※この作品はR-18です。

遠坂凛の受難――紫王の流儀外伝   作:間宮卓郎

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第1話 暗迷の夜

 これで、お前は僕のモノだぜ……

 その時、彼はそう言った。

 あの少年は、耳許で、静かな声で。 

 

 灼熱の、闇の中だった。

「ああ……ん」

 その中に、彼女は独り、取り残されていた。

「うぅん…ああーーー……はぁ、はあ、はあ、はあ」

 悪夢すら見ることの叶わない、地獄。肉体(からだ)はどこまでも熱くなり、全身でかいた多量の汗が、ベッドシーツを濡らし、浸し、彼女のしなやかな素肌に纏わりつかせる。

 彼女は――黒く長い髪をしていた。それを頭の左右に一房ずつリボンで、ツーサイドアップに束ねている。

 冬木市の高校に通う、3年生の少女。

 そして、全裸だった。豊満というには僅かに及ばない双乳は剥き出しで火照り返り濡れ光り、形の整った卵型の尻も……

 いや……ショーツを穿いているように見える。だが、違うのだ。

 夜闇に閉ざされた部屋のベッドの上で、妖しくぼんやりと金色に輝くそれは、少女のわななく臀部をすっぽりと覆っていた。

 色こそ派手ではあるが、形自体は意外に凡庸なショーツ。白やベージュなら、どこにでもあるような代物に見える。

 厚みもそこそこあるのか、少女の尻肉が透けることもなく、ありきたりな布地のようで……それでいて、けっして衣類ではなかった。少なくとも、ただの下着ではない。

 それは、少女の淫猥な、しかし可憐さの名残を感じさせる尻や股間にぴったりと張り付き、驚異の伸縮と柔軟性で一本のシワすら寄らせず、しっかりと形をなぞっている。

 しゃぶりつくように。

 その上で、よく見ると、金色に光る布の裡側で、不気味な蠢きがあった。

 動いている、ショーツの中で。

 細く長い、ミミズのようなモノが少女の、形の整った尻の表面を、股間の秘められた部分を這い、撫で擽(くすぐ)っている。

 少女の両太腿は、左右ともほど良い肉付きで、それはぴったりと隙間なく合わさり、震えながら擦り合わされ……

「はあ、はあ、はあ……はっ!! はぅあぁぁーー…ん……っうーーーーー……!」

 その時、そんな少女の股間から、くちゅり、と音がした。

 じゅるり、とも。

 少女は、甘く甲高い悲鳴をあげずにはいられない――下品で、淫猥な音色。

「ああ……ぁあん……あぁーー…ん」 

 少女は性的に、すでに達しかけている。自分自身で慰めることにより得られる快楽を、遥かに超える快感によって。

 だが、達してはいなかった。朝から、ずっと。

 たしかに、それが生じさせている刺激はあまりに微弱だった。気を張って堪えようとすれば、我慢できないものでもない。

 それでも、一日中嬲られていれば当然、たまらなくなってくる。

 少女が両腿を閉じているのは、自分の大事な部分――感じやすい部分を、少しでも蹂躙から守る為だった。股間と、肛門に力を入れ、固く閉じている。

 しかし、彼女の淫核(クリトリス)はすでに充血して凝り、尻の小さな菊門も熱くひりつき敏感になっている、かつてないほどまでに。

「はあ、はあ、はあ……あぁん……そんな…………」

 イきまくりそうで、ぎりぎりイかずに済んでいる…なぜなのか。そんな状態が、日中、夕方を経て夜を迎えても続いている。

 性的ストレスと消耗で頭はがんがんと痛いというのに……容赦なく続く、加減のきいた、ねっとりと陰湿な愛撫。

 それは、生物だった。

 ショーツに擬態し、少女の汗ばんだ尻肉に張りつき、貪りつくように股間に食い込むそれは、魔術によって生み出されたこの世ならざる妖物――蟲だった。股の間にあたる部分から裡側に向けて触手を何本も生やし、少女の性器や肛門の入口を弄っていた。

 執拗に。

「ああ……ぁ……ぐすっ……はあ、はあ……あああ……」

 そのおぞましさと恥辱で、少女は泣いていたが、それらの責めに人間的な妥協や不徹底さはない。

 まるで蛇のような……蔦のようでいて明らかに動物的な衝動、嗜好を思わせる動きで、細長いモノたちが、金色ショーツの中で活発に這い回り続ける。

 淫核(クリトリス)を、肛門の皺をひとつひとつ、丹念に……いつまでも。

 少女は、魔術師だった。だから、知っている。

 蟲は、魔道の業によって創り出される。奇怪で異形の生物――幾重もの触手は、一個の生命体。人間のような知性は無いものの、それでいて統一された意思を持ち、動いている。

 それは、少女の潤沢な魔力を、彼女の汗やその他の体液に溶かし込む形で啜(すす)り取っていた。

 養分として。

 ゆえに、蟲に覆われた腰から股間にかけて、大量に分泌している筈の汗や体液は、一滴たりともまったく漏れ出してはいない。

 それは溶かし込まれた彼女の魔力も急速に搾取されたことを意味している。

 なんとか責め苦を脱しようと藻掻いていた少女が気づいたときには、魔力はほとんど奪い尽くされていた。しかも徐々に回復してゆく分も、都度に貪られている。

「やめ、て……ああ……もう……」

 少女の懇願も空しく、蟲ショーツは蹂躙を止めなかった。その蟲にとって、人の魔力は餌。しかも、その少女の持つ強力な魔力は、何にも代えがたい馳走。

 止めるはずがなかった。

「嫌……ぁ」

 たまらず、少女の右手が、また蟲ショーツに伸びた。自分の肌から引き剥がすつもりだった。場合によっては、引き千切ってでも……

「ん……んんぅ……」

 だが、蟲の端は彼女の指先に引っかかりもしない。まるで素肌と一体化したかのように、強く密着していた。

「ん…! ん…!」

 それでも、根気よく爪の先で縁を引っ搔き続ける。すると……

「ん、んん……んーーーーー!!」

 激痛を感じ、少女はショーツから手を離した。

 見ると、指先から血が流れている。咬まれたのだ。蟲ショーツは、表面のどこにでも一時的に蛇のような口を生じさせ、鋭く小さな牙で咬みつけるようだった。

 大丈夫……傷はすぐに――ほら、もう治った。少女の指先に、傷口はすでにない。

 だが、やはり、忌まわしい蟲を引き千切る試みは今回も失敗した。

「あ……んぐ……っ……」

 少女は、指に付着する自分の血を舐め取った。怪我は、すぐに癒える。おそらくは、蟲が治してしまうのだ。啜(すす)り取った凛の魔力を用いて。

「くぅ……いつまで……ああ」

 股間から、蟲を引き剥がすことはできない。魔術を使おうにも、魔力は奪われ枯渇しきっている。かと言って、執拗な焦らしで性感を掻き立てられた肉体(からだ)は、一刻の猶予もままならない状態。

 それにしても、おかしい。

 と、少女は思った。ありえない、ここまでされているのに、一度も、ただの一度もイけてないなんて。

 感じやすい部分をしつこく嬲られている上、魔力を完全に消耗しきっている。

 魔力が不足した魔術師は、強烈な性的ストレスを覚える。

 なのに、性的絶頂が訪れない。

 魔力を喰らうだけでなく、何らかの呪縛を掛けているのは明白だった。

 あまりにも長い、勢いに乏しい絶頂感……

 苦しい。とうに許容の限界を突破し、苦痛でしかなくなっていた。

 どうすればいい?

 少女にとって、状況は絶望的だった。打開する手立ても思いつけず、考えあぐねているうちに、全身を火照らされ、魔力を吸い尽くされ、さらに事態が悪化してしまった。

 分からない、もう、どうすればいいか。

 少女にとって分かっていることがあるとすれば、それは敵の動機だった。

 おそらくは、聖杯戦争絡み……迂闊だった。魔術師として何ら力を持たない奴だと決めつけ、油断してしまったのだ。

 さらに最悪なことに、あの少年の目的がそれだけではないことが、透けて見えることだった。決まっている。彼が狙うは、彼女自身の――

 少女には、自分が他の魔術師に狙われる覚えが幾つもあった。

 相続した莫大な財産、価値ある所有物……それだけではない。魔術師なら、彼女の肉体(からだ)に備わった魔術刻印や聖杯に選定された証としての令呪も、奪ってでも手に入れたいと思うだろう。

 そして、何よりも、魔術の名門・遠坂家の至宝、未来そのものとも言える彼女自身の――子宮。

 遠坂家の当主である少女を犯し、子を産ませることが出来れば、それは遠坂家のすべてを奪ったことに等しい。

 そうに決まっている、と少女は思った。

「あいつ……」

 そういう奴なのだ、彼女に奇怪で恐るべきショーツを穿かせた少年は。

 まともに戦っても勝ち目がないと知って、こんな下劣で卑怯な真似を……

 蟲は、まだ少女の中に侵入してはこない。膣や肛門の中はまだ手つかずのまま、未経験の状態を維持していた。

 股間や尻の筋肉を堅くして、必死で守ってはいるが、そもそも入り込むまでのつもりがないように思える。

 少女の魔力を奪うだけが目的なのかもしれない。だが、彼女は直感する。きっとこれは、下僕の蟲に先を越されたくないという意思表示だ、と。

 この蟲の飼い主が、今夜にでも現れるだろう……彼女の、処女を求めて。

『大変そうですね……』

 その〈声〉に、少女は全身を硬直させた。

 また、聞こえてきた、謎の〈声〉……幽(かす)かな、それでいてはっきりと聞こえる。耳を通さず、頭の中に直接響いているようにも思える。

 甘く、いやらしい、女の〈声〉だ。

 今朝、学校で、この蟲下着を穿かされてから……あの少年に。まったく、校内でなければ、秘匿義務違反を恐れることなく、こんな蟲、さっさと退治できたのに……それから、時折聞こえてくるのだ。

 幻聴のように不確かな〈声〉が。

 見られている?

 この痴態を、女に?

「や…嫌ぁ……」

 少女は、俯せになって身を縮めた。

 家に戻ってからは聞こえていなかった為、油断していた。気のせいだったのだと自分を思い込ませていた。

 もしかして、ずっと監視されていたのだろうか、魔術の心得のある何者かに。

 羞恥と屈辱で息が詰まりそうになる少女の、妖艶さすら滲む背中がくねる。

「あ……誰?……何なの……んあ…………」

『そろそろ、仕上げてしまわなければなりませんね、遠坂凛?』

 息も絶え絶えな少女――凛の誰何もあっさりと無視し、女の〈声〉は逆に呼びかけてくる。

 恐る恐る目を開け、暗い部屋を見回すが、誰かの気配はない。

「はあ……はあ……はあ……」

 見慣れた部屋の中に、彼女自身の吐息のみが聞こえる。恐怖を感じるべき状況だったが、凛にはそんな余裕すらなかった。

 いや、恐怖はたしかに感じているはずなのに、それがすぐさま、別の気持ちに置き換わっているかのような感覚――

 怖い。だが、ベッドの上から動けない……逃げられない。疲れのせいか?

『さあ、仰向けになりなさい』

 ねっとりとした、いやらしい〈声〉――

 凛は、シーツを噛んでそれに抗う。

「う……ぐぅ……」

 〈声〉は、怯みもせずに続く。

『そう……だったら、そのままで、背を伸ばしてごらんなさい。思い切り、強く、きつく……こんなふうに』

「ん……んああっ!!」

 その時、凛の背筋に何かが触れた。細い指先のようだった。それが、凛の腰をベッドに沈めこませていく。

 ゆっくりと優しく、ではあったが、有無を言わさぬ力が籠められてあり、凛は肩と尻を浮かせ、大きく仰け反る姿勢をとらざるをえなかった。

「あ……」

 一瞬、髪の長い、無骨に厚い目隠しをした女の姿を、凛は背後に見た気がした。

『背筋をぴんと、力一杯伸ばした方が蟲による刺激を堪えやすいでしょう? ほら、もっと腰にも力を籠めて、お尻を誰かに差し出すように』

 卑猥な、音無き囁きは止まらない。

「やっぱり、英霊(サーヴァント)……! 聖杯戦争は……あン……もう、始まって……」

 確信をもって、凛は呻いた。

『ふふふふふ……っ』

 凛の直感を、笑い〈声〉が肯定した。

『凛、あなたはもう、聖杯なんて気にしなくていいのですよ。あなたが執着するべきなのは、その肉体(からだ)を、持ち主に最大限気持ちよく使ってもらうにはどうすればよいのか、ということだけ』

〈声〉が示した現実は、凛には到底受け入れられない代物だった。

「はあ、はぁ…………あ、はん……何を……うう……」

 激しい憤りに、凛が昂ぶる。もともと、直情的な性格だ。怒らないわけがなかった。彼女の肉体(からだ)は彼女自身のものだ。他人の所有物にされた覚えはない。

 女の姿は消え、背の圧迫も感じなくなっていた。凛は楽な姿勢に戻ろう背を丸めた……が、すぐにまた、反らしなおした。そうしているほうが、淫らな責め苦を我慢しやすいという女の言葉自体は事実だったのだ。

 背骨を力一杯、弓なりに反り返らせる、腰のあたりで痛みが生じるほど。これで、蟲の淫らな刺激を感じにくくできる……

「は…………」

 その時、ぞくり、と悪寒が走った。脇腹から尾てい骨のあたりにかけて。

 そして――

「んぐぅ……は、は、はぁあん!」

 炎が噴き出す……股間から。燻っていたものが、一気に燃え上がり、迸った。

 凛は反射的に、さらに背筋を反らした。背骨が嫌な音を立て、痛みは激痛に変わる。

 沸々と燃える怒りによる昂ぶりのはずが、何か別の昂ぶりに一瞬で変わったのを、たしかに認識した。

 激しい興奮……変化は、裡側から訪れた。

 怒りは歓喜に、嫌悪は切望へ……

 外部からの刺激さえ堪えればよいと、凛は考えていた。

 肉体(からだ)を弄られる感覚を打ち消すための痛み……堅牢な城壁を築いたはずなのに、あろうことか敵は、城内に潜んでいた。

 自分を守るための壁際に、追い詰められてゆく。

 感情による、理性への裏切り。

 彼女自身の、欲情の増幅。

「あ! あ……あン! あ……あ! あ! あ!」 

 喘ぎとともに、多量の唾液を吐き出す。全身を蝕む高熱と痺れに、食い縛ることもできず、のたうち回る、凛。

 金色のショーツは、変わらない卑猥な触手の蠢きで容赦なく彼女を追撃する。

「ああ…ん。何で、こんな……はぁ……!」

 痛みが、ぜんぜん足らない。

 軽い痛みでは、かえって気持ち良くなってしまう。

 それに、外部からの刺激――触手による焦らし気味の責め、陰湿に悪意をもっていやらしく局部を撫で回されることが……嬉しい。歓喜を感じてしまっている。

 背骨や腰に生じた痛さで、相対的に股間への刺激がある程度中和されるものの、それが急速に効かなくなってきていた。

 そして快感のみならず、嬉しさまで堪えるためには、さらに、もっと強烈な痛みが必要だった。凛は首を伸ばし、捻り、昂ぶりに打ち震える肉体(からだ)を叱りつける。

「あ! あ……んん……はぁん……ぐす……あぁん…………は……は……は……っ」

 痛い。だが、少しでも抵抗を弛めれば、一気に流されてしまうだろう。

 気持ち良くなりたいという、自分自身の情欲に。

 涙を流し、死にかけている、美しい肢体を持つ誇り高い少女に、たたみかけるように、〈声〉が無慈悲にも囁く。

『仰向けになりなさい、凛……そう、それでいい。もっと背筋を反らせば、より刺激を我慢できるはずです……そう、理性を、しっかりと保って。そして、今一度、はっきりと思い出してください。あなたの肉体(からだ)が、誰のものなのかを』

「わ、私の体は、私の……!!」

 弱々しくもそう応じながら、凛は仰向けになっていた。そして背骨が折れるほど、全身を反り返らせ、くねらせる。

〈声〉に従えば、その場しのぎにはなる。だから、つい聞いてしまう。

 執拗に、自分の肉体(からだ)を痛めつける。

 理性を失いそうになる快感を堪えるためだった。

 しかしそうしていると、悪い感じに気持ちが高まってくる。雌の本能が刺激され、蝕まれる、感じ。

 嬉しくなってしまう。

 蟲ショーツによる呪詛の効能だった。

 だが、これ以上はさすかにもう痛くできない。痛みだけでは駄目だ。どうすれば……

『綺麗ね、凛。とっても美しいわ……』

 その〈声〉に、凛はぞくりときた。突然の麗句、女の本能をくすぐられる。

『もっと、自分の内面を曝け出しなさい。そうすれば、あなたはもっと綺麗になれますから』

〈声〉が囁く、促す。

「うう……」

 ベッドの上に、凛の逃げ場は無かった。

『苦しんでは、駄目。受け入れるの。すると楽になれます。そして、あなたが心の奥底に隠してる、大事な気持ち、本当に好きな人にしか曝せない気持ち……見せて。取り敢えずは、私に』

 淫らへと導こうとする〈声〉に、誰が見せるものか、と凛は思った。

「あぁ……は……く、ン…………」

 だが……ここまでが、彼女の限界だったのだ。

『両腕は、だらんと頭の方に。腋の下をしっかりと見せて。ふふ、美しく、いやらしく見えるように。そんな姿勢をとても悦ぶのですよ、あなたの……所有者は』

 たとえ耳を塞いでも、直接脳に響く無音の囁きに、凛は頷く。

 そう、美しく、いやらしく見せないと。私の肉体(からだ)……さもなければ、そう……うん…気持ち良く……いいえ、いやらしいストレス、発散出来な、い……肉欲に溺れて、意識が保てなくなる……!!

 などと、支離滅裂な思考に、凛の頭脳は支配されていった。理性は保てている。しかし、彼女の高潔で高慢な人格の根幹そのものが変容をはじめている。

 そもそも、凛は自分に正直な女だった。そんな彼女が心を、嗜好や性癖を操作されればどうなるか?

 いつの間にか、本人が気づかないうちに、ひとりの少女が、淫らな雌獣に変わってゆく……

「はあ……はあ…………ああ……」

 絶望とも喜びとも形容しがたい熱い気持ちの中、凛は両腕を枕の方へ伸ばし、無防備な格好をとった。

 興奮と衝動が、さらに高まった。

 形の良い乳房、臍(へそ)まわり、鼠蹊部……窓からの星明かりに、濡れ光っている。湯気がたつほどの熱を帯び、黒髪の張りつく顔は苦しげに、悩ましげに――

『舌を外に突き出して、もっと深く呼吸をするの。肉体(からだ)の熱を下げられるから』

 さらに、〈声〉が促してくる。凛は従った。

 口を大きく開け、舌を真っ直ぐに出し、宙を舐めた。

「はっ、はぁー……はぁ、はぁ……」

 そして、大きく息を吸い、吐く。暑苦しい火照りが、和らいだ気がした。

『両脚も開いて……そう、限界まで……そうです、凛。いい子ですね、とても……』

 凛は、それにも従った。品の無い表情で空気を貪りながら、股を大きく開く、Mの字に。蒸れていた股間が涼しくなった。

 だが、より嬲りやすくなった彼女の性器に、肛門に、蟲の触手が殺到する。

「あ……んあ! あ! ふあっ!……ん……くうぅ……!!」

 淫核(クリトリス)だけでなく、襞や粘膜も念入りに弄られる、凛の好む強さと速度で。たっぷりと愛液を分泌するように。

 肛門も、鋭い痛みが走るようになった。牙だろうか、針のようなもので刺されている。何度も、何度も。まるで欲情に囚われた凛を叱りつけるつもりでもあるかのように、「淫乱め! 雌豚め!」と罵倒するかのように。

 どちらの穴も潤みきり、蟲は遠慮無く舐め啜(すす)る……体液の洪水を。

 蟲は、凛の性癖や嗜好を、少しずつ学習しているようだった。明らかに、そこには凌辱の悦びがあった。人間の雄が持つ性衝動と同一のものが、金色の蟲ショーツにも備わっているようだ。

 それでも、大丈夫……我慢できる。むしろ楽になった。体温は下げられたし、性的ストレスも発散できて――

「あっ! あ……あ……あん……ぅふ……あぁぁーー…ん」

 凛の泣き声に、変化が生じてきた。

 愉しげな、犯されることを歓迎しているかのような、嬉しさを含んだ声色。

 まずい、と凛は思った。

 背筋を反らし、舌を突き出して深く呼吸し、股も開くことで、たしかに外的な刺激を堪えきることには成功したようだった。

 堪えるというより、受け入れたのだが。

 だが、逆に内的な欲求が高まったように感じたのだ。臍の下あたり、凛の肉体(からだ)の最も深いところから、内側から気持ち良く、嬉しくなってきた。

 こんな、仕打ちを受けているのに。

「嫌! あ……あーーーっ! あ! あ!」

 それは凛にとって、絶対に認めるわけにはいかない感情、そして衝動。

 凌辱を、肉体(からだ)の蹂躙を待ち侘びる気持ち。

 だが、彼女の危機感、恐怖とは裏腹に、それはどんどんと強くなってくる。

『そうです、凛。気分が楽になったでしょう? 女は欲情すると、そんな体勢を取りたくなるもの。さあ、あなたのご主人様の顔を思い浮かべてみて……そうすれば……もっと、いやらしい気持ちを高められますから……ふふ』

 悪びれもしないその〈声〉に、凛は臍(ほぞ)を噛んだ。

 しまった!

 何のことは無い。性的ストレスを抑えられたのではなく、凛の心の奥底に眠っていた雌の本性――雄に玩(もてあそ)ばれたいという気持ちが剥き出しにされ、現状を受け入れてしまっただけだったのだ。

 迂闊にも敵の策に乗せられてしまった、凛。

 かと言って、姿勢を解いても蟲の蠢きによる快感を我慢できなくなるだけ。いや、過度の興奮のためか、肉体(からだ)はすでに動かなくなっていた。

 違う――

 動きたくない……このまま、蟲に、誰かに、無茶苦茶にされたい、という気持ちを、理性によって抑えられない!

「う…………うぅーーん! くぅうう……!」

 高められてしまった外的要因による快感、そして昂ぶられてしまった内的要因による衝動。

 凛は敵どころか自分すらも信じられなくなる状況で、外と内とで理性が板挟みになってしまったのだった。

 このままでは……砕ける。私の……私自身が……

 そう思ったが、それでも、凛はひとりの少年の顔を、脳裡に鮮明に思い浮かべてしまっていた。

 それは、凛に蟲ショーツを穿かせた、自称魔術師――

「あ……嫌……嫌ぁ…………」

『思い浮かべてしまいました? ふふふ、でしたら、彼に、のしかかられて、熱くて硬いモノで突きまくられて、掻き混ぜられてしまってる自分を想像して』

「駄目……駄目、駄目、ダメぇーーーっ!」

 凛は堪えられず絶叫したが、〈声〉は止まない。確実に、とどめを刺してくる。

『勿論、あなたの一番大事なトコロ――そう、ここ。明け渡してください……まずは妄想の中で』

「あン!」

 凛は目を瞑(つむ)っていた。苦しさで、あるいは夢想に耽るために。そんな彼女の臍の下、ちょうど子宮のあるあたりを誰かが指で突く。

 たまらない気持ちが、切なさが、堪えられなくなった。

「あ! あぁーーーん……あん、あ……はぁああああぁあーーーーん!」

 声が、止まらない、悦びの声が。

 凛は、自分の膣内に男のモノが挿しこまれるのを思った。あの、同学年の少年の肉棒が。

『ふふふ、そうですよ、凛。とってもエッチ……』

〈声〉が誉める、女特有の嘲りをこめて。

 凛の心は少年の顔で、そして彼との行為で埋め尽くされた。

 夢想の中、凛は少年に押し倒されていた。彼女が、密かにワカメと形容している、彼のクセが強い髪の毛も汗に濡れ、いつもより直毛にちかくなっている。

 そしてその下にある双眸が、凛を小気味良さげに見下ろしていた。

 ふてぶてしい、意地の悪い、いかにも小者といった顔つき。

 凛は、全裸で股を開き、そんな少年を全力で受け入れてしまっている。膣の入り口を、性器を、貫かれて、締めつけて……そんな、希望のない想像。

 現実には、まだ味わったことのない強烈な刺激――それを彼女の明晰な頭脳が、必死に思い描く。

 雄に子宮を奪われる雌の愉悦。

「あ! あん! く…………ふぅううん! ふあぁああーーん! あは……ぁん」

『いいことを教えてあげます。あなたはもう、独りではイけません。ご主人様に中出しされない限り、達せない肉体(からだ)に、すでに作り変えられてしまっています、その蟲によって』

「あ! あぁーーー……は! あ! あ……くぅ…………!!」

『だから、頑張って尽くしなさい。これからのあなたにとっては、彼に孕まされることがすべてなのですから……ふふ、股間を触ろうとするとまた噛まれますよ。気をつけなさい。その蟲は今のあなたより、立場が上なのです。非礼の無いように……それなら、乳房をいじりなさい。そう……自分のおっぱいを揉みしだくの。いいですよね、凛。とても気持ち良さそう……ふふ、あなたの乳首、どうしてコリコリになってるか、分かるでしょう? ふふふ』

「あ……やっ……はあ、はあ……は……ふぅううう……! んふぅ、うぅん……」

 言葉で責められながら、凛は泣いていた。自分の双乳を強く握り、絞りつけて。

 意識は朦朧とし、自分がなぜ泣いているのかすら、すでに分からなくなっていた。

 ただ、気持ちよかった。

 憎い敵に凌辱されている自分を夢見て、現実には蟲ショーツの嬲りと言葉責め。

 そんな中、どうして今日一日、自分はこの喜悦を拒んでいたのだろうと不思議に感じていた。

 少年に乱暴に股間を使われ、膣内に射精される自分を何度も想って、開いた口からは唾液を垂れ流し、顔にはだらしない笑顔まで浮かんでいた。

 自分を観察する目に見えない女へ見せつけるように肢体をくねらせながら、固く尖った両乳首を指先で優しく擦る――心の奥に潜む淫猥で恥知らずな興奮と官能をさらに引き出すための行為だった。

 彼女の性器は、ぞくぞくとくる嬉しさと熱い心地良さを無限に生み出している。

 今までに味わったこともない喜びに、凛の心は満たされていた。 

『ふふふ、いやらしい。とてもいやらしいですよ……ふふ、そんなに夢中になって、まるで発情した雌犬のよう……ふふふ』

 言葉責めは続く。このまま、朝を迎えても終わることなく、凛の気が狂うまで淫猥な宴は続いてゆく――かに思えた。

 その時、インターホンが鳴った。

 広い屋敷の中だ。ドアの呼び鈴を鳴らせば、凛の部屋でもベルが鳴り、来客が分かるようになっていた。

 その音を聞いた瞬間、凛を狂わせていた興奮が一気に冷めた。

 蟲の責め苦は止まっていない。それなのに……

『やっと到着したようですね。あなたの……一番大切な人が』

〈声〉が知らせる。

 凛は、戦慄していた。部屋から出てはならない。迎えてはならない来訪者だからだ。

 蟲は、凛の恥ずかしい2つの穴の、どちらにも侵入してこない。それを、彼女に味合わせようとする者が、来る。

 しかし、彼女の肉体(からだ)の芯がぶるっと震える。熱の冷めた全身が、今までとは少し異なる昂ぶりで戦慄(わなな)きだした。

 凛の意志に反して、彼女の肉体(からだ)が期待している、勝手に……

 それは、蟲による呪いのせいだった。

 

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