ご注意ください。
喪わない未来へ向けて
間違いなく俺は死んだ筈で、生きてるなんてのは、おかしいのに、どうやら俺は生きているらしい。
怖い顔のおじさんを相手に泣いた直後、その人は頭に風車を乗せて気を引いてくれた。その時俺は、その優しさにホッとして笑ってしまったのだ。
まさかそれが、新たな俺としての最初のイベントだったなんて事、気付けていなかった。
時は瞬く間に流れて、俺は2歳となり自分がナミちゃんの立場にあると気付いた。それは即ち、このままではベルメールさんを喪う事になるという事になるが、それよりも何度確認しても俺は男である。
俺は原作のナミちゃんがしていた万引きをせずに、本屋さんで立ち読みする事にした。ナミちゃんの立ち位置で産まれたならば、才能はそのまま受け継がれている筈だと信じて。
……大好きな家族を、喪いたくなかった。
それが例え、原作から遠ざかるのだとしても、俺は、ナミちゃんの人生を奪ったのだから、代わりに誰かを生かす必要がある筈。ただ悲しいのは……過去の俺の初恋の君が、ナミちゃんだった事だ。
俺は元々この作品のファンだった。そして、ナミちゃんが活躍するのを楽しみにしていたし、お色気シーンで大喜びした1人だった。
そう、初恋の人がゾロだと言う女がいたように、俺の初恋の君がナミちゃんだった。それなのに何が悲しくて俺がナミちゃんの立ち位置で産まれなければいけないのか。
愛する人には絶対に出逢えないと運命づけられたからには、せめてナミちゃんが愛した家族を守り抜いてみせようと決める。勿論、ルフィの事も憧れてたし、ウソップに共感してた。
ロビンちゃんにメロメロなサンジにも俺は共感したものだ。なのに何故……俺がナミちゃんの立ち位置で……いや、女じゃなくて男として産まれられた事に喜ぶべきなのか。
そんな葛藤を心の奥に覆い隠して、俺は必死だった。文字を勉強して、海図を描けるようになり、天候の読み方を学ぶ。
鬼気迫る様子の幼いナミゾウを見た人達が、少し引き気味に見守っていたなんて事には、ナミゾウは気付けていなかったのだ。
3歳になる頃には、海図を描けるようになり、天候も読めるから蜜柑の水やりについての手伝いが出来るようなっていた。勿論、文字の読み書きも出来る。それに気付いたノジコはナミゾウの頭を撫でて褒めてくれる。
「ナミゾウは凄いね。でも、どうしてそんなに、生き急いでるの?」
ノジコの慧眼にはかなわないなぁ。本当に、流石はナミちゃんの姉だ。
俺は苦笑した後、どう言ったらいいかを考えた。何も言わないなんて事は、子供には許されない。
興味を持てば確実に追い詰めてくる。だが、語る事は難しい。
「夢が、あるんだ……。自分の目で見た、世界地図を描きたい。その為には、どんな奴にも負けない強さと、知識がいる」
夢を持って頑張ってるのだと笑えば、ノジコ……姉さんは信じてくれたのか、ベルメールさんに協力して貰おうなんて言ってくれる。もし、これが上手く行けばベルメールさん……いや、母さんを守れるかもしれない。
変わったら、母さんが生きていてくれる。鍛えるのも大切だと本気で思えた。
時間が無い。時間が足りない。
そう焦る気持ちはあるけど、同時に残りの7年でやれる事をやろうと決めた。誰かを頼る事なんて、許される筈も無い。
決意を固めた俺の表情が氷のように冷たくなっていたなんて、俺は気が付かなかった。だから、姉さんが少し慌てた様子でぎゅっと抱きしめてくれる事が不思議だった。
この温もりを喪いたくない。大切なナミちゃんの姉だ。
「大丈夫。ナミゾウの事は、私とベルメールさんが必ず守るから!」
強い意思を持った姉さんの言葉に、俺は無意識で笑み崩れた。大切な、愛しい姉と母を守ると誓って。
表情を緩めたナミゾウにノジコはココアを入れて、それを飲み始めるのを待って、ベルメールさんを呼びに走る。蜜柑畑で泥に塗れていたベルメールは、ノジコからナミゾウの様子を聞き、表情を引き締めた。
「ノジコ、ありがとう。ナミゾウの所へ1緒に帰ろう」
そう言って優しく笑うベルメールに、ノジコはうんと言って頷くとその手を握り共にナミゾウの元へと戻って行った。
2人が戻った時ナミゾウはココアを飲み終えて、その場から姿を消していた。それは2人にとって恐怖だった。
いつも何かに焦っている様子のナミゾウが姿を消して何をするのかと考えれば、気が気ではない。彼はいつもここでは無い何処かを見ているように、走り続けている。
やっと見つけたナミゾウは草の中で腕立て伏せを繰り返していて、それが妙な色気と美しさを伴っているのが2人に少しの躊躇いを覚えさせる。幼い時のような笑顔は、本当に信頼してる人にしか見せなくなりつつあるナミゾウが心配でならない。
「ナミゾウ!何も言わないで出掛けるとか心配するでしょ!」
姉さんは怒りながらナミゾウに言うけど、時間は有限なのだから仕方ないだろうと思うのだ。
「ごめんなさい。どうしても強くなりたいんだ。5歳になるまでに、1度海に出たいから」
ナミゾウの言葉に本気の決意を感じ取り、2人は仕方ないかと笑う。大切な相手にのみ笑いかけるその天使のような笑顔が、消え去らなければそれでいいと思えた。
互いに互いを大切に思うからこそ、家族としての依存では無い関係をナミゾウは望んでいた。依存なんてしない、ただ……守れたらそれでいい。
「必ず5歳になるまでに海に1度出るよ。大丈夫、暫くはここを起点にするから」
笑い掛ければ2人は切なそうな顔で笑ってから、優しく言う。それは無謀な夢を語る子供を見守る大人の表情では無くて、暗闇へと突き進むように見える家族を心配する家族の表情。
「なんでも協力するから、1人で突っ走らないで」
母さんの言葉に姉さんも頷く。優しい家族に包まれた俺はなんて幸せ者なのだろう。
だから俺は誓う。誰にも未来が見える事は告げずに確実に全員を守り抜こうと。
「グランドラインも含めた、全ての島に行くんだ!世界地図、2人に見せたいから!」
俺の満面の笑みを見て、2人は仕方ないと言った。そして、母さんから体を鍛える為のメニューを渡して貰える事になった。
「でも、約束してナミゾウ。勝手に1人で何処かへ行くなんて事はしないって!」
その表情は真剣で、俺は咄嗟に首を縦に振った。悲しませたい訳では無いから、それは勿論だ。
ある日突然幼い家族が行方不明になるとか嫌すぎるのは分かってる。でも、5歳までと言うのは譲れない。
赤髪海賊団なら、頼めば恐らく鍛えてくれる。家族を守りたいのだと言えば、協力して貰える。
「我儘言って、ゴメンね。母さん、姉さん」
謝る俺に2人は何故か泣き笑いの表情を見せるから、俺は必死で2人に飛び付く。泣かせたい訳じゃないのに、なんで上手く行かないんだろう。
その時2人は母や姉と呼ばれた事が嬉しいのだと言うから、俺はホッと息をつく。悲しませたり傷付けたりしたく無かったから。
10歳の時点で魚人を倒すのは無理だろう。それならば1度は仲間になるしかないだろう。
それでもただ騙されてと言う訳にはいかない。母さんを殺させる訳にもだ。
「ナミゾウ、大好き!」
姉さんの言葉に俺は笑う。その1言があるならば何でも出来る気がした。
母さんと姉さんと村人を誰ひとり失う事無く、守る。女の子であの経験なら俺はもっと酷い目に会うだろうけど、それでも構わないと思ったんだ。
戦う力と金を集めてその時に備えよう。必ず守って、最後には解放する。
全く悲しませないなんて事は出来ないだろうけど、少なくとも肉体は守れる筈だ。俺の大切な人達を誰にも奪わせはしない。
「……絶対に、死なないし死なせないから認めて!」
「分かったわ!そのかわり、泣き言は許さないわよ」
「うん!僕頑張るよ!」
俺は素直に笑って言ったけど、それを聞いて姉さんも言う。
「私も付き合うから!」
全面協力を約束してくれた2人は、その瞬間から本格的に鬼と化した。姉さんは裁縫と料理を叩き込んで来て、母さんは体を鍛えたり医術を教えたりして来た。
その2人に教えられた事を乾涸びたスポンジが水を吸う勢いで吸収して、空いた時間には読書をしつつ蜜柑の収穫を手伝うという狂人的な日常が幕を開けた。
海図や地図、文字を覚えるのは過去の国語や英語と呼ばれる遺産もありそれ程苦ではなかったし、裁縫や料理も家庭科という遺物が役立った。図面に起こす事も苦労だとは思わなかったし、数字の計算は元々得意だった。
体を動かすのは体育の延長だったから良いし、保健体育の延長で医術もある程度までの基礎はあったのが幸いした。それ故に天才だと言われている事を、俺だけが知らなかった。
やってやれない事は無いもんだ。それを痛感しつつ、3歳のあの日から2年の努力をこえて俺は旅立った。
母さんや姉さんにはまだ早いと言われたけど、小舟1艘で海へと飛び出した俺が目指したのは、ルフィが居る筈の島。今なら、赤髪海賊団がそこにいる筈だ。
ドーン島にあるゴア王国のフーシャ村。フーシャ村しか覚えてなかったので、地図を確認して必死だった。
明らかに母さんよりも強いシャンクス達に教えをこう必要がある。そして、上手く行けばルフィにも会える。
確かルフィはナミちゃんよりも1歳年下で、ルフィが6歳の時からあのフーシャ村を拠点にして……ん?ルフィ6歳なら、俺は1つ上だから7歳じゃないとまずい?
…………早かったかも。
海の上でそんな事を考えつつもそれならそれで構わないと船を操り、とりあえず隣の島へ移動してみる。その島でまずは情報収集やら現状の力試しをしておこうと決めた為だ。
初めての海は書物での知識だけで乗り切るには大変な部分もあったが、とりあえずはなんとか乗り切れたし、島に到着する事が出来た。島の情報を集めたり地形を調査したりして、とりあえず害のない島だとわかったのでそこで夜を明かしてから自分の島へと帰った。
隣の島へ行って帰るだけというそれにかかった期間は5日。その間も毎日の訓練ノルマは行っていたし、可能な範囲で薬草学の本等も読んでいた。
それでも実際と本は違う事も多くて苦労したけど、いい経験だったと言える。俺はそれから月に1度程度の頻度で次々と違う島へと向かい、帰るのを繰り返した。
その中で海賊や山賊と遭遇しては逃げたり、戦ったりして実力不足を自覚せざるを得なかった。帰る度に海図や地図を描いてそれを溜めていく。
帰る度に生傷を増やしていたけど、それの治療を行う事で多くの知識を得られたし、経験として身に付ける事も出来た。ついでに海賊から宝を盗む事も可能だと知り、その宝を岬に隠して貯めて行った。
訓練ノルマは毎月新しく厳しいものに変わって行き、恐らく下手な大人よりも強いという状態にはなったけど、まだまだそれでは遠い事を俺は知っていた。だから焦るけど、フーシャ村には未だ辿り着けていない。
家族はココヤシ村のあるこの島を中心に少しずつ描かれて増やされる島々の地図や海図を見ては褒めてくれるし、蜜柑も上手く育っている。蜜柑の皮を使ったシャンプーやボディーソープも作ってみたし、食器洗いと洗濯の洗剤も作って肌に優しく汚れも落ちるし、匂いも良いというのを売りにして平和な島で商売してもみた。
儲けも出て、母さんと姉さんの生活も少しは安定するようになった。俺が船で何処かへ行くからその分の出費位は返したいと思って始めたけど、商売するようになった事でとりあえずは家族の役に立てるようになった。
そんな生活から1年半、俺はまたドーン島とは違う島へと上陸していた。なかなか見付けられないドーン島に内心焦る。
「……子供か?」
突然後から聞こえた声に驚いて振り向き、咄嗟に多節棍を構えたけど、それが良くなかった。見知らぬその男は興味深そうに俺を見るとふぅむと言いながら突然攻撃を仕掛けてきた。
慌ててそれに対応するように戦ってみるけど、力ではまだまだかなわない。この男、母さんと同じ程度の強さはある。
6歳である現在、俺は母さんと本気で戦って勝率2割だ。今この男に勝てる確率もそれでいけば2割。
……キツいな。どんな隠し玉があるか分からない今、勝率は更にさがるだろう。
地の利もまだ無い。到着してまだこの島についての知識を持ち合わせてないというのもマイナス要因だ。
内心舌打ちして、どうやって逃げ出すかを考える。流石はナミちゃんの立ち位置と言いたくなるような美少年であるのが災いして、女の子と間違えられる事が多いのだ。
これが悪人なら間違いなく捕まって売られるだろう。戦いの途中でバランスを崩した俺を追い詰めるように男が迫って来たので、俺は土を相手の顔に向けて放つ。
それが上手くその瞳に入ったようで痛がってる間に逃げ出せば、他の位置から拍手が聞こえてきた。それにより慌てて木に登り辺りを見てみれば囲まれている事に嫌でも気付かされる。
木から木へと移りながら逃げたとして、逃げ切れる可能性は低い。木を切り倒されたり移動しようとした時にその枝を切られたら、その瞬間に捕まるだろう。
どうしたものかと考えた時、木の影から出てきた人の姿に息を飲む。それが、探していた赤髪のシャンクスその人だったから。
そんなまさかと、内心で呟くと俺はシャンクスを凝視して肩の力を抜く。とりあえず売られる心配は無さそうだ。
「子供とは思えない強さだな。何かの能力者か?」
シャンクスの問い掛けに俺は木の上から答える。流石に知っているとは言え、信用していいとも思えないからだ。
「いや、単なる行商人だよ。突然襲われたから、反撃しただけで争う意思はない」
「それは、うちのが悪かったな」
真後ろから聞こえた声と共に俺の体は簡単に男の腕に囚われていて、ギョッとしたが見てみればそれはベン・ベックマンだった為抵抗を諦める。この男相手に勝てる筈も無い。
ベックマンに抱えられて木から下ろされると、赤髪海賊団の人達に囲まれた。俺がいったい何をしたと言うのか。
「……僕に何か恨みでも?それとも行商禁止の島だったのか?」
俺がベックマンの腕に抱えられた状態で問い掛けると、シャンクスは楽しそうに笑った。その笑顔が本当に明るくて楽しそうだから、毒気を抜かれそうになる。
「いや、悪かった。行商人の子供か。何を売ってるんだ?」
「洗剤だよ。買うつもりがあるなら商品見せるから下ろしてくれる?」
サンプルはいつも背中のリュックサックに入れてあるので問えば、ベックマンとシャンクスは恐らく瞳で意見を交わしあったのだろう、シャンクスが頷いた瞬間に下ろしてくれた。戦っても無駄だし、このまま逃げるのも目的を考えたら無駄となるから俺は荷物を背中から下ろして中身を漁る。
そして最初に手に触れたボディーソープを近くにいたベックマンに渡す。
「それが1つ目。ボディーソープ、体を洗うのに使う洗剤だよ。肌を傷めずにすむし、蜜柑の香りがするから女性に人気なんだ。肌も艶々になるから、お姉さん達にいいんだよ」
俺の言葉にベックマンは試してみてもいいかと問うから、サンプルだから良いよと答えれば即座に近くにいた男の腕に使い始めた。森の中である事を考えると本当にシュールだ。
泡立ち蜜柑の香りが漂えば、シャンクスとベックマンは驚いたような顔で俺に視線を向けて来た。その腕や手についた泡達を他の仲間から貰った水で洗い流して見れば、本当に綺麗になった事で歓声が上がった。
蜜柑の香りが体に染み付き、爽やかな人に思えたのは蜜柑の香りを俺が好きだからだろう。
「……これは確かに凄いな。これを売ってたのか」
「それも売ってる。他にも、シャンプーとか洗濯洗剤、食器洗いの洗剤も扱ってる。香りは全て蜜柑だから、蜜柑洗剤って事で、最近人気が出始めてる所だよ。買う?」
俺の言葉に赤髪海賊団の人達は顔を見合わせてから、困ったように笑った。それらを制するようにしてからシャンクスが俺の視線に合わせるようにしゃがんで、ゆっくりと口を開いた。
「突然攻撃して悪かったな。ただ、言い訳させて貰えると助かる」
俺はそんなシャンクスに頷く事で答える。シャンクスはそれを受けて教えてくれた。
シャンクスによれば、この島は猛獣や毒草が多い島で人が住んでいないから、子供が1人で歩いているのが気になって声を掛けた。けれどもその子供が当然のように武器を構えたので少しからかうつもりで攻撃を仕掛けてしまったのだと。
途中で止めれば良かったななんて言われてしまえば、俺も少しの溜息と共に謝るしかできない。
「人攫いかと思って、攻撃してゴメン。僕、見ての通り美少年だから狙われたのかと思って」
「……男の子、だったのか」
シャンクスの言葉に微かな苛立ちを覚えたのは、きっと俺の心がまだ成長しきっていないからだろう。それを深い溜息と共に吐き出して抑えると、小さく頷いた。
「よく、間違えられる。……それで、相互理解ができたところで聞きたいんだけどさ、貴方達はそんな島で何してるんだ?」
下手に敬語で話せば目立つからと敬語を使わないように気を付けて喋ると、自分で違和感を感じる。昔憧れた大海賊だ。
それも両手がある希少な姿。内心の興奮を抑えて話すだけで精一杯だ。
「ん?俺達は見た事の無い島だったから上陸していただけだ。これからこの島を出る。坊主はどうする?」
「僕は……」
言葉に詰まる。この島の探索もしてみたいけど、今を逃せば修行をつけて欲しいと頼む機会を失うのでは無いかという思いができたからだ。
でも、ここでどうやって修行をつけて欲しいと頼めばいいのか。シャンクスから見たら、俺は知らない子供で単なる善意で声を掛けたのに戦いになったという状況だ。
言葉に詰まった俺に何を思ったのかシャンクスは突然頭を撫でて来た。驚いて顔を上げてシャンクスを見れば、優しく笑われてしまう。
「……焦らなくて良いから、話してみろ。別に何かあって急いでるって訳でもねェんだ」
「僕は、見知らぬ島を見付けたらそこで行商しつつその島を調べてたんだ。だから、これからこの島を探索しようと思ってて……でも、それよりも今は、貴方達に頼みがある」
シャンクスはそれに首を傾げるから、勢いで言うだけ言ってみる。
「僕は戦う力が欲しい。だから修行を付けてください!」
「……どうして、俺達に?」
子供の戯れ言として聞き流さないその優しさに俺は感謝しつつ答えた。
「赤髪海賊団の人達が強い事は分かってるから。お願いします、シャンクスさん!」
「……俺を、知っているのか」
「手配書でも見たか?」
シャンクスが驚けばそれに続いてベックマンが問い掛けてきた。だから俺は1瞬どう答えるか考えてしまう。
この男は頭が良過ぎる。下手な嘘は付けないけど、漫画知識ですではそれこそ通用しないだろう。
「新聞でも騒がれてたよね。鷹の目との剣豪対決。強いんだよね!僕は今すぐ戦える力が必要なんだ。守らないといけない人達がいる。お願いします、もう余り時間が無いんだ」
「……ベック、どうだろう?」
「あんたの中じゃ決まってるんだろう。好きにしたらいい」
シャンクスは俺の言葉に顔を上げてベックマンを見て言うと、ベックマンは呆れたように笑った。それからシャンクスは俺の頭に手を置いて、頷いてくれた。
「……俺は、優しくないぞ」
「ありがとうございます!」
そう言って先程渡したままになってたサンプルを見てから、俺は言った。
「修行つけてもらう代金は、そのサンプルの残りをあげるって言うのでどうかな?今手持ちはあまり多く無いんだ」
それにシャンクスとベックマンは顔を見合わせて笑ってから、両親はどこだなんて聞いてきたから、居ないよと答える。この島に居ないのかと言うような事を聞かれたから、俺は孤児なんだと言う事を話して、里親は他の島にいるとも答えた。
その瞬間赤髪海賊団の雰囲気が張り詰めた。何だろうと思いながら、俺は首を傾げるしかできない。
「なら、この島には1人で来たのか?」
赤髪海賊団の、モブと言えば怒るだろうけど、名前も顔も知らない人が聞いてきたから俺は頷いた。
「うん、心配していつも止められるけど、島でじっとしてはいられないから。強くならないと守れないから、飛び出してきてるんだ」
そんな俺にヤソップがまさかと小さく呟く。それに首を傾げればヤソップに肩を掴まれた。
それが少し痛くて顔を顰めるけど、ヤソップが離してくれる気配は無い。それからヤソップは真剣な表情で聞いてくる。
「坊主、1人で海を渡ってきたのか。お前、今幾つだ」
「うん、お……僕は1人で海を渡ってきた。今、6歳だよ」
その言葉に周りはざわめく。それから俺はこの名も無き島で半年の修行をつけてもらえた。
島の測量も終えたけど、せっかく修行を付けてもらえると言うので、帰る事も無くシャンクス達に食らいつく。遠過ぎて恐怖を抱く事も出来ないその強さを、俺は必死で追い掛ける。
これがグランドラインの強さ。この人達の10年後の強さに俺達は勝とうとしているのか。
遠い、距離さえ分からない程に遠い距離。この力量差では、母さんが簡単に負けて殺されるのも仕方ない。
それなのに、なんでアーロンはあんなにも懸賞金が少なかったのか。俺には納得出来ない。
フィッシャータイガーに対する何かなのか、ジンベエへの配慮なのか。どちらにしても、アーロンの懸賞金は安いという真実に違いは無い。
アーロンの過去を知っているからと言って、許せる行為ではない。無関係な人間である俺達に八つ当たりしていい事にはならないし、母さんを殺す権利も無い。
姉さんを泣かせる権利も、村の人を苦しめる権利もない。それでも奴等はやって来る。
だから強くなるしか無い。守る為にも。
半年帰らずに修行を付けてもらった後、シャンクス達が人のいる島へと移動すると聞いたので、俺は1度帰ると答えた。恐らく起点にする島へと向かうのだろうと思ったから。
「ナミゾウはもう修行しなくていいのか」
ベックマンのその質問に俺は首を横に振る。
「母さんと姉さんに顔を見せたら追い掛けます。なので目的地を教えてください」
俺はこの半年で敬語で話す事を許されていた。何とも不思議だけど、師事するならばと敬語を堂々と使ったら、シャンクスに嫌がられて、1悶着あったけどベックマンと話をしたらシャンクスを言いくるめてくれた。
それもあって今ではシャンクス達には敬語で話せるようになったし、随分強くなれたと思う。感謝している。
それから俺はシャンクス達の目的地を確認して1度ココヤシ村へと帰って行った。……帰ってから母さんと姉さんにボコボコにされたのは言うまでもない。