なんかエンタープライズっぽくねぇな、と思ったそこのアナタ!
私もそう思います
71.英雄を辞める日
──サモア基地、演習海域──
──ドンッ!ドンッ!ヒュルルルル…ドンッ!
ある日の午前、サモア基地近海の演習海域ではユニオン艦隊と重桜艦隊による演習が行われていた。
「ワシントン!四時方向から敵機接近!」
「了解だ、姉貴!」
ノースカロライナとワシントンが迫りくる重桜艦隊の雷撃機を迎撃すべく、両用砲や対空機関砲で弾幕を張る。
いくら演習弾を使った演習と言えど、当たればそれなりには痛い。
痛みを好き好む者なぞ居ない以上、誰しも真剣に演習に臨んでいるのだが、一人だけそうではない者が居た。
「……」
海風に靡くサラサラとした銀髪に、二つ名を表すかのような銀灰色の瞳。
凛々しい表情と隙の無い佇まいは、彼女が強者だと言う事を嫌でも分かってしまう。
彼女こそユニオン最強のKAN-SEN『エンタープライズ』…グレイゴースト、ギャロッピングゴースト、ビッグE、ラッキーE等々…様々な異名を持つ戦士である。
本来ならその圧倒的実力によりユニオン艦隊の戦力を担う彼女だが、今の彼女からはそんな力を感じる事は出来ない。
何処か遠くを虚ろな目でぼんやりと眺めていた。
「…指揮官」
ポツリと呟く。
彼女の心にあったのは、演習の事ではなく指揮官の事だった。
(最近…指揮官は赤城やイラストリアスやビスマルク達と仲良くしているな…いや、それは喜ばしい事だが…)
エンタープライズは指揮官を尊敬している。
確かに彼は粗暴な面もあり、時折非常識な振る舞いをする事もあるが、KAN-SEN達を信頼し彼女達の為に手を尽くす姿勢は中々に好感が持てる。
そんな彼がKAN-SENから好かれるのは当然だと言えるし、彼女達と仲睦まじくしているのは良い事だろう。
「……イズ!」
(だが…なんだ…この…モヤモヤした気持ちは…)
「…プライズ!」
(なんだこの感情は…指揮官が他のKAN-SENと居るのを見ると…)
「エンタープライズ!」
「!?」
思考の海に沈んでいたエンタープライズの意識が声に…近くに居た『ヒューストン』の声により引き揚げられる。
──ヒュルルルル…
「あ…」
ヒューストンの方に目を向けると、彼女の指が斜め上方を指していた。
その方向に目を向けると此方に向かってくる黒い塊…
──ガコォンッ!
重桜艦隊所属の艦載機が投下した模擬爆弾が、エンタープライズの額に直撃した。
(私は…何を…)
演習弾が直撃したぐらいでは肌すら傷付かない。
しかし、衝撃はそれなりだ。
脳を揺さぶられ、身体が大きくグラつき、エンタープライズは意識を手放した。
──────────
「おーおー、どうしたエンタープライズ。らしくないじゃないか」
母港に戻ってきた艦隊を出迎えたのは、軍服を着崩した指揮官だった。
その口調は呆れと言うよりもむしろ驚きの方が勝っているように聴こえる。
「…すまない」
俯いて帽子を目深に被ったエンタープライズは小さな声で短く、そう告げるしかなかった。
今回の演習はエンタープライズの被弾に動揺した事で統率を欠いたユニオン艦隊による敗北で幕を閉じた。
演習だから良かったものの、これが実戦であれば悲惨な状況となっていただろう。
それが分かるからこそ、エンタープライズは自分を責めているのだ。
「指揮官様ぁ〜勝ちましたわ〜♡」
そんなエンタープライズなぞお構い無しに重桜艦隊の旗艦を務めていた赤城が指揮官の元へ駆け寄り、彼の腕に抱き着くようにして自らの腕を絡ませる。
「あぁ、知ってるよ。だが、潜水艦にヤラれかけたらしいじゃないか。空ばかりではなく、足元も見な」
「うっ…そ、それは…」
指揮官からの指摘にたじろぐ赤城。
それ自体は普段通り…しかし、エンタープライズはその光景を見て表情を曇らせた。
「…すまない。医務室に行ってくる」
帽子のツバを下ろして顔を隠しながら早足でその場を後にするエンタープライズ。
その足取りはまるで逃げるようであり、その背は何処か深い悲しみを湛えているようであった。
「……」
そんな彼女の背中に視線を送る赤城…すると、赤城は指揮官の耳元で小さく耳打ちした。
「指揮官様…」
「ん、どうした?」
「………」
「…はぁ?いやいや…それは…えぇ…」
「業腹ですが…仕方ありません。グレイゴーストがあんな有様では全体の士気に関わりますわ」
「むぅ…」
──────────
「……指揮官」
黄昏時、エンタープライズは電灯も点けずに薄暗い部屋で膝を抱えて塞ぎ込んでいた。
結局今日は何も身に入らなかった。
演習での有様は勿論、その後の報告書は誤字脱字のオンパレード。昼食と共に出されたコーヒーには間違えて胡椒を入れてしまうし、シャワーを浴びた後は服を着ずに出て行こうとしてしまう等、散々な日だった。
(何故…何故なんだ…指揮官がKAN-SEN達と仲良くしているのは良い事なのに…どうして私は…)
演習が終わって出迎えてくれた指揮官に赤城が抱き着いている姿を見た時、エンタープライズの胸中には彼女自身も理解出来ない感情が燻り始めた。
「私は…どうしてしまったんだ…」
窓から見える一番星に向かって問いかける。
だが、空の彼方にある星が答えてくれる訳もない。ただ万人に平等に瞬くその姿を見ていると、なぜだか涙が溢れてくる。
「指揮…官…指揮官…助けてくれ…私は…どうすれば…」
如何なる困難も乗り越えてきたエンタープライズだが、その困難とは敵や悪天候等の外的要因によるものだ。
如何に英雄、如何に最強と謳われようとも自分自身の内から湧き上がる未知の感情は何よりも恐ろしい。
──ピロンッ♪
啜り泣きに支配された部屋に、やけに明るい電子音が響いた。
「…指揮官?」
電子音を発したのは、エンタープライズが所有するスマホだった。
そのスマホにインストールされているトークアプリ『艦船通信』が指揮官からメッセージが届いている事を通知したらしい。
「……」
涙を拭い、アプリを起動してメッセージを確認する。
《今すぐ執務室に来い》
短く、それだけのメッセージだった。
何の用があるのか、何を持っていけばいいかも分からない。
本音を言えば断りたい。だが、もしここで断れば…今後、指揮官と顔を合わせる事すらも出来ないようになる気がする。
《了解》
エンタープライズはそう返信すると、再び溢れ出しそうになっていた涙を拭って執務室へ向かって行った。
──────────
──コンコンッ…
「入れ」
執務室のドアをノックしたエンタープライズの耳に入ったのは、簡潔過ぎる入室許可の言葉だった。
「失礼する。…指揮官、どうした?」
努めて平静を装い、指揮官に問いかける。
しかし、普段の堂々とした態度は身を潜めており、声は震え、瞳は落ち着きなく泳いでいる。
「…エンタープライズ」
「……」
おそらくは今日の演習についての事だろう。
他のKAN-SENからの報告書でエンタープライズの体たらくは知っている筈だ。
しかし、指揮官の言葉をは彼女の予想を裏切るものだった。
「お前、俺の事どう思ってんだ?」
「……は?」
思わず間抜けな声が漏れてしまった。
てっきり叱責されるものとばかり思っていたが故だ。
「まあ、座れよ。で、質問に答えてもらおうか」
執務机の椅子から応接セットのソファーに座り、自らの隣に座るように奨める指揮官。
エンタープライズは戸惑いながらもそれに従い、縮こまりながら隣に腰を下ろす。
「どう…か…」
「正直に言えよ。余程の事でも無い限りは怒らんから」
口籠るエンタープライズの背を押すように指揮官が応えるように促す。
それに対し彼女は十数秒ほど思考し、おずおずと口を開いた。
「…指揮官は乱暴だったり…自分を顧みない危ないところがあるが…その…艦隊の皆の事をしっかりと見て、真剣に考えてくれて…私も…指揮官のそんなところが好ましいと言うか…」
「なるほど、つまり俺に恋してるんだな」
「……っ!?」
たどたどしい言葉を紡いでいたエンタープライズだが、指揮官から投げ付けられた言葉は彼女に十分過ぎる衝撃を与えたようだ。
目玉が溢れんばかりに眼を見開き、口をパクパクさせている。
「いや、分かるぞ。コイツなに自惚れてんだ…って感じだろ?」
「い、いや…そんな事は…」
「赤城だよ」
「…え?」
自嘲するような指揮官の言葉をフォローするエンタープライズだが、彼の唐突な言葉に再びポカンとしてしまう。
「赤城がな、お前を見て考えたんだと。どうしてお前がそうなってるのか…ってな。で、分かったらしい。お前は俺に恋をしてて、俺が他のKAN-SENと仲良くしてるのを見て嫉妬してるんだってさ」
「赤城が…」
かつての好敵手を思い浮かべ、頭の中で情報を整理してみる。
すると何ともスッと受け入れる事が出来た。
指揮官が他のKAN-SENと仲睦まじくしている様子を見て抱くモヤモヤとした感情が嫉妬であるならば、全て説明がつくし納得出来る。
「ハハハ…まあ、赤城の思い違いかもしれんからな。…すまんな、変な事を言っ…」
「…指揮官」
乾いた笑いと共に呆れたように述べる指揮官を遮ってエンタープライズが口を開く。
「きっと…いや、間違いない。私は、指揮官の事が好きなんだ。戦友としてではなく、その…男として…ははっ、何だ…こんなに簡単な事だったのか…」
自らを悩ませていた感情の正体に気付き、その気持ちを伝えられた事で彼女の口調は晴れやかなものとなり、再び涙が溢れてくる。
その涙は混乱によるものではない。内に秘めた恋心を伝えられた事による歓喜の涙である。
「エンタープライズ…」
「あぁ、指揮官…今なら…今ならはっきりと言える」
心配するような指揮官を安心させるようにエンタープライズは涙を拭うと、彼の碧い瞳をしっかりと見据えて一言一言噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「指揮官。私は、あなたの事を愛している」
シンプルで短い愛の告白。
それは豪華に飾られた言葉より深く、男の心に染み渡った。
「……」
余りにも愛しい。
最強と謳われているとは思えない程に華奢な肩を抱き、潤んだ銀灰色の瞳を見詰めながら顔を近付ける。
「指揮官…」
意図を理解したのかエンタープライズが瞳を閉じ、僅かに唇を突き出す。
「エンタープライズ…」
指揮官も瞳を閉じ、艷やかな彼女の唇に自らの唇を重ねた。
雑にセックスするのもいいですが、ある程度過程を踏むのも大事だと思うんですよ
擬音に♡いる?いらない?
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いる
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いらない
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あまり使うとくどいから、ほどほどに