人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
Qに中出ししてしまうと、Qは男体化します。クリトリスが大きくなって、おちんちんになるのかもしれません。
男の方は女体化します。おちんちんが小さくなってクリトリスになり、ドリルで穴をあけるように膣ができるのだと思います。この時に激痛が走るんですね。そうに違いありません。
というような生物学的な話は置いておいて、ゴリマッチョだったタツヤ君も、今や骨太のおにゃのこです。
この学校に通う男子は、全員学生寮で生活している。寮と言っても、1LDKのマンションタイプだ。それが男子一人一人に与えられている。ちなみに、女子生徒は基本的には自宅からの通いだ。
※ ※
学生食堂で朝食をとってから教室へ向かおうとしたところ、既に登校していたサアヤが校舎の前で、柱に隠れるように待っていた。
軽く手を上げて挨拶したが、サアヤはどことなくそわそわした様子をしている。
「お、おはよう、レント」
「おはよう。どうしたんだ?」
「な、何が?」
「いや、なんか落ち着かない感じだから」
「あ、ああ。な、なんか、恥ずかしいなって思って」
初夜。それを皆に知られているような気がして、サアヤはずっとうつむき加減でいる。それもそのはず、端末で公開されているサアヤの学生情報の欄には、今日から『パートナー:深山レント』という表示がされているのだから。
「誰も気にしてなんかいないさ」
「そ、そんなことないよ。『行き遅れ』にならないようにって、女子は結構ピリピリしてるんだから。誰が誰のパートナーになるのかとか、どうやったのかとか、結構みんな気にしてるんだよ」
「俺じゃ嫌だったか?」
「そうじゃなくて、ほら、女の子にもいろいろあるんだよ」
サアヤは多分、周りの好奇の目であったり妬みの目であったりを気にしているのだろう。その辺については、さすがに俺も未知の世界だ。
「いろいろ、ねえ」
「ほんとにアタシをパートナーにして良かったの?」
「昨日あんなに燃えといて、それはないだろ」
「ば、馬鹿、そういうことじゃないでしょ!」
サアヤはレントの肩を平手で張ると、真っ赤になって目を伏せた。
「よお、お二人さん。アツアツだねぇ」
突然後ろから声がかかる。掛けられた言葉に、ふんだんに詰め込まれてたネガティブな要素を感じた。だるそうに目を向けてやると、一年五組の男子、
「随分と、前近代的な冷やかしだな」
カップルに干渉しない。それはこの時代において、場所を問わないマナーと言える。しかし、この学校はパートナー獲得という男同士の『バトル』の場でもあるだけに、マナー違反すれすれのグレーゾーンで牽制しあうことはよくあることだった。
「はっ。しかしレントも物好きだな」
「それはどういう意味だ、ソラタ」
「おっと、すまんすまん、つい」
そうは言うものの、ソラタの声には謝罪の色も欠片もない。
「構わんから、どういう意味か言ってみ」
「すまんって言ってるだろ」
「ちょっと、レント、やめなさい」
サアヤが止めに入るが、俺に引く気は毛頭なかった。ここで引いては、逆に後々面倒になるのだ。ニワトリではないが、相手になめられては評判が下がる。
「まだパートナーの一人もいないくせに、やっかみかよ、ソラタ。そんなんじゃ、二年になっても売れ残るぜ」
実際のところ、Qに引っかかりさえしなければ、二年生の夏にはほぼ全員が最低でも一人のパートナーを連れているものであった。しかし一年生には、最初のパートナーができるまでは、疑心と不安がプレッシャーとなって押し寄せる。
そこを突かれたソラタは、見てわかるほどに焦りの表情を見せた。
「俺はな、お前みたいに焦って、そんな『くさい』女に手を出すような真似はしねえんだよ」
「なんだと?」
「クラスの人間はみんな言ってるぜ。瑞雲は体臭がきついってな!」
ソラタはサアヤと同じ五組だ。しかし他人のパートナーへの誹謗中傷は男女問わずご法度である。ソラタはマナー違反を犯してしまったのであり、『通報』すればソラタは厳罰を免れない。
しかし俺は、言われたサアヤの様子を見て、そうすることを止めた。サアヤの表情が固まっている。
「はっはっは」
わざと大きな声で笑ってやった。
「何がおかしいんだよ」
「分かってないな、お前」
そう言ってサアヤを抱き寄せる。
「ちょ、レント」
驚くサアヤを無視して、サアヤの体に顔を押し当てると、ゆっくり息を吸い込み、ソラタを横目ににやりと笑った。
「女の香り……エロいにおいだぞ。おかげで昨日は興奮して勃ちっぱなしだった。まあ、童貞には分らないだろうけど」
「やめなさいって」
突然のレントの暴露に、サアヤの顔は限界まで赤くなる。
「これはな、フェロモンのにおいなんだよ。それが分からないなんて、ソラタ、お前ほんとに男か?」
「俺はお前みたいに、変な趣味は持ってねえんだよ!」
「ああ、そうかい。趣味が違うなら、いちいち声かけてくんな」
「はっ、もうお前なんかに係わるかよ」
結局、持てる者と持たざる者の差と言えるだろうか、ソラタは苦虫を噛み潰したような顔をして、俺たちの傍から離れていった。
「ほんとにあいつ、売れ残るぞ」
明るめの声でそう言ったが、サアヤはそれに反応せず、うつむいたままだ。
「サアヤ、気にするな。俺は」
「いや、そうじゃなくて」
「そうじゃなくて?」
サアヤの顔は、まだ真っ赤だった。震える手で俺の胸元をつかむと、自分の方へと引き寄せる。
「レントがあんなことするから、濡れちゃったじゃないのよ」
耳元に囁いた言葉に、俺は思わず噴き出した。
「人前でにおわれて、興奮したのかよ……ヘンタイ」
「もう、知らない!」
およそ怒ってるようには聞こえない声でそう言うと、サアヤは俺を置いてすたすたと校舎へと入っていった。
※ ※
消化試合のような午前の授業を終え、買っておいたサンドウィッチを食べ終えた後、席を立ち教室を出る。ちょうどそこにサアヤが現れた。
「あ、レント」
「おう。あれから変わったことはなかったか? 誰かにいじめられたとか」
「あ、うん。大丈夫。皆に色々聞かれたけどね」
「へえ。どんなこと?」
「女の子同士の話。言うわけないでしょ」
「なんだそりゃ」
一年生の今の時期だと、誰かのパートナーになっている女子はかなり少ない。もちろん上級生も一年の女子を狙ってくるのだが……男子は、その女子がQかどうかの『判別』をしなければいけない以上、当然慎重になる。女子は「如何に自分がQではないか」のアピールをしつつ、男子の気を引かなければならない。
どうやって「男をゲットした」のか、情報集めもかねて、色々聞かれたのだろう。まあ、俺とサアヤは『旧知の仲』なのだから、あまり参考にはならないかもしれないが。
ともかくも、サアヤの様子に変わったところがなかったことに、俺は胸をなでおろした。
「ていうか、どこ行くの?」
「ん? ああ、三年生の教室へ」
「……ちょっと、レント。まさか、あの二人に会いに行くんじゃないでしょうね」
「あー、まあ、そのまさか、かな」
そう答えるや否や、サアヤは俺の胸倉をつかんで壁に押し付けた。
「何考えてるのよ、アンタ」
「いてて。怖いって。何すんだよ」
「何って、馬鹿なこと考えてるアンタを止めようとしてるのよ」
「馬鹿なことって、どんなことだ?」
「アタシが聞きたい」
茶化そうとしたが、サアヤの目は真剣だ。どう言おうか、廊下の天井を見上げて少し考える。
「んー、将来、かな」
「……頭大丈夫?」
「大丈夫。冴えまくってる」
とはいうものの、そんな言葉では納得しない様子だったので、仕方なくサアヤも一緒に連れていくことにした。道すがら、サアヤに俺が考えてることを説明していく。
「Qについての話なんて、『噂』の域を出ない。それに頼ってたら、タツヤみたいにババを引いてしまうだろ?」
「まあ、そうだけど……だからアタシも、いろいろ情報集めるじゃん」
パートナーになった女子は、パートナーの『出世』を助けるために行動するのが普通だ。だから様々な情報を集め、自分のパートナーがQに引っかからないように協力する。パートナーが多い男子ほど、パートナー集めがさらに有利になるのだ。女子にとっても、自分のパートナーが力を持てば持つほど、自分の将来のためにもなる。
男の価値は、『ハーレムの大きさ』で決まる世の中なのだ。
「Qのことなら、Qに聞いた方が早いんじゃないかと思ってね」
「あの二人に?」
「ああ。『探Q部』とか言って、Qについて調べてるんだろ? うってつけじゃないか」
しれっとそう言う俺を、サアヤは複雑な表情で見ていた。
「でもさ、不思議に思わないか?」
「何が?」
「そもそも、あの二人は何でQを公言してるんだろ」
「それは……アタシにも分かんないよ」
「そうすることで、何かメリットでもあるのか?」
「んー…男が寄ってこない、とか」
「それデメリットにしかならんだろ」
「だからアタシにも分かんないってば」
もちろん、俺にも分からない。だからこそ、それを知りたいと思うのだ。
「そんなこと知ってどうするのよ」
「さあ、知ってから考える」
「はあ?」
サアヤとは中学からの馴染みだが、そのサアヤでも俺の考えていることが時々分からなくなるときがあるらしい。しかし、そういう時ほど俺がテコでも動かないくらい頑固になっていることもよく知っている。
サアヤは半ばあきらめた表情で首を振った。
「レントがQになったらやだよ、アタシ」
「分かってるって。でも、もし俺がQになったら、別の男んとこに行くか?」
パートナーがQになってしまった場合、女子はフリーに戻るか、パートナーから『男性』を奪って新しく男になった『元Q』のパートナーとして残るか、選択ができる。どちらも、メリット・デメリットが存在するが……
サアヤがそっと俺の手を握る。
「ちゃんと責任とってよ、この体。アンタのせいで、エロくなっちゃったんだから。アタシ、レント以外、やだよ」
恥ずかしそうにうつむくサアヤ。
「もちろん、そうするに決まってるだろ」
俺はサアヤの体に顔を押し付け、くんくんと匂いを嗅いだ。
うん、エロい匂いだ。
「馬鹿っ!」