人類の大半が女性になった世界でも、Hをするのは大変なんです。 作:冴木凛
「
三年二組の教室まで来た後、そこにいた上級生に二人のことを尋ねたのだが、生憎二人は教室を出ているようだった。
「どこに行ったか、分かりますか?」
「さあ……昼休みに教室にいることはほとんどないわよ。ほら、あの二人ってQだって自分たちで言ってるから、他の人と話をすることも少ないのよ。彼女たち二人でどこかにいるんだと思うわ」
どうも学校には来ているようだ。休んでいる可能性も考えていただけに、俺はその情報をもって良しとすることにした。
上級生に礼を言って立ち去ろうとすると、その上級生が引き留めた。
「ねえ、あなた。名前は?」
「あ、はい、深山レントと言います」
「はぁあ、今日、一人目のパートナーを登録した一年生さんね」
予想通りとはいえ、その手の話はみんなチェックしているのだろう、もう俺の名前も知られているようだ。
「今年の一年生は、手の早い子が多いみたいねぇ……あれ、もしかして、その子がパートナーさん?」
俺の後ろに控えていたサアヤを指してそう尋ねる。
「あ、はい」
サアヤは、いきなり自分に話題が向いたのに驚き、慌ててお辞儀をする。
「いやあ、いいなぁ。ね、ね、どうやって彼をゲットしたの?」
「あ、いや、元々、友達だったんです……」
「なるほど……はぁ、なんでだろ、私、なかなか男の子と知り合うチャンスが無いのよねぇ」
そういうと、目の前の上級生は俺をチラ見した。ぱっちりとした二重の目が何かを訴えかけているようだ。少し茶色がかった内巻きセミロングがふわっと揺れる。目元に色気のある女性だった。
「そうだ、レント君!」
「は、はい?」
「お姉さんと、オトモダチにならない?」
お、お姉さん……なかなかのハードパンチ。その彼女が俺の腕を取り、抱え込む。ぽよんとした感触が、セーラーの上からでもはっきりと分かった。
「お、おともだち、ですか?」
「そうよ。いきなり恋人じゃ、さすがにおかしいでしょう」
彼女が、ふふふと笑う。
「そ、そりゃまあ、そうですが」
「私、
どこから取り出したのか、手にしたカードを俺のシャツの胸ポケットに差し入れる。
何となく曖昧な返事をした後、俺は教室を離れたが、ミキはしばらく俺に向けて手を振っていた。
「なんか積極的な人だったな」
「三年生にもなると、女子の方が焦ってくるからね……様子見だとか、ビッチ認定回避とか、そんなこと言ってらんなくなるのよ。売れ残らないようにね」
思わずサアヤに訊いたが、サアヤは素直に『女子の内情』を教えてくれた。
「まだ、後二年以上あるのにか?」
この学校は五年制なのだが。
「四年生にもなると、ハーレムの人数も増えてくるからさ。『審査』が厳しくなるのよ」
「審査?」
「そう。男子とデートするのにも、Qじゃないかどうか、パートナーの女子たちが作る『大奥』にチェックされるのよ」
「大奥って……なんかすごそうだな。でも、Qかどうかなんてわかんないだろ」
「噂だとさぁ、もう『拷問まがい』の審査らしいよ。本物の女子ですら苦痛に耐えきれずに、Qだと自白しそうになるってさ」
「どんだけだよ」
そうやって『冤罪』が作られていくのか……
「だから高学年の男子は狙いにくいのよ。でも、やっぱり知り合う機会は、同学年の男子が一番多いでしょ?」
「まあ、そうだよな」
「だから女子は『三年で焦り、四年で諦める』ってのがね、定番なのよ」
「んじゃもう五年生は賢者モードか」
「近いかも」
「うはぁ……こえーな」
俺は肩をすくめた。
「で、どうするの?」
相変わらずサアヤは俺を心配そうに見ている。
「ああ、多分あの二人、二人きりになれる静かな場所にいるんだと思う。どこだと思う?」
「そうねぇ」
昼休みに誰もいない静かな場所。そんなところがあるだろうか?
「屋上、かな?」
「随分とべたな場所だな」
「べたすぎて誰も行かないのよ。男女で会うなら寮があるんだし、呼び出すにしてもそんなあからさまな場所は選ばないでしょ」
「そんなもんなのか?」
「そんなものよ」
俺には「そんなもの」なのか全く分からなかったのだが、こういうことは俺よりサアヤの方が詳しそうだ。サアヤの言葉に従い、俺は屋上へ向かうことにした。
「ちょ、ちょっと、本当に行くの?」
「ああ。もちろん……あれ? ついてこないのか?」
「行きたいけど、今日、日直でさ。もう教室に戻らないと」
「そっか。じゃあ俺一人で行くよ」
そう言って俺はサアヤに向けて、お気楽に手を振った。
「いい? 絶対に変なことしないでよ」
「分かってるって」
※ ※
屋上と言っても、校舎は何棟にも分かれているだけに、幾つもの『屋上』が存在していた。しかし俺は、屋上と聞いた時から向かうべきところを思いついていた。主に職員室や保健室、あとは教養科目の講義室などがある棟へと足を運ぶ。
普通、教師と顔を合わせたいと思っている生徒は少ない。ましてやこの棟は、運動場などからも一番遠いところにあるだけに、生徒の行き交いはかなり疎らである。時折、教師と出会うことを除けば、静かで落ち着いた場所と言えるし、その屋上となれば猶更だろう。
五階まで上がると、教師や生徒の姿はもう見られなかった。更にその上、屋上への扉の前までくると、静かにゆっくりと扉を開けてみる。鍵はかかっていない。
風に乗って、どこからか声が聞こえた。
「なぜそうなる!」
凛とした鋭い言葉。聞き覚えがある声。ソフィーアだ。
「最初にあいつのとこに行こうって言ったのは、ソフィーアじゃねえか」
「男として見に行ったんじゃない」
言い合いしている相手は、ヤヨイのようだ。予想が当たったということではあるが、どうも様子がおかしい。
このままでいるのは、まるで覗き見か盗み聞ぎしているようで、それは望んでいることではない。一旦その場を立ち去ろうとしたところ、二人の言い合いが突然終わりを告げた。
「拒絶されて、悲しい思いをしても、私は知らないからな!」
「そりゃ、そうだけどよ……仕方ないだろ!」
その言葉の後に足音が続き、そして屋上の建物の陰からヤヨイが現れる。戻ることも隠れることもできなかった俺は、ヤヨイと対面することになってしまった。
俺の姿を見て、ヤヨイがぎょっとした表情を見せる。
「お前……こ、こんなところで何してるんだよ」
「すみません、二人を探してここにきたんですが」
そこまで言って、ヤヨイの目が赤くなっているのに気が付いた。その俺の視線に、今度はヤヨイが気付く。
「話、聞いてたのか?」
「いや、今来たばかり……」
しかし、すべてを言い終わらないうちに、ヤヨイは下唇をかんで横を向くと、そのまま階段を足早に駆け下りていった。
「ヤヨイさん!」
「君か」
ヤヨイの後ろ姿をその場で見送った俺の後ろから、ハスキーな声が聞こえた。ゆっくりと振り向くと、少し困った表情のソフィーアがそこに立っている。
「すみません、立ち聞きする気はなかったのですが」
「ああ、構わないさ。でも、見苦しいところを見せたね」
「えっと……どんな話を?」
「ああ。はは、言う程話は聞いてなかったようだね」
「ほんとに、今来たばかりですから」
「そうか」
ソフィーアは顎に手を当て少し考えていたが、それを止めると、目で屋上を示した。
「少し、話をしないかい。レント君」