人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
ソフィーアは俺のことを「怖いもの知らず」だと言っていた。しかし多分それは違うと思う。知らないのではない。知ったからこそ、欲しくなるのだ……
一人残った教室で、俺はタブレット端末にシエルへのメッセージを書き込んでいく。二度ほど読み返して、送信ボタンを押した。
『こんにちは、深山レントです。お預かりしている万年筆をお返ししたかったのですが、お会いできなかったのでできていません。会えればと思うのですが、もしお忙しい様なら、事務室に届けておきますので、そこで受け取ってください。』
余りの平凡さに自分でも笑ってしまったが、ちょっとしたことでも『壊れ』そうなシエル相手では、余り冒険的な文面はまずそうだ。まずは無難に探りを入れよう。
そう思って書いたものだったが、送ったあと一息つく暇も無く、メールの着信音がタブレットから響いた。
端末の前でじっと座り続けているシエルの姿を想像し、余り笑えないと思いながらもメッセージを表示させる。
『こんにちは、レントさん。お返事もせず、受け取りにも行かずすみませんでした。もしよかったら』
メールはそこで途切れていた。
もしよかったら……なんだろう。
返すべきかどうか悩んでいると、また着信音が鳴る。
『もしよかったらもしよかったらもしよかったらもしよかったら』
だめだ、いきなり壊れだした。
『はい、いいですよ。そうしましょう』
もしよかったらなんなのか想像もつかないが、多分このままほっておいても、『もしよかったら』メールがえんえんと送られてくるだけだろう。
とりあえず、その内容だけでも知りたい……と、またメール着信音が鳴った。メールを開くが文章は無く、学校からすぐ近くのマンションの住所と、明日の日付だけが書いてある。
来いってことかな……生きて帰れるのか? というか、時間は……
『分かりました。明日、朝10時に行きますね』
とりあえず適当に送ってみる。多分、聞くより早いだろう。などと考える暇もなく、返事が返ってきた。
『はい、待ってます。レントさんが来てくれると考えただけで、シエルのオマンコから出てくる恥ずかしいお汁が止まらなくなりました。見てくれますか』
あー……どうしよう、これ。などと考える暇もなく、からの~、オマンコどあっぷ。
せっかくなのでじっくり見てみる。尿道口まではっきりと見える鮮明な写真。くぱぁっと両手で広げた膣口は、見るだけでねっとりしていると分かる液体でぬらぬらと光っていた。
……ライトアップ中かよ。
中央にドーム状の粘膜。先端に小さな穴が開いている。
『シエルの処女膜、見えますか? オナニーするときも、破れないように気を付けてます』
……どうして欲しいんだろう。
『エッチ過ぎて、興奮してきました』
『ほんとですか? シエルのクリトリスもみてください』
今度は、指で剥かれ、ピンク色の豆が露わになった写真が添えられていた。
……本当に、明日、大丈夫かな。
『とてもきれいですよ、先輩のクリトリス。明日、会うのが楽しみです』
そう返したのだが、その後返事は来なくなった。
※ ※
7月23日木曜日。
時間通り、雲雀シエルの家までやって来たのだが、彼女が住んでいたのは、何らかの理由で自宅から通えない女生徒用のマンションだった。マンションの入り口でインターホンを押すと、返事のないままオートロックの扉が開く。中に入り、エレベーターを使って、シエルの部屋の前まで来た。
部屋のインターホンを押す。音が鳴ったのでしばらく待ったが、返事がない。もう一度押してみる。やはり返事がなかった。
どうしたものかと思案していると、持っていたスマホ端末――外出時はタブレットからスマホに切り替えている――からメールの着信音が聞こえた。シエルからだ。
少し不思議に思いつつも、メールを表示してみる。
『鍵は開いています。入ってください』
もはや『罠』か、そうでなければホラーにしか見えないが、俺はドアを恐る恐る開け、中へと入った。
ワンルーム。入り口の左にキッチン、右にはたぶんバスルームへのドア。正面にはテレビ台とローテーブルが見えるが、物や着替えが散乱していて、お世辞にも片付いているとは言えない。
「こんにちは、雲雀先輩?」
多分ここから見えない所にベッドがあるのだろう。声を掛けてみるが、返事がない。
「先輩?」
もう一度声を掛けたところで、また着信音が鳴った。
『どうぞ、中に入ってください』
これ、帰りますって言ってそのまま帰ったらどうなるのだろう。好奇心がむくりと湧き上がってきたが、それをやってしまうと何かとんでもないカタストロフィーが起こって、人生のエンディングテロップが流れ出しそうだったのでやめることにした。
「えっと、じゃあ、お邪魔します」
靴を脱ぎ、流しの前を通って、部屋に入る。
ベッドの上、部屋の隅に、ブランケットをかぶった『誰か』がいた。時折そのブランケットがもぞもぞと動いている。
「あ、あの、万年筆……テーブルの上に置いておきますね」
俺は持ってきた万年筆を、ローテーブルの上に置いた。
「先輩、具合でも悪いんですか?」
そう聞いてみる。するとブランケットのもぞもぞした動きが少し小刻みになった。と、着信音が鳴る。
『いえ、そんなことないです。ありがとう。レントさん、優しいですね』
いや、これ……ここまで来ても、まだメールなんだ……対人恐怖症とは聞いていたが、もしかして、シエルは隠れているつもりなのだろうか。
「いえいえ、当然のことをしただけです。えっと、じゃあ、帰りますね」
会いたいのか会いたくないのか。さすがに予想外の展開で、俺はこのまま帰ろうと……したところで、ブランケットの下のモゾモゾが、モゾゾゾゾくらいに速くなった。そして着信音。
『待って。少しお話しませんか?』
スマホを持ったまま、俺はしばらく考える羽目になってしまった。この状態で、どうやって話を……スマホ?
「えっと、はい、いいですけど、座っていいですか?」
床には色々なものが落ちている。中には、ちょっと汚れの付いたパンティも……これ、しまおうとは思わなかったのだろうか。
そしてまたモゾモゾ。
『もちろんです。すみません、ちょっと散らかってるので、ベッドに座ってください』
「じゃ、じゃあ、すみません、座らせてもらいますね」
ちょっと? とか思いつつ、シエルとは少し離れて腰かける。少し落ち着いてみると、部屋の中に漂うにおい……サアヤのような汗の匂いとは全く違う、なんというか、『メス』の匂いを感じた。
モゾモゾ。
『本当に来てくれるとは、思ってなかったので、とても嬉しいです』
「あ、いや、連絡が無かったので嫌われたのかと思ってました」
モゾゾゾゾゾ。
『そんなことないです! すみません、シエル、恥ずかしくて』
いや、なら、エロ写真送らなくても。
「嫌われたんじゃないなら、良かったです」
モゾ。
『あの』
「はい、なんですか」
モゾゾゾ。
『レントさんは、シエルのこと、気持ち悪いって思わないんですか?』
……一応、自覚はあるみたいだ。
「気持ち悪いとは思いませんよ。いろんな女性がいるでしょうから、人それぞれの個性でいいんじゃないでしょうか。ちょっと、驚きましたが」
苦笑いしながらそう答える。するとしばらく、ブランケットの中にいるシエルの動きが止まった。部屋の中は無音になり……と、ブランケットの中から少し荒くなった息遣いが聞こえてきた。
エアコンは効いているが、さすがにその中にずっといるのは……
「あのー、先輩、暑くないですか?」
モゾモゾ。
『大丈夫です。あの、シエルって、呼んでもらえませんか?』
「えっと、じゃあ、シエルさん」
俺がそう名前を呼んだ瞬間、シエルの体がびくんと跳ねた。そしてしばらくモゾモゾタイム。からの、着信音。
『うれしい、とてもうれしいです。とても。ああ、レントさん。どうしよう。シエルの、シエルの、シエルのオマンコから、恥ずかしいお汁が出てきてしまいました。どうしよう、レントさん、とまらないとまらないとまらないとまらない』
……そ、そこで壊れるの?
この次にすべきアクションが分からなかった。この世がコマンド選択式アドベンチャーゲームだったら、どんなにか楽だろう。しかしそうではない。
「え、あ、そ、そんなに喜んでもらって、俺もうれしいです」
またブランケットの中のものが跳ねた。ビチビチっと。もう、この中にショゴスがいても、俺、驚かないんじゃないだろうか。
そしてまたモゾモゾ。
『シエル、レントさんにお願いがあるんです。シエルのお願い、聞いてもらえませんか?』
「はい、なんでしょう。俺にできることなら何でもいいですよ」
ビチビチビチッ! ブランケットの中の物が、苦しみのあまり、のたうち回っているようだ。
と、ブランケットの塊が、塊ごとモソモソとこちらに近づいてくる。そしてその下から、白い手がゆっくりと出てきて、俺の手を取った。
うん、これ、sanチェックが必要だな。
「何でも言ってください」
そう声を掛ける。と、かすかな、ほんとにかすかな音が、ブランケットの中で響いた。