「私は処女だし、痩せてるし胸もないし色気もなくて、せ、セックスしても
「
「えっ!? びじん……かわいい……?」
「ただ金で抱きたいと言うなんて、景ちゃんに失礼かもしれないけど」
「だきたい……!?」
「やめとく?」
「あっ、ごめんなさい。嫌なわけでもなくて、その、どちらかというとそんなこと言われて嬉しくて舞い上がってしまっているというか、あらためて抱きたいなんて言われると思ってなくて……これって、おかしいのかな私。どきどきしてる。恥ずかしいわ」
困ったように、景がぎこちなく微笑む。笑顔の表情筋があまり仕事をしないのは昔と変わっていないようだった。すこし早口だったのは焦っていたのかも知れない。
他の誰かだったら馬鹿にされていると誤解をしたり怒ったりするかもしれないな、と思いついた樹は、それとわかる景と親しい自分の立ち位置に少し優越感を感じていた。
その様子を見る限り、離れていた間に景に好きな男の子ができていたり、お付き合いをしていたりということはないようだ。樹はほっと息を吐いた。
妹のように見るようにはしていたけれども、まったく異性として惹かれていなかったというと嘘になる。独占欲的なものがないわけではなかった。
「他の誰よりも、景ちゃんがいいんだ」
ぽろっとこぼれだしてきたその素朴な言葉は、景の心を即座に撃ち抜いた。
実のところ、景は異性への恋愛というものがよくわかっていなかった。見てきた映画の中に無数に存在してはいたが、女子中学生が恋愛の参考にできるかというと微妙に思える。
一方で、身内への愛は溢れんばかりに持っているし自覚もあった。身内枠であり異性でもある樹の願うことは、景にとって基本的にその愛の範疇内で叶えるべきものとなる。まして自分の求める方向と一致しているのならなおさらに。
景の愛は割と重い。美少女だからとそこらの中高生が簡単に手を出せる相手ではなかった。が、樹にはむしろご褒美にしか感じられないかもしれない。
幼い頃からの幼馴染的な年月は伊達ではない。愛の重さではお似合いの二人と言ってよかった。
「お付き合いでもいいのに、お金でって言ってくれたのは、そうしたほうが私が納得できるし、負担に感じないと思ったからなんでしょう?」
「過程を飛ばす理由がはっきりしてたほうがいいかなって思ったのは確かかな」
樹が突然そんな提案をしてきた不自然さは、景も当然把握していた。
「自分を貶めてでも、私を助けてくれるつもりなんだから。……そんなに、ひどい顔、してたかしら」
「……手から儚くこぼれていきそうだったから、すり抜けていく前に掴みたかったんだ。僕と男女の繋がりがあれば、景ちゃんは壊れたりしないでしょ?」
「樹おにーちゃんが、そうしたほうがいいと思うのなら、たぶんそれが一番良い選択なんだと思う。そうして欲しいわ」
気がつけば樹は見蕩れてしまっていた。
自分の身体を確かめるかのようにかるく腕で抱く景に。不安を感じている様子はない。それは拒否ではなく、指先が震えていたりもしない。彼女からの許しと樹への信頼がそこには現れていた。
『樹おにーちゃん』と、景が久しぶりに呼んでくれたことも含めて。
その少しきゃしゃな身体つきの美少女を、好きにして――抱いても処女を散らしても良いとはっきり許可がもらえたのだと。
「ありがとう。私たちを助けに来てくれて。私が受け入れられるようなかたちにしてくれて」
景の澄んだ瞳がじっと見つめてくる。
「……言葉づらだけ聞くと、やってることは外道っぽいけどね」
「当人同士が納得してるなら、それでいいじゃない?」
おかしそうに、景がくつくつと笑った。自分の身体を売るという話なのに。
歳下の少女からの信頼というのは男としてどこか誇らしい。照れながらもそのもらえる信頼に喜びが湧いてきた。
なによりも、すこし支離滅裂な提案をした、樹の心の奥まで理解しようとしてくれたことが嬉しかった。
「景は制服姿も可愛いよね。ところで、なんで着替えたの?」
「……女子中学生としての価値が高まるかなと思って。できれば一緒に着て、一緒に通いたかったのだけれど。無理だったし」
歳が離れているので、樹が中学校に上がってからは一緒の学校に通ったことはない。学校外で頻繁に会っていたので、樹の制服姿は結構見ていたけれども逆の機会はあまりなかった。
「……思っていたよりも恥ずかしいわ」
樹に見つめられている景の顔に、少しだけ赤みがさした。黙ってじっと見られていることに恥ずかしさを感じたのかもしれない。
景は学校で授業を受けるときと同じ姿だった。制服のすこし長めのスカート。学区が同じため、樹も通っていた中学校の制服には見覚えがある。数年前には自分もその制服を着た少女たちと並んで授業を受けていた。もちろん、その中に景はいなかったが。
樹の記憶の中にある別の少女の制服姿と、景の制服姿が重なる。幻視の中に、教室の中の景がその制服姿ですごす日常が浮かぶ程度には。
「生徒会とか風紀委員とか似合いそうだよね」
景は姿勢がいい。凛とした感じで、透き通った存在感がある。まだ子供と言っても通る歳なのに。
「人をまとめるのには向いてないから、するとしたら補佐とかかしら?」
きりっと整った顔立ちの美少女である。週刊誌の巻頭グラビアで水着特集が組まれていてもおかしくないほどの。水着を披露するにはやや胸に不足はあるかもしれないが。
なぜか容姿の本人の評価は低いが、美少女すぎて周りが接触しないから評価がつかないのかもしれない。母や樹など、身内枠からの褒め言葉はお世辞と思っているフシもある。
実は学校などでは仲良くしようと近づいても拒否される、つんとした猫のような存在だと思われていた。笑顔の表情筋が仕事をしないので、景は誤解をされやすい。実際には警戒心は強いが一度認めた身内にはとろとろに甘えるワンコだったが、それを知るものはほとんどいなかった。
「……どうしたんですか、先輩?」
「いやちょっとまってそれ卑怯」
唐突に小芝居を始めた制服姿の景にやられたのか、樹の瞳に情欲の色がすこしだけ混ざる。
もちろん我を忘れて襲いかかるなどということもなければ、景に酷いことをするつもりもなかった。お金を払って女子中学生のまだ幼い身体に破瓜のきずあとをつけるのを酷いことと見ないかどうかは、その人によるかもしれないが。
茶番でしかなかったけれども、条件については二人で真面目に話し合いをすることになった。
一応の契約としては、
そもそも、いくら美少女でもいずれは好きな誰かに無料で捧げていたであろうものである。やや例外はあるだろうが、世間でもだいたい無料で配られている。仮に告白して普通にお付き合いをした過程で樹が望むなら、景もそうしただろう。少なくとも、景の自己評価内ではその値段は高すぎた。
「ふふっ……」
まさか自分の処女の価値を値切ることになるなんて、と景は不思議な気持ちになった。昨日の自分にそんな事を言っても信じるとはとても思えない。不謹慎と言うなかれ。おかしくなって、うっかり少し笑ってしまったのは景だけの秘密である。
それがとても自然で、見てしまった樹の心をとりこにするほど魅力的な笑顔だったというのは、しばらくのちに聞くまで景が知ることはなかった。
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