」
「え、ええ。その、もしかして、です」
ソフィーアに、先日あった話をした。それ以来音沙汰のないことも含めて。
「ふむ……彼女は極度の対人恐怖症らしくてね」
「対人、恐怖症、ですか?」
「ああ。教室では誰とも話さないらしい。ところが、メールになると人が変わるとか……その噂は本当だったみたいだね」
「だから『会いませんか』って送ったら、メールが返ってこなくなったんですね」
「たぶん……というか、君は本当に怖いもの知らずだね」
「なんでです?」
素でそう返すと、ソフィーアは苦笑を漏らした。
「いや、そういうところが君のいいところなのだが、Qには引っかからないでおくれよ」
「もう、誰かさんに引っかかってますが」
「別に、私がQだから、ではないんだろう?」
「そりゃ、まあ、そうです」
ソフィーアは、俺の言葉に、ディープキスで応えた。
「あまり君を独り占めするのも、後輩たちに悪いな。今日は私も退散するとしよう」
そう言うとソフィーアは、まだ教室に残ってこちらを見ている女子たちに軽く合図をし、立ち上がった。
「あ、もう一人」
「ん?」
「ソフィーアと同じクラスの
「ああ、彼女か。面倒見のいい人だが、男子と仲良くなるチャンスは無かったみたいだ。どうだろう、Qかどうかは分からないな。そもそも、Qの割合は大体5%前後だからね。誰もかれも、という訳じゃない」
「5%……すると、クラスに一人か二人? 多いのか少ないのか、よく分かりませんね」
「そうだね。ただ、もう四年生ともなると、男子の内の半分……平均して三人くらいは、元Qだ」
生存率は50%……か。
「男子一人が5年間で獲得するパートナー数は、8から10といったところだね。まあ、学年トップなら20を超えてくるが」
「一クラスに近いですね」
「まあ、そういう男子のほとんどは」
「元Q、ですか」
「そう」
ソフィーアが俺の耳に口を寄せてくる。
「君ももう『元Q』だからね」
「何か変わった風じゃないんですけど」
「これからかもしれない。それも『実験』だよ」
そういうとソフィーアは、ウィンクをした後、「また連絡するよ」と言って教室を出ていった。
※ ※
ずっと教室に残っていた二人の女子と少し話した後も、俺はしばらく教室に残り、端末とにらめっこをしていた。
シエルに連絡を入れるかどうか……拾得物である万年筆を返した方が良いのだろうが、ソフィーアの話では、直接会うのは難しそうだった。五年生の教室へ行くのはさすがに勇気が必要で、あまりしたくはない。
女子は、学年、クラス問わず、教室への出入りが自由である。反対に男子は、他クラスの教室に絶対に入ってはいけない。そこはクラスに一人いる男子の「テリトリー」であり、中でまさにHの真っ最中かもしれないのだから。もちろん覗くことも禁止である。用があるなら、入り口の前でクラスの女子の誰かに声を掛けるしかない。
シエルに連絡をして、会えないようなら先生か事務の人に頼んで返してもらった方が良さそうだ。そう思い、顔を上げたところで、教室の入り口からこちらを覗き込んでいる女の子に気が付いた。
入ってくるわけではない。ただ俺を物憂げな表情で見つめている。俺と目が合っても、その表情は変わらない。
なんなんだ……
と思ったが、その顔が高校生にしては随分幼いものであることに気が付いて、その人物に思い当たった。
一年生に一人、まだ中学生にもかかわらず、飛び級でこの学校に入ってきた子がいたはずだ。たしか、ケイマと同じ六組だったような……
「どうしたの?」
俺は椅子から立ち上がると、できるだけ優しく声を掛けながら、その子に近寄った。
「別に」
彼女は、逃げるわけでも無く、かといって用を告げるわけでも無く、ぶっきらぼうにそう答えただけで、変わらず俺を物憂げな……というより、ダルそうに見ている。
うん、それじゃ怪しさマックスだ。
「えっと、名前、何さんだっけ」
「……タテハ」
「それ下の名前……あ、思い出した。秋水さんだ」
以前見た覚えのある名前を思い出し、俺はそれを口にした。しかし彼女は、表情を変えない。
「もし良かったら、プロフカードくれない?」
プロフカードを手に入れれば、それがどういう方法であれ、男子は相手にメールを送っていいことになっている。因みに女子から男子にいきなりメールを送るのは禁止だ。
俺のお願いにも、しばらく無反応にしていたタテハは、思い出したようにカバンを探り、一枚のカードを差し出した。
「はい。でも、メール、しないで」
いや、それなら渡すなよ、と心の中で突っ込みを入れる間もなく、秋水タテハは俺にプロフカードを押し付けると、走り去っていった。
気に入った女の子はいましたか?
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サアヤ
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ソフィーア
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ヤヨイ
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シエル
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他