※この作品はR-18です。

人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。   作:冴木凛

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03 キユレ

 魚心あれば水心あり……

 通常、『Q』は、男から『性別』を奪うために、そのことを秘密にしている。バレてしまっては、男が寄り付かなくなるからだ。Qになってしまった『元男』のほとんどが学校をやめてしまうのは、そういう理由だからであるが、世の中にはどうもそうではない者たちがいるらしい。

 

※ ※

 

 二人の三年生が教室を出ていくのを見届けた後、サアヤは心配そうに俺の顔を覗きこんだ。

「大丈夫? もしかして、あの人たちって」

「ん? 知ってるのか?」

「知ってるも何も、超有名人よ」

「有名人? へえ」

「ショートボブの人が橘花(たちばな)ソフィーア。髪の長い人が、陣風(たてかぜ)ヤヨイ。あの二人がQ2よ」

「なんだそりゃ」

「知らないの?」

 呆れた顔をして、サアヤが首を振った。

「あの二人はね、Qであることを公言してるのよ」

「へ? 何でまた」

 この学校に入学してくる女子のほとんどは、如何に優秀な男子のパートナーになるかを考えている。そして、その中に潜んでいるQはどうやって『男』を奪おうかと考えているのだ。

 ところがあの二人はそうではないらしい。

「そんなの、知らないわよ。でも、この学校で自らQを明らかにしてるのは、あの二人だけね。だから『Q2』って呼ばれてるわ」

 なんてダイレクトでイージーなネーミング……とは言わない。

 さっきのことを思い出してみる。あの二人が俺に会いに来た理由はなんだろう。男を奪うためのターゲットとして、下級生を物色しにきたとか? いや、そんな話が既に出回っているのなら、ありえない。

 いまいち分からないが……そう言えば部活の話をしていたな。

「サアヤは、色々知ってるんだな」

「女の子の間じゃ、そういう『情報』は直ぐ出回るのよ」

「なるほどね」

「とにかく、あの二人には近づかないことよ」

「なんで?」

「アンタ、馬鹿?」

 哀れみをこれでもかと詰め込んだようなサアヤ視線。

 俺、そんなに痛い子なのか?

 そんな俺の手を握ると、サアヤは俺を体育館へと引っ張っていった。

 

※ ※

 

 一年生の中では学科と芸術の天河(てんが)キユレ、運動の東海(とうかい)タケゾウの成績が目立っている。そう、この二人が現在パートナーをすでにゲットしている一年生だ。脳筋タツヤはタケゾウをライバル視してただけに、焦ったんだろう。

 まあ俺はそんなものには興味がない。体育が終わり更衣室で着替えが終わると、教室に帰るのももどかしく、端末を使って成績を調べながら廊下を歩いていた。

 俺の成績は平凡……そう、平凡でいい。目立てば『狙われる』のだ。

 ただ、少しやり過ぎただろうか……そんなことを思いつつ、次に三年生の成績を調べる。あの二人の成績……二人とも総合順位が二十位以内であるのを見て、俺は少し驚いた。特に、あのヤヨイと言う女。

「レント、おつかれ!」

 そこに、瑞雲(みずも)サアヤが俺を見つけ、声を掛けてきた。

「おう」

「何見てるの?」

「ん? 成績表だよ」

「へえ、レントも成績、気にして……って、なんで三年生の見てるのよ」

「ちょっとね」

 つれなくされたサアヤは、ちょっとむっとした表情で不機嫌になる。

 と、そこに、

「やあ、レント君」

 同じく、体育を終えた天河キユレが、声を掛けてきた。どうも一人のようだ。キユレは少しくせっけのある巻き毛を左手でいじっている。サアヤからみれば、こいつは『イケメン』になるのだろうか。優男系というか、女装させればサアヤよりかわいいかもしれない。サアヤにそれを言ったら、シバかれるだろうが。

「学年一の『神童』に声を掛けられるとは、光栄だな。何か用か?」

 俺は、取りようによっては相手を馬鹿にしたような言葉で応じた。しかしキユレは、気にする様子も無く、穏やかな微笑みを顔に浮かべている。

 こういうやつって、何だか怖い。

「うん。君、面白いね」

 その言葉の裏にあるものに、どこかぞくっとした。思わず表情が変わりそうになるのを必死でこらえる。

「ギャグを言った覚えはねーぞ」

「違う違う。君の成績が、だよ」

「俺の? どこが?」

「学科の素点。中間と期末足すと、六十点が並んでるね」

 五教科十科目、狙った点数を取れるかどうかやってみたのだが、想像以上にうまくいってしまっていた。合計点数は表示されないだけに、誰も気づかないだろうと思っていたが……

「あ、ああ、たまたまじゃないか?」

 俺はそう言って、キユレから視線を外した。すると驚いたことに、キユレは俺の肩に手を置き、耳に口を寄せる。そして、

「わざと、だよね?」

とつぶやいた。はっとして、キユレの目を見ずにはいられなかった。そして後悔する。

 何か言おうとして……言葉が見つからない。そんな俺を横目で見ながら、キユレは今度は傍にいたサアヤに声を掛けた。

「瑞雲(みずも)さん、だったかな」

「は、はいっ」

 俺の時とは別人のような声で、サアヤが返事をした。それにキユレが天使のような微笑みで応じる。

「良かったら今度の日曜日、食事にでも行かないかな」

「えっ」

 サアヤは絶句し、そして俺を見た。

「なんでこっち見るんだよ。行きたいなら、行けばいいだろ」

 突き放すような俺の物言いに、しかしサアヤは困った顔を見せる。

「だって……」

 その視線は、明らかに助けを求めているようだ。まったく……サアヤらしくない。

「悪いな、キユレ。日曜は俺が先約だ」

 仕方なく俺はキユレとサアヤの間に割り込んだ。そんな約束はしていないのだが。

 キユレが俺を横目で見る。その微笑みは崩さない。それがどうにも計算ずくのように見えた。

「そう。それは残念」

 キユレの涼やかな声。

「お邪魔してごめんね。じゃあ、僕は失礼するよ」

 そう言うとキユレは、サアヤに小さく手を振り、この場を立ち去った。それを見つめるサアヤ。何を思うのか、それは俺には分からないが……

「せっかく神童に誘われたのに、なんでうんって言わなかったんだ?」

 そんなサアヤに訊いてみる。

「うーん、だって、キユレ君にはもうパートナーが二人もいるでしょ?」

「らしいな」

「誰か知ってる? レント」

「いや、興味ねえし」

「まったく、アンタは……」

 サアヤが呆れ声を出す。俺がどうみられているかは別にして、そういう方がサアヤらしいと思う。

「二年生の鳳(おおとり)カイナと一年生の真鶴(まなづる)カホ。特に鳳さんは、去年の学園祭のミスコン優勝者よ。真鶴さんも、今年の学際でいい線いくんじゃないかって言われていた人」

 学園祭は秋だ。ミスコンには、もうすでにパートナーがいる女性は出場できない。

 『去年のミスコン優勝者』や『出場すれば優勝したかもしれない女性』というのは、こんな時代であっても、男を選べる立場と言える。そういう女性たちがキユレを選んだ、という事実には驚きはなかったが……

「サアヤが三人目か?」

 キユレの趣味がよくわからん。

「馬鹿言わないでよ。そんなわけないでしょ」

「まあ、そうだよな。どこから見ても平々凡々なサアヤを、あいつが狙うなんて、そんながっつかなきゃいけないような身分じゃないわな」

 俺はサアヤの言葉を即座に肯定した。ついでに余分な言葉も添えて。しかし、それを聞いたサアヤの顔は、見る見るうちに真っ赤になっていく。

 あ、これ、あかんやつだ……

「馬鹿っ!」

 サアヤの平手が俺の頬を薙ぐ。首があさっての方向に曲がりそうになるのをなんとかこらえた。

「いってぇ」

 サアヤに文句を言おうとしたが、サアヤの目に少し涙がたまっているのに気が付いて、言葉を飲んでしまう。

「なんで叩くんだよ」

とだけ抗議したが、サアヤは呪い殺さんばかりに俺を睨むと、

「ほっんと、アンタって、馬鹿なんだから!」

と言い残し、走り去ってしまった。

 

 全く、女はよくわからん。

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