面白くないと思ったら、戻る事を推奨します。
私は、どこにでもいるただの女。一つ、普通の女性と違うのは、アニオタという事。それも、一目惚れのような感覚で好きになったアニメやゲーム、漫画を、ずっと愛し続ける一途オタク。他のアニメやゲーム、漫画も好きだけど、注ぐ熱量が全く違う。だけど、猛者レベルのオタクには、まだ程遠い。そんな私の生きる活力源が『ラブライブ』『アズールレーン』この二つ。家族から、かなりドン引きされているが、どうしても止められない。それは、仕事で稼いだ中から、少額のお小遣いを貯めては、グッズを買うという事。それらは、全て愛車に飾り、見る度に、何かが増えて、家族は『ストレス発散だから』と、半ば諦めていた。
そうして、年月が過ぎ、私もいい歳になった。これから、第2の人生を謳歌しようと、心待ちしていた時、私の身に降り掛かった不幸。
『転落死』
老朽化していたベランダの柵。柵を支えていたコンクリートには至るところに亀裂が入り、いつ崩れ落ちてもおかしくない状態だった。分かっていた筈なのに、私は自分の足に引っ掛かり、バランスを崩したまま、勢い良くベランダの柵に手を着く。バキッという音。それはまるでスローモーション。気が付いた時には、落下し始めていた。
(…ああ、これから全国各地を旅行したり、オタクの聖地、秋葉に行って、色々見て回りたかったのに)
頭からの落下、ベランダの下は、コンクリートの駐車場。せめて、車くらいあれば、運良ければ、複雑骨折で何とかなるかもと思ってはいたが。ここは4階のベランダ。
(ああ、そうか。死んじゃうんだ)
今までの思い出が、走馬灯のように駆け巡る。現在から、過去までの映像が流れ、最後に脳裏を掠めたのは、やっぱり『ラブライブ』『アズールレーン』だった。眼前に迫るコンクリートの地面。そして、意識はそこで途切れた。
真っ暗な場所を漂う。今、自分が上を向いているのか、下を向いているのか、目蓋が開いているのか。夢の中なのかさえ分からない。音もなく、自分の呼吸さえも聞こえない。
(…肉体がないんだから、呼吸も必要ないわな)
一人でツッコミ。誰もいない空間、虚しい時間だけが過ぎる。心臓なんて無いのに、ドクドクと脈を打つ音が聞こえそうだ。じわじわと襲う恐怖感。無性に叫びたくなり、声を出してみる。
(やっぱ、ダメか。死んでるんだから、声帯も無いよねぇ…)
(どのくらい、時間経ったのかな?……数分しか経ってなかったりして)
真っ暗な空間を、ただ見つめる。無音。何もない空間。
(……死後の世界って、こんな何もない空間なのかな?って、死んだ人から聞けないから、空想の世界を描くんだよね)
なんて、考えている私。
『もしも~し』
真っ暗な空間に響く声。その声は、今の雰囲気に似つかわしくない程、明るい。私は、その声の正体を捜す。しかし、なかなか見つからない。
『僕を捜しても見つからないよ』
私を嘲笑う声。私は、無性にイライラした。
『いゃ~、面白かった。君の死に方。まるで、コントを観ているようだったよ。もう少し痩せてたら、結果が変わってたかもね』
その言葉に、悔しくて、堪らなかった。でも、事実。運動嫌いの私。仕事する以外は、基本引きこもりで、家族以外の人達と、なるべく避けるような休日を過ごしていた。太るのは必然。ぐうの音も出ない。
『そこで、朗報で~す。君は、別の世界に転生出来る権利を得ました』
(……転生)
『はい、君が希望する世界。異世界へ、転生させます。要望ありますか?』
(……ちょっと待って。あなた、何者?)
『僕は、死者と異世界を繋ぐ、転生案内人です。死者のご要望を聞き、その世界へ案内するのが、僕の仕事です。ちなみに、誰でも異世界転生、出来る訳ではありませんよ』
(…それって、どういう事?)
『異世界転生の権利は、前世に、強い未練。後悔を抱えて死んだ者のみです』
そう言われて、私はハッとした。死ぬ直前、脳裏を掠めた記憶。
『…なるほど、君の望む異世界ですね』
(…っえ!?どうして分かったの?)
私の問いに、楽しそうに笑う転生案内人。
『魂だけだとね。遮るモノが無いんだよ。考えている事、思っている事、全て伝わる。水面に雫が落ち、波紋が広がるように、ね。生きてる間は、肉体が遮ってるから』
(…本当に、望めば行けるの?その世界に)
『勿論、君が望むのならね』
私は、無言で望んだ。次いでに、転生後の肉体の要望やら、能力やらダメ元で。
『確かに、ご要望承りました。それでは、異世界へ、行ってらっしゃい』
(…っえ!?嘘、本当に~!?まだ聞きたい事が)
真っ暗で、何も見えない筈なのに、黒い渦が現れ、私はその中心に吸い込まれる。そして、意識が途切れた。
生暖かい風が、頬を撫でる。鼻腔を擽る、海の匂いと波の音。身体全体から感じる陽射しの暑さ。光の強さで、目蓋が開けられない。手元を探ると、サラサラとした感触。どうやら、砂浜らしい。現に、幾つもの波が太もも周りまで上がって来ていたから。遠くから、ザクザクと歩く足音が、複数聞こえてきた。その音は、次第に私に近付いてくる。そして、私のすぐ側で、足音が止まった。
「黒澤隊長」
「…確かに、不知火の報告通りですわね」
「生きているのでしょうか?」
そう言って、影が私の顔に重なり、強い陽射しを遮る。そのお陰で、ようやく目蓋を開ける私。人影が、ざわつき、一歩後退した。表情が見えなくても分かる警戒心。私に少しだけ近付き。
「…貴方、何者ですの?」
私の目の前に佇む女性。少しずつ、陽射しになれた視界に、一人の女性が映る。長い黒髪を、海風で揺らし、緑の瞳と特徴的な口元のホクロ。真っ白な海軍服を着た、その女性に、私の思考は、一瞬にして停止した。
「聞こえていらっしゃるの?」
呆けた私を、怪訝な表情で見つめる女性。私は、混乱したまま、とりあえず身体を起こした。そして、もう一度、女性をガン見する。
(…黒澤ダイヤだと!?…マジもんか!?)
「何も反応無いですわね」
ダイヤちゃんの言葉に、私は再び思考が停止した。とりあえず、自分の顔を軽く触って、笑顔を作ってみた。ところが、頬が動いた気配がない。
(もしかして、表情筋死んでる?)
私は、茫然と自分の手の平を見つめた。手が大きい。自分の顔は見えないのは、当然なので、とりあえず、身体の見える範囲を観察した。元は、白のYシャツであろう衣服を身に纏い。少し加工されたジーンズを穿いている。靴は履いていない。おもむろに、身体を撫で回した。
(…胸が…なぃ…)
胸に当てていた手を、股間に触れさせた。手と下半身に、感触と刺激が走る。
(こ…これは!?)
そう、それは男の象徴。私は、男になっている。一瞬、思考が止まり掛けた。しかし、徐々に私の気持ちは、高揚し始める。足元の波を掬う。両手から溢れ落ちる海水。私は、ダイヤちゃん以外の存在がいる事に気付かず、何度も海水を掬った。
(…ダメだぁ、上手く顔が映らない。鏡が欲しいなぁ)
落胆。溜め息を一つ。
「怪しい。彼を確保しなさい!」
「はい!」
その言葉に、私の声は出なかった。気が付けば、暑く焼けた砂浜に、俯せで拘束され、取り押さえられている。私は、ようやく周りを見た。ダイヤちゃん以外に、そこにいたのは、Z23とジャベリン、土佐と伊勢の四人。
(嘘、マジで!?)
心の中では、驚いている。しかし、表情筋はやっぱり死んでるようで、ピクリともしない。
「立て!」
胸ぐらを掴み、土佐が強く私を引っ張る。私は、反射的に立ち上がろうとしたが、体勢が悪く、両手は、しっかりと後ろに縛られていて、立ちたくても立てない。
「土佐、少し手を緩めてやれ、それじゃ立てないぜ」
私を睨みながら、伊勢がそう言った。土佐が、掴んでいた手を緩める。五人から緊張が走り、空気が張りつめていた。片膝を立て、何とか立ち上がると、私の目の前に見え、胸ぐらを掴んでいた土佐の手が、下にある。何より、土佐の顔の位置が、私の目線より低い。一瞬、土佐が動揺したのが分かった。
「…この人、物凄く大きいです」
ジャベリンが言う。私も、同意見だった。目線の高さが明らかに高い。元の私の身長が低かったから、余計にそう感じる。多分、180は軽く超えているであろう。
「…そんな…事は…ぃ、良いから」
かなり動揺している土佐。
(土佐、可愛いわぁ)
心の中で萌える。土佐の膨れっ面が見れた。土佐は、私の視線に気付くと、何故か顔を真っ赤にし、私を睨み付ける。
「…見るんじゃない!!」
そう言って、私の背後に移動する。その行動に、私は疑問を感じた。
『もしも~し、聞こえますか~?』
突然、私の頭の中から、真っ暗な空間で聞いた、あの声が聞こえた。私は、周囲を見渡す。その私の行動が、ダイヤちゃん達に、不信感を募らせる結果に。
「…まさか、貴方、セイレーンのスパイですの?」
その言葉で、殺気を放つ伊勢。手には、すでに薙刀が握られていた。私は、否定しようとしたが、やはり声は出ない。
(どうして、声が出ないの?)
『…あら~、まだ肉体に馴染んでないんだね』
心の問いに、そう答える声。私は、再び周囲を見渡す。
『残念だけど、僕は見えないよ。それから、僕の声は、君にしか聞こえないから』
(どういう事?)
『君の頭の中に、直接話してるから。所謂、テレパシーだね』
私は、何故かその言葉に、納得してしまった。声の主は、転生案内人だからだ。
「……っ」
後ろに縛られた手に痛みが生じる。土佐が、私の親指を折ろうとしていた。必死に首を横に振る。声は出ないが、口をパクパクと動かす。それを見て、伊勢が目で土佐に合図する。力を緩める土佐。
「…お前、喋れないのか?」
小さく私は頷いた。後ろにいた土佐が、私の横から顔を出し、私の目を、じっと見つめる。
(…ちょ…可愛いんだけど)
『もしも~し、僕の事忘れてない?って、良いけどね』
私は、心の中で悶えた。真横にいる土佐は、警戒心剥き出しなのに、どこか構って欲しそうな目をしていたから。小さく唸る土佐。
「黒澤隊長、どうしますか?」
Z23が言う。ダイヤちゃんは、私を睨みながら。
「…そうですわね。司令官の所に連れていきましょう。この者の処遇を決めてもらわないと」
ダイヤちゃんの話振りからして、どうやら、私は捕虜という事になりそうだ。実際、セイレーンのスパイとして疑われている。
数分後。私は、素足のまま、ダイヤちゃんの後ろを歩いていた。私の左右に、ジャベリンとZ23。私の後ろを土佐と伊勢が、逃げ出さないように見張っている。私達が歩いているのは、あの場所だった。『アズールレーン』のメイン通り。その大通りを、司令官のいる建物へ向かう。その間、私の視界に『嫁達』が『私に』警戒心を見せながら、通りすぎていく。
(こうも警戒されると、傷付くなぁ)
長い時間、愛を育んできた嫁達の態度に、私は悲しくなった。そんな事を考えているうちに、司令室にたどり着く。ダイヤちゃんが、扉をノック。
「司令、私です」
「…入って」
部屋の中から返事が。
(…あれ?どこかで聞いた事が)
私の脳裏に、一瞬、ある人が浮かんだ。それは。
「失礼します」
ダイヤちゃんが、部屋に入り、土佐が私の身体を押す。ちょっと強目に押され、私は前のめりに部屋に入った。
「絢瀬司令、この者です」
土佐の言葉に、私は顔を上げた。ダイヤちゃんと同じ海軍服を身に纏い。金色の長髪をシュシュで束ね、海のような真っ青な瞳。その人物は、あの音ノ木坂学院の生徒会長『絢瀬絵里』。その人だった。
いや、楽しいわぁ!自分がね!