「冥土カフェ???」
聞き慣れない単語が頭の中で上手く漢字に変換されずに、
お化け屋敷だろうか。番町皿屋敷?
「ちがう。メイドだって」
間髪入れずに友人の
「冥土?」
「うん、多分違う変換してるから、漢字から離れたほうがいいと思う。メイドさんのメイドね。可愛い服着て『ご主人さま』とか言うほう」
「メイド……Maid Cafe?」
「うわ、なんか発音がいきなりネイティブっぽくなった」
「ぐろーばるに活躍するなら英語の発音はちゃんとしとけって
「なんでぐろーばるはひらがななの……ていうか誰なの樹ちゃん」
景の言動はつぎはぎなので割と適当なだけなのを、
「ほかに候補はー?」
いまは杉並北高校の学校祭、通称『
「出し物の詳細はともかく、店で
とりあえず景のような美少女がいるなら、それを最大限に活用した出店をしておこうと画策しているクラスメイトを責めることは難しい。問題は、景にいまひとつ愛想とかを期待できないところではあるのだが。
彼氏である樹との交流を通じて多少改善は見られるものの、景にはコミュ障というか対人での独特な言動と距離感のようなものがある。
いわゆる普通のJKらしさは皆無に近く、それを許容できないと景との付き合いは難しい。
現に樹に微妙な顔をされつつもバイトをしようとしたカフェは接客がろくにできずに早々にクビになった。あまりにも結果が出るのが早すぎて慰められたのは記憶に新しい。
つまり、外見の美しさだけでは庇いきれないものがこの世にはあるということである。残念な美少女に期待しすぎるあたり、ある意味、クラスの期待は根本的に間違っているとも言える。
むしろ男装をして男装カフェのほうが、景の苦手な愛想がなくても乗り切れそうな雰囲気はあった。会話おさわり厳禁で窓際に美少年が立っている的な扱いになるかもしれないが。
「断層カフェ???」
聞き慣れない単語が頭の中で上手く漢字に変換されずに、景は戸惑った。本日二回目。日本語の読解能力にやや不安を覚えないでもない。
露出した化石を見ながらお茶でも飲むのだろうか。教室内にどう配置するのか、興味はある。
「ちがう。男装だって。男子の装い」
ひなも付き合いがいいというか、独り言に近い景の発言をきちんと拾って返す。
「ああ、男の子になるほうね。愛想よくしなくてもいいなら、そっちのほうができそうだけど……」
「いや、無理じゃないかな……」
ひなの分析のほうが正しいだろうというのが満場一致で可決された。景の味方はいなかった。
「何人か男装して、似合いそうな男子には女装してもらったら?」
「……
「ちっちゃくて可愛いから似合うと思う」
いつのまにか、クラスメイトの女子が違う方向で盛り上がっている。
ノーメイクでウィッグ付けるだけでロリ系胸無いメガネっ娘になれそうな女顔の
16歳男子で身長が156cmという現実はやや酷にすぎる。平均身長だと12~13歳男子くらい。つまり男子小学生並みでありショタである。おまけにそばかすがあるので赤毛の三編みウィッグもいいなとか思われてもいた。そっちは地味子ロリか。業が深い。
クラスでの話し合いの結論としてはひとまず飲食系ということになった。扮装の方向は衣装の絡みもあるので、メイドか男装が有力だがおいおい詰めるらしい。
景には店頭への露出が期待されていたが、裏方で調理……というか紅茶を淹れたり飲み物を注いでもらっていたほうが平和だろうということに落ち着いた。
あとは『美少女ちゃんの手作りクッキー』を景が大量に焼くことになった。
頼まれた数量の桁が間違っているようにしか見えなかったが、余ったら男子に全部買わせるから大丈夫と押し切られた。ちなみに、余らなかったら別で全員分を焼いてくださいと男子からは懇願された。
杉北祭を間近に控え、ついにその日がやってくる。大量の手作りクッキーを作らなければならないのである。控えめに見ても焼いても焼いても終わらない量なのは気のせいではないだろう。
色々調整の結果、ひなも一応の美少女枠ということで手伝いに回っていた。アシスタント的な立ち位置ではあったが。
残念ながら、ほかに増援はなかった。吉岡君を美少女枠に入れようとしたら怒られた。
「手についた美味しそうな匂いが取れない……」
「バターいっぱい使ってるから」
特に指でこねたりする工程はなくても、まったく生地に触れないということもないのでいい匂いがしてくるのは避けようがなかった。
バターと砂糖と卵と薄力粉を混ぜてこねて寝かせて型を抜いて焼いて、粗熱を取って袋に入れて簡単にラッピングする、を繰り返す。
もとから手際の良い景に、すでにひなもある程度追いついてきていた。それほど難しい手順でもない。コツを聞いて回数をこなせば、作業には嫌でも慣れていく。味に直接影響するようなところは、景がするようにしてはいたが。
「結局は男女混合メイド&執事カフェになったけど、いろいろと作業多くて大変だったよね」
「私はひたすら服の作り変えをやっていた気がするけど」
メイド服に似た感じの古着に、装飾をしたりしてそれらしい服を作り上げていく作業の手伝いも景はいくらかやっていた。手縫いもミシンも、ある程度こなせる女子高生は割と貴重ではあるので。
担当者が凝り性だったのか、予算があまりない割には良い生地の古着が選ばれていて、さらにそれに足していく装飾のセンスもよかった。
既製品やレンタル品のような統一感には欠けるものの、すこしづつ違う個性が出ていてそれはそれで良い出来になっているとも言える。
「これが終わったら、あとは当日にひたすら紅茶を……なんかそんな感じのことばっかりしてる気がするけど」
当日は景もひなも結局は裏方で、一応それっぽい服装にエプロンを付けて、他の子の給仕と同時に客から見えるところでおじぎだけすることになっていた。見目がいい景をすこしでも有効活用する苦肉の策でもある。
ひなはある意味で景の保護者的な立ち位置になっていたので、セットで基本的に同じ作業を振られていた。景は基本的に何でも出来るが、暴走しやすいのでそれの押さえと、コミュ障もどきの緩和のためである。
朝陽ひなが夜凪景と一応の友人になったのは、4月に同じクラスになったばかりの頃だった。
「夜凪……だよね? 名前」
「うん」
そんな言葉が、たしか最初だった。現実離れしたくらいに綺麗な顔立ちの美少女。仲良くなりたくて思わず声をかけていた。誰よりも一番先に仲良くなりたくて。
すこしだけ愛想の乗った瞳で見つめられる。まずはクラスの親睦会でカラオケに誘った。
「あまり歌える歌がないのだけれど」
謙遜ではなくカラオケが苦手だという景は、クラスの皆の前で恥ずかしがりもせずに童謡を楽しそうに歌いきり、やたらと上手いその美声で皆を沸かせた。天然美少女キャラとして定着したのは、これがきっかけだったかもしれない。
「選曲が童謡とかフツーじゃないし」
「小さな弟妹が好きだったから、よく歌ってあげてたの」
聞いてみれば、理由も納得できる。普通の歌謡曲は聴く機会がないから知らない、ということのようだった。他には、古い映画を見るのが好きなので、そのあたりの主題歌的なものなら……と言われたが、多分誰もわからないだろうから避けたのだろう。
少なくとも、童謡なら誰も知らないという事態は避けられるのは確かだった。
「もうさすがに二人もそんな歳でもないから……最近は弟が好きなウルトラ仮面の歌とかかしら」
「それならアキラ関連で女の子のファンもいるからギリ許容範囲かも」
「歌詞は覚えてるし歌えるけど、弟もいないカラオケで歌うのもおかしな気がするわ」
「……まあ、聞いて喜ぶコがいないと意味ないかぁ」
結局、景はたまに童謡を挟みながらカラオケを楽しんでいた。あまり来る機会がないので、雰囲気を味わうだけでも楽しいというのが本音だったらしい。
杉北祭の当日、サンタクロースが背負うような大きな袋がいっぱいになるくらいの数の手作りクッキーは、飲み物との注文で順調に売れた。
順調すぎて、行列を捌ききれず、途中から時間制の整理券を配って入れ替え制になっていたのは、良かったのか悪かったのか。
景はメイド服を着て紅茶を淹れて給仕の子に渡して席に向けて礼をする、を繰り返すだけなので特に問題はなかった。愛想はあまりないもののその美少女っぷりから男女ともにウケはいい。
ひなはメイド服を着て楽しそうにしながらたまに給仕のシフトに入ったり、そのままの格好で他のクラスの男子と学校祭を一緒に回ったりしていたらしい。
吉岡君はメイド服を着せられて女装男子として赤面しながらロリメイドとして働いていた。あまりに似合いすぎていて、写真を撮って送ったら雪ちゃんやルイとレイにも男子とバレなかったけれども。
最終的に、景たちのクラスは馬鹿みたいな売上を記録した挙げ句、手作りクッキーは余らなかったので後日クラスメイトの分を別に焼くことになった。
景の最終的なメリットは、割としっかりした作りのメイド服もどきを家に持ち帰れたことだろうか。
樹と一緒に、それは有効に活用されたと言って良いと思う。
< めいどのみやげ つづく >
たまにはエロいお話をと、メイド服でまるっとえっちするだけの話を書くつもりだったんですがなぜか導入部を先に書いたら伸びて時間切れに。
これで終わりでもいいんですが、一応えっちなところに続きます。