なんやかんやで彼とお付き合いすることになって、2ヶ月。
異性と交際などしたこともないというのに。
「これとか……それにこのシャツはどうですか? 試着してみてください」
「着るのか? 少々面倒だが……」
ギルと私は、服を買いに来ていた。
何しろ一々、着てくる服がひどい。
行く場所によっては浮いてしまうし、私は落ち着かなかった。彼の方は気にしていないのだが。
服などに興味がないギルは、店員に案内されてしぶしぶと試着室に入って行った。
……しかし、私は何をやっているのか。
別れる口実が欲しいと思っていたんだから、服のセンスが悪いことも理由の一つにしてしまえばいいのに、わざわざコーディネートしてあげたりして。
「セイバー、着たぞ」
カーテンが開く。
「え、と、中々、いいですね」
男物の服を選んだ経験などないが、無難と思える組み合わせにするだけで、彼はかなり様になった。元々の造形は悪くないのだ。いや、むしろ、とっても整った顔立ちだ。
少しどぎまぎしてしまったが、私に褒められた彼はその比ではない。
「とととと当然だ! 我に着こなせぬ服などない……!」
私の見立てた服を一式購入して、店を出る。
他にも数店舗見て回ろうかというとき、女物の服を扱っているショップが目に入った。
店頭に並んでいる、色とりどりの新作のワンピース達。
「あ、このワンピース可愛い! でもこっちもいいかも……」
ちょっと自分の買い物もしようかと思った私に、一言。
「どちらでも良いのではないか」
「……そうですか。まあ、私の好みだとこっちかな」
「我はメイド服が1番好きだがな」
……なんだか気に障る。メイド服でデートに来いとでもいうのか。
「む?これは良いかもしれない」
どんなものだろうと目を向けると、白い襟の付いた、黒いワンピースだった。
「メイドっぽいからな!」
私は少しむっとしたまま、何も買わずに店を出た。
買い物で歩き回って、少し足が疲れてきた。
ショッピングモール内のカフェに休憩がてら入る。
メニュー表とは別についてきた、限定メニューのドリンクが目に留まった。
喉も渇いているし、これにしてみようか。
「この、ピンクグレープフルーツのソーダにします」
「紅茶じゃないのか? めずらしい」
「気分で。今月限定らしいですし」
「メイドには紅茶が1番似合うと思うがな」
「……さっきから、メイドメイドって何なんですか?」
そんなにメイドっぽいというテンプレートに、私を当てはめたいのだろうか。
私という人間を、ひどくないがしろにされている気がする。
「メイドじゃない私になんて興味ないんでしょう!?」
本名も教えたというのに、彼はプライベートでも私のことをセイバーと呼ぶし。私のことが好きだ好きだと言ってはいるけれど、本当はアーネンエルベのメイドであるセイバーが好きなんだ。
もしメイドじゃなくなったりしたら、もう興味ないんだろう。
「もう別れましょう!」
「セイバー!」
席を立つと、追いかけてくる彼を振り切って、走った。
彼は外に出るようになって日が浅い。元々体育会系女子の私が疾走すれば、付いては来れない。
電話が鳴るのも無視して、そのまま家に帰った。
翌日。
アーネンエルベのシフトには入っていなかったから、私は大学から真っ直ぐ家に帰った。それにしても助かった。……昨日の今日でギルガメッシュと顔を合わせることになるのも、気まずいから。
鍵でマンションの玄関を開け、ポストのダイヤルを回す。
ピザのチラシと、それに……怪しげな封筒?
ポストに投函されていたのは、住所も何も書いていない封筒だった。ただ表にでかでかと、『セイバーへ』と書いてある。
投函者は言うまでも無く彼だろう。履歴書を提出しているから住所くらいはわかるだろうけど、アーネンエルベで渡せばいいものを、何故自分の足でこのマンションまで……。
いつの間にかこのマンションまで来ていた彼の姿を思い浮かべると、少し寒気がした。
部屋に入って鍵を閉め、チェーンを架け、鞄を置く。一人暮らしだから戸締まりはちゃんとしないと。換気のために窓を開けると、リビングの椅子に座って一息吐いた。
さて。パンパンに膨らんだ封筒を開けてみると。
黒っぽい紙の……束?
目を凝らしてみると。
『ごめんなさい』って細かい文字でびっしり書かれて……。
「ひいっ?!」
つい取り落としてしまった。
裏側まで紙がよれるくらいに重なって書いてあるううううう!
そのとき、携帯が鳴った。
びっくりして跳び上がってしまったが、メールだ。電話には出ないと学んだのだろう。
【昨日徹夜で書いた。許してくれ。好きだ。愛してる。別れるなんて考えられない】
私は青ざめた。
「ギルまじあり得ない……」
エルキドゥは、折りたたみテーブルの前で菓子にも手を付けず固まっていた。
心なしか顔色も悪い。
いつもなら我の母親がごっそり持ってくる菓子をぱくぱくと口に運んで、我の漫画をだらだら読んでいるのだが。
「何故だ! 反省の心が伝わってくるだろうが! メールだとコピペで簡単に文字数いっぱいまで打ててしまうから、誠意が伝わらぬだろう?」
我の行動は、どうにもエルには不評のようだ。
「もっと誠意を見せるために、今後毎日セイバーの家の前で土下座して日々を過ごそうか考えているのだが」
「絶対やめなよ通報されるよ」
「ではどうしろと言うのだ」
「それはもちろん、誤解を解かないと」
「……ん?」
「だから、セイバーちゃんが怒ってるのは、ギルはメイドじゃない自分には興味ないって、そう思っちゃったからじゃん。素のセイバーちゃんが好きだって伝えないと」
「な、なるほど! エルお前、そこに気付くとは天才か!」
「むしろ何で気付かないんだろう……。怒ってるから謝っとけは余計に怒らせるだけだよ。そういう男子って結構いるっぽいけどね」
つまり、我がメイドではないあやつも愛しているとわかってもらえれば良いのだ。
簡単なことではないか!
出勤して、あの日以来初めてギルと顔を合わせる。
足に縋り付いて来るんじゃないかと考えていたが、そんなことはなかった。
いつものように、普通に、オーナーと従業員として時が流れてゆく。いっそ不気味なほどに。あんな気持ちの悪い手紙を寄越したというのに、意外と彼は冷静だった。
「ねえ、セイバー」
「どうしました?」
アイリは私のことを引っ張って、耳元で言った。
「何かあったの? 彼、元気ないみたいだけど……」
「ああ……」
なんて言おうか。でもまあ、率直に説明するなら、こうだ。
「別れるって言ったんですよ」
「ええ!?」
アイリが大きい声を出してしまって、お客さんやメイドが数人振り向いた。
「失礼しましたー」
すぐに何事もなかったかのように穏やかに謝罪する。
「……後で詳しく聞かせてちょうだい」
耳打ちすると、彼女はキッチンに戻って行った。
そんな風に何事もなく一日が過ぎた。こうして徐々に忘れて、自然消滅のように恋人関係も解消されるんだろうと思ったのだが……そうは行かなかった。
アーネンエルベの閉め作業が終わると、帰り際に、彼は私を引き留めた。
「セイバー」
私は無言で横を通り過ぎ、扉を開けようとした。
「聞いてほしい。アルトリア」
足を止めた私に、彼は続けた。
「お前に誤解を与えてしまったことを、深く反省している。不安に思ったことだろう。その様にお前を苦しめてしまったことは、謝っても許されることではない」
その真摯な言葉に、少し、心を揺さぶられた。
「明日一日、我に付き合ってはくれないだろうか」
「無理です予定があるので」
「それで、一日過ごしてやはり納得がいかぬ、信用できぬというのなら……。そのときはもう、お前を引き留めぬ。苦しいが、別れることを受け入れよう」
「え……」
振り向いてギルガメッシュの顔を見る。
「……わかりました」
了承の言葉が、いつの間にか紡がれていた。
その真剣な瞳を見ていたら、それを無下にすることができなかったのだ。
なんでオーケーしてしまったんだろうと後になって思ったけど、まあいいじゃないか。明日一日一緒に過ごして、私が別れると言えば、それで面倒事はもう、片付くんだから。
翌日、私は彼の家に来ていた。
普通は男の部屋に上がるなんてもっと警戒しなければならないのだろうけど、デートといえばここに来るのが基本なのだ。
ギルはとにかく引きこもりだ。
外出など全くしなかったのが、アーネンエルベに来てから解消されたらしい。それでも行ったことのない場所に連れ出すのは一苦労で、あーだこーだと行かなくて良い理由を並べ立てて抵抗するのだった。
しかし、ここに来るのも今日が最後。
なにか感慨深いものを感じながら、私は彼の部屋に上がった。
「お邪魔します」
「うむ」
しかし、そういえば今日は火曜日だ。ギルのお母さんはどうしたんだろう。
「あの、ママさんバレーは毎週水曜日ですよね。お母様は?」
「今日はエル……我の幼馴染みと買い物に出かけておる。気にする必要はないぞ」
「そうですか」
最後の最後で顔を合わせるのもばつが悪い。出掛けてくれていて良かった。
「さて、セイバー。我がどれだけお前を愛しているかを教えてやろう」
両肩を掴まれた。
いつもと雰囲気が違う。
……これはまずいのではないか?
「え、えっと……」
「好きだ。愛してる」
近い近い近い
「信じてほしい……アルトリア」
まずいまずいまずい
彼の肩越しにベッドが目に入ってしまって、あらぬ想像が眼球の後ろを駆け巡った。いやいやいやいやそんなそんなのまずいし私経験ないしだってえっえっええええええええええ
突然、ギルは慌てふためく私から離れた。
「これを見るがいい!!!」
観音開きのクローゼットがぱあんと開け放たれる。
…………?
一見して、なんなんだかわからなかった。
色とりどりの、服……?
「……どういうことですか?」
「ふふ、わからんか。ここにあるのは多種多様様々な衣装であるぞ。さあ、早速着てみると良い」
「ちょっとよくわからないですね」
「だから! メイドのお前だけが好きだというのは誤解だと言っているのだ! メイドではなくても、巫女でもセーラー服でも全身タイツでも、どんなお前でも好きだ! 興奮する! それを証明してやろうと!」
なにかがおかしい。
「それよりどうしてこんなに女物の服があるのですか……?」
女装が趣味だったんだろうか。
「先行投資というやつだ。いつか彼女が出来たときのために準備しておいた」
全く予定のない事象のために、何年間眠っていたんだろう……。
「さあ! どれが良い? お前にはどれでも似合うと思うが、我が見立ててやっても構わぬぞ!」
「……本当に着るんですか?」
「当たり前ではないか。彼女が出来たときのものだと言ったであろう。お前にはこの衣装達を好きなように着る権利をくれてやろう」
そういえば、この男の彼女って、私のことだったっけ……。
なんだかやたらと大きいカメラを出して、カチャカチャとレンズを変えたりボタンを押したり、撮影の準備をしている。アイリと一緒にコスプレイベントに行ったことはあるが、たぶんああいうかんじで私を撮りたいのだろう。
ちらりと衣装たちに目をやる。
何年も眠っていた、着られる予定もなかった衣装たちが、期待の眼差しでこちらを見ているような気がした。
「……これで良いですか?」
選んだのはチャイナドレスだ。
中高生のようなセーラー服は気が引けるし、巫女は着るのが難しそう、バニーは露出度が高い。そんな風に消去法で絞っていった結果だった。
「おおおお愛い! 愛いぞ! 西洋人種でありながら中華のエキゾチックな雰囲気を殺すことなく身に纏い、更には華やかな髪と瞳の色が豪奢な刺繍に負けず輝いておる!」
なんて大袈裟な褒め方だ。
まあでも、これだけ喜んでくれるなら着た甲斐もあるかな……。
椅子に乗ったり床に寝転がったり、カーテンを開けたり閉めたり。彼はせわしなく動いて私の写真を撮っている。
「座ってみるのはどうだ!」
「背景が良くない! こちらへ来い!」
そして私も、せわしなく動かされた。
「次! 次だ! 衣装チェンジ!」
「えええ? まだ着るのですか?」
渋々彼を部屋の外に追い出し、2着目。スーツがあったので、手軽そうだと袖を通す。どうやらスチュワーデスのようだ。
「……着ました」
「うむ!」
勢い良く扉を開けて入室し、またもや褒めはやす。
そして撮影。
別の衣装の要求。
その繰り返しだった。
これはまさか、このまま全ての衣装を着るまで終わらない……のか?
「衣装チェンジ!」
彼が何回目かの宣言をしたとき、クローゼットに残っている衣装は2着のみだった。
片やスクール水着、片やバニーガール。
「無理! 無理です! もう勘弁してください!」
どちらも肌色面積が高すぎる。
「お前ならどちらも着こなすことが出来よう! 案ずるな!」
「そういう問題じゃありません!」
それに、スクール水着を着こなせるのはどうなんだ。私が幼児体型だと言いたいのか。
「ううむ、そんなに嫌か」
「嫌です無理です」
今着ている体操着もすでに結構きついというのに。
「では……仕方有るまい。あと1着! どちらかだけで良い!」
「ええええどっちか着るんですかあああ!?」
「着替え終わったら呼ぶが良い!それまで廊下で待つ! 何時間でもお前が着るまで待つ!」
彼は扉をぴしゃりと閉めた。
……どちらか着るまで、私、この部屋に監禁されるんだろうか。
いや、家族の方が帰って来れば……。待てよ、帰って来てしまうまでここに居ることになれば、彼女ですなんて紹介されて、しかも私は体操服のまま……とか……?
どう説明するんだ。
開け放たれたクローゼットにそっと目をやる。
どっちか着れば。着てしまえば解放される……。
自由への誘惑に駆られて、私はその衣装に手を伸ばした。
「……着まし、た」
扉を開けた我を待っていたのは……!
可愛い可愛いウサギちゃんだった。
「おああああああああせえええばああああああああ!!!」
「ああああんまり近寄らないでください!」
身体を隠すように丸まって、ただでさえ小さいのに余計に小さい。
恥じらっている様子も合わせて愛い。実に愛い。
「この様に愛らしいウサギさんは世界広しと言えどもお前しかおるまい! 華奢な細腰といい白い肌といい、バニーを着るために造形されたようだ!!!」
「……そうですか。ええ。その調子でスクール水着を褒められるのは正直イヤだなと思ったんですよ。世界で1番スクール水着が似合うとか言われるんだろうなって」
もちろんだ。
何がイヤなのか皆目見当もつかない。
「あの……撮影するならさっさと済ませてください」
「なんだやる気ではないか!」
「違いますよ! 早く着替えたいんです!」
照れおって。
「ではまずは全身で撮るぞ!」
「は、はい」
そう返事はしつつ、彼女は今までよりも、明らかに姿勢が悪い。
レンズに視線も向けない。
「胸を張れ! 目線も!」
「ううう」
なんとかポーズを取るが、表情は実にぎこちない。笑顔なんてリクエストしても、以ての外だろう。
「まあ、これはこれで良いか……」
恥ずかしがっている姿も愛いものだ。
「バニーなのだから、セクシーなポーズが合うだろう」
「せ、セクシーですか!?」
「そうだなあ……そこに座れ」
ベッドを指さすと渋々と移動し、その隅っこにちょこんと腰掛ける。
「おお! これは中々!」
カメラを構えて回りを移動し、居たたまれない表情でベッドに座るバニーを撮りまくった。困惑気味の様子がなんだかいかがわしい。
「M字開脚とかどうだ」
「できませんそんな恥ずかしいこと……!」
「では体育座りで妥協しよう」
「……こうですか? 結構、きつい。この衣装背中曲がらないです……」
堪らん……!
少々ハイレグ気味な衣装のため、太ももというか、おしりの丸みが正面からもわかる。コルセットのように骨が入っているため背筋が伸びているが、それがまたエロい。
「そういえば下着は……」
このバニースーツの切れ込みの深さでは、パンツ丸見えになってしまうんではなかろうか。
「……っ! 出てしまうので……っ脱ぎましたけど」
真っ赤になって申告するセイバーに、手が震えた。
今この下はパンスト直履き状態だと!?
「そのまま、少しだけでいいから足を開け」
「無理です!」
「5センチ! 5センチ膝と膝を離してくれたら次のポーズに移行するという条件で!」
「うぅ」
体育座りは衣装の構造上きついのだろう。早く終わらせたいのか、おずおずと足を動かした。我はというと、レンズ越しに透視でもする勢いで、震える足の間を凝視である。
「も、もういいでしょう?」
「……うむ。良いだろう。素晴らしいポーズであった。次はそうだな……雌豹とか」
「めひょう?」
「こういうやつだ。グラビアとかで見たことないか?」
ベッドの上で実演して説明する。
「えっと、またそういうやつですか?」
「そういうやつとは?」
「…………えっちなやつ」
赤くなってそう呟く顔が天使。
「セクシーな、だ。バニーの衣装であるし、色っぽいポーズは変ではないだろう?」
そう言うと、納得したのかしてないのか、ゆっくり四つん這いになって、それらしい格好をした。ウサギの尻尾が強調されて、なんだか可愛い。
「よいぞ! 目線をこう、上目遣いに……そうだ」
俯瞰で撮ろうとして、その胸元にどきりとした。
上の方から覗くと、衣装の胸が余っているため、かなり見えてしまうのだ。こ、これは。もうちょっと……もうちょっとで、先っぽ見える……。
「あ!」
視線に気付いたのか、彼女は身を起こして胸元を押さえた。
「セイバー! ああ、愛い!」
ほぼ同時に、ぎゅっと抱きしめる。こんなギリギリのラインを保ち続けるのはもう無理だ。若干浮いてしまっている胸元へ、片手で抱きしめたまま手を伸ばした。だが。
くっ……!
高級志向が仇となった。
しっかり形が作られているこの衣装は、体型補正が完璧だ。そのため、エロゲでよくあるように胸の生地をぺろんと裏返すことが出来ない。
布地も丈夫で硬いし、その上から触っても柔らかくない。
「ちょ、ギル!? ギル! どこ触って……」
致し方がない。後ろのファスナーを一気に下ろした。
「わわわなにするんですか!」
ずり落ちる衣装に慌てて、胸を両手で隠す。そのポーズも可愛らしいのでカメラを構えた。
「ととと撮っちゃだめです!」
セイバーはカメラを下ろさせようと乗り出して片腕を伸ばす。しかし、姿勢を変えるとずるずるとバニースーツがずり下がった。
「うわわわわ」
腰元まで下がってしまった衣装の中でへたり込む。相当混乱している様だ。
「本当に下着を着けていないのか確認してやろう」
黒いストッキングの太腿に指を這わすと、反射的に後退った。そんなことをしては腰に纏わり付いているだけの服が余計に脱げてしまう。それを押さえたり我の手を払いのけたり、とにかく彼女は忙しい。
バランスを崩して後ろに倒れてしまったのをいいことに、彼女の身体を跨いで馬乗りになった。
「胸が映ってしまうぞ?」
言われて焦ってまた両手で胸元を隠す。
その隙に、足の付け根に這っていた指を滑り込ませた。
「あ!」
両手を放して秘所に添えられた指を引き剥がそうとするが、この体格差で上に乗られては無駄なこと。小ぶりな乳房の膨らみと、可愛らしく尖ったその先端を、我の目に晒しただけのことだった。
「あ、濡れてる……」
左手の指先に触れたストッキングは、湿り気を帯びていた。
先ほどのいやらしいポージングで興奮してしまったのだろう。知識としては知っていたことだが、実際こんな風になるのか。
「違う! 違います! 触っちゃだめですっ!」
真っ赤になって涙目で否定してくるが、指摘された恥ずかしさからか、染み出てくるものは量を増した。
もうこうなっては、こっちだって正気じゃない。
右手に持っていたカメラを置いて、露わになった胸をなぞった。柔らかい。女の身体というのは、こんなにも柔らかいものなのか。
「だめ! だめです! 私、こういうこと、したことない……!」
「大丈夫だ。任せろ」
我も実践したことはないが、エロゲーいっぱいやってるし。セイバーと交際することになった日から、毎日勉強してたし。
どうするんだったか、必死に思い出す。気持ち良くしてやるには、どうすれば良かったのか。
たしか、この辺り……。
パンスト越しの窪みに指を滑らせる。ストッキングの縫製が丁度そこに沿っているため、指の感触だけで上手く探り当てることができない。
「っあ」
まさぐり続けていると、小さく声が上がった。
その反応を手がかりに、触れている辺りを行き来して確かめる。
「や、あ、あ、だめ……!」
ぎゅっと太腿を閉じるが、我の手首を挟み込んだだけで、指が動くのを妨げることはできない。刺激を受けているうちにそこが膨らんで、わかりやすくなる。男のそれと同じようだ。
細い首も、鎖骨も、張りのある胸も。手や舌を使って、全て味わった。
やがてセイバーは身体を震わせて身を丸め、息を吐き出すと、ぐったりと脱力した。
「ん……」
腰の周りで団子になってしまっていた衣装と、汗で纏わり付くストッキングを脱がした。ウサギの耳と、襟、カフスはそのまま。
抱きしめると汗をかいていて、しっとりと濡れた肌が吸い付いてくる。その感触が心地よくて、自分も上を脱いで密着するように抱擁した。
まだ浅く呼吸をして、薄く開いている艶やかな唇に、目が行く。
キス、したい。
指先で、唇をなぞる。柔らかい。ふにふにしている。
自分の唇を、そこに重ねた。ああ、とても幸せな気分だ。
「好きだ、セイバー。いや、アルトリア。お前を愛してる。三次元で好きな人ができたのは、お前が初めてだ」
どうしよう。言ってて涙が出てきた。声も震えて、上擦ってしまう。なんとも情けないが、それでも良い。
我の言いたいことが伝わってくれるなら、情けなくても良い。
「ずっと大切にするし、なんなら今日中に入籍しても良い。だから……」
「ギル……」
我の真剣な想いが伝わってくれたのか、セイバーは潤んだ瞳で我を見つめた。
「我の初めてをもらってください!」
「いや逆でしょう!?」
ベッドの下から秘密の道具箱を取り出す。王の財宝である。避妊具の類もバリエーション豊富に持っているし、自分用に使ってるローションもある。
こんなに潤っているならローションを使わなくても良い気がするが、しかし、使いすぎるくらいの方が痛くないだろう。
「つめたいっ!」
直接そこにたっぷりローションを絞り出すと、彼女は抗議の声を上げた。
「む、すまぬ。温めてやらねば駄目だったか」
慌てて掌で温めようと、そこを覆うようにして液体を塗り広げた。
「う、んっ」
指先が割れ目の内側を這うと、切ない噛み殺したような声が漏れる。嬉しくなって、先ほど見つけた弱い部分を再び可愛がった。
「あ、ああ」
良い反応に昂揚する。このままもう一度絶頂させてやりたいが、今回の目的はそうではない。内ももを掴んで、大きく足を開かせた。
「やあああだめです見ちゃだめえええ!!!」
手を伸ばして隠そうとするの手を押さえて制した。
「見なければわからぬ!」
触っているだけではその複雑な形が理解できない。
「ここか……?」
指を潜り込ませる。潤滑剤のおかげで入るには入ったが、想像よりもずっと狭い。こんな小さなところに、我のものが本当に挿るのだろうか……。
指をそろりそろりと動かす。中は堅くて、でも温かい。
「痛い、か?」
「痛くない、けど、無理、もう、死ぬ……」
見られていることが恥ずかしいのか、この行為自体が恥ずかしいのか、目を逸らしたまま彼女は言った。とりあえずいっぱいいっぱいになっているということだけはわかる。
避妊具の付け方なら、来るべき日のために練習済みである。
「少し、我慢せよ」
初めてというのは、どうしたって痛いものらしい。
自分のモノにもローションをだばだば垂らして、そこに、押しつけた。それだけで既に、我の興奮は最高潮に達している。まずい。挿れてないのにもう、出そう……。
「うううっ!」
押し込むと、アルトリアは痛みに声を上げた。でもこっちも痛い。彼女ほどではないのはわかっているが、痛い。痛みで射精感が少し和らいで、それだけは幸いだったが。
先端だけが挿っている。いや、刺さっている。だが、あんまりにも辛そうでこれ以上進められない。
「息を吐くのだ。力を入れるな」
「痛、い。ううう……」
彼女は息も絶え絶えに顔を顰めて、固くシーツを握っていた。
こんな風に弱っているアルトリアは見たことがない。苦しんでいるのに悪いが、その弱々しい姿につい、ときめいてしまった。
ゆっくりだ、と己に言い聞かせながら、少しずつ少しずつ割り開く。中は、入り口よりはキツくなかった。自分にかかる痛みが緩和されて、その代わり、気持ち良くなってくる。だが、まだ動くのは我慢しなければならない。……なんて忍耐を要する作業なのだ。
入りきってしばらくすると、ぎちぎちに緊張していた内部が抵抗を弱め始めた。
「楽になってきたか?」
「……少し、は」
その表情からも、だいぶ楽になっていることが窺えた。
腰を、動かしてみる。痺れるような快感が、頭を真っ白にしてしまう。今まさに、アルトリアと交わっているのだ。現実に。想像よりもずっと、温かくて柔らかい。
「アルトリア……っ。ああっ」
彼女の方はと言うと、息は荒くなっているし頬に赤みは差しているが、我ほどには快感を得られてはいないようだ。最初はそういうものらしいし、今後我が開発してやれば良い。
「ここは、悦いだろう?」
指を添えて、先ほどのように小さな突起を撫でる。こちらならば彼女も気持ち良くなれるだろう。ただ、腰を動かしているせいでそこも動いてしまっていて、上手くそこに指を固定できない。揺れに合わせて掠めるくらいにしか刺激できなかった。
「んっ、ふ」
「うぉっ」
それでも充分な効果があったようで、中が大きく蠢いた。
我慢できない。
動くのを一端止めれば落ち着くだろうに、それもできない。
「っく、うっ」
割と呆気なく出してしまって、しかし、得も言われぬ満足感であった。
シャワーを借りて、身支度を整えて、出されたスポーツドリンクを淡々と飲んだ。
わ、私は、彼と、えっと………………
思考停止。
こんなことになってお別れしますなんて、そんなアレではなくなってしまった。その場の雰囲気というのは、かくも恐ろしいものか。責任を……取ってもらわないと。いや、責任ってなんだどうやって取るんだ、入籍? いやそれこそ彼の思う壺であって……。
あああ考えが纏まらない。
とりあえず、帰ろう。帰って寝るんだ。
それで明日考えればいい!
「お邪魔しました。今日はもう帰ります」
部屋を出て、階段を下り玄関へ向かう。彼はその後ろを付いて来た。
「もう少しゆっくりしていたらどうだ? 身体に異常はないか? 今日は送って行くぞ?」
「いいえ大丈夫です!」
確かに違和感はすごくある。まだ何か入っているような、異物感を感じる。だからこそ、彼と顔を突き合わせているのが気まずいのだ。
靴を履こうとしたそのとき。
私のライフは既にゼロなんだが、更にたたみ掛けて、イベントは起きた。
「ただいま」
目の前で扉が開いた。
「あれ? わー! セイバーちゃん? セイバーちゃんだよね! ギルと付き合ってる! すっごく会いたかったんだ~!」
女の子が、人懐っこく駆け寄って来た。
その後ろにいらっしゃるガタイの良いご婦人は……。
「おお、これは。うちの息子が世話になっている。ギルガメッシュの母だ」
「ど、どうも、初めまして……アルトリアです」
なんというタイミングだろう。
私の幸運値はここまで低いものだったのか。
「ギルガメッシュ、アルトリアさんがいらっしゃるのならそう言っておけ」
「……母親となるべく距離を取っておきたい息子の気持ち、理解せよ」
息子から視線を外すと、壁のように大きいお母様は、じっと私を見つめた。
「ずっとお目にかかりたいと思っていた。なんて礼を言って良いかわからない……。君に出会うことがなければ、息子は家に閉じこもったきり、就職するなど夢のまた夢だったことだろう。それがこうして彼女を家に連れてくるまでになって……」
手をがっしりと握られて、完全に私は捕食される小動物の気分だった。
「これからも、息子を……ギルガメッシュを支えてやってほしい」
「え、ええ、よろしく、お願いします……」
「アルトリア、夕飯を食べて行ってはどうだ?」
ギルガメッシュがキラーパスを投げた。
「いいいいいいえそこまでお邪魔するわけには」
「食べて行くといい。エルキドゥちゃんも食べて行くし、3人が4人になってもそう手間ではない。さあ、リビングへ行こうか」
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
「わーい、僕色々聞いちゃおうっと!」
「エル、失礼のないようにな」
「ギルに言われたくないね!」
引き摺られるようにして連行される私は、今後数十年にわたる己の運命を悟ったのだった。