※この作品はR-18です。

見せる子ちゃん   作:汚汁狐

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第11話 -第4話のアイツ ①-

 住宅街の片隅にひっそりと佇む木造2階建てのアパートがある。

 

 何か用がない限り誰も気にも留めないような、ひっそりと佇むそのアパートの2階では、いかつい姿をした男性が女性の名前を切なげに口にしながら一人遊びに耽っていた。

 

 部屋の隅にある陽のあたる場所では可愛らしい仔猫が丸まって寝息をたてている。

 心底安心しきったあどけない顔でぷすぷすと鼻息をたてていたが、ぴくりと耳を震わせるとその瞳を開いて家主の方を見やる。

 

 

 その瞳には、一人遊びに耽る男性に抱きつく女性の姿が映っていた。

 

 

 清楚な柔らかい容姿で雰囲気にあった前開きのワンピースを漂わせながらふわふわと浮く少女と見紛うばかりに愛らしい女性。

 愛しげに頬を染めながらもどこか寂しげな表情を浮かべて男性へと抱きつきながら、その右手をそっと男性の手に添えるように伸ばしてゆるゆると動かしていた。

 

 

 その様子をジッと見つめる仔猫の両脇に寄り添うように二匹の白く透ける二股尻尾の猫たちが顕れると、その温もりを感じたのか仔猫は再び微睡みの中に沈んでいった。

 

 

 

 

 

──◇──

 

 

 

 

 

 怪異との初遭遇とそれ等にわからされた怒涛のような日から数日経ち、みこの状況は幾分か落ち着いていた。

 

 

 色々とヤバいのが見えてしまう状態は変わらずに続いているが、幸いにもあの日程に大きな出来事が起きることはなかった。

 少しずつ怪異との距離感を掴めてきたのもあり、それを保ちながら生活すればそれなりに過ごすことが出来るようになっている。

 

 流石にあの日の翌日などは、バス停や家の洗面所を使用する際もまた居るのではないかと緊張していたのだが、結局あのイヤらしい怪異のオジサン達は現れなかった。

 特に昨夜などはゆっくりと眠れたと言える程で、そのおかげかとても調子が良い。

 

 しかし、アレ以降ナニも無い日が続いた事で、犯される悦びを覚えたみこの身体は刺激を求めてしまい、自らの手で慰めつつもどこか物足りなさを感じてしまう。

 そんな気持ちからか、通学中に感じる男性からの視線に敏感になっており、まるでそれが日々増えているかのように感じていた。

 

 そんな自分の身体の変化に戸惑いつつも、それは気のせいなんだと自らに言い聞かせる一幕もあったのだが……

 

 

 そんな少しの問題を孕みつつも流れる平穏な日々の中、待ちに待った土曜日を翌日に控え、親友のハナと二人で心と身体のリフレッシュを兼ねたデートの約束をしていた。

 数珠を買いに行くだけなのだが、それで少しは状況が好転してくれればという淡い期待もあり、鼻歌くらいは出してしまいそうな程に気分が良かった。

 

 少し浮かれ気味なのを承知の上で、学校から自宅へ向けて足を進めていく。

 

 

 

 

 そこでふと、何かに呼ばれた気がした。

 

 

 

 

「……? あれ、あの人って……」

 

 

 呼ばれた先へと視線を向けると、そこには見覚えのあるいかつい姿の男の人が居た。

 

 まくった両腕を埋め尽くしたトライバルが襟口から露わになった首の後ろまで繋がっており、おそらく全身もそうなっているのだろうと予想がつく。

 そんな彼なのだが、商店街の帰りなのかその手には買い物袋を下げており、テクテクと歩く姿は手慣れた感が漂っている。

 妙に所帯染みた雰囲気がどこかコミカルで可愛らしくさえ思える。

 

 しかし、すれ違う通行人にはそうは思えないのだろう。 まるでモーセの海割りのように人が割けていっている。

 みこがそれ程怖いと感じていないのは、入れ墨の男性の両腕へとしがみついている二股に別れた尻尾をもつ可愛らしい二匹の猫と、その両肩へと手を添えて愛しげに微笑む宙を漂う綺麗な女性の姿が見えるからなのだろう。

 

 

「ふゎ……」

 

 

 守護霊とでも言うべきなのか、猫霊だけでなく先日は見えなかった女性の霊にみこの口から感嘆の声が漏れ出る。

 初めて見るタイプの女性の霊だが神聖ささえ漂う清浄な雰囲気に思わず見惚れていた。

 

 

「あれ……?」

 

 

 ふと、二匹の猫霊の片割れが消えているのに気付いた。

 思わずどこに行ったんだろうと疑問が口に出そうになった瞬間、みこの腕がもふっとした柔らかな感触に包まれて咄嗟に腕を上げた。

 

 

「な、ん……っ!?」

 

 

 そこに数瞬前まで確かに入墨の男性の腕に居たはずの猫霊が足を全部使ってがっちりとしがみつき、ジィっとみこの方を見上げていた。

 

 

「っ!?」

 

 

 何がどうしてこんな自体が起きたのか見当もつかず、かといって振り落とすのも可哀想で、みこはただ口をパクパクさせて見つめ合うしか出来なかった。

 その猫霊もそんなみこをジッと見つめていたが、ツイッと顔が入墨の男性へと向けられた。

 

 

「ん?」

 

 

 クイックイッと二股の尻尾で先を進む男性を指し示しつつ、視線をみこと入墨の男性との間を何度も往復させている。

 その仕草でなんとなく意図を察し、恐る恐る訪ねてみる。

 

 

「え……、……私に着いていって欲しいの?」

 

 

 そこで初めて猫霊が微かに鳴き声をあげた。

 

 可愛らしい仕草と鳴き声に思わず毒気が抜かれてしまい、ふっと肩から力が抜けた。

 

 手を伸ばして猫霊を撫でようとすると、嫌がる素振りも見せずにおとなしく撫でられるがままになってくれた。

 スリスリと手に頬を擦り付けてくる猫霊のふかふかな手触りにほっこりと頬を綻ばせていると、再度鳴き声をあげて撫でるよりも早くと急かしてくる。

 

 

「ん……」

 

 

 悪いようにはならないだろうと直感が囁いていた。

 あれだけ清浄な霊が害のある事をしてくるとは到底思えなかった。

 

 

「……わかった。いいよ」

 

 

 再度そのふかふかの頭を撫でながらそう呟くと、猫はその言葉への返しにゴロゴロと喉を鳴らして甘えるように頭を擦り寄せた。

 

 

 

 

 

──◇──

 

 

 

 

 

 彼らと出会ったのは、あの学校で起きた一連の濃厚な出来事の帰り際での事だった。

 

 

 前触れもなくみこへと降って湧いたように顕れた能力。

 

 怪異を見て、言葉を聞くことが出来るようになった事によって、みこはおどろおどろしくもイヤラシく、悍ましくも淫猥な人外の法悦に晒されることになった。

 

 学校であれだけ犯されて乱れた為に、みこの身体には色濃く気怠さと疼きが残っていたのだが、それでも約束を破ることはせずに、治まりきらない肉悦に火照る身体を何とか誤魔化してハナと共にミセドへと寄り道していた。

 

 

 更衣室にいたロッカー棚のオトコにあのショーツもあげてしまい、みこもノーパンになっていたのだが、ハナに自分もお揃いだよなどと言えるわけもない。

 そのまま何も言えずにノーパンの女子高生が二人でミセドへと繰り出すという、どこの罰ゲームだと言わんばかりの痴女プレイをしていたのだが、その帰り道で出会ったのが一匹の仔猫だった。

 

 

 

 人懐っこく愛らしい仔猫。

 

 

 

 ただ、その捨てられた仔猫が入っていたダンボールには不気味でヤバいのがいた。

 そして、そのヤバいのはあたかも仔猫を守るように寄り添っていたのだった。

 

 

 しきりに仔猫を構うハナに言い出す事も出来ず、彼女がその仔猫の事をSNSで拡めて里親を探すのに付き合うことにした。

 

 その後、ちょっとした不気味な出会いと不思議な出会いをしながらも、みこの視線の先を歩いている入れ墨の男性へと仔猫を預けたという出来事があった。

 

 人は見た目には寄らないのだという言葉のままの出来事に加え、その入れ墨の男性へと憑いて回っていた可愛らしい二匹の猫霊がとても印象深く、記憶に残っていたのだ。

 

 

 

 そんな出会いをした二匹の猫霊の片割れに促されるまま、入れ墨の男性の後を尾けていく。

 

 程なくして男性が一棟の寂れたアパートへと近づいて行くのが見えた。

 築何十年になるかわからない程古い木造2階建てのアパート。 その一室へと入れ墨の男性は入っていく。

 

 猫霊に急かされるままに小走りで男性の後を追いかけ、男性が入っていった部屋の前へと到着した。

 表札には豪塚と書いてあり、ハナが仔猫を拾った相手の呟きにもそんな名前が入っていたような記憶が微かに残っていた。

 

 

 しかし、いきなり訪ねたのはいいとしても説明のしようがなく、躊躇しているとその猫霊はみこを急かすようにインターホンをタシタシと叩いている。

 

 

「え、えっと……。押せってこと……だよね?」

 

 

 どこか諦観が交じったみこの声に可愛らしい鳴き声で猫霊が応える。

 

 

「やっぱり……そうなるよね……」

 

 

 ふぅっと溜息を吐きながら大きく深呼吸をすると、そのインターホンへと指を掛けた。

 

 

ピン……ポーン

 

 

(お、押しちゃった。どうしよう……。どうしよぉ~)

 

 

 押したはいいが、何をどう説明すればいいものか言葉が出てこない。

 やってる行動だけ見ればストーカーした挙げ句に部屋へ押しかけた危ない女子高生でしかないのだ。

 

 そもそも、みこにもなんで連れてこられたのか理由がわかっていない。

 その上、『貴方に憑いている二匹の猫ちゃんに理由もわからず連れてこられたんですよ』なんて事を言った日にはそのまま警察を呼ばれてしまう未来しか見えない。

 

 しかし、そんな事を考えている間に扉が開いてしまった。

 

 現れたのは相変わらず厳しい顔をした男性で、その肩口から件の女性の霊がキョトンとした顔をして顔を覗かせている。

 

 

「ん……昨日の……?」

 

 

「あ……、えっと、はい、あの……。さっき見掛けて昨日のねこちゃんが気になっちゃって……」

 

 

 咄嗟にそんな言い訳が口から漏れていた。

 相変わらずカタギには見えない様相をしているにも関わらず、更に眉を訝しげに顰めているので今にも人を殺しそうな程に凶悪な見た目になっている。

 

 

「ん……むぅ……」

 

 

 思い悩む様子に、『そうですよね……』と思いながらも、向けられる訝しげな視線に耐える。

 その最中にあって、凶悪な様相をした男性の肩越しから覗き込んでくる女性の霊は、先程からみこを見て何やら慌てているようで、あたふたしている様子がとてもコミカルで可愛らしい。

 

 

「にゃんすけか……」

 

 

「は……い? にゃんすけ?」

 

 

 ぽそりと口にした可愛らしい名前にキョトンとしてしまった。

 それにハナが言っていた名前と違うようなと考えて見詰めていると、恥ずかしげに顔を赤く染めた彼が踵を返して部屋へと入っていった。

 

 

「あ……。わ、わかった。とにかく入ってくれ」

 

 

 慌てたようにドスドスと部屋の中に入っていく様子を見て、みこは目をパチクリとさせていたが、それが照れ隠しなのだと思い至ると思わずクスリと笑みが溢れてしまった。

 

 

(やっぱり怖いのは見た目だけな人なんだ……)

 

 

 見た目とは裏腹などこか可愛らしさすら感じる行動に、理由はわからないけどなるようになるかなと、そんな考えが頭に浮かんだ。

 そんなみこの目の前には、ジーッとみこを見定めるかのように見つめる女性の霊がいた。

 

 

「……お、おじゃましまぁ~す」

 

 

 家の中ではある程度自由に動けるのか、男性へと憑いていかずにジッとみこを眺めてくる女性の霊へと視線を向けて目礼をすると、その事に気付いた彼女が驚きで大きく目を見開いたのがわかった。

 

 口に両手をあてて驚いた表情を見せる可愛らしい仕草を眺めつつ、ローファーを脱いでいると、トトトッと猫霊が腕を駆け上っていくのがわかった。

 

 一気に肩まで駆け上がった猫霊がその女性の霊へとうにゃうにゃとと何やら話しかけている。

 

 

「どうし……!?」

 

 

 みこにはその後に言葉を続ける事が出来なかった。

 

 

『な……なんでなの!?ど、ど、どういうことなの!!??』

 

 

 物凄く焦った様子で、顔を真っ赤にした女性の霊がみこの肩に乗った猫霊へと詰め寄ってきたのだ。

 

 そんな彼女にも猫霊はまったく動じず、淡々とした様子でうにゃうにゃと話しかけ、それに対して女性の霊は更に湯気が出そうな程に顔を真っ赤にして声を上げている。

 流石に猫語まではわからないみこはエスカレートする二人の様子に合いの手を入れることも出来ず、可哀想なほど涙目になっている女性の霊を見ながらまるで自分がイジメているような妙な気分になってしまっていた。

 

 

『っ!!!……ばかぁーーーーー!!!!!』

 

 

 終いには猫霊に言い負かされたのか、ぷるぷると震えた女性の霊が捨て台詞のように猫霊へと叫びつけると、男性の後を追って部屋へと駆け込んでいってしまった。

 

 

(え~……と?)

 

 

 どこまでも可愛らしい仕草に思わずみこは苦笑が漏れてしまった。

 

 そして彼女の肩に居座っている猫霊は逃げていった女性の霊に対して、やれやれとでも言わんばかりにフスンと鼻息を漏らしていた。

 

 

 

「えっと……改めまして、四谷みこと言います」

 

 

 そして、部屋へと入って早々にみこにとっての試練のような時間が始まった。

 

 ちゃぶ台しかない殺風景な部屋で二人、ちゃぶ台を挟んで座っている。

 どこかピリピリした雰囲気を隠そうともしない、入れ墨の男性の視線がただただ痛い。

 

 

 更にフォローしてくれそうだった女性の霊は、先程の猫霊とのやり取り以降はその顔を真っ赤にして頬を膨らませて男性の肩口から顔を覗かせているばかりだ。

 みこの両肩でのんきに寛いでいる二匹の猫霊は、そんな彼女から一生懸命睨みつけられているにも関わらずのんきに欠伸をしている。

 

 更に、入墨の男性の脇に見える小さいテーブルに置いてある写真立てに写る朗らかに笑う女性と二匹の猫の遺影。

 そして、男性と女性の左薬指に光る同じデザインの指輪を見れば自ずと二人の関係と今の状況を察する事が出来てしまう。

 

 取り敢えず、なんとか名前を伝える事だけはしたのだが言葉が続けられない。

 

 

(ど、どうしよう……)

 

 

 いまだに連れてこられた理由がわからないのだから、それはしょうがないのだろう。

 混乱するばかりで、涙目になってぷるぷると震えることしかできず、冷や汗をたらたらと流して黙りこんでいた。

 

 そのままただただ無言の時間が続き、それに伴って更に言葉を発し辛くなっていくという負のループに陥ってしまう。

 

 

『うにゃん』

 

 

 そんなみこの様子を見兼ねたのか、猫霊が一鳴きした。

 

 その鳴き声にぴくりと反応した女性の霊、目の前に座る彼に憑いた奥さんがみこを見て、何やら慌てている様子が伺える。

 しかし、既になんて語りかければいいのかを考えるのに精一杯なみこは完全にテンパっていた。

 

 

『四谷さん?』

 

 

 慌てた様子でみこに寄り添った奥さんが声を掛けているのだが、返事がない。

 完全に余裕がなくなって思考が止まっているのだ。

 

 

『四谷さぁ~ん?』

 

 

 手を目の前でひらひらと振ってはみるが、それでもノロノロと視線を奥さんへと向けるばかりで反応が乏しい。

 しかし、その瞳にはありありと感情が浮かんでおり、一目で何を求められているかがわかった。

 

 つまり……

 

 

(た……たすけて……)

 

 

 みこは今、盛大に助けを求めていた。

 

 

『え、えっと。……取り敢えずお借りしますね!』

 

 

 スゥッとみこへと重なるように動いた奥さんが、みこの中に溶け込むようにして消えていく。

 ふわりと微かに髪が風に吹かれたようになびくと、その雰囲気が一変した。

 

 

「っ!?」

 

 

 みこの口許がゆるりと弧を描き、豪塚の心に酷く既視感を抱かせる柔らかな笑みを湛えた。

 何か途轍もない事が目の前で起きているのはわかるのだが、それが何なのかまったく検討もつかずにただただ眺めるしか出来ない。

 

 そんな様子の彼に向かって、みこの身体を借りた奥さんが微笑みかけた。

 

 

「『___さん』」

 

 

 その声は二重に重なったような不思議でとても綺麗な音をしていた。

 




お時間相手すいませんでした!

エッチなのは次回に……


この話入れるか迷ったんですけど、何も説明無いのもなぁと考えて思い切って投稿。

次話は近い内に



──

21/4/9に生存報告&大幅改訂。

対人はなんか違うと思ったので、大幅に改定しました。
もし旧版がいいという方がいらっしゃればそれはそれでIFとして上げようと思います。
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