いわく、「指示を出す時と平常時で喋り方に差がありすぎる」とはオペレーター達の総意的なものであった。
プラマニクスが息抜きを兼ねて読書に興じていると横にふと気配を感じたと同時にテーブルに、コトッ…と音を立てティーカップが置かれている。
そのまま見上げるように顔を上へ向けたら相変わらずの無表情が、黙って自分の顔を見ているので暫し見つめ合った後に口を開く。
「えぇと……ありがとう、ございます?」
「あぁ。」
そしてドクターは頷くとプラマニクスの横に座った。
秘書として任命されてから他のオペレーター達よりもドクターと過ごす時間が増えて察したのだが、彼は人と話す時あまりにも言葉が足りていなかった。
「…この前のお茶とは違う香りがしますね。」
一旦本に栞を挟み、カップを手にして漂ってきた香りの感想を述べながら彼の顔を見ると雰囲気が柔らかくなるのを感じた。
「……だろうな。」
「相変わらず言葉が足りてないですよ?」
この返事1つに色々な言葉が埋まっているのだがさすがにそれを全て察する事など巫女の力を持ってしても出来るはずがない。
カップに口をつけてまたドクターの顔を見るように視線を向けると、顎に手を当てながら考える姿が目に入る。
「…新しい、紅茶を頼んでいたから……それで飲ませようと思って…。いつも同じ味は、飽きるだろう?」
ドクターなりに精一杯の「プラマニクスの為に取り寄せた」と言う言葉だった。
何時だったか、プラマニクスが『 紅茶が好きだ』と言う話をした日以来ドクターは2人でゆっくりしたい時に紅茶を渡すようになった。
「わざわざありがとうございます…。心が落ち着く匂いですね。」
ゆらり…とゆっくりとした所作でプラマニクスの尾が揺れるのに合わせてドクターの長い虎の尾も同じ様に揺れた。
「……サボるのに、丁度いい。」
そう言いながら自分は何もせず、表情すら変えずにじっと自分を見ているドクターの視線に恥ずかしさを覚えてしまいながら口を開く。
「サボりではありません、英気を養っているんです。ドクターだってそうでしょう?」
言葉足らずを理解したうえでわざと少し語気を強くして言えばドクターは何事も無いかの様に
「俺は、プラマニクスがサボっている時の表情が好きだからな……見ているだけで、英気は養える。」
と言った。
相変わらず表情を1つも変えず、それでいて何時ものどこか張り詰めて他者を寄せ付けない様な雰囲気が嘘の様に柔らかい空気を纏うドクターの、真意を測り兼ねる言葉にプラマニクスの紅茶を飲む手はピタリ…と止まり耳はピンと立った。
(これは、紅茶が熱いせい……。)
このドクターが、言葉足らずなのに時折こうした事を言ってくるのは最近あることなのだ。
「そ、うですか…なら私の休憩にとことん付き合って貰いますからね。」
温度が上がった顔の事を振り払う様にそう口にして背筋を伸ばしてみせた。
「……あぁ。」
とまた短く返すドクターの声は、少し優しさを含んでいた様な気がした。
ーーーーside,Dr.ーーーーーー
求人をして、シルバーアッシュと名乗る男が来てからプラマニクスの纏う空気が強ばった様な哀しさや辛さなんかの負の感情と懐かしさが綯い交ぜになった形容しがたい物に変わったのにはドクターはすぐに気付いていた。
彼はプラマニクスに一目惚れだった。
すぐに彼女を秘書に任命した直後に(分かりやすかっただろうか。)と彼なりに後悔したがそんな事とは露も思わないプラマニクスと過ごしていくうちに彼女に時折複雑な感情が入り乱れる事があったのは分かっていたが……。
(あの男が元凶だろう…しかし。)
ドクターは、やたらと親しく接してくるシルバーアッシュを蔑ろにも出来ず話してすぐにクリフハートの兄だと……まぁ3人に共通する匂いで分かってはいたが、それが確信できてから更に無下に扱う事は出来なかった。
しかし、ドクターはプラマニクスの顔が曇るのは見たくなかった。
束の間の休息の際に緩む表情や、紅茶が好きだと語った時の顔や自分の趣味やクリフハートの事を話す時の声が好きで何時しか「紅茶をいれたから」を口実に彼女と2人で僅かにでも過ごす平穏な時間を愛していた。
だからこそ、自腹を切ってでもいい茶葉を買って少しでもプラマニクスが安らげる様にしたかったのだ。
言葉が足りてない、と注意してくる時の繕わない表情が好きだ。
2人で戦いの事を考えず、プラマニクスが巫女としても過ごさず…「エンヤ」と言う少女として振る舞えるこの時間が何よりも大事だ。
サボりだと言えば「違う」とキッパリと、どこか胸を張って言うところは愛らしい。
少しだけ気が緩んで本音を零してしまった時のその反応は、勘違いしそうになるから止めてくれ。
(俺は…お前ときっと一緒になってはいけないだろうからな……。)
この時間がずっと続けば、なんてありきたりな事は望まない。
ただプラマニクスの中で少しでも俺と過ごした時が安らげた時間として残ってくれたのならそれでいい。
いくらでも休息には付き合う代わりに、俺の両目でしっかりとそんな普通でいられる時間のお前を見て、忘れぬように記憶に焼き付けておこう。