ドクターは本当は戦闘狂だし強いとこを見せる回です
流血描写あり
時刻は夜明けまで僅かと言った頃、ドクターの指揮のもとロドス・アイランドに手を貸すオペレーター達は出陣した。
レユニオン、と言っても大部隊では無かったのが幸いだ。
しかし高台が多く、近接オペレーターを配備させるスペースが少ない立地だったせいでドクターは作戦に参加させるオペレーターの選択に僅かに逡巡する事になったものの、私情で優秀なオペレーターを参加させずにそれで救える者が救えなくなったのでは情けないと、プラマニクスを参加させた。
それにプラマニクスを作戦に参加させた事で、高い防御力を誇る重装兵達の盾を虚弱化させる事ができたおかげで少ないスペースに配備したシルバーアッシュやクーリエの斬撃が敵によく通る様になっていた。
あまりシルバーアッシュと共闘はしたくないだろうプラマニクスだがそれはそれ、として割り切る事はしてくれるし2人を近過ぎる場所には配置しないようにし、クリフハートにも手を貸してもらったのだ。
指揮を出しながらクーリエを途中でマッターホルンと交代させ、図らずとも退いたクーリエを含めたらカランド貿易揃い踏みの戦場となる。
(贅沢な使い方だな……。)「マッターホルン、右手から伐採者の接近を確認した、エクシアで援護はするが上空から怪鳥Mk2の飛来もある。撃ちもらした伐採者と兵士の処理は頼んだぞ。」
指示を出しながらも、自分が配置していくオペレーターの顔触れの豪華さとその手腕に興奮しながら、自分も突撃して戦えたらさぞかし楽しいのだろうな…と言う考えが思考を埋め始めるのをなんとか頭から追い出す。
「シルバーアッシュ。見えてると思うが前方から盾兵が3人接近、だがクリフハートが2人は落とすな、残りを頼むぞ。」
剣戟と、アーツの爆発音に狙撃手達の銃撃の音……そして戦う者達の声にドクターの内で(なぜ自分は混ぜれないのか)と言う衝動が強く襲って、その破壊衝動を抑えようとする程に目眩の様な物に蝕まれるのを誰も知りはしなかった。
衝動に呑まれぬように努めて、冷静に指示を出し続けているのだという事も。
そうしているとリンリン、と耳に聞き慣れた音が入ってきてハッとする。
再び準備の整ったプラマニクスの神授の聖鈴が戦場に似つかわしくない清らかな音色を奏でる。
毎回、戦場に自ら出たくなるような高揚と衝動に蝕まれてもその鈴の音と扱うプラマニクスの姿を見るとその一点に心の奪われ釘付けになり完全に正気へと引き戻される。
医療オペレーターも配置しているので多少目を離しても問題は無かった。
戦場を見渡して敵影を探るもそろそろ打ち止め、と言った様相で今シルバーアッシュやマッターホルン達近接オペレーター達が立ち回っている兵士達が最後なのだろう。
レユニオンの悪あがきにも攻撃を軽く流す近接オペレーター達の攻撃を見ながら、エクシアの「バラージュ!!」と言う掛け声が聞こえると同時にマッターホルンと向き合って居た兵士が崩れ落ちシルバーアッシュと対峙していた2人の兵も1人は彼の剣術の前に崩れ落ち、その後ろから飛んで行ったラップランドの白銀の斬撃によってもう1人が吹き飛んだきり、動く事は無かった。
「ドクター、今日の戦場はちょぉっと物足りなかったよ?折角ノって来たとこで終わっちゃってさ。」
戦場の事後確認のために一応医療キット片手に瓦礫の残る戦地に踏み込んでいるドクターの背中をドンと手にした剣の底で叩いてくるラップランドに「……それは軟弱な敵に言え」と返してたまたま足元にあったレユニオンの頭を足で軽く蹴りながら返す。
こんな姿あまりオペレーター達に見られるのはよろしく無いのだが、ラップランド等の一部のオペレーターの前で取り繕う事はしなかった。
そうすればいつもの様にケラケラ笑いながら「アッハハハ!確かにねぇ!こんなに弱いのに復讐だなんて笑っちゃうよ。」と言って足元のレユニオンの死体を剣先でつつきながら見ていた。
そんなラップランドを背に少し遠くにいた医療オペレーター達に他の戦闘者の負傷の具合を聞けば、ガヴィルもフィリオプシスも「大した重傷者は無し」と返答を寄越してくる。
「仕事が少なかったな。」
なんてそう「残念だったな…」と言う感じで返せば
「それが1番いいんだろうが!」
とドクターはガヴィルに杖で殴られたのだがもう1人の医療オペレーターであるフィリオプシスはそれを無言で見てから空を見上げた。
ラップランドからもガヴィルからも攻撃されるとは……と思いながらフィリオプシスにつられて夜明けが近付く、地平線から差す薄明に照らされる空を見てみたドクターの背後から
「リーダー、早く行かなきゃならないとこがあるんじゃない?」
そんなエクシアの声が聞こえて振り返る。
「ん、あぁ…ここで油を売ってる場合では無かった。」
振り返ったエクシアと目が合うと彼女はある方向を指差しながらドクターを見て苦笑いを浮かべている。
「何があったか知らないけどさ、まぁ……何とかしなよ?」
と背中をポンポンと叩かれてドクターは首を傾げる。
エクシアも自分とプラマニクスの事情を知っているのだろうか?と不思議に思いながらも「とりあえずは」と言ったていで頷けば「アタシも割とリーダーと付き合い長い方だからね?」と笑われたのだった。
エクシアが指差した方にはカランド貿易の面々が居るのだがそこをそろりと通り過ぎようとした時、頭部にドスッと何かが飛来して去っていった。
飛翔物が当たった所を擦りながら振り返ると突撃を終えたテンジンを腕に止まらせたシルバーアッシュがジト…とコチラを見ている。
出陣前に「テンジンが飛んで行くかもしれない」と言っていたが、戦闘後にぶつけに来ることは無いだろう。と内心思いながらもコチラを見るシルバーアッシュ含めた面子が『自業自得だ』と言った目で見てくるのであえて今の事に文句を言って火中に飛び込む事はしたくない、とそのまま歩いて目的の人物の元に向かった。
「……今日は3回も味方に攻撃された。プラマニクスは、無傷か?」
「……………1週間ぶりの会話の第一声がそれですか。えぇ、おかげさまで擦り傷位ですよ。」
カランド貿易の面々より少し離れた瓦礫の上に腰掛けていたプラマニクスの背中に話かければ振り向く事はせずたっぷりと間を空けてからいつもより単調な声色で返事を寄越す。
無視されるよりは余程いい、と歩み寄ろうとすればプラマニクスが立ち上がったので(これは逃げられるのでは)と思ってすっ…とプラマニクスの前に立ち塞がる形になった。
「…………手当てしたいので退いていただけますか?」
「俺がする……話もあるからな。」
と、顔を見上げる事をしないどころか顔すら逸らしているプラマニクスに傷付きながらも元凶は自分だったと思うと胃がキリッと痛んだ。
「いえ、そんなわざわざドクターの手を煩わせるような「俺が、やる。」
それでも尚、理由を付けてドクターを通り過ぎようとしたプラマニクスの腕を軽く掴んで背を曲げると確固たる意志を滲ませながら正面から顔をのぞいた。
「……………………はぁ、どうしてそう突然思い切りがいいんですか貴方は……。」
と、諦めたプラマニクスが肩を落としながらため息を吐くと再び瓦礫に腰かけた。
無言で手のかすり傷の手当をするドクターと、そんなドクターを無言で見ているプラマニクスの沈黙の時間が続く。
「……プラマニクスに謝ろうと思って、困らせて悪かった。」
まるで子供の謝罪のようで、いつもの調子なんだなとプラマニクスは手当するドクターの手元を見ながら思う。
「俺は、何時も自分勝手だと思う……好き勝手言ってその答えを聞くのが……怖くて、相手の話を聞こうとしない……からな。」
わざわざ巻かなくても良さそうな包帯まで巻きながら視線を必死に動かしてどうにか言葉を引き出そうとする。
「自覚、あったんですね。」
「あぁ……それで今こうなってるしな……俺は、プラマニクス……というより」
と一旦区切ってから周囲を見渡してから声のボリュームを潜めてから続ける。
「エンヤ……がほしい。」
あんまりにも拙すぎる言葉だったと我ながら思うが、他に浮かばなかった。
先に謝罪をすべきだっただろうかと思案するより先に今しがた自分が言った言葉の後に握ったままのプラマニクスの手が僅かに震えているのに気付いて(また、やってしまったのか)と一瞬考えた時、
ガラ……、
と自分達の横側から小さく瓦礫の崩れる音がした。
(しまった…!)
その音に先に気付いたのが耳のいいドクターで、同時にその音の発生源がコチラに敵意を持っている事に刹那としてドクターは気付いて瞬時に行動していたのだ。
音に気付くと同時に咄嗟に、プラマニクスの手をひいて自分の後ろに押しやった。
(そこまで強い力では押していないが、エンヤは転けたりして怪我をしてないだろうか。)と言う思いがドクターの心の内で真っ先に浮かんだ感想だった。
同時に双剣隊長と思われる人物が身体を捻りながら捨て身で遠心力任せに振り上げる刃が既に近い位置にあり過ぎて、ぼんやりと(完全には避けられないな)と言うくらいのどこか冷めた気持ちで眺め、本能的に少し避ければ顔の側面に冷たい刃が肉に食い込む感触が下から走ってきて片方の視界が赤く染まり、黒く潰される。
チッ、と自分でも意識していない舌打ちをすると同時に自分の顔を裂いた刃を握っていた方の手を力任せに掴めばバキリっと骨の砕ける音がして、双剣隊長が何やら呻き声の様な悲鳴をあげるのを意に介さず思い切り、腹に力を込めて渾身の力で腹部に風穴を空け穿たんばかりに殴る。
肉と骨、内臓が砕けて混ざる様な手応えを手に感じていると相手の仮面越しにごぼり…と何かを吐き出す様な音がして仮面の下から血が溢れるのを見つつ、次は握った拳でその仮面を被った顔を殴りつけていた。
明らかに異音としか取れない破壊音と、拳に伝わる何かが砕ける感触を察してそのまま握り続けていた相手の手を離せば、そのまま双剣隊長は勢いよく吹っ飛んで地面を1度バウンドしピクリと僅かに動いてから息絶えたのが見て取れた。
これが、プラマニクスの前で起きた僅か数十秒の出来事だった。
「っ、あ、」
突き飛ばされてからの一部始終を見ていたプラマニクスが口を開くより先に早く、ドクターは座り込んだ彼女のその肩を掴んで少し強めの語気で話しかける。
「怪我はないか!?痛かっただろう?手加減はしたつもりなんだが押してしまってすまない、咄嗟の事で…、怖い思いはしてな…いや今したんだったな、大丈夫か?」
と、人が変わったように慌てながらまくし立てる様にプラマニクスに矢継ぎ早に聞くドクターにプラマニクスは、今にも泣き出しそうな顔で頷く。
「あぁ……そうか、そうか………なら良かった…良かった……エンヤが無事で、何よりだ。」
そう言うドクターの顔は不穏な騒ぎを聞き付けて集まったロドスオペレーター達も、プラマニクスも初めて見る一等分かりやすくて場に似つかわしくない笑顔だった。
嬉しさに突き動かされた反射でそのままプラマニクスに抱き着いた顔は、満足そうに頬を綻ばせ子供の様に笑いいつもの凪いだ水面の様な瞳は穏やかに揺れている……そんなドクターの顔は、頬から右目にかけて大きく刃で裂かれていた。
「ド、クター……、」
ドクターの耳に震えるプラマニクスの声が入って来て思わず離れた。
「すまない、無事なのが嬉しくてつい……服や髪は汚れてないか…?」
折角許して貰おうと思っていたのに、血で服や髪の毛を汚したらきっとプラマニクスはまた不機嫌になってしまう…。
アドレナリンが出ているドクターの脳みそではそちらの方にしか思考がいかず顔を斬られた痛みすら感じ取れていなかった。
「えぇ……えぇ……いい、んです…そんなこと……どうだって、だってドクター……」
プラマニクスの目から一筋涙が溢れるのを見てドクターの口から
「っ、やはりどこか痛かったのか?」
とそんな悲壮感を漂わせ慌てた言葉が出てきてもう一度よく、プラマニクスを観察しようとするのだが片目が見えないせいで、最愛たる彼女の状態を酷く確認しづらいせいで少し歯痒く、先程から止めどなく流れ落ちている血で顔の気持ち悪さがさらに腹立たしたを強くする。
そう思っていたら黒く塗りつぶされた視界の方に暖かい何かが触れるのを感じた。
ぬるり、と血を撫でる感触でようやくプラマニクスに頬を撫でられているんだと思い至れば更にドクターがにわかに焦った。
「やめろ、手が汚れるぞ?服だって……血の汚れは取るのに「どうして……私の事しか気にしないんですか!」
片方が暗くなった視界の中でプラマニクスが怒った様な顔をして泣いていた。
ふと気付いて光と景色を映せる瞳で周囲を軽く見れば、シルバーアッシュも苦虫でも噛んだ様な顔をしているし、クリフハートも何故か肩を落として悲しそうな顔をしていた。
エクシアも何か言いたげな顔で見ていて酷く居心地が悪い。
「どうして……と言われても、お前が1番大事だからだ。」
嘘偽りのない、伝えたかった心の底からの本心。
「なんで、今そんな事言うんですか……。」
と泣きながらプラマニクスが胸に顔を埋めてきた。
ドクターはそんなプラマニクスに(どうしてだろう?)と言う感想とどうしたらいいのか分からない気持ちが重なって、優しく汚れていない方の手で頭を撫でるしかなかった。
そんな2人を見かねたシルバーアッシュが怒気を僅かに含ませた足取りで2人に近付きドクターの首根っこ辺りを掴むと「医療オペレーターは手当を」と一声かけるとどうにも動けないままになっていた面々がようやく我に返って慌ただしく動き出し、ドクターがこの事を他人事のように捉える景色の中片方だけの視界でふと見上げた空を見て(あぁ、夜が明けていたのか)と気付いたのだった。