「千夜、話があるんだけど時間をくれないか?」
社内の廊下を歩いていると呼び止められる。タイミングが悪い。お前に割いている時間はありません、そう伝えるとこの男は「分かっている」と口にする。
「ちとせの買い物に付き添わなきゃいけないんだろ?」
「分かっているのなら、」
「それまでには終わるからさ。来週のラジオ収録についてなんだ。ちとせにも、さっき話をして許可をもらった」
「……」
「頼むよ」
そういうことなら仕方ない。仕事の話なら無視するわけにもいかない。
「手短にお願いします、お嬢様をお待たせしたくないので」
「ありがとう。ここじゃなんだし会議室に行こう」
そう言って、背中を向け歩き出した奴の後についていく。
おそらく私とこの男の関係を知っている多くの者がこう思うだろう。『白雪千夜はプロデューサーへの当たりが強い』、『プロデューサーのことを嫌っている』と。嫌いかどうかはともかく当たりが強いことについては自覚があるし、事実その通りだ。
しかしそれだけではない。私とこの男の間には決して明かされることのない繋がりがある。私たちのすぐ近くにいるお嬢様も知らない、知られてはいけない繋がり。
◇
「――ということらしいから、グッズの宣伝とイベント告知はそのままで進めて欲しい」
社内の会議室と言えば広々とした空間を想像する。が、ここはさほど広くないスペースでテーブルも小さく椅子の数も少ない。
「分かりました」
「うん。話はこれで終わりだ」
「は?」
向かい合って座り書類に目を通していた私は思わず顔を上げる。
「……終わり?」
「そう、終わり。確認を忘れないようにな」
わざわざ呼び出してどんな重要な話をするのかと思えば、目立った変更もなくほんの些細なポイントを告げただけ。これで本当に終わりなら立ち話でも良かったのではないか。
「お前、ふざけているのか」
お嬢様との貴重な時間が縮まってしまったことに怒りを露にする。
「そんなことないよ」
「では何故呼び出したのです。これなら廊下で……」
ある事に気がついて言葉が止まってしまう。ひょっとしてこの男は最初から話をするつもりはなかったのか。こいつの本当の狙いは……。
「気がついたか」
「……やはりふざけているな……っ」
「そ、そんなに怒らなくてもいいだろ? 長くても30分くらいで終わるよ」
私の震えるほどの怒りを宥めながら、どこに潜めていたのだろうか、ある物をテーブルの上に置いた。犬や猫が付けるようなデザインに『ちよ』と書かれている首輪だった。
「これは何ですか」
「見ての通りだ。これを付けて欲しい」
「お前……ッ!」
勢いよく立ち上がり座っていた椅子を持ち上げる。もう我慢ができない。こいつは私を何だと思っているんだ、許せない。
「覚悟しろ」
「いいのか? もう気持ちよくしてやらないぞ」
「……っ」
咄嗟にこいつの口から出た言葉を耳にして、振りかぶった手が止まってしまった。私の頭の中で過去にあった事が掘り返されていく。思い出しただけで顔が熱くなる。消えてしまいたいと願うほど恥ずかしい。
「千夜がそれでいいなら、どうぞ椅子をぶつけてくれ。もう二度とこんなことはしない。今後事務的なやり取りだけする」
「……」
この男は。この男は私を酷い目に遭わせた。私の心や身体を変えてしまったのだ。今すぐ椅子をぶつけてやりたいのに、なのに。
「投げないんだな」
椅子を置いてしまった。こいつからしてみれば思惑通りだろう。これほど悔しくて情けないことはない。俯いていた私の視線は床から首輪へと移る。そして手が伸びていく。
「付けてくれるのか?」
「黙れ」
口で歯向かいながらも、たどたどしい手つきでそれをセットする。自ら進んでこんなことまでしてしまう。表面では嫌がっていても内側に根強く植えつけられた気持ちに突き動かされる。
「似合ってるな」
奴は一言感想を述べて、私と同じく席を立つとこちらへ近づいてくる。耳まで赤くなっているであろう私は顔を逸らしてその場で佇んている。やがて目の前までやって来ると、両手で頭を掴まれて無理やり口づけされる。
「んっ……!?」
舌が口の中へ入ってきて、私の舌に絡みついてくる。とても激しく貪るような動き。上辺だけの抵抗すらさせてもらえないほど熱烈で深いキス。
「ぷぁっ……! はぁ、はぁ……っ」
じっくり時間をかけて口で交わりようやく終わった頃、私の脳は蕩けてしまっていた。
「むぐッ」
まだキスは終わらない。唇と唇が触れて舌が絡み合う。これでもかというほど執拗で激しい。ぴちゃぴちゃという水音を聞きながら、気持ちいいと、そう思ってしまう。
やがて足腰が立たなくなってしまうが目の前のこいつはしっかりと抱き抱えて無理に立たせてくる。シャツにしがみついて、向こうが満足するまで受ける。
「ん……はぁっ、はぁっ、はぁっ……ふぅ……」
どれだけ交わっていたか分からないが、一度目よりも長いということだけは理解できる。熱い口づけが終わって顔が離れていく。私の目尻からは涙がにじみ出て、全身の力という力が抜けていた。
「はぁ……はぁ……♡」
「もう出来上がったか。調教の成果が出てるな」
そう言うと私をゆっくり床へ座らせる。両手をついて肩で息をしている目の前でカチャカチャとベルトを外す音がする。
「さあ千夜、この前みたいにしてくれるか?」
「っ……!」
前を向くと、そこらにある手すりよりも太くて20センチはある凶悪なモノがそびえ立っていた。ごくりと生唾を呑む。初めてこれを見た時は恐怖すら覚えたが今となっては違う。この男に作り上げられた
「はっ……はっ……はっ……♡」
息遣いが荒くなる。酸素が欲しいからではなく興奮しているせいだ。認めたくはないが認めざるを得ない。
「まるで犬みたいだ。ほら、早くしてくれ」
「ふっ……ふっ……♡」
「しゃぶってくれ。俺を気持ちよくすればするほど見返りが大きいぞ」
以前の私ならば、こんな要求をされたら眼前にあるこれを引っぱたいて痛めつけてから人を呼んだだろう。
「……ん♡」
「うッ……」
跪いてから両手を添えると裏側をひと舐めする。それを皮切りに私の献身的なフェラチオが始まる。今日この日が来るまで二度ほど調教されて、念入りに教えられたやり方。調教の回数は少ないが一度につぎ込んだ熱量が桁外れ。
「おぉっ……! う、上手くなってるな……っ」
「ちゅっれるれろっ♡ んっ♡」
「最初はしてさえくれなかったけど……ぐッ……!」
こいつの言うとおり最初はフェラチオどころではなかった。日頃の私の態度に苛立ちが募ったらしく、仮眠室に呼び出され『仕置』だと陵辱された時、心の中は恐怖で埋め尽くされていた。まさかこんなことをしてくるような奴だとは思わなかったし、口も手も封じられて逃げられず『早く終わって』とひたすら祈っていた。
けれど巧みな言葉責めを延々と耳元で囁かれ、全身をくまなく愛撫され、逞しい男根で膣を何度も抉られ、強制的に変えられてしまった。イき狂い、疲れ果ててもまだ性行為は終わらない。鬼のように激しく、恋人を扱うように優しく、緩急をつけながら、私の体が求めていることを的確にされる。
行為が終盤に差し掛かった頃、『もう死んでもいい』と思ってしまうほどだった。文字通り調教されてしまったのだ。二度目の時もそんな調子で失神するほどされて、気がつけば本能でこいつの虜になっていた。
「はぷっ、ちゅっ♡ ん、れろれろれろっ♡」
「ああ、それ良い……っ!」
あんなことをされれば誰でも私のようになり下がってしまう。素直に男根を舐めるような下劣な女に。
「千夜、チンポ美味いか」
「ふぅ、ふぅ……♡」
「どうした? 言うの恥ずかしい?」
言いたくない。でも言わなければこの先をしてもらえないかもしれない。
「……美味しい、です……」
「何が?」
「ち……ちんぽ、が……」
やっと口にした言葉は聞き取れないくらい小さかったが納得してくれたようだった。頭を撫でられる。
「そうか。じゃあ、今度は『ご主人様』も付け加えて言ってみてくれ」
「え……」
納得していなかった。こいつは私の頭を撫でながら、さらに上のセリフを要求してきた。ご主人様などと……私が仕えているのはお嬢様だけ。
「そ、それは……」
「じゃあもう終わりだな……残念だ」
「!」
目の前にあった男根が離れていき、下ろしていた下着とスラックスを穿こうとしている。私は考えるよりも先に腰にすがりついてしまった。
「ん、どうした?」
「……」
「離してくれよ、もう終わりにしよう。千夜もちとせを待たせてるだろ?」
「……しいです」
恥ずかしさを押し殺して、いや、恥ずかしさなど消え去ってしまった。この先をしてもらえないという不安と下半身のどうしようもない疼きが私を動かした。
今度ははっきりと聞き取れる声量で。
「ご主人様のちんぽ、美味しいです。はむっ♡」
「うッ!?」
舌だけではなく口を全て使う。大きく開いて亀頭にかぶりつき、頭を揺らす。
「じゅぷっちゅっ♡ じゅぷっじゅぷっ♡」
「うぁっああッ……!? す、すごっ……!?」
唇で刺激しながら舌を忙しなく動かす。大きくて顎が疲れる。
「千夜っ……よく、言えたなっ……! ところで、どこでこんなッ無茶苦茶なやり方っ、ぐッ……!?」
教わってもいないし調べてもいない、咄嗟に出た口淫。このままでは終わってしまうと危機感を覚えて、夢中でしゃぶりつく。
「き、気持ちいいからいいけど……ううッ……!」
「じゅぷっじゅぷっじゅぷっ♡ ん、ちゅうっじゅるるっ♡ ぷあっ♡ はぁ、はぁ、れるれるれるっ♡」
口から男根を出して、両手で棒を擦りながら亀頭の裏側を舌でくすぐるように舐める。先の穴からだらだらとカウパーが溢れ出ていて、それを掬うと顔に飛び散って汚れる。
「千夜、最高だっ……! あああヤバいっ……もう出そうッ、気持ちよすぎてっ……!!」
「はむっ♡ じゅぷっじゅぷっじゅぷっじゅぷっ♡」
「あああッ、す、ごいッ、ああッ……!!」
私の口から分泌される唾液やカウパーが混ざり合って、制服にも付いてしまう。そんなのは気にしない。男根の匂いで頭がくらくらしている。鼻奥にこびりつくのではないかというほど嗅いだ勇猛な雄の匂い。
「出るッ、ぐううぅッ……!! イ、イきそうっ……!!」
散々精液を飲まされたおかげで、嗅ぐだけで感じるようになってしまった。あの時の記憶が呼び起こされて堪らない。穿いている下着がしっとりと濡れているのを感じる。
「じゅぷっじゅるるっじゅるっ♡ じゅぷっじゅぷっじゅぷっじゅぷっじゅぷっ♡」
「ダメだ、イくッ!! はあッはあッああああッ……!!!?」
男根の脈動を感じて射精を察知する。またあの濃くて粘り気のある、臭い液体を飲まされてしまう。そう考えるだけで体がぞくぞく震えてしまう。
「イくッイくッ……ッ!!! ま、待ったッ……!!!」
「んぐっ、じゅぽッッ!?♡」
「お”ぐッ……!!?」
あと何回か往復しただけで出ると感じた時、頭を掴まれて強引に引き抜かれてしまった。その際、私の唇と亀頭のカリ首が強く擦れたせいで、絶頂寸前まで達してしまったらしく、穴からごく少量の白濁液がとろりと垂れてきた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ♡」
「あ……あぶ、なッ……!!」
私の頭を掴み腰を引いたまま固まっている。
何故。
「何故……はぁっ……寸前で、やめたのですか……っ♡」
以前のように口の中に吐き出すかと思っていたのに、達する直前でやめてしまったのはどういう理由があってのことなのか。火照って仕方ない体を自らの腕で抱きながら問う。すると目の前で固まったままの男は苦しそうに答える。