※この作品はR-18です。

積もった初雪に足跡を   作:ルーガ龍

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前話の続きのお話


心は同じ紅茶色

 

「ここは消しても問題ないな。」

 

「そうですね……あ、今の……そうです、こちらの戦局は残しておくべきかと…。」

 

2人でモニターを眺めながら、作戦記録として残すのに必要な場面か否かを取捨していく。

時に早送り、時に戻しながらドクター自らが指揮したの物とは違う戦場の映像も繰り返し見る。

 

「俺だったらここはそうだな……この敵に発見されにくい草陰からメランサに奇襲させて……」

 

そうプラマニクスに聞かせているのか、1人で自分ならどう動かすかを口に出しながら考えているのか分からない呟きを繰り返しながらも目線は忙しなくモニターに映し出される戦局を追い続ける。

 

「あの……ドクター…?」

 

耳にプラマニクスの声が入ってきて映像を一時停止して視線をプラマニクスに移した。

お前が手にする鈴よりも遥かに耳障りのいい音がする声だ…と内心思いながらそんな、とてもフィルターのかかった感想を抱いているなんて事を全く表に出すこと無く口を開く。

 

「……サボりたいのか?勝手に休んでいいぞ。」

 

「ちがっ!いませんけどサボりではなくて、これはドクターの為を思ってのお誘いですよ。お気付きで無いかもしれませんがもう1時間以上モニターから目を離して無いんですよ?………ただでさえこの作業を始める前から長時間鍛錬していたと言ってましたし、だったらそろそろ休憩時間を取るべきかと。」

 

 

執務室に入る前、プラマニクスとの会話で「どれくらい鍛錬していたんですか?」と聞かれてしばし顎に指を添えて黙りこんだ。

鍛錬で身体を動かしている間は時間の経過など全く気にしていないので、タイマーを見ながら測った凡その目安しか分からないのだ。

黙った時間が思ったより長かったのかプラマニクスがそっと顔を覗き込む様に見上げてくる。

(今日も美人だ……いや、可愛らしいのか?………どっちもだな。)

と言ういつも抱いている感想を真っ先に浮かべながら「………3時間くらいか。」と返せばプラマニクスが目を見開いて驚く番だった。

 

 

さてそんな入室前の出来事から今に戻ればドクターはぶっ通しで休まず動いていることになる。

鍛錬とは違った理由でだが、デスクワークの方は嫌いなので早く終わらせようと時間を気にせずに作業するのがザラだった。

 

視線を時刻を現すパネルとモニター、そしてプラマニクスへとぐるりと動かしてからまたしばし無言になる。

 

「………俺はまだやれる。」

 

なんせ、こうして映像編集等の作業をしていたら誰の邪魔も気にする事無く、2人で堂々と過ごせる口実になりえて嫌いな作業であればこそ早く終われば作業の締切を急かされる心配をせずに2人で休めるのだから。

 

だからこそ手を止める訳にはいかないと、もう一度再生を押した瞬間プラマニクスに一時停止を押される。

 

「休みましょうか。」

 

笑顔ではあるがそう言いながら白い手にそこそこに力を込めながら手首を掴んでくるプラマニクスから何かしらの圧を感じてドクターは大人しく手を止めざるえなかった。

それにプラマニクスが力を込めてもそこまで痛くも痒くもなく、そう言うところもまた可愛いと思ってしまい僅かに表情筋が緩んだ気がした。

 

 

 

 

「紅茶もコーヒーも補充が沢山ありますね……あっ、お菓子も幾つか貰いましょう。」

 

執務室=2人の空間の様なものだったのでわざわざ開き戸の棚を取り付け、そこに紅茶用のポットやらプラマニクスが好む紅茶や過去に「美味しい」と口にした菓子類を突っ込んでいる。

それに、資料や記録媒体を置いた棚を隅に追いやり冷蔵庫や座り心地のいいソファにテーブルまで置いた為もはや執務室なのか休憩に特化した部屋なのか分からない部屋になっていた。

 

「むぅ…高い……。」と聞こえたので「そこに居てください」と言われ連行されたソファから立ち上がり、尾をプルプルさせながら少し背伸びして腕を伸ばしたものの目当ての物に手が届かず早々に諦めたプラマニクスの背後から手を伸ばしてこれだ、と思う物を取り出した。

 

「…これか?……今度、台を持ってこないとな。」

 

「む、座っててって言ったのに。けどえぇ、そうですね…あれば助かります。」

 

「いや、食器が割れたりしたら大変だからな。」

 

自分の頭2つ程下に片想いの相手がいて見上げられるのは悪い気がしないのだが折角、あの出来れば楽をしたがるプラマニクスが自分の為に何かしてくれようとしているのだからその心を汲む手伝いをしようと思う。

 

しかしその過程で怪我などされたら罪悪感で堪らなくなって自刃しかねないし、シルバーアッシュの傘下ことカランド貿易組に睨まれたら軽く面倒だ。

 

「それは……いえ、なんでも無いです。しかしこれ以上台や飲食物を持ち込むと怒られそうな気もしますが……。」

 

「ケルシーとアーミヤには既に小言を言われている。」

 

「なっ、聞いてないですよ。」

 

「俺が好きで持ち込んでいる、プラマニクスに小言を言ってるのをあの角の付き人や小鹿に見られシルバーアッシュに告げ口されたら困るだろう?と返しておいた……アーミヤに『仕事さえしてくれたら構いませんが…、2人で住まないでくださいね?』と光の消えた目で付け足されたがな。」

 

そう言いながら後はプラマニクスの好意に甘えて座って待とうとドクターはまたソファにかけ直した。

 

話を聞きながら冷蔵庫から水を出してポットに入れて沸かしたりお菓子を取り出す姿を見ながら、(もし彼女と付き合えたなら、こんな景色が日常になってくれるだろうか)と考えてから心で自嘲し「告げ口されるって…まぁ確かにあの人に私のする事が筒抜けになるのも嫌ですね」と言うプラマニクスの声を聞きながら目を瞑る。

自分はこの世の中で『ドクター』と言う立場で、彼女は………どんな経緯であれどイェラグの宗教トップなのだから、こんな風に住む世界の違う2人がお茶を入てもらいながら雑談する今のこの光景こそ夢に近いのだ。

 

そしてそんな事を考えてしまえば、プラマニクスから平穏な日常を奪った国とシルバーアッシュに対するドロリとした負の感情が真っ黒いインクの様に零れ落ちシミを作く

る感覚に陥るのに、どこかで『それのお陰でこうして彼女と出会えたんだろう』と自分勝手な意見が首を突っ込んでくる。

それにその点さえ除けば自分は優秀な戦闘技術を持ち、どんな理由であろうと親しみを顕にしてくれるシルバーアッシュを嫌ってはいない。

 

「………やっぱり疲れてるんじゃないですか。凄い眉間にシワがよってますよ…私がこうして誘わなければ倒れていたかもしれませんね。」

 

「ん、あぁ…そう見えるか。……俺は倒れたりせんと思うが感謝する。」

 

テーブルに置かれたティーポットとお菓子の皿の音と、プラマニクスの呆れた様な声に意識が黒い負の泥中から戻ってくる。

獣の様に鋭い嗅覚は紅茶の匂いと、お菓子の僅かな甘い香り……そして、既に何よりも効果のある安定剤と化したプラマニクスの匂いが近くから漂って、鼻腔をくすぐるのに先程まで重く心を埋めようとした真っ黒い物が晴れて行く気分になった。

 

「今だって凄い顔してましたよ。……まったく、ドクターは自分で自分の事分かって無さすぎですね。貴方が倒れたらどれだけの人々に迷惑がかかると思ってるんですか?」

 

「……俺以外に優秀な人材はいる。俺が欠けてもたぶん……次がくる。」

 

「そう言うところありますよね。それに換えが効くとか効かないではありません……私だってもし貴方が倒れたら、心配しますから。」

 

3兄妹の中で1番大きくフワフワとした尾を身体に巻き付ける様にしながら、紅茶を入れているプラマニクスの言葉に彼女の方を振り向く。

 

「……心配、なんてしてくれるのか?」

 

「当たり前です………それなりの付き合いなんですよ?」

 

カップに注いだ紅茶を、ドクターの前に置きながら自分の分も注ぐプラマニクスはどこか落ち着かない様な感じになっていて頬が赤い。

 

「そうか……プラマニクスに心配してもらえるなら、倒れるのも悪くないかもしれない。」

 

ふっと緩んだ口角で、そう言いながら紅茶に1度息を吹きかけてから1口啜る。

 

他の誰でもなくプラマニクスが心配してくれる、と言う事実だけで心が踊るのを感じる。

しかし横から聴こえていたプラマニクスの動く音がしなくなってはて?とまたプラマニクスを見ればこちらを見て手を止めていたが目が合えばハッとして口を開いた。

 

「……なんですかそれ、そんな理由で倒れられたら私はお見舞いにはいきませんっ。それより…、そんな顔も出来たんですね。」

 

「言ってる事がチグハグだぞ……それよりそんな顔?」

 

プラマニクスに言われて自分の顔をさすってみる。

今自分はプラマニクスを驚かせる変な顔をしてしまっただろうか。

 

「私に心配されたくて倒れるのと、頑張りすぎて倒れるのは別でしょう。……いえ、少しだけ、ドクターが笑っていたので。」

 

「あぁ…プラマニクスに気にかけてもらえるのは嬉しいなと……考えていたらな。」

 

「そう言う事はサラッとたまに口にしますよね…。」

 

これだけ言い合ってもドクターとプラマニクスは直接的な好意を伝える事は無かった。

それが許される立場ではないと分かっていて、ドクターは(自分が彼女の特別になれる訳が無い)と思っているからだ。

それでもこうして2人で過ごし、同じ紅茶と菓子を食べる時間は揃って至福の時である事は同じで

 

「この時間が続けばいいな。」

 

「えぇ、本当にそうですね。」

 

ゆらり、と2人揃って揺れた尻尾がこの言葉が2人の本心である事を示していた。

 

 

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