今回はだいたい紅玉~銅ぐらい想定です。
「なんて言うか、色々酷い事件だったわね……」
自宅の椅子に腰かけ、机に突っ伏した女魔術師は疲れたように呟く。行儀が悪いのは百も承知だが、そうせずにはいらないほど身体と心が重い。
彼と一緒にちょっとした買い物へ出かけた。ただそれだけのはずだったのだが、気まぐれで小物を売る店に入ったのが悪かった。
狭い店内には店員の姿はなく、声をかけても誰も出てこず。暫く待っても人が現れぬ事に不信を抱いた彼に従い、店の奥へ入ると―――――
そこには、女性の死体が横たわっていた。
当然速やかに通報し、調べは官憲に任せた。
その後の調べで被害者は店の主の妻であることと、素手で首を絞められ殺されたこと。そして手の大きさから男に絞殺されている事が判明した。
後は見つけた時の様子を供述し、それで終わるはずだったのだが……第一発見者であることと、男である事から彼が疑われたのだ。
憤慨した女魔術師は費用を惜しまずあらゆる伝手を使い情報を集め、それを基に彼と推理を行い真相に辿りついたのだが……
「その……する時に趣味で首を絞めて、やりすぎて死んじゃったって……」
犯人は、女性と密通していた近所の男だった。
男はこの推理を聞かされると全てを認めて、大人しく自首をした。
これで彼の疑いは晴れ、無事に事件は解決した。しかし何とも言えぬ真相に怒りも萎えるほどの疲労を感じ、女魔術師はこうして机に突っ伏している。
彼にお礼を言われ労ってもらえるのは申し分ない報酬ではあるが、それをもってしても女魔術師の心は晴れない。
と言うのも―――――
「……最中に首を絞めたり、身体叩いたり、縄で縛ったりって……」
そういう趣味があると聞いた事はある。だが実際にその存在を目の当たりにすると、やはり驚きと困惑が大きい。
女魔術師とて彼と交わるのは大いに好むところではあるのだが、そのような行為は考えた事もない。
また、彼もそんな行為を求めて来た事はない。そもそもそんな趣味があるということ自体知らなかったようだ。
この殺人はそういった趣味によるものではないか。その可能性に気付いたのは女魔術師であり、彼はその可能性の存在すら気付かなかったのだから。
「痛いし苦しいだけよね?」
女魔術師の問いかけに、彼は深く頷く。そう、どう考えてもそれが快感に繋がるとは思えない。
冒険者として様々な祈らぬ者と戦う中で、首を絞められるとか殴られるという経験には事欠かなかった。
だがそれられによって感じたのは、痛みと死に繋がる恐怖だけだ。
(彼にされれば違うのかしら)
ふとそんな考えが頭をよぎる。彼に首を絞められ、叩かれ、縄で縛られる。そうされたら快感が生じるのだろうか。
ちょっと想像してみるが、どうにもそれが気持ちいいとは思えない。だが実際にやってみたらまた違うのだろうかとも思ってしまう。
そんな事を考えていると、彼が女魔術師の顔を覗き込んでくる。
顔が近い事に―――――数え切れないほど直接触れてきたというのに、何故かそれに恥ずかしさと照れを感じてしまう女魔術師は慌てて身体を起こす。
恥ずかしさに頬を赤らめた女魔術師に対し、彼は一言「試してみたいのか?」と。出会った頃と変わらぬ落ちついた声音で、とんでもない言葉を投げかけてきた。
一瞬言葉の意味が理解できず、キョトンとする女魔術師。だが理解が追いつくと耳まで赤くなり、けれど内心を正確に言い当てられた恥ずかしさから二の句が次げなくなってしまう。
そう。自分は確かに「彼となら試してみたい」と考えていたのだ。彼と一緒に気持ち良くなれるかもしれない。なら試してみたいと、女魔術師は考え始めていた。
そんな気持ちを言い当てられて、女魔術師は羞恥で動けなくなってしまう。その様子は彼に対する無言の返事となった。
―――――――
人が望んでいる事をしてやり、喜ばせてやりたい。人の期待に応えたい。人の為に動きたい。彼の基本的な行動原理を述べるなら、こういう事になる。
女魔術師はそんな彼の人となりを好ましく思っているし、そんな人柄を愛している。だが、こういう時もそれが発揮されるのは良いか悪いか判別がつかない。
「……い、嫌じゃないわよ?ただその、凄く変態的な事に手を出しちゃった気がして……」
互いに生まれたままの姿になり、ベッドで向き合いながら女魔術師はごにょごにょと呟く。
女魔術師の望みを理解した彼はそれに応じ、彼が自分の好奇心を受け入れてくれる事が嬉しくなった女魔術師は素直に内心を打ち明け。
その結果、これから被虐性交を試す運びになったのだ。
経緯そのものは嬉しくはあるし、どんなものか試す期待もあるのだけれど。何やら踏み込んではいけない一線を越えてしまったような気もしてならない。
彼に言った通り嫌ではないのだが、自分が変態に近付いたようで酷く恥ずかしいのだ。
「んっ……」
そんな女魔術師の顎にそっと手を当てて上を向かせると、彼が唇を奪ってくる。何度しても、何度されても彼との接吻はたまらなく甘美で胸が高鳴る。
唇を重ねると、どちらからともなく舌を伸ばし絡め合う。
「んちゅっ、れろっ、ぴちゃっ……んむっ、むぅ……」
蛞蝓の交尾のように執拗に絡ませ、唾液を交換し合う。徐々に激しさを増すそれは唇を離す事なく続けられ、次第に息苦しくなってくる。
だが彼との、愛しい男との口付けによって生じる苦しさはむしろ心地よく。離すどころか女魔術師は彼の首に、彼は女魔術師の背中に腕を回すと抱き合いより密着していく。
豊かに実った双丘が彼の逞しい胸板に当たる。ぐにゅりと女魔術師自慢の豊乳が形を変えて、その刺激が快感となり脳内に伝わって来る。
胸の先端に鎮座する乳頭は痛いぐらいに尖りきり、彼の胸板にも負けぬほど硬くなる。コリコリとしたそれを彼に擦り付けながら、女魔術師は無我夢中で彼との口交に没頭する。
少し意識が薄くなるほどに続けていると、彼が女魔術師を制し唇を離す。まだ口だけだと言うのに女魔術師の瞳は潤み、顔は蕩け切っている。
身体の方も《
本来女の身体が男を、逸物を受け入れられるようになるにはもっと手間のかかるものらしい。しかし女魔術師は初めて彼と結ばれた時からずっとこうだ。
自分がおかしいのかと思った事もある。だが、考えて見ればこれが、こちらのほうが正しいと言い切れる。
身も心も欲している男と交わるのに、手間暇のかかる準備が必要なのがおかしいのだ。
「来て……」
ベッドに寝そべり、両足を広げ秘所を彼の眼に晒す。指で秘裂をくぱぁと開き、雄を求め涎を垂らす陰唇を見せつける。
この上ない羞恥ではあるのだが、彼に対し自分がどれだけ彼の事を求めているのかを見せれるこの行為を女魔術師は密かに気にいっていた。
「んっ、ふぅぅぅうっ、はぁぁぁ……」
割れ目に熱く硬いモノが押し付けられ、女魔術師の膣内に灼熱の侵入者がやって来る。
彼の雄根を入れる鞘の如く、その形に作り替えられた膣はすんなりと最奥までの侵入を許し。しかし出る事は許さぬとばかりに彼の剛竿に媚肉を纏わりつかせ、蠢いて離さない。
今や女魔術師の膣壁は彼の逸物の形どころか、浮き出た血管の一本一本さえも感じ取れる。それほどに鋭敏で、身も心も捧げた雄の為の形に変化していた。
熱く、硬く、大きく。自分の中を全て充たす彼の肉棒。動かずとも入っているだけでたまらなく気持ち良く、気を抜くと絶頂してしまいそうになる。
いつもならばここから激しく腰をぶつけあい、ケダモノとなって激しく互いを貪り合う所だが今日は違う。それは目的ではない。
彼の瞳を見つめながら、女魔術師はこくり、と頷く。それを合図に彼のゴツゴツとした手が、数多の傷跡が残る強く勇ましい両手が彼女を喉へと伸ばされる。
「ぅぐっ……」
優しく喉にかけられた手が、そっと彼女の気道を圧迫してくる。呼吸は出来るが息苦しさを覚え呻き声を上げ、女魔術師は身悶える。
(苦しい……苦しいだけ、ね……)
被虐の悦びは感じられない。彼の眼にも可虐の悦びはない。ならもう止めていいのではないか。
そう考えた矢先、女魔術師は自分の心中に全く予想しなかったモノを見つける。それは一気に燃え広がり、彼女の思考を焼いていく。
(今、私……彼に、命を握られているんだわ……)
もしも彼が力を強めたら。本気で首を絞めて来たら。間違いなく窒息し、絞殺されてしまう。
いや、その前に彼が本気で殺す気ならば首の骨を折られるだろう。
自分はもう彼の女、彼の雌だという自覚はある。身も心も彼に染められた。だが、命に関してはそう考える事はなかった。
だが今は、最後に残ったそれを。自分の生死すらも彼に支配されている。真の意味で、彼に全てを捧げている。
被虐とはまた違う、言うなれば支配される悦び。それが女魔術師の全身を貫き―――――
「……ふっ、あぁぁっ!」
彼女は全身を大きく痙攣させ、深い絶頂に達した。
官能が全身で弾け、続け様に二度三度と絶頂する。あまりの気持ち良さに口を開き、舌を突き出していたためだろう。彼が慌てた様子で手を離す。
心配そうな顔を見せる彼に、女魔術師は微笑みながら心配ないと告げる。そして快感に震える腕を彼の背中に、力の入らぬ足を何とか彼の腰へと巻き付けると耳元で囁く。
「後で、話すから……」
そう、話は後だ。燃え広がった想いは理性を焼き、情欲と一体化した。それはもう女魔術師の全身へと伝播してしまっている。
つまりは、だ。
「私を、滅茶苦茶にして……」
もう我慢できないということだ。
女魔術師の求めに応じ、彼が唇を奪い腰を使い出す。女魔術師も舌を、腕を、脚を彼に絡めて一つの肉塊であるかのように密着し、それに応える。
そこにいるのは既に冒険者などではなく、お互いを求めてやまない一匹の雄と一匹の雌に過ぎなかった。
―――――――
いつものように、いつもよりも激しく。二人は寝台が軋むほどに激しく、長く、情熱的に交わった。
そうして精も根も尽き果てた後、女魔術師は彼の腕を枕にし、肩を抱かれながら余韻に浸る。
快感に痺れた身体と頭が休まるまでのこの時間は、蜂蜜のように甘く蕩けるようなひとときだ。
「……ううん、首を絞められるのは苦しいだけだったわ」
彼の言葉に女魔術師は首を横に振る。そう、それ自体は苦しいだけだった。
「でも、貴方に命を握られてるんだって、全部支配されてるんだって思ったら、なんだか……凄く、ゾクゾクしちゃって……」
あるいはそれが自分の性癖なのかもしれない。愛する男に全てを支配されること。これも一種の被虐快楽なのだろうか。
そんな女魔術師の様子を見ていた彼が、何かを思いついたように小さく「そうだ」と呟く。そして事もなげにこう言い放った。
『そういうのがいいなら、首輪でも着けて見るか?』と。
首輪。犬猫が着けるアレ。それを認識票の代わりに首に巻き、鎖をリードにして彼がそれを持つ。彼に飼われる一匹の雌となって、身も心も命も尊厳も何もかもが彼のモノに―――――
「……っ!」
その光景を想像しただけで、軽く達してしまう。それはダメだ。もう戻ってこれなくなる予感しかしない。開けてはいけない扉が開いてしまう。
だが、しかし。抗い難い魅力も感じてしまう。それが言い表し難いほどに気持ち良く、愉しいのは間違いない。
彼にリードとなる鎖を引っ張られ、犬猫のように撫でられたら。獣のように首輪をしたまま交わったら。どれほど気持ちいいだろうか。
凄まじい葛藤に苛まれる女魔術師。その様子を見た彼は「嫌ならやめよう」と言ってくるが、女魔術師は「嫌ではない」と必死に否定する。
ダメだとは思う。だが、可能性を消してしまうのは絶対に嫌だと思う程度には惹かれている。どうするべきか。
「……き、機会と言うか、興味が湧いたら!私がしてみたくなったら、しましょ!」
とりあえずは保留。そう大声で告げると、彼は黙って頷いた。
(や、やっぱり変態すぎるものね!首輪とか!でも、好奇心が湧いちゃうといけないから可能性だけは残しておくべきよね!)
そんな風に胸中で言い訳を並べ立てる女魔術師。そんな彼女を様子を見て、彼はほんの少しだけ苦笑していた。
彼女は時折、欲しいものを欲しいと言わず意地や見栄を張る。だが張り続ける事は出来ず、そのうち諦めて恥ずかしそうに素直になる。
どうせ今回もそうなるのは間違いない。彼はそう確信していた。
そして彼は、彼女のそんなところも心から愛していた。
彼らの拠点から遠く離れた街で。
やたら人目を気にする女魔術師と、何時ものように落ち着いた様子の彼が二人並んで首輪を物色するのは。
それからほんのひと月ほど後の事だった。
知的で強気な顔立ちと性格のムッツリはM傾向があって首輪されるのが大好き。
プラトンもそう言っていた。アリストテレスかもしれない。