部屋の中に、二人の吐き出す息が混じり合って溶けていた。
裸で身体をさらけ出すばかりか繋がってすらいるのに、いまさらながら裸を見られていることに微妙に照れが出た。すこしおかしい。
景は勝手がわからないので身を任せてしまっているが、いまのところ問題はなさそうだった。たしかに樹と身体が繋がっている幸せと、じんわりと継続した性感が絡み合いながら、ふわふわと雲の上を歩いているような心地よさを感じている。
気がつけばそれまでの緊張は抜けつつあった。嬉しくなる。
――樹はどうなんだろう?
景の初めての
力は抜けていると思うけれども、ぎゅうぎゅうと樹を無理に締め付けていたりしないだろうか。あそこが狭すぎて痛がらせたりしても困る。
――私は気持ちがいいのに。
たしかに奥が濡れているのを感じる。樹が動くたびに愛液が想いとともにあふれるように湧いてくる。そういえば女性が濡れると、男性器の出し入れが容易になって快楽を得られやすくなると聞く。よかった。
樹が動いた。身体の奥まで入り込んでいた暖かな感触が、すこしずつ押し出されるように抜けていく。そして、女性器の入り口付近のあたりまで戻ってから、また奥へと入り込んでくる。
動き方にすこし変化が加わった。浅いところを刺激したり、すこし上の襞を刺激したりしながら、何度も前後が繰り返される。
樹の動きに連動して、ゆっくりと景の身体も揺れていた。キスもされた。身体を揺らしながら。
もともとの興奮があるからなのか、まだゆっくりと動きはじめたばかりでも、樹は達してしまいかねなかった。特に問題はないがすぐに出してしまうのはとても勿体なく、すこし落ち着くまで気を散らしながら耐えていく。
「大丈夫? なにか微妙な表情だけど」
「え!?」
「あまり気持ちよくなかったりとか……するのかしら?」
少し不安そうな声で聞かれる。景が感じている幸せは、樹とどこか共有できないものだったのだろうかと。
「……逆」
「逆、って?」
「気持ちよすぎて景ちゃんの身体に溺れそう、このまま」
「……えっ!?」
なにを言われたのかわからない、と眉をひそめた景が、なにを言われたのか遅れて理解する。一瞬で景の顔から耳の先までが真っ赤に染まった。
「一度出したい。景の子宮に、先っぽ押し付けたままどろどろの濃い精液を迸らせて、孕ませるくらいに」
「語彙がおかしくなってないかしら?」
「なってる。そのくらい気持ちよくて、つらい」
「……我慢しなくていいのに」
「男はそれが勿体ないって仕組みになってるから」
我慢したほうがいいというものらしい。男の身体は色々と面倒そうだと景は思った。
こういった行為は一方的なものではなく、お互いに協力しながら作り上げていくものだったはずなのだけれど。と、景は戸惑っていた。
そのあたりはいずれは話しあうべきことなんだろうけれど、いまはとりあえず……。
「えいっ」
口に出すよりも確実に思えて、手足すべてを駆使して、景は樹の身体にしがみついた。
両腕は背中を掻き抱くように。男性らしいすこし厚めの胸板と肌がぴったりと密着する。自分のあまり大きくはない胸部の脂肪が、ふたりの間ですこし潰れてかたちを変えた。
「……こうだったかしら」
足ははしたなく左右に開いて投げ出されていたのを、樹の腰の後ろに回して両足首を交差させ、ぐっと手前へと引き寄せる。『好き』を全身で表す格好らしい。たしかにこれは密着がすごい。どきどきする。
「ふぁっ……」
同時に景の足に押された樹のおちんちんがすこしだけ中に深く入ってきて、おかしな声を上げた気もするけれども。自業自得? なんか違う。
「なにやってるの……」
すこし涙目の景に、呆れた声がかかる。
樹と繋がってる割れ目の入り口がまたちょっと開いて、とろっとした液体が垂れた気がする。股間をお尻の穴をかすめて落ちたのでたぶんシーツへこぼれた。破瓜の血も混ざっているかも知れない。赤い染みになったら恥ずかしい。お尻に敷いたはずのタオルに吸えていればいいんだけど。
「……好きの表現、とか」
「いやまあ嬉しいけど……別に無理しなくても大丈夫だよ」
「うー」
樹が身体を揺らした。それに連れてつながっている互いの性器も、こすれ合いながら二人に快感をもたらしていく。
「……ちょっとこれ、刺激が強くっ」
「ごめん、もう我慢出来そうにない」
焦ったように、大きく反り返ったものが景のなかを何度も行き来する。追い立てられるように、それまでとは違って気遣いにやや欠けた樹の動き。
絡めていた指先が、男の力でぐっと握り込まれる。少し痛い気もしたが、なんだか嬉しかった。求められているという実感を証明してくれているように感じられた。
樹の身体から体重がかかって、斜め下へと身体をぐっと押し付けられる。繋がっている股間だけではなく、景の全身が樹の身体に押された。
圧迫感に一瞬息が詰まる。肺が呼吸を求めた。
「んっ」
「……ごめん、こっち」
樹も余裕を失っているのか、圧迫していたところだけ開放して、行為は止めようとしなかった。ぐちゅぐちゅと、触れている互いの性器が濡れた音をたて続けていく。
「……ずっと、大切にするから」
「……うん」
それまで限界まで挿入されていたはずの樹の大きくなったおちんちんが、ぐいぐいとさらに存在を主張しながら奥へと侵入しようとする。
ぐっと押し込まれれば、景が意識しないまま、膣の内壁がそれを締め付けにかかる。
「景ちゃん、気持ちいい……いいよ」
「樹……おにーちゃん……っ」
身体の奥からぞわりと湧き出してきた未知の快楽が、景の全身を溶かしていく。自覚のないまま景の腰はいやらしく左右に動いていた。自然と身体中がぴんと張って、背中に爪を立てるくらい必死で樹にしがみつく。
「あっ……あっあっ……だめ、へんよこれ、こんなのおかしいっ……」
これまで絶頂を知らない身体に、いとしい男のモノが強制的に快楽を刻み込んでいく。刻み込まれていく。
快楽が幸せなのか、幸せが快楽に変換されているのかは、よくわからなかったが。
ぎゅうっと腕に抱かれる。男のがっちりとした両腕が自分の背中に回されて、潰される。息苦しいのは、肺を圧迫されているからなのか、それとも終わらないくらいに押し寄せてくる波のような快楽のせいなのか。
一番深い? いや高いところだろうか。たどり着いたような気がしてた。気持ちよくも幸せな時間はひとまず終わるはずだと思ったのに、それはまだ続いていた。
「んっ、あっ……なんか、出て……」
景の身体の中で、樹のものが弾けた。びくびくと何度も跳ねながら、先端から大量に精液を吹き出す。そんなはずはないのに、まるで熱いお湯を注がれているようにすら感じる。
赤ちゃんのもとになる、白く粘ついた液体が身体の奥へと何度も注がれていくのを、快楽の波に何度も攫われながら、景は確かに感じていた。
「これ……」
あまり力のはいらない腕で、お腹を押さえる。気のせいにすぎないだろうに、手のひらがじんわり温かくなったような気がした。この内臓の奥に、景と樹の子供になる生命のもとがある。
景はなかに出された樹の精液が、まるで身体の中に染みて溶けていくような錯覚を覚えていた。
樹のおちんちんは一度精液を存分に放出しても、治まることはなかった。出した直後は少し大きさを失ったように思えたのに、抱きしめられて景が余韻を堪能している間にいつの間にか大きさと硬さをとりもどしていた。
その身体の奥での刺激に、ついきゅっとなかを絞めてしまったのは、景が悪いわけではないと思う。
「……誘ってるの?」
「ちがうわ」
じんわりとまだ先ほどまでの余韻が残っている身体に、ゆっくりと新たな刺激が加わる。
消えかけていた焚き火の残り火に、まるで燃料でもふりかけたように。くすぶっていた景の身体に火がついた。
「……ちがうわよ?」
「仕切り直し。やっと落ち着いた……と思ったんだけど、また溺れそう」
「一度くらいは狂ってもいいのに」
まずはキスからはじめよう。ふれあいは大事にしたい。気持ちいいし。
「こっち……乗って」
布団の上であぐらをかいて座った樹と、正面から抱き合う。まるで大好きな親に抱きついている小さな娘のように。
顔が近い。お互いに裸で、繋がったまま下から身体を突き上げられる。何度も。そのたびに、触れあったおちんちんとあそこが、ぞくっとする痺れを引き起こしていく。
とろとろに溶かされていく。キスをされて、頭を撫でられて、抱きしめられながら、身体を突き上げられて。
力が抜けそうになるたびに、慌てて目の前の身体にしがみつく。支えてもらってはいたが、勢いよく後ろに倒れたりはしたくない。
こつこつと、樹のものがオンナノコの一番奥を突いてくる。痛いような、感じたことのない感覚を呼び起こされるような、変な感じがした。
「んっ……ふぁ……」
身体と一緒に性感も突き上げられているような気もした。未知のところまで上げられてしまいそう。怖くなって、途中で必死にしがみつく。
「景ちゃんの奥、吸い付いてくるみたい」
やめてもらえない。抱きしめられたまま、ぐりぐりと股間を押し付けあった。息が詰まる。でもふわふわする。続けてもらいたくなる。
身体が近くて、肌の触れあいが多いという点では、この格好はなかなかいい気がする。身体のあちこちに力が入るので、あとでほぐしておかないと翌日大変なことになりそうだけど。
「あっ、あっあっ……やっ……」
時間をかけて念入りに高められたあとで、樹が景のなかに精液を迸らせるのにあわせて、身体を後ろに反らせながら景は達した。
男はしたあとに賢者になることがある、というのは景も聞いたことがあった。
一度出してしまったあと、性的に満足して続きをする気がなくなるのだと。
なら、いまはどうなんだろう? と首をかしげる。一度……どころではなかった気がする。すでに数えてなかったが。いっぱい出して満足したということでいいのだろうか。
すこし落ち着いたのか、裸で抱き合ったまま、景は樹の髪をゆっくりと撫でていた。いとしい男に触れながら、母性が溢れそうにも感じる。
だいぶサイズは小さくなってはいたものの、樹のペニスはまだ景の中に収められたままで、身体を動かすと繋がっているところに刺激が走ってすこし困った。甘いのか淫らなのかはっきりしない空気が漂っている。
「……もうずっと挿れたまま景ちゃんとすごしていたい。何時間でも」
「ダメよ」
遅くとも夕方にはルイとレイが帰ってくるのでなければ、景も同意してもいいと思わないでもなかったが。さすがにこの惨状で帰られては困ってしまう。
「今日はその、もう少し短かくないと困るわ」
「……90分?」
「映画一本分……それでもすこし。ルイとレイに見られないうちに後始末をしないといけないし」
「急かされるのも慌ただしいけど、まだもうちょっとは大丈夫かな」
樹のものが、景の中ですこし大きくなった。敏感なところを刺激されて、景も思わずぎゅっと樹を抱きしめる。
ふたりとも若くて歯止めが効くかどうかわからないことには、この時点ではどちらも気づいていなかった。