甲板でイチャイチャしている(いつもイチャイチャしている)ドクターとプラマニクスちゃん
プラマニクスと2人甲板に出て座り、地平線を眺めれば日差しと時折吹いてくる風が心地よくドクターはゴロンと大の字に寝転がる。
耳をすませば、心穏やかになるような風の音だけが鼓膜に届く。
「こういう日は、外での休憩にかぎりますね。」
プラマニクスは笑みを浮かべながら、寝転がったドクターの腹部にぽふんと大きな尻尾を乗せると1度だけパタンと腹部を尾の先で撫でた。
「……最高の、瞑想日和だろう?」
「ふふ、えぇそうですね、せっかくの休憩なので今回は取り繕わず全力で休むとします。」
瞑想だとか精神統一だとか何かとそれらしい事を言って昼寝したり休んだりはままやることであったのでドクターにそう言われたプラマニクスがくすくす笑いながら上機嫌そうに耳を動かしている。
ボトルから紅茶をコップに注いで1口飲んでからプラマニクスは横目に寝転がったままのドクターを見て、ちょっと試してみたいことができた。
「ドクター、そのまま動かないでくださいね?濡れると大変なので。」
「ぬれ…?何をする気……………俺はテーブルじゃない。」
「いえいえ、なかなかいいテーブルになってますよ?」
尻尾を退かしてから鍛えられているドクターの腹の上にコップを置いてみれば流石の体幹の鍛え方とバランス感覚と言うべきかコップは呼吸の上下に合わせて動くのみで、必要以上に揺れる様子はまるで見られなかった。
腹部に紅茶の入ったコップを乗せられながらそれを自分から退ける事をしないドクターにこれ幸い、と小ぶりのバスケットから暇潰しに料理をしていたオペレーターからドクターが貰ったマフィンを出し小皿に乗せて置いてみる。
「……面白いのか?エンヤ。」
寝転がりながらプラマニクスの顔を見ているとずっとムフフといった効果音が似合いそうな顔で笑いながらどんどん物を乗せていくもので、ドクターは聞いてみる。
「楽しい、ですね……。こうして貴方と2人で誰にも、何にも邪魔されることもなく……余計な事も考えなくていい時間を穏やかに過ごせるのは。」
「…そ、うか……。」
ドクターはそれだけ言うとまたされるがままになった。
プラマニクスから見てドクターの表情はまるで変わらないままだったが、ドクターはプラマニクスの言葉に思考を巡らせていた。
こんなふうに、お互い立場からくるしがらみを考えずに緩やかかつ穏やかにずっと過ごせたらならば他に何もいらないのに…それはいつか許されなくなってしまう事かも知れないのだ。
ロドス・アイランド、イェラグの宗教組織リコリス院、そして暗躍を続けるカランド貿易。
あんまりに、自分達の関係には邪魔になるものが多すぎて大きすぎる。
薄氷1枚のギリギリで保っているような極限のバランスを…つき崩せば雪崩が起きて全てを変え白く覆い隠して壊してくれるだろうか。
腹にものを乗せる事を止めて、幸せそうに尾を揺らしながら「美味しいですね」とマフィンを食べるプラマニクスの笑顔を見ながら、そう考えていると自分の中で眠らせていたはずの黒い欲望がまた胸中に広がり始める。
(いっそ、いっその事……子供でも孕ませてしまえば、変わる、だろうか……。)
守りたい・必ず傍に居続けたい・愛しているからこそ手離したくない…これらの感情は、プラマニクスと肉体関係を持ってからは一等この気持ちが日に日に強くなるばかりであった。
何もかも塗り替えてしまうような大事を起こしてしまえば、『カランドの巫女、プラマニクス』を『ただの女性であるエンヤ・シルバーアッシュ』に戻すことが出来るのでは無いかと……しかしそれが土台無理な話であることをドクターは分かっていた。
たとえ、そうして孕ませたとしても果たして長くイェラグを閉鎖し続けてきた保守派とリコリス院が変わるだろうか、それが自分たちの自由に繋がるのだろうか…そんな訳がない、と。
グルグルと、願う事しか許されない平穏な未来と自分の身勝手な欲望が混ざった黒い願いが渦を巻く。
時折聴こえてくる風の鳴き声が穏やかな空気を作ってたが、さっきまでとは打って変わり雑音と認識されて脳がグラグラし始めて酷く不快感を煽った。
レユニオンの動向も鉱石病の事も、自分の過去もドクターにとってはもうどうでもいい事でただただプラマニクスとの未来を考えていた。
これから先どんな未来がプラマニクスに訪れ歩むことになっても己の存在が近くにいることを望みゆるしてくれるなら他のどの組織でもなく「エンヤ」の傍に居て味方をしようと…。
「……むぅ、ドクター、なんて顔をしてるんですか?めっ!ですよ。」
「っ…!俺は、変な顔をした覚えはない。」
「変な、とは一言も言ってないのですが…」
プラマニクスがドクターの顔をマジマジと見てから、眉間をそっと人差し指で押しつつそう子供に言い聞かせる様に微笑み優しく告げた。
ドクターが暗い思考から引き戻されて驚きながらもそんなプラマニクスの言葉に眉根を寄せながら言い返せば、プラマニクスは少し困った様に笑う。
「まったく、気付いてないんですか?……今のドクターは………アナタはとても……とても怖い顔をして、辛そうに眉間にシワを寄せていたんですよ?」
そう言って少し寂しそうに微笑んで再びドクター眉間を指で撫でてから、そっと頭を撫でた。
こういう所作をするのがサマになりされる事にも抵抗感を持たないのは、妹がいるからなのかやはり手馴れていると感じる。
「そうか……っ、……考え事を、していたから……顔に出たのかもしれない。」
そう言いながら額に腕を乗せて顔を覆うようにしたドクターに対し、プラマニクスは先程までドクターの腹部に乗せていたコップや小皿を「やれやれ」と言った感じで短く息を吐いてからのけるとドクターの腹の上に、覆い被さると向かい合う様に寝転ぶ。
ドクターが1度いい淀みかけた『考え事』という言葉に薄々また1人で勝手に落ち込もうとしていたんだろうと察したプラマニクスがドクターの気を紛らわせ、落ち着かせるためにやったのだ。
コップや小皿等とは明らかに重みが違う物が乗ってきたが、この抱き合ったまま寝転がるのはたまにやるのとプラマニクスの重さなので問題無かったものの突然だった為ドクターの喉から短い呻き声が出た。
「ぐっ……いきなり乗るな…。」
「ドクターもよくいきなり行動するじゃないですか、それにこれはいつもしてるでしょ?」
「そう言われると、言い返せなくなる……。確かにそう、だが……重いんだぞ?」
「今なんて言いました…?」
さっきのコップや皿より、という意味だったがドクターの主語が抜けた言葉にプラマニクスがのそりと起き上がって、怒気を含ませた目でドクターを見下げて来る。
「ドクターの事なので……えぇ、分かっていますよ?けっして『身共』の体重が重いと言う訳では無いことは……ですが、いざそれだけ言われますと……ね?」
「…………、コップや皿より……軽い。」
「それは逆に言い過ぎですよ?ドクター?」
プラマニクスの言わんとする事を理解し、尚且つプラマニクスが自分を『身共』と言う場合は改まった場か怒っている時だと知っているドクターが視線を泳がせながら目を逸らして何とか機嫌を取ろうとそう言えば、グッと腹に置かれた手に力が入りプラマニクスが爪を立ててきた。
「なっ……どうしろと……あー……まて、今絞り出す。」
プラマニクスの下で眉間にシワを寄せながら至極真面目に言葉を探し出そうとするドクターを見て……プラマニクスは「ふふっ」と笑みを零しながらも物悲しそうな笑顔を浮かべてからドクターの胸に頭を預けると、困惑気味のドクターがそろりと体に腕を回してくる。
「もう、辛くないですか?」
「なに……を…。」
「考え事…、ドクターのことですからきっと、『先』の事を考えでもしてそんな険しい顔になっているのかと思ったので…当たってます?」
「……お見通しか、流石だ。」
「なにせドクターは、それ以外の事でそんな風に悩まないでしょ?」
「あぁ……、そうだ。」
プラマニクスの身体に回した腕に少しだけ力を込める。
自分の記憶が無いと分かった時も、記憶喪失で目覚めてすぐそのまま焚き付けられる様に作戦指揮を取らされた時もまったく悩むことなどなかったと言うのに。
「エンヤと出会ってからは……悩みっぱなしだな。」
「それ貶してます?」
「……そんな訳、ないだろう。ただ……どう言った物か……一目惚れして、好きだと伝えるのを抑えて…好意を殺そうとして、抱くのを躊躇って……思えば、記憶を失って空っぽになった俺の中身は……全てエンヤで詰まっているな。」
「……またそういう事を言う。」
胸に埋められたプラマニクスの頬は赤くなり、耳がパタパタと忙しなく動きながらも豊かな尻尾はゆるりとドクターの身体に巻かれる。
だが紛れもない事実だった。
記憶を持たず目が覚めてから空っぽで、常に乾いて飢えた様な感覚しかなかったのに雪の様に真っ白な自分の前に現れたたった1人の存在は、その乾きを癒し自分に中身を与え野心すら抱かせたのだ。
「…私もドクターと出会ってから、色々と変わったんですから。」
「む……そうか。」
そう言いながらプラマニクスがまるで自分の物だと、主張するようにドクターの胸へと頭をグリグリと押し付けマーキングする。
ドクターは、ロドスの中枢を担う存在で、誰にでも分け隔て無く接するのでどうしても女性オペレーターや職員と高い頻度で関わりがちだ。
この前など昇進を告げたオペレーターが、「襟が曲がっている」と言いながらドクターの襟を正して「見かけ通りこういう事には疎いのね。はい、できた」と笑いながら胸をポンポンと叩いていたのを見てしまった。
襟を正す以外に他意はなかっただろうしそれに対してドクターはいつもの仏頂面をしていたのでどうとも思うことは無かったのだろうが……そのオペレーターは『香り』に精通しそれを医療に用いるせいで、ドクターの体にはどうしてもその香りが残っていたのだ。
指摘すべきか、否か悩んで結局その時はしなかったし過去に「他の女性と迂闊に触れ合わない」と約束を交わしたもののあの様な不意打ちではドクターを責める事も出来ない。
(まさか、今になってアレを思い出してしまうとは……むぅ、私もドクターにあてられましたかね。)
「……くすぐったい、エンヤ。」
プラマニクスが眉を顰めながら考える、そんな胸中を知らずにドクターは押し付けられている頭をポンポンと撫でる。
プラマニクスとて不安が無い訳では無い。
両親が政治の策略で死に、兄はそんな逆境の中で留学し人が変わってしまった。
妹もあらゆる思惑が絡んだ事故に巻き込まれて鉱石病を患って……自分は、保守派の代表と呼ばれてもおかしくない巫女の座に座り兄と仲違いする事に。
その若さで、兄とは違う方向ではあるが1人で背負うには重すぎる物を背負うことになっているのだから。
……普通の女性の様に好きな相手と添い遂げる事すらきっとままならない。
風が吹き抜けるタイミングでそう思ってしまって身を縮こませれば、それに気付いたドクターが声をかけてくる。
「……、寒いか?」
「そんな訳、」
「だろうな。」
雪国に比べたら暑い程だろう。と、プラマニクスの言葉を遮ったドクターが今度は撫でつける様に頭を撫でた。
ドクターとて流石に頭を押し付け、白衣を巻き込んで力強く握られた手と身体を縮めた恋人の不安な胸中を察する事が出来ないほど無神経では無い。
さっきと立場が逆ではないか…とプラマニクスが心の中で呟いて唇を軽く噛めばそれに気付いたのか軽く笑う声が頭上から聞こえてきて耳を倒した。
「……フェスティバルでは、種族も…出身も関係なく楽しめるらしい……。」
「そう聞きました。」
「なら……立場だって、忘れていいだろう?」
ピッ、と耳を立ててドクターを見やれば口端をほんの少しだけ上げている顔と目が合った。
『立場を忘れて』……それはお互いに言える事で、少しでも『ドクター』と『カランドの巫女』では無い者として過ごせる時間を作りたかったに他ならなかった。
「約束、していたしな……宿は取った、安心してくれ。」
「あ、ありがとう…ございます。」
こうして、2人立場を忘れてオブシディアンフェスティバルを楽しむ事になった。
せめて、ほんの一時だけでもただの恋人として過ごせるならば…と。
プラマニクス
職務は他の人じゃ務まらないの知ってるし理解してるけどそんな自制心すら超えてしまいそう…な予感がし始めている
ドクター
プラマニクスへの愛が行き過ぎて所属が『プラマニクス』の領域
2人で逃げ出せたならば……と考えまくっている