今回はバートリー様よりのリクエストにお応えして能代編をお送りします
41.二人きりの初詣で
──サモア基地総司令部──
今日は1月1日…新たな一年の始まりとなる日である。
昨夜は母港内の大講堂に殆どのKAN-SENが集まり忘年会と称して夜通しパーティーをし、日付けが変わればそのまま新年会と称してパーティーが続けられた。
その後、KAN-SEN達は各々の寮に戻ってそれぞれのお国柄に沿うようなパーティーに移っていた。
「ふぅ…冬でも寒くならないのはサモアのいいところだな」
多くのKAN-SENが出払い、閑散とした様子の総司令部の出入り口から指揮官が姿を現した。
一応は多くの陣営のKAN-SENを束ねる身…特定の陣営のパーティーに入り浸るのは要らぬ軋轢を生む事になりかねないと判断したため、大講堂での合同パーティーを終えた後は司令部にて古くからの相棒であるノーザンプトンとロングアイランドの三人で細やかに新年を祝っていた。
そんな二人の相棒もユニオン寮に行ってしまった為、各寮のパーティーが一段落するまで何処かで時間でも潰そうかと考えているのだ。
「あなた、何故ここに?」
愛車のピックアップトラックの鍵を掌で玩びながら駐車場に向っていると、背後から声を掛けられた。
「能代か」
振り向き、声の主の名を口にする。
綺麗に切り揃えた宵闇のような長い黒髪に、薄紫色の瞳。先端が紅色で根本にかけてグラデーションがかかった角を二本、額から生やした少女…重桜のKAN-SEN『能代』だ。
普段は黒いセーラー服を着用しているが、今日は鮮やかな赤い振り袖を身に纏っている。
「そう言えば、昨日から哨戒任務をしていたな。ご苦労さん」
「いえ、誰かがやらねばならない事ですから」
気にしなくてもいい、と言うような態度で応える能代。
「…その服で出撃したのか?」
「違うわ。哨戒任務から帰投して、一旦重桜寮に戻って着替えてきたの。あなたに新年の挨拶をしたくて…」
なんと健気なのだろうか。
大和撫子という言葉は彼女の為にあるのかもしれない。
「なるほど…じゃあ、ハッピーニューイヤーだ」
「はい、新年明けましておめでとうございます」
軽い口調で新年を祝う指揮官と、綺麗なお辞儀でそれに応える能代。
ふと、能代が指揮官の手に握られている鍵に気付いた。
「何処かに行くの?」
「あぁ…今、各寮でパーティーやってるだろ?顔出しぐらいはしようと思ったんだが…真っ最中に行っても離してくれないだろ?だから落ち着いた頃を見計らって行こうと思ってな。それまで何処かで時間を潰すつもりなんだが…」
「なるほど…確かにそうかもしれないわ。皆、あなたの事が大好きだもの…離したくない気持ちも当然ね」
「からかわないでくれ…」
まるで悪戯を成功させた子供のように意地悪な笑みを浮かべる能代に、思わず苦笑してしまう指揮官。
「それで…何処に行くの?」
「そうだな…73番桟橋にでも行くか。『重桜』の根がどれぐらい成長してるか見てみる」
73番桟橋と呼ばれる桟橋には廃棄予定のタンカーが係留されているのだが、重桜寮に植えてある『重桜』の枝が台風で折れて飛ばされ、タンカー上に根付いていた。
その第二の『重桜』は日々成長しており、側に係留されていたこれまた廃棄予定の駆逐艦まで飲み込んでいる。
「なら、同行してもいいかしら?重桜の民として、『重桜』にも新年の挨拶をしておきたいの」
「あぁ、いいぞ。乗りな」
能代の希望を快く承諾し、愛車の鍵を開けて乗り込むように促す指揮官。
「えぇ…と…」
その言葉に従い、乗り込む為にドアを開ける能代。
しかし、指揮官の愛車はユニオン製のピックアップトラックであり、重桜製の自動車よりも遥かに大きかった。
やや小柄で、晴れ着を着ている能代はその高い助手席に座る事は困難そうである。
「あぁ…仕方ないな…」
どうやって乗り込もうかとオロオロしている能代を見兼ねたのか、彼女に歩み寄る。
「きゃっ…!?あ、あなた…何を…」
「乗れなさそうだから手伝ってやるんだよ。ほら、これなら大丈夫だろ?」
能代の膝裏と背中に腕を回し、ヒョイッと抱え上げる。言わば、お姫様抱っこだ。
男との距離が一瞬で縮まった事に顔を赤らめる能代だが、指揮官はそれに構わずに彼女の華奢な身体を助手席へと静かに置いた。
「シートベルトはちゃんと締めろよ?」
「…えぇ」
助手席のドアを閉め、運転席に座る指揮官。
それに対し能代は、真っ赤になった顔を見られないように窓から外を眺め続けていた。
──────
──ブオォォォォォォォ…キッ…
司令部から暫く車を走らせると、母港の中でも一際閑散とした桟橋に辿り着いた。
太い根に侵食されたタンカーと駆逐艦の上で咲き誇る桜…73番桟橋の『重桜』である。
「おー…またデカくなったなぁ…」
「本当に…立派ね」
車から降り、桟橋に張った根を避けながら『重桜』へと近付く二人。
「あら…あれは…」
『重桜』の根本であるタンカー。その側面で何かを見付けた能代。
近付き、確認してみる。
「これは…お社?」
タンカーの側面に出来た錆びによって開いた穴…そこには、小さなお社が置かれていた。
誰が置いたのか、いつの間に置かれていたのかは分からない。しかし、由来が分からずとも『重桜』のお膝元にあるお社。重桜の民であれば無視は出来ない。
──パンパンッ
柏手を打ち、瞑目する。
(そう言えば…初詣でをしていませんでした。えっと…母港の皆の安全と…)
丁度いい機会だからと、その小さなお社に一年の無病息災を願いながらもチラッと視線を指揮官の方に向ける能代。
指揮官は桟橋から海面を覗き込んでおり、能代の様子には気付いてないようだ。
(もし…許されるのなら、あの人と…)
──ポタッ…
能代の頭に水滴が落ちた。
思わず空を見上げると、いつの間にか空には暗雲が立ち込め、ポツポツと雨が降り始めていた。
「げっ…この時期にスコールか?能代、あの枝の下で雨宿りするぞ!車に戻ってたらビショ濡れになっちまう!」
指揮官も急に降り始めた雨に気付いたらしく、能代に駆け寄り手を取って太い枝の下へと彼女を導く。
最早、豪雨と言っても差し支えない程に強まった雨脚は僅かな距離を移動するだけでもビショ濡れになってしまう。
それ故、指揮官はその大柄な身体を活かして能代を大粒の雨から守る為に、彼女に覆い被さるようにしながら雨宿り出来る場所へ駆け足で滑り込んだ。
「ふぅ…夏場なら分かるが、この時期にスコールが降るなんてな…」
「それよりあなた…ビショ濡れじゃない。わざわざ庇ってくれなくても良かったのに…」
ため息混じりにぼやく指揮官だが、能代の言う通りその身体は大粒の雨粒に打たれたせいでぐっしょりと濡れていた。
「せっかく、綺麗な服着てるんだから濡らす訳にはいかんだろ?俺の服は安物だから濡れても平気さ」
そう言いながら上着とシャツを脱ぐと、小さく纏めて絞る。
僅かな時間しか雨に晒されていないと言うのに、まるで濡らした雑巾のようにボタボタと水分が染み出してきた。
「でも、風邪を引いちゃうわ。お正月から風邪なんて…」
眉をひそめて指揮官を心配しながら彼にハンカチを差し出す能代。
サモアは熱帯気候に属するとは言え、流石に冬場は若干涼しくなっている。しかも、雨が降ったせいで肌寒さすら感じる。
そんな中、身体が濡れたままでは風邪を引いてしまうだろう。
「まあ、スコールなんだから直ぐに止むだろ。そうなれば、直ぐに着替えに戻るさ」
会釈をしてハンカチを受け取り、側にあった太い根に座る指揮官。
軽く叩くようにして水分を拭き取るが、小さく薄手なハンカチでは全ての水分を拭き取る事なぞ不可能だ。
「…ねぇ、あなた」
「どうした?」
座った指揮官の真正面に立ったかと思えば、向かい合った状態で彼の膝に座る能代。
そのまま、太い首に腕を回して抱き締めながら身体を密着させる。
「の、能代…?」
彼女の不可解な行動に思わず戸惑ってしまう。
しかし、当の能代は彼の胸板に顔を埋めて消え入りそうな声でこう告げた。
「あなたが…風邪を引いたら…艦隊運営に支障が…だから…その…私が暖めようか…と…」
どうやら、指揮官に風邪を引かせぬ為に自らの体温で彼を暖めるつもりらしい。
しかし、うら若き乙女が半裸の男に抱き付くというのはあまり感心出来ない行為だ。
「気持ちはありがたいが…そういうのは良くないぞ。勘違いしちまうからな」
軽く、冗談混じりに注意する指揮官。
確かに、能代程の美少女が抱き付いてきては気があるのかと勘違いする男は数多居るだろう。
しかし、能代はその言葉に耳まで赤い顔を上げながら応えた。
「勘違い…しても…いいです…」
「のし…んっ!?」
彼女はそのまま瞳を閉じ、目の前にあった指揮官の唇へ自らの唇を重ねた。
なんだかんだで導入が一番難しい気がします
擬音に♡いる?いらない?
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いる
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いらない
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あまり使うとくどいから、ほどほどに