私は、真っ暗な空間を漂っていた。
(…あれ?ここは)
そこは、転生する前にいた、真っ暗な世界。
(…んん?)
周囲を見渡しても、やっぱり真っ暗なまま。私は、茫然自失。
(…転生一週間で死んだとか。早くね?)
『あはは、残念!死んでませんよ』
陽気な声。転生案内人だった。やっぱり、姿は見えず。ただ、今回は何故か白い発光体が浮遊している。
(…何これ?)
『ああ、彼は。君の身体の元持ち主だよ』
(…はい?…)
転生案内人の言葉に、一瞬、思考が停止した。しかも。
『…初めまして』
なんと、その持ち主が言葉を発し、さらに停止した。
『もしもし?大丈夫かな?』
(…んん?ちょっと、待って。今声が)
『ああ、ちゃんとお話出来ますよ?びっくりさせちゃいましたね。あはは』
転生案内人と同じように、陽気な声で、身体の元持ち主が言う。
(びっくりしましたよ~!…じゃないわ!?一体、何がどうなってるの!?)
プチパニック状態の私。
『落ち着いて。ちゃんと、説明するからさ』
『一度、深呼吸してみたら、どうですか?』
二人同時に言われ、私の混乱は、何故かすぐに落ち着いた。
(…んじゃ、説明してもらうか)
『…すんごい、変わり身の速さ』
『いゃ…、むしろ有り難いと思いますけど?』
私の態度の変わり身の速さに、二人は圧倒されている。そして、二人から説明を受ける事。小一時間くらい。その内容を、分かりやすくすると。能力を使った私の身体は、能力を使う際、生命エネルギーと呼ばれる力が放出されるのだが。その放出される生命エネルギーの量に耐えきれず、オーバーヒートしたそうだ。つまり、あの激痛は、生命エネルギーが身体を破壊しているという事。ただ、本来、その生命エネルギーは定期的に排出されるようになっている筈だった。ところが、排出出来ない状態が起こっている。それが。
『僕が、貴女から離れられなくなったのが、原因なんだけど』
『もしかしたら、その原因が君じゃないかって』
(…はぁ、そんな事言われても、私何もしてないし。ってか、持ち主君に、未練があるとかじゃないの?)
『…いや、僕は特に未練はないよ』
(未練がないって。見た目若いでしょ。持ち主君、幾つよ)
『21かな』
年齢を聞いて、私は愕然。
(若!?私の三分の一しか生きてないやん!?それで、未練ないとか)
『…僕。元々、心臓の病気で身体弱かったんで。でも、色々楽しい事しましたよ?』
(でもさぁ)
『まぁ、そうですね。次産まれ変わる時は、丈夫な身体が良いなとは思いますけどね。あはは』
(…君、とても良い子だね)
何故か、母親の気分になってしまった。
『とりあえず、話を元に戻すけど。原因は、やっぱり君にあると思うんだよね』
(私に原因かぁ…、う~ん。もしかしたら、憑かれやすい体質が関係してるのかな?)
『…憑かれやすい体質、ですか』
(う…ん、前世の時。よく色々憑かれてた。除霊とか、お祓いしたけど。相性の良いのは、同化してたみたい。霊媒師の人が、そんな事言ってた。まぁ、悪さするような奴らじゃないから、そのままにしてたし)
『…成る程、それが原因かも知れないね』
『だとすると。僕、このままなんですかね?』
『今はちょっと、何とも言えないかな。とりあえず、今は我慢して』
『…分かりました。方法が見つかるまで大人しくしときます』
(私は、どうすれば良いかな?)
『何が?』
(何が?じゃねぇよ…。今、私ってどういう状況?死んでる訳じゃないんでしょ?)
『ああ、もう少しで、意識が覚醒する筈だよ』
(…いや、それは何となく分かってるけど。そうじゃなくて、生命エネルギーの排出方法)
『えっとね、簡潔に言うと。射精すれば、生命エネルギー排出は出来るよ』
転生案内人の発言に、私の目は点になる。
『本来、能力を使った際に、ある程度生命エネルギーの排出は、出来るんだけど。持ち主君が、身体に残っている状態だと、二人の生命エネルギーが共鳴し合って、倍の量を放出してる事になってるんだよね』
(…それで?何故、射精よ…)
『今、君の身体は男性でしょ?生命エネルギーってさ』
その言葉に、納得した私。
(…ああ…つまり、沢山自慰行為しないといけないのか…)
大きく溜め息をつく私。
『もっと、効率の良い方法があるよ』
(…それって、もしかして)
『そう、沢山エッチすれば良いんだよ』
楽しそうな声で、転生案内人が言う。私は、から笑いするしかなかった。そして、少しずつ、意識が遠退く。
目蓋を開けると、地下牢のベッドに、寝ていた。周囲を見渡す。
(…今、何時なんだろう)
投入口から射し込む明かり。薄暗い部屋の天井を、無言で見つめる。部屋に誰かが近付いて来ていた。ゆっくりと、扉の鍵が開けられ、入ってくる。私は、視線を向けた。廊下の灯りが、逆光になり、表情が分からないが、私はその人物が誰なのか、すぐに分かった。
「…良かった。目を覚ましたのですね」
ほっと胸を撫で下ろす様に、天城が言う。私は、身体を起こし、ベッドに腰掛けた。
「あれから、何時間経ってるんだ?」
「……倉本さんが倒れてから、十日経ちました」
(そっか、そんなに経過してたんだ)
私は『時間の流れが違うのだと』ようやく理解する。気が付けば、天城は私の横に座っていた。私の横に座っている天城は、いつもの着物ではなく、薄い素材の着物。恐らく就寝用の物だ。私が、天城を横目で見ていると、天城が私の身体に抱き着く。ふわりと香る天城の匂いが、鼻腔を擽る。
(うぉ~、どうしよう!?天城良い匂い。しかも、柔らかい)
私の胸板に、天城の乳房が押し付けられている。柔らかさと程好い弾力。私の腕は、天城の後ろで抱き締めようか。やっぱり止めようかと、葛藤している。勿論、すでに分身は勃起。準備万端だ。
「……心配してたんです」
耳元で囁かれる天城の声。その声は、少し震えていた。私の煩悩が薄らぐ。
「…このままずっと…、目を覚まさないのではないかと」
そう言って、私を見つめる天城。目元は、涙で潤んでいた。天城の顔がめちゃくちゃ近い。私の心臓が高鳴った。
「……えっと…、心配掛けた」
天城は無言で私を見つめている。
(何!?これ、どういう状況!?)
頭の中が混乱している。恥ずかしくて、天城を直視出来ない。そんな私の心を読んでいるのか、私から身体を離し、天城はクスクスと笑う。その笑みは、あまりにも綺麗だった。
「倉本さん」
「……」
「倉本さんは、私の事。好きですよね?それも、初めて逢った時から」
(…あぁ…、やっぱりバレるよねぇ)
「…どうして、そう思う?」
私は、つまらない質問をする。天城は微笑み。
「さぁ?どうしてでしょう?」
問いに、問いで返された。どうやら、天城には『私の気持ち』はお見通しのようだ。私は溜め息を一つし、頭を掻きながら、天城から視線を反らした。
「…えっとまぁ、そうだな……好き…かな」
「倉本さん。ちゃんと私の目を見て、言って欲しいですわ」
その言葉に、私の心臓が脈打つ。チラリと視線を向けると、天城はずっと微笑んでいる。頬をピンクに染めて。ふと、私は思った。
(…そう言えば、転生案内人が言ってたな。最低限、私に都合良くされてるって。天城のこの反応もそうなのかな?)
そう思うと、少し悲しくなった。何故なら、それは天城の本心じゃないという事だから。私が、前世で好きになった天城。正妻の地位は揺るぎないもの。本当なら、絶対に逢う事なんて出来ない。ましてや、触れる事なんて、夢のまた夢。でも今、私の目の前にいる天城は、確かに存在している。だけど…。
(天城の本心を知りたい)
「倉本さん?どうされました?」
無言で見つめている私を、不思議に思ったのか。天城は首を傾げながら、問う。
「……天城は、俺の事どう思う?」
真剣に見つめる私を、天城はゆっくりと目蓋を閉じ、数秒後、再び開けた。
「そうですね。最初は、警戒していました。素性が分からなかったというのもありますが。セイレーンのスパイかも知れない。と」
真剣な眼差し。
「…でも、数日。貴方を観察し、文字を介して、会話をしてみて感じたんです。倉本さんは優しい人だと」
天城の手が、私の手に触れる。微笑む天城。
「それに、エンタープライズさん達を助ける姿を見たあの時。確信したんです。倉本さんに心惹かれている自分がいる事に」
(…天城の言葉、嬉しい。けど…、その気持ちは偽り。天城の本心じゃないんだよ。やっぱり、私の都合なんだ)
「…そっか、うん」
私は、そっと天城の手から、自分の手を引いた。急に、天城の表情が曇る。
「倉本さん、私の気持ち。本当に分かっていますか?」
「…ごめん、今は一人になりたい」
視線を外し、私は天城に背を向け、ベッドに横になる。無言の二人。しばらくして、天城が私の身体に馬乗りになった。急な事に、私は目を見開く。天城の着物は、少しだけ崩れ、色白の長い足が見えている。
「ちょ…と、天城?」
「フフ…。どうやら、私の気持ちを分かってもらうには、態度で示さないといけないようですね?」
黒いオーラを纏い、そう言う天城。変な汗が、私の背中に滲む。天城の細く長い指が、私の唇をなぞる。ゾクゾクとした感覚が、全身を駆け抜けた。身体を起こそうと動く私。でも、天城はそれを許さず、体重を掛けながら、私の両肩に手を置く。
「…あ…天城、何…を」
「そんな事。私に言わせますか?」
妖艶な微笑みで、天城の顔が近付いてくる。徐々に近付いてくる天城の顔。私の視線は、天城の唇に注がれている。目蓋をゆっくりと閉じながら、天城の唇が私の唇と重なった。ビクッと、身体を硬直させる私。温かく、柔らかな感触。私の頬に、天城の長い髪が触れ、私の理性は揺らぐ。私の唇を天城の舌が這い、唇の間をスルリと入った。
「…んん!?」
私の舌が、天城の舌に絡め取られる。咄嗟に、天城の肩を掴んだ。動揺している私を余所に、天城は身体に体重を乗せ、私の上に覆い被さる。私は成すがままで、天城は私とのキスを堪能していた。ゆっくりと唇が離れ、二人の間に、唾液が糸を引いている。
「はぁ…」
恍惚とした表情の天城。一方、私は呆然と天城を見つめる。天城の指が、私の首筋を撫で下ろす。再び、私の身体がビクッと反応。
「倉本さん。名前で呼んでも宜しいでしょうか?」
言いながら、天城の指は首筋を何度もなぞり、もう一方の手が肩に置かれた。
「…えっと、天城」
「ダメですか?」
囁くように、天城が言う。
「……どっちでも」
私の答えに、天城が微笑む。私の耳元に唇を寄せ。
「フフ、千尋さん。私の気持ち、伝わりました?」
天城の行動に私は圧倒されている。混乱している思考で、頷くだけ。満足そうな天城は、私の唇を再び指でなぞり、唇を近付けてくる。あと少しで触れる直前、私は天城の唇を手で止めた。不満そうな天城。天城が私の上に覆い被さっているまま、私は身体を起こし、視線を部屋の扉に向けた。天城も視線を同じように向ける。
「……」
「…綾波レイ」
私は呟く。天城が瞬時に、私を見る。部屋の扉付近には、エヴァンゲリオン零号機パイロット、綾波レイがいた。
「どうして、千尋さんが彼女の名を?」
(…っあ!?しまった!?)
天城の問いに、私は硬直する。天城は、私をじっと見ていたが、レイに視線を向けた。
「綾波さん、どうしてこの基地に?ネルフ基地の方にいる筈では?」
天城が、私の上に乗ったまま問う。
「…碇司令の命令で、彼を調べるように言われたから」
そう言って、私を見つめるレイ。
「…もしかしてこの間、投入口から見てたの。綾波か?」
私の問いに、無言で頷くレイ。それを聞いた天城の表情が、変化する。
「千尋さん、彼女とどういう関係ですか?」
感情が天城の瞳に映る。
(…天城、もしかして嫉妬してる?)
「特に関係はない。私は、ただ彼を監視していただけ」
レイの言葉に、天城は『本当に?』と、視線で問う。レイはそれに無言で頷いた。
「…そうですか。それなら良いのですが。もし、そうじゃないなら、私。何するか分かりませんからね?」
そう言って微笑む天城。
(…怖!?もしかして、天城って。ヤンデレか?赤城じゃあるまいし…。でも、赤城の姉だからなぁ。その要素は無きにしもあらず…かも)
天城の新たな面を知って、私は困惑する。それでも、私の中で、天城は『不動の正妻』なのだ。
「…明日、絢瀬司令と話をするから」
「どうしてでしょう?」
「彼を、ネルフ基地に連れて行く為」
「…何故ですか?」
天城の問いに、レイは小さく首を横に振る。
「…理由は言えない事になってるから」
レイはそれだけ言うと、部屋を出ていった。再び、二人きりになる。気まずい雰囲気。頭を下げ、天城の表情は窺えない。ただ、何やらブツブツと言っている。
(…よく分からないけど。私、ネルフ基地に行く事になったってことだよね…。ってか、エヴァの世界まで絡んでんの?…)
プチパニックの私。
(…これ、絶対にまだ何か出てくるパターンだわ)
そう思った私だった。
次回は、あのメンバー達が!さらに、幾つか疑問がありますね…。それは、追々開示、回収していきます。